BMW R nineTスクランブラー(6MT)
フラットツインの火は消えない 2021.10.19 試乗記 エンジンの改良により、厳しい環境規制をクリアした「BMW R nineT」シリーズのなかから、程よいオフロードテイストが魅力の「R nineTスクランブラー」に試乗。その走りからは、これからも空油冷フラットツインの魅力を伝えていきたいというBMWの意思が感じられた。どのラインディングモードでも楽しめる
2021年モデルのR nineTスクランブラーは、マシンの外観を見ても何が変わったか分からない。基本的に変更を加えられているのがエンジンや吸気系、マネジメントシステムだからだ。最高出力は110PSから109PSになっているが、116N・mの最大トルクはそのまま。厳しい排ガス規制に対応したことでフラットツインエンジンのフィーリングがどのように変化したのか、気になるところだ。
最初はモードセレクターを「ロード」にして走ってみる。フラットツインの歯切れのよい排気音も感じられるし、レスポンスも良好。低回転からトルクがあるから全域で力強く加速していく。厳しい排ガス規制で影響を受けそうな高回転でも気持ちよく伸びていく。
電子制御になったスロットルのレスポンスは開け始めがマイルドになっていて、さらに開けていくと本来のトルクが出てくる味つけ。頻繁に加減速するストリートでも扱いやすい。ただ、スロットルを戻したときのエンブレは強めで、加えて減速側は特にショックを軽減するような設定にはなっていない。高回転域からスロットルを戻すときは、丁寧に操作したほうがいいだろう。
「レイン」モードにするとスロットルを開けたときの力の出方が穏やかになって、高回転でのピークパワーも若干落ちるが、極端に性格が変化するわけではないので十分に楽しく走れるレベル。ツーリングに出かけたときはレインモードを選んでおくのもありかもしれない。一方「ダイナ」モードでは、交差点の立ち上がりなどでスロットルを大きめに開けるだけでフロントが浮き気味になるくらい元気がいい。
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フロントは19インチのほうがいい
振動は全体的に多め。強く感じられるのは加速時で、ハンドル、タンク、シートを震わせ、回転が上がるに従って振幅が強くなっていく。とはいえ、そうした傾向が表れるのは基本的に加速しているときだけだから、「ツインの鼓動感が強く伝わってくる」という雰囲気として受け止められる。不快ではなく、長い時間走っていても疲れるようなことはない。
しばらくぶりに R nineTに乗ったこともあって、新しいモデルでもフラットツインのパワーフィーリングはあまり変わっていないように感じたのだが、旧モデルのR nineT(「ユーロ4」対応時代のもの)に乗っている二輪ライターの知人に聞くと、感じ方はずいぶん違うようだ。「排気音が静かになったことなどもあって、よくも悪くもスムーズになった印象。新型のダイナモードが旧モデルのフィーリングに近いけれど、それでも旧モデルのほうが快活に感じる」とのことで、旧モデルのオーナーにとってみると、フィーリングの違いは小さくはないようだ。
今回試乗したモデルは17インチフロントホイール(「プレミアムライン」は19インチ)を採用している。基本的には素直で乗りやすいのだが、17インチホイールのためか、低速でバンクさせるとステアリング舵角がついてバランスするフィーリングだった。これがフロント19インチであれば、大径ホイールのジャイロ効果によって舵角がつきにくくなるから、さらに気持ちよくバンクさせられるはず。ライダーの好みにもよるが、縦置きのフラットツインを搭載したR nineTスクランブラーで、比較的速度の低いストリートでのライディングを楽しむのであれば、フロントは19インチホイールのほうが相性はいいと思う。
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空油冷フラットツインを今後も楽しむために
ラジアルマウントのブレーキはよく利き、タッチも非常に鋭い。このブレーキに慣れてしまえば、ハードな走り方をしているときでもコントロールしやすい。ただ、ほかのマシンから乗り換えたときは、握り始めからガツンと利く特性に最初は面食らうかもしれない。
2021年モデルにおけるR nineTの変更点は多くない。それは、今回の改良が環境規制「ユーロ5」に対応することを重視したものであるためだが、逆にこのモデルが本来備えている美点を、BMWが大事にしているようにも思えた。旧モデルに比べると、ややおとなしくなっている部分があるのかもしれないが、厳しい規制をクリアしたうえでフラットツインの楽しさとテイストを最大限に残していることは確かだ。まったり走っても、飛ばしても、楽しいマシンである。
(文=後藤 武/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2110×870×1120mm
ホイールベース:1530mm
シート高:790mm
重量:224kg
エンジン:1169cc 空油冷4ストローク水平対向2気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:109PS(80kW)/7250rpm
最大トルク:116N・m(11.8kgf・m)/6000rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:5.1リッター/100km(約19.6km/リッター、WMTCモード)
価格:202万7000円

後藤 武
ライター/エディター。航空誌『シュナイダー』や二輪専門誌『CLUBMAN』『2ストマガジン』などの編集長を経てフリーランスに。エアロバティックスパイロットだった経験を生かしてエアレースの解説なども担当。二輪旧車、V8、複葉機をこよなく愛す。