マツダCX-5 25Sスポーツアピアランス(FF/6AT)/CX-5 XDフィールドジャーニー(4WD/6AT)
まだまだ主役は譲らない 2022.01.11 試乗記 マツダが「CX-5」を大幅改良! 同時に、スポーティーな「スポーツアピアランス」とアクティブな「フィールドジャーニー」という、2つの新モデルを設定した。マツダとしては珍しいこれらの施策の成否やいかに? 実際に試乗して、その仕上がりを確かめた。ひっそり消えた2.5リッターターボ
マツダといえば、ほぼ全モデルに毎年のように実施される「商品改良」が恒例だが、2021年11月に実施されたCX-5のそれは「大幅改良」と銘打たれていた。現行の2代目CX-5は2016年末の発表だが、外観に明確な手直しが入るのは今回が初めてであり、他社でいうと、モデルライフの折り返し地点における一般的なマイナーチェンジに相当するものといっていいだろう。もっとも、2代目CX-5も発表から丸5年が経過しており、折り返し地点はとうに過ぎている気もしないではないが……。
今回の大幅改良は、外観以外にも新グレードの追加を含むラインナップの見直し、シャシーや車体構造の改良、そして荷室機能の向上などが主なメニューである。パワートレインについては、今回は基本的に変更なし。これまでの年次的な商品改良では、燃費向上やアクセルペダル操作力のチューニングなど、パワートレイン関連の改良が多かったからでもあろう。
ちなみに、2018年秋に追加された2.5リッターターボがこの大幅改良を機に姿を消したのは、開発担当氏によると「ハッキリいって、まったく売れなかった」からだという。マニア的見地ではさみしい気もするが、国内での販売はCX-5全体の約1%にすぎなかったというのだから、さすがに廃番もやむなしか。「SUVなので、もともとディーゼルの人気が高いうえに、性能的にも最大トルクの大きい2.2リッターディーゼルがトップモデルと捉えられたから」というのが、国内マツダファンの目が2.5リッターターボに向かなかった理由のひとつだと、マツダは分析している。
とはいえ、伸びやかでパワフルな2.5リッターターボを積んだCX-5は悪いクルマではなかった。それをあえて選んで現在も所有する少数派の皆さまは、ぜひ大切にしてほしいものだ。
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個性際立つ2つの新モデルを追加
今回新登場したグレードは2つ。ただ、どちらも公式には「特別仕様車」とうたうところが、マツダのこだわりというか美意識なのだろう。敬虔(けいけん)なマツダファン以外には、その意図はちょっと理解しづらいが……。
それはともかく、今回の新バリエーションひとつめがスポーツアピアランスである。エクステリアの下回りやホイールアーチなど、通常はつや消しブラックの部分がグロスブラックになるほか、グリルやホイール、ドアミラーが黒化される。そのうえで、グリルや内装に赤のアクセントが入る。
これはベタではあるが、素直にクルマ好きの腹に落ちるスポーツデザインだ。いまさらながら、2.5リッターターボもこういう専用スポーツ仕立てを施していれば、もっと売れていたのでは……といいたくなる。まあ、こういう表現を意図的に避けるのがこれまでのマツダの美意識だったわけで、2.5リッターターボは悲運の星のもとに生まれたということか。
もうひとつの新グレード(ならぬ特別仕様車)がフィールドジャーニーである。これもまた、従来のマツダ製SUVが意図的に避けてきたオフロードテイストを前面に押し出したバリエーションだ。バンパーやサイドガーニッシュ下部にアンダーガード風のシルバー塗装を施すほか、専用の17インチオールシーズンタイヤ、荷室のリバーシブルボード、新機軸の「オフロードモード」と、機能面でもいくつか専用のものが与えられるのが特徴だ。
また、スポーツアピアランスの赤に対して、フィールドジャーニーでは「ライムグリーン」がアクセントカラーになる。外装ではグリルチャームのみだが、内装ではステッチやシートパイピングのほか、エアコンアウトレットにもライムグリーンがあしらわれる。この「内装にライムグリーン」という意匠でも、開発時には社内をあげての大議論になったそうだ。マツダは良くも悪くも、独自の美意識が強い。
ソフトウエアの改良で悪路走破性をアップ
フィールドジャーニー専用のオフロードモードは、以前からあるガソリン車用の「スポーツモード」と同じコンソールスイッチで起動する。スポーツモードは最新のCX-5でも新たに「G-ベクタリング コントロール プラス(GVCプラス)」の制御が追加(以前はパワートレイン制御のみ)されつつ健在だが、今回からオフロードモードとまとめて「Mi-Drive」にあらためられた。これは「マツダ・インテリジェント・ドライブセレクト」の略称だそうだが、マツダは「ミードライブ」なる愛称で読ませたいようだ。
オフロードモードといっても、新たなハードウエアが加わったわけではない。既存の4WD機構やトラクションコントロール、そしてGVCプラスの制御をオフロード用に最適化したものだ。フィールドジャーニー以外の4WD車に装備される、既存の「オフロードトラクションモード」の強化版でもある。
オフロードモードにすると、全車速域で4WDの締結力が高まり、舵角に応じてエンジントルクとブレーキを制御するGVCプラスもより強い制御となるため、雪道や林道などの滑りやすい路面におけるコントロール性が高まるという。ただ、同モードの真骨頂は、今回のメディア試乗会で用意された特設コースのように、1~2輪のタイヤが完全に空転してしまうような過酷な悪路である。
そんな特設コースをまずは非オフロードモードで試すと、1輪が浮いてしまった段階で前に進めなくなった。しかしオフロードモードだと、空転輪に的確にブレーキをかけることで、接地輪に効果的にトルクが流れて難なくクリアできた。また、こういった場面では舵角や傾斜角を検知して、上り勾配ではアイドリング回転を上昇させることで発進時の後退を防いだり、ガソリン車ではトルクコンバーターをロックアップさせずにトルクの増幅効果を保ち、トルク抜けの抑制を図ったりと、なかなか細かい工夫がみられる。
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模索が続く“理想のフットワーク”
今回の大幅改良では、2代目CX-5としては初めてフットワークにも手が入った。具体的には、コイルスプリングのバネレートをフロント側のみ引き上げ(リアは変わらず)、あわせてフロントのショックアブソーバー減衰の縮み側をアップ、逆に伸び側をダウンさせた。簡単にいうと、マツダが長年こだわってきた「ダイアゴナルロール」を低減させる調律である。
ロール軸をわずかに前傾させて旋回時にフロント外輪にしっかりと荷重を載せるのが、マツダのいうダイアゴナルロールである。そうしたマツダの調律は、ステアリングの接地感が濃厚になって、クルマの動きがつかみやすく、筆者も個人的には好ましいと思う。
しかし、世界的には旋回時も水平なフラット姿勢を保つのが最新トレンドで、マツダのダイアゴナルロールには、市場から「クルマが動きすぎる」とか「姿勢変化が大きくて不安」といった声が寄せられることもあったという。最近のマツダ車の走りが総じてダイアゴナルロールを抑制する方向に変わってきたのは、それも理由のひとつだ。ただ、マツダとしてはダイアゴナルロールを否定したわけではなく、市場の声とのバランス点を模索しているのが現状らしい。
今回のCX-5はそうした取り組みの最新版でもあるのだが、背の高いSUVということもあってか、姿勢変化はきっちり減少させつつも、背の低い「マツダ3」や「マツダ6」より荷重移動感と接地感が明確な……いわゆるマツダっぽい味わいになっていたのが個人的には好印象である。それにはくだんのサスペンションチューンに加え、マツダ3や「CX-30」に続く“骨盤をしっかり立てる”シート設計や、強化型シートレールの相乗効果もあるだろう。
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人気のモデルだからこそ
また、後席足もとの横置きフロアメンバーには、マツダ3以来の新プラットフォームのノウハウを生かした、高剛性設計&減衰構造を採用し、静粛性の向上を図っている。もちろん、これだけで“dB”で表すようなノイズ音量の数値が低減しているわけではないが、新旧を乗り比べると、体感的なロードノイズや突き上げはなるほど上品になった。
17インチオールシーズンタイヤを履くフィールドジャーニーは、ダンパーも専用チューンという。さらにタイヤの特性もあってか、静粛性は他グレードより落ちる感があって、オンロードでの姿勢変化もより大きい。ただ、ダイアゴナルロールが明確だった以前のマツダが好きなら、オフロード趣味はなくともフィールドジャーニーを好ましく思う人は多いはずだ。そういう向きは試乗してみてほしい。
荷室まわりでは上級グレードに「ハンズフリー機能付きパワーリフトゲート」を用意したほか、フロアに2段階の調整機構を追加したことで、床面と開口部とのフラット化を実現。また床下にサブトランクを新設している。このサブトランクは、物理的にはもともとあったスペアタイヤ周辺の空間を、整理整頓して収納スペースに転用しただけともいえる。しかし、車体としては車載工具などの位置を変えるだけでも設計変更や安全確認が必要となり、われわれ素人が考えるほど簡単なものではない。
マツダにとってCX-5は、グローバル販売の約3分の1を占める不動の最重要モデルであり、日本においても「マツダ2」と双璧をなす存在であり続けてきた。よって、国内にもCX-5の既納客は大量にいるのだが、現在のラインナップではこれより上級のSUVは3列シートの「CX-8」しかなく、“CX-5の次のクルマ”がかぎられてしまうのがマツダの悩みとなっている。例の「縦置きエンジンのラージ商品群」へのつなぎとしても、CX-5の改良やバリエーション拡大の手は休められないということか。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
マツダCX-5 25Sスポーツアピアランス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4575×1845×1690mm
ホイールベース:2700mm
車重:1590kg
駆動方式:FF
エンジン:2.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段AT
最高出力:190PS(140kW)/6000rpm
最大トルク:252N・m(25.7kgf・m)/4000rpm
タイヤ:(前)225/55R19 99Y/(後)225/55R19 99Y(トーヨー・プロクセスR46)
燃費:13.8km/リッター(WLTCモード)
価格:325万6000円/テスト車=336万4899円
オプション装備:ボディーカラー<スノーフレークホワイトパールマイカ>(3万3000円)/地上デジタルTVチューナー<フルセグ>(2万2000円) ※以下、販売店オプション ナビゲーション用SDカード(5万3899円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:1811km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
マツダCX-5 XDフィールドジャーニー
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4575×1845×1690mm
ホイールベース:2700mm
車重:1690kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:200PS(147kW)/4000rpm
最大トルク:450N・m(45.9kgf・m)/2000rpm
タイヤ:(前)225/65R17 102H/(後)225/65R17 102H(ヨコハマ・ジオランダーG91A)
燃費:16.6km/リッター(WLTCモード)
価格:355万3000円/テスト車=387万6399円
オプション装備:地上デジタルチューナー<フルセグ>(2万2000円)/10.25インチセンターディスプレイ(2万2000円)/クルージング&トラフィックサポート<CTS>+ワイヤレス充電<Qi>(3万3000円)/ハンズフリー機能付きパワーリフトゲート(2万2000円)/ボーズサウンドシステム<AUDIOPILOT2+Centerpoint2>+10スピーカー(8万2500円)/電動スライドガラスサンルーフ<チルトアップ機能付き>(8万8000円) ※以下、販売店オプション ナビゲーション用SDカード(5万3899円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:1351km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。