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第665回:カーマニアは手出し厳禁? 自動車趣味から“解脱”しそうになる危険なクルマ5選

2021.11.29 エディターから一言 玉川 ニコ
今までクルマ趣味に没頭してきたのに、このクルマを選んだがために「クルマは……これで十分かも?」と、ある種の悟りを開いてしまう、カーマニアにとって危険なクルマを紹介。
今までクルマ趣味に没頭してきたのに、このクルマを選んだがために「クルマは……これで十分かも?」と、ある種の悟りを開いてしまう、カーマニアにとって危険なクルマを紹介。拡大

あれほどこだわりのカーライフを楽しんでいたのに、「気づいたら自動車趣味から解脱していた」「クルマに対しての煩悩が消滅した」と、カーマニアの意識を180度変えてしまうかもしれない危険なクルマが世の中には存在する。カーマニアを悟りの境地に導く、決して手を出してはいけない5モデルとは?

ポルシェ911
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自動車人生を締めくくるなら、最後に選ぶクルマは、カーライフを総括するようなモデルがいい。“上がりのクルマ”として筆者の頭に浮かぶのは、伝統もステータスも、そしてパフォーマンスも併せ持つ「ポルシェ911」である。
自動車人生を締めくくるなら、最後に選ぶクルマは、カーライフを総括するようなモデルがいい。“上がりのクルマ”として筆者の頭に浮かぶのは、伝統もステータスも、そしてパフォーマンスも併せ持つ「ポルシェ911」である。拡大
“上がりのクルマ”には、オープンカーも悪くない。「911カブリオレ」なら、まさに納得。超一流プロスポーツ選手の“引退試合”のように、悲しくはあるがどこか華やなシメにふさわしい一台だといえる。
“上がりのクルマ”には、オープンカーも悪くない。「911カブリオレ」なら、まさに納得。超一流プロスポーツ選手の“引退試合”のように、悲しくはあるがどこか華やなシメにふさわしい一台だといえる。拡大
もはや庶民が購入できる金額ではないが、964型「911」のような空冷ポルシェで自動車人生を締めくくるのも悪くない。いや、悪くないどころか、むしろ幸せなカーライフだったと思えるに違いない。
もはや庶民が購入できる金額ではないが、964型「911」のような空冷ポルシェで自動車人生を締めくくるのも悪くない。いや、悪くないどころか、むしろ幸せなカーライフだったと思えるに違いない。拡大

華やかな引退セレモニーもいいけれど

自動車趣味人の間でしばしば言われる「上がりのクルマ」という言葉および概念。さまざまな方向性のクルマ趣味にまい進してきた人物が最後の一台として選ぶのが、いわゆる“上がりのクルマ”ということなのだろう。

その具体的な車種はさまざまであろうが、個人的なイメージでは「ポルシェ911」が強く想起される。「俺もいろいろ乗ってきたが……最後はやっぱりコレだな」という感じで、老兵……いや、ベテランのカーガイが空冷または水冷の911を選び、静かにメインステージから去っていくのだ。

そこにはもちろん悲壮感もあるわけだが、それと同時に「引退試合」的な華やかさも感じられる。カクテル光線の下でファンに向けて引退のあいさつができる超一流プロスポーツ選手のように、悲しくはあるがどこか華やかでもあるのだ。

その一方で「知らないうちに引退してしまう」というか、「気づいたら自動車趣味から解脱していた」となる危険なクルマも世の中には存在する。ポルシェ911のような華やかさも伝説も何もないが、あまりにも「フツーにいい」ために、クルマに対しての煩悩あるいは欲求が減少または消滅してしまう。そう、「実はこれで十分かも?」と思わせるようなクルマである。

それが不幸なことなのか、逆に幸せなことなのかは、筆者にはわからない。だが、そんなクルマは確実に存在する。今回は、もしもカーマニアがそこに手を出したら危険だといえる「解脱カー」を5台紹介しよう。

しかし、あなたがこれまでどおり自動車趣味を続けたいのなら、このまま読み進んではいけない。

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地味そうに見えて激ヤバな「インプレッサスポーツ」

解脱カーその1は、なんといっても5ドアハッチバックの現行型「スバル・インプレッサスポーツ」だろう。

2016-2017日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞した名作ではあるが、見た目から「名作のかほり」はまったく漂ってこない。特にボディーカラーが「アイスシルバーメタリック」や「ホライゾンブルーパール」あたりだと、「街の風景に埋もれるにしても程があるだろ!」と言いたくなるほどの地味さがさく裂している。

そんなインプレッサスポーツを何らかの事情で「ま、これでいいか」とばかりにカーガイが購入するのは非常に危険である。

なぜならば、一番安い1.6リッターエンジン搭載グレードでもSGP(スバルグローバルプラットフォーム)と水平対向4気筒エンジンが織りなす上質な走りは格別だからだ。

もちろん100km/h以上のレンジでは「フォルクスワーゲン・ゴルフ」に分があるが、日本の一般的な速度レンジで使うぶんには「世界のベンチマークはゴルフか否か? みたいな議論って無意味じゃね? 現行モデルでさえゴルフの3分の2どころか半値ぐらいで買える1.6リッターの中古インプで十分じゃん?」という気分になってくる。

そして5ドアハッチバックとはいえ若干ステーションワゴン気味なフォルムであるため荷物もまあまあ載せられ、ますます「クルマなんてこれで十分でしょ……今まで高いカネ出してあれこれ悩んで買い、深夜のファミレスでカーマニア仲間と激論を交わしていた自分は何だったんだ?」という、虚無的な気持ちに襲われる。

インプレッサスポーツ。それは、地味そうに見えて激ヤバな解脱カーの筆頭である。

スバル・インプレッサスポーツ
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5代目となる現行型「インプレッサスポーツ」は、2016年10月にデビュー。新世代プラットフォームの「スバルグローバルプラットフォーム」や新デザインコンセプト「DYNAMIC×SOLID」を全面的に取り入れた、スバルの次世代製品群第1弾として登場した。
5代目となる現行型「インプレッサスポーツ」は、2016年10月にデビュー。新世代プラットフォームの「スバルグローバルプラットフォーム」や新デザインコンセプト「DYNAMIC×SOLID」を全面的に取り入れた、スバルの次世代製品群第1弾として登場した。拡大
従来型に比べ、大幅にグレードアップされたインテリアの質感も最新モデルのセリングポイント。0次安全を重視するスバル車らしく、視界のよさに起因する運転のしやすさも「インプレッサスポーツ」の特徴だ。
従来型に比べ、大幅にグレードアップされたインテリアの質感も最新モデルのセリングポイント。0次安全を重視するスバル車らしく、視界のよさに起因する運転のしやすさも「インプレッサスポーツ」の特徴だ。拡大
スバルは水平対向エンジンを綿々と進化させ続けてきた。1.6リッターのエントリーモデルであっても、水平対向エンジンによる重心の低い、独特な走りが味わえる。
スバルは水平対向エンジンを綿々と進化させ続けてきた。1.6リッターのエントリーモデルであっても、水平対向エンジンによる重心の低い、独特な走りが味わえる。拡大
トヨタ・アクア
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2021年7月にフルモデルチェンジしたトヨタのハイブリッドカー「アクア」。プラットフォームや駆動システムが刷新されているほか、従来型のニッケル水素電池の約2倍という出力を実現した、バイポーラ型ニッケル水素電池の搭載もトピックだ。
2021年7月にフルモデルチェンジしたトヨタのハイブリッドカー「アクア」。プラットフォームや駆動システムが刷新されているほか、従来型のニッケル水素電池の約2倍という出力を実現した、バイポーラ型ニッケル水素電池の搭載もトピックだ。拡大
トヨタのコンパクトカーとしては初採用となる10.5インチ大型ディスプレイオーディオを装備。車載のバッテリーを非常用電源などとして利用できるアクセサリーコンセント(AC100V/1500W)と「非常時給電モード」を全車に採用している。
トヨタのコンパクトカーとしては初採用となる10.5インチ大型ディスプレイオーディオを装備。車載のバッテリーを非常用電源などとして利用できるアクセサリーコンセント(AC100V/1500W)と「非常時給電モード」を全車に採用している。拡大

超絶低燃費「アクア」の魔力はすごい

これと似た感じのヤバさがある解脱カーは、現行型の「トヨタ・アクア」だろう。内装の質感などからは値段相応のチープさが感じられるため(特にドアの内張りあたり)、カーマニアとしては「これはちょっとあんまりでしょ?」的な評価から、煩悩(もっといいクルマが買いたいという欲求)に火がつく恐れはある。

だがそこを乗り切ってしまえば、現行型アクアは涅槃(ねはん)へと到達する。

「ヤリス」と同じパワーユニットはフツーにパワフル&トルクフルであり、それでいてヤリスと比べれば乗り心地は極めて良好。そして後席はフツーに広いため何かと使い勝手がよく、実燃費は「ヤリス ハイブリッド」とほぼ同等の「超絶低燃費」。

デザインは地味だが、しかし「あれ? もしかしてクルマって……こんなんで十分だったのかな?」と人に思わせ、そのまま自動車趣味道から引退させてしまうぐらいの魔力を内に秘めているのが、現行型アクアなのだ。

カーマニアが選ぶはずもない、サイレントマジョリティー向けのクルマに見えるだけに、その完成度を知ってしまうと危険な一台である。

スズキ・ソリオ
スズキ・ソリオ拡大
2020年11月に登場した5代目「ソリオ」。車体サイズの大型化によって居住空間や荷室スペースが拡大された。一新された内外装デザインやADASの充実もトピックだ。
2020年11月に登場した5代目「ソリオ」。車体サイズの大型化によって居住空間や荷室スペースが拡大された。一新された内外装デザインやADASの充実もトピックだ。拡大
従来モデルに対して荷室床面長を100mm拡大。積載物に合わせ多彩なシートアレンジが行えるのも、従来型から引き継がれた「ソリオ」のセリングポイントだ。
従来モデルに対して荷室床面長を100mm拡大。積載物に合わせ多彩なシートアレンジが行えるのも、従来型から引き継がれた「ソリオ」のセリングポイントだ。拡大

「ソリオ」で危険思想に陥る

国産車では現行型の「スズキ・ソリオ」も激ヤバといえるだろう。

「子どもが生まれた」「高齢の親と同居することになった」など、さまざまな理由により、カーガイが箱型のクルマを購入するケースはままある。そんなとき、多くのカーガイは「じくじたる思いで……」みたいな感じで箱型のクルマを選ぶのだろうが、現行型ソリオを買った者は購入後、あっけにとられることになる。「あれ? このクルマ、全然フツーに気持ちよく運転できるじゃないか!」と。

カタチ的にはごく普通の箱型フォルムであり、エンジンも凡庸な1.2リッター直4自然吸気。あえてマイルドハイブリッド仕様を選ぶ必要はない。

現行型になって広くなった後席は、カーガイが所有するクルマのリアシートというよりは「子ども部屋」に近い。それなのに……その「走る」「曲がる」「止まる」は極めてシュア。乗り心地には上質感すらあり、小回りも利く。

するとソリオを消去法で購入したカーガイは、例によって「あれ? これ以上のクルマは……もしかしたら必要ないのかも?」と自問してしまうのだ。これはもうかなりの危険思想である。

プジョー308
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「i-Cockpit」と呼ばれるプジョー独自のインストゥルメントパネル。楕円(だえん)形の小径ステアリングホイールの上からメーターを眺める。
「i-Cockpit」と呼ばれるプジョー独自のインストゥルメントパネル。楕円(だえん)形の小径ステアリングホイールの上からメーターを眺める。拡大
「308」の「BlueHDi」モデルに搭載される最高出力130PS、最大トルク300N・mの1.5リッター直4ディーゼルターボ「DV5」エンジン。アイシン製の8段ATを組み合わせる。
「308」の「BlueHDi」モデルに搭載される最高出力130PS、最大トルク300N・mの1.5リッター直4ディーゼルターボ「DV5」エンジン。アイシン製の8段ATを組み合わせる。拡大

「308」の走りは悪魔的だ

輸入車では、「プジョー308」が解脱カーに相当するだろうか。もちろん、2021年3月に発表された最新型ではない。あんなキラキラしたデザインのクルマを買ってしまっては「もっとキラキラしたいかも!」という煩悩のエスカレーションが起こるのは必至であり、解脱などできようがない。

最終解脱へと向かうのは先代308の中古車だ。特にディーゼルターボの「BlueHDi」系である。

これとてけっこうキラキラしているが、最新型のギラリと光るデイタイムランニングライトや、いかにも西洋的な彫りの深さがあるマスクや存在感あるフォルムと比べれば、明らかに地味ではある。それでも周囲の好事家は「おっ? サンマルハチのディーゼルですか? シブいですね!」とホメてくれるだろうが、一般的な人からは「ガイシャを買った」という認識すらされないだろう。

しかし滋味とトルクがあふれまくる1.5リッター直4ディーゼルターボエンジンに身を委ねていれば、「これでいいのだ。他者からの称賛などしょせんはむなしいものであり、この世の一切は空である。次期型308も、もちろんいいだろうけれど、そっちまで行かずとも別に構わない」という悟りにも似た気分に浸ることになる。そう、それは実に悪魔的な魅力だ。

メルセデス・ベンツBクラス
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2012年4月に上陸した2代目「Bクラス」。広い室内空間や488リッター(最大1547リッター)の荷室容量など、実用性能の高さが自慢だが、確かに見た目に派手さはない。
2012年4月に上陸した2代目「Bクラス」。広い室内空間や488リッター(最大1547リッター)の荷室容量など、実用性能の高さが自慢だが、確かに見た目に派手さはない。拡大
姉妹車である「Aクラス」よりも着座位置が高く、ルーミーな2代目「Bクラス」のインテリア。現行モデルとは異なり、インストゥルメントパネルのデザインは“ザ・フツー”である。
姉妹車である「Aクラス」よりも着座位置が高く、ルーミーな2代目「Bクラス」のインテリア。現行モデルとは異なり、インストゥルメントパネルのデザインは“ザ・フツー”である。拡大

フェラーリもかすむ「Bクラス」

以上が、それがいいことなのか悪いことなのかはわからないが、「自動車趣味から解脱できる」と筆者が考える5台である……と思いながら念のためカウントしてみたら、4車種しか挙げていなかった。

失礼しました。……ええと、最後の1台は先代の「メルセデス・ベンツBクラス」ということでどうでしょうか? 2019年6月に登場した現行型はそこそこキラキラしているため煩悩が刺激されちゃいますが、その先代の地味なやつは、実際に中古で買った知人いわく「クルマはこれでいいと、心底思うようになってしまった。普通にいいクルマだ」とのことです。

そう、結局のところ解脱カーとは、地味で面白さこそわかりづらいが、基本性能に優れた滋味あふれた秀作なのだ。趣味性よりも実用性や社会性に秀でたクルマといえるかもしれない。

ちなみにその知人が先代Bクラスの前に乗っていたのは、フェラーリの某モデルです。

(文=玉川ニコ/写真=ポルシェジャパン、スバル、トヨタ自動車、スズキ、グループPSAジャパン、メルセデス・ベンツ日本/編集=櫻井健一)

玉川 ニコ

玉川 ニコ

自動車ライター。外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、自動車出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。愛車は「スバル・レヴォーグSTI Sport EX」。

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