第223回:正規軍、民兵に撃墜さる
2022.01.10 カーマニア人間国宝への道フェラーリのスペチアーレ並みの人気
「今度『GT-R NISMO』にお乗りになりますか」
いつものように担当サクライ君からメールが来たので、いつものように「乗る乗る~!」と返した。
日産GT-Rは、間もなく生産終了になるらしい。もうこんなモンスターはこの世から消えるらしい。思えば2019年に2020年モデルが出たときから、「終わる終わる」と言われていたが、その割にNISMOの2022年モデルが出たのは閉店詐欺? という気がしないでもないが、終わる終わると騒いだのは外野で、日産は何も言ってませんですね、どうもすいません。
そんでもさすがに2022年モデルが最後らしい。GT-Rの最後を見届ける! それも最強のNISMOで! カーマニア冥利(みょうり)に尽きるとはこのことだ。
午後8時、サクライ君がGT-R NISMOでやってきた。暗くてよく見えないが、ボディーカラーが非常にシブくてカッコいい。ボンネットやルーフが黒いのは、カーボンなのだろうか。カーマニアの割に何も知らない私だが、サクライ君もやっぱり何も知らなかった。
あとで調べてみると、このマシンは「GT-R NISMOスペシャルエディション」というヤツで、価格は2464万円! それで300台以上がすぐに売り切れたという。まるでフェラーリのスペチアーレのようだ。時代は変わったものである。
走りだすと、NISMOとは思えないほど乗り心地がイイ。足は十分ガチガチなのだが、それ以上にボディーがガチガチなので、振動が内臓に響かない。さすがNISMO。
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首都高バトルが勃発!
オレ:それにしても、GT-Rも高くなったねぇ。
サクライ:出たときは確か777万円じゃなかったでしたっけ。
オレ:それくらいだったよね。でも日本のカーマニアたちは「こんな高いのはGT-Rじゃない」「GT-Rは俺たちを捨てた」って大ブーイングだったんだよな。それが、最後にここまで(値段が)上がっても、誰も高いって言わないんだから!
サクライ:ですね。
オレ:この14年間で、世の中は本当に変わった。スポーツカーが大衆の夢である時代は終わったんだねぇ。
そんなことを語り合いながら、最強のGT-Rは首都高に乗り入れた。合流でアクセル全開をかます。
オレ:アレ? あんまり速くないな。
サクライ:ですか?
オレ:ノーマルの2020年モデルのほうが、過給の立ち上がりが速かったような気がするなぁ。NISMOってやっぱりデカくて重いタービン積んでるの?
サクライ:ですかねぇ。
知識もウデもないオッサンが2名、ワケもわからず最強マシンに乗り、首都高に乗り入れている。まさに豚に真珠である。そうやって最後のGT-Rをしみじみ確かめつつ首都高を流していると、突如、激しくアオり倒してくるマシンが現れた。マジか!?
まさかこの巨大なリアウイングが見えないわけはあるまい。コイツが世界最強のマシンであることを知っての狼藉(ろうぜき)か!? よし、コーナー1つで見えなくしてやる! ダアアァァァァァァァァァァァァ~ッ!!
げえっ! ピッタリ張り付いてやがるぅっ! まさかこのGT-R NISMOスペシャルエディションのコーナリングについてくるとはぁぁぁぁぁぁぁ~っ!
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完敗した正規軍
前が詰まると、ソイツはガバッと車線変更し、粗暴なスラロームでわれら無敵の戦闘機の1台前に割り込んだ! その後ろ姿は……。
オレ:あれ、「CLS」だよね?
サクライ:ですね。メルセデスのCLSです。
CLSなど、GT-R NISMOから見れば民間機。まさか軍用機が民間機にカモられるとは! こちらにはジュネーブ条約があり、文民への蛮行は固く禁じられているとはいえ、正規軍が民兵にやられたのは確かだ。まさにアフガンの悲劇である。
と思ったら、ちょびっと前がすいた。CLSが全開加速! こちらも負けずに全開加速! 加速なら勝てるだろう!
げええええええ~~~~~~~っ! 差が詰まらない~~~~~~~~っ! NISMOのデカいタービン、レスポンス悪し~~~~っ(な気がする)!
相手はスラロームで周囲の文民を虐殺しつつ、見えなくなった。やられた……。正規軍はタリバンの蛮行の前に崩壊した。
なんとなく意気消沈して辰巳PAに乗り入れると、タリバンがすでに到着し、仲間の民兵と談笑している! 若いっ! しかも彼らは、われら中高年が駆る最新兵器に一瞥(いちべつ)もくれない! さすがタリバン!
考えてみれば、こんな名馬に乗りつつ若武者に討ち取られたのは、老武者として是非におよばず。「この白髪首、貴殿にくれてやるわっ!」である。
サクライ:速いはずです。あのCLS、「63 AMG S」ですよ。
オレ:えっ、それって600PSくらいあるの?
サクライ:えーと(スマホで検索)、600はないですが、585PSみたいです。
オレ:そう……。それにしてもNISMOのタービンって、ホントにデカくてレスポンス悪いのかな。
サクライ:ですかねぇ。
日産のウェブサイトを見ると、「NISMO専用GT3タービン(IHI製高効率・大容量ターボ)」とあり、メチャメチャレスポンスがいいとのことである。
まぁ、そんな細かいことはどうでもイイネ! とにかくサーキットでは無敵のはずだし、「もう買えません」とか、「これが最終最強です」とか、そういう勲章が第一の世の中なんだから! 首都高で速いのが欲しければCLS63 AMGを買え!
(文=清水草一/写真=webCG/編集=櫻井健一)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。