アウディS5カブリオレ(4WD/7AT)【試乗記】
どこまでも行きたい 2011.03.10 試乗記 アウディS5カブリオレ(4WD/7AT)……1058万円
春の風に誘われて、アウディの4シーターオープン「S5カブリオレ」でショートドライブに出かける。パワーがあって華もあるオープンモデルの実力やいかに?
余裕の構え
スイッチに触れてから、わずか17秒で頭上に空が広がった。そしてものすごい開放感が、室内に容赦なくなだれ込んできた。あー、気持ちイイ。春めいてきた日のオープントップほどシアワセをかみしめる“装備”はない(寒い日のシートヒーターも相当シアワセだけれども)。
でも一方では、あーこりゃ、ホコリやら排ガスで汚れるぞーと身構える現実的な気分もある。なんてったってこのクルマの内装は、油ジミが付いたら一発で嫌気が差してしまいそうなほど華奢(きゃしゃ)な、白いナッパレザーときているのだから。
「S5」の名を持つこのカブリオレ、アイドリングのちょっと上から豊富なトルクを生み出しながら粛々と走るものだから、4.2リッターV8エンジンを搭載しているのかと一瞬、錯覚する。しかし実際はそうではない。「S4」と同じ333psと44.9kgmを発生する3リッターV6のスーパーチャージャーである。
もっとも、そうと知ったところで、街中でその後、何かが決定的に変わるわけでもない。「アウディドライブセレクト」を「オート」モードのままにして、シフトセレクターをDレンジに固定して走っていると、Sトロニックトランスミッションは1600〜1700rpmあたりですっすっと涼しくシフトアップを繰り返していくだけ。エンジンの実体は、トルクの向こうでぼんやりとしたままである。
内装にしろ、エンジンにしろ、何をするにも余裕なスタンスを崩さないクルマだ。ちょっと本気で走らないと、本性がまるで見えてこない。これでは一向にらちがあかないので、一般道での試乗を切り上げて、高速に乗ってみることにした。
シャープなエンジン
よほどクルマが少なくならないかぎり、筆者は高速道路をオープン状態で走るのはやめているのだが(以前、トラックの荷台から薄いベニヤ板がヒラリと舞い上がり、こっちに向かって落下してきたことがあった)、今回は時間的な余裕もないので、前方のクルマとの距離を十分に保ち、その禁を破っていろいろ観察してみた。
まず100km/hぐらいなら、フロントシートの後ろにウインドディフレクターを立てなくても、ドライバーは風に翻弄(ほんろう)されずに済みそうだ。4シーターカブリオレの場合、特にセンターコンソールの上を前方に抜けていく風が気になるケースが多いが、それも大したことはない。だからといって、書類すらなびかないような無風のキャビンでもない。適度に風を感じる、心地いい走行感である。
一方、100km/hのギアリングは7速:1900rpm、6速:2300rpm、5速:2900rpmと全体的にハイギアードなので、のんびりと定速走行している分にはエンジンは静かで、存在をアピールしてこない。しかしその気になってスロットルを踏み込めば、なかなか面白いエンジンであることもわかってくる。
最近はターボでもピックアップのいいエンジンが増えたが、やはりスーパーチャージャーはこの点でまだ十分に有利らしく、自然吸気ユニットのようなシャープさがある。中速域からのスポーティな排気音もいい。臨場感の高さはオープンカーならではだ。
2トンがもたらす安定感
“走れるオープンカー”を作ろうとしたら、ルーフと一緒に失ったボディ剛性を取り戻すために、それなりの補強を加えなくてはならない。ベースのクーペよりある程度重くなるのは仕方のないことだ。このクルマが持つ、どこかみっちり詰まった感じも、ある程度の重さがないと演出されないものだろうと思って、資料を見て驚いた。実に2トンである。
この数字を知ってしまうと、この乗り心地も妙に納得できてしまう。重いクルマが持つ独特のしっとり感というか、どしっと腰の据わった安定感があり、これにビシッと1本筋が通ったクワトロ4WDの目が覚めるような直進性が加わって、ドライバーをどこまでも行きたい気分にさせる。
また、ブレーキの素晴らしさも光っている。制動力に不満がないのはもちろん、右足のニュアンスを細かくくみ取ってくれるので、常に一段高いところから見下ろすような余裕を持ってハイペースを維持することができる。
このクルマにもアウディの“完璧主義”が息づいている。今回は、しつこいが、時間的な余裕がないのだ。なのに、このままではどこまでも行ってしまいそう。そこでパーキングエリアに入ってソフトトップを閉めたら、作業終了まで20秒しかからなかった。空がなくなるのも、想像以上に速かった。
(文=竹下元太郎/写真=小河原認)