メルセデス・ベンツC220d 4MATICオールテレイン(4WD/9AT)
まさに全地形対応 2022.03.16 試乗記 「メルセデス・ベンツCクラス ステーションワゴン」にクロスオーバーSUV仕立ての「オールテレイン」が登場。スバルやボルボに続き、メルセデスとしても「Eクラス」で成功した手法だが、果たしてその仕上がりは?SUV風味の強いエクステリア
メルセデス・ベンツとしては2台目のオールテレインである。先行した「Eクラス オールテレイン」は、ベースとなる「Eクラス ステーションワゴン」から約1年遅れでの追加だった。対して、今回は新型Cクラスの登場から約半年という早業である。時系列で考えると、メルセデスはEクラス オールテレインの開発中から、このクロスオーバーワゴンの水平展開を想定していたと思われる。より量販の見込めるCクラスでは、ベースモデルと同時並行で企画開発したのだろう。
今回もクルマの基本的な仕立て手法はEクラス オールテレインに酷似するが、実車を目の当たりにしたときのSUV風味は、Cクラスのほうが明らかに濃い。その最大の理由は車高。この種のクルマのキモである地上高が、Eクラスではベース比で25mm増なのに対して、新型Cクラスでは40mm増となっているからだ。全長や全幅は当然Cクラスのほうが小さいから、視覚的な“かさ上げ感”はさらに強い。オールテレインというクルマの商品性としては、新しいCクラスのビジュアルのほうがより分かりやすくなっている。
ただ、このちがいは開発年次というより、サスペンションシステムの差によるところが大きそうだ。Eクラス オールテレインには電子制御エアスプリング(と可変ダンパー)が標準装備となっており、悪路走行向けの「オールテレイン」モードにすると、車高がさらに20mm上がる。いっぽうのCクラスには本国仕様も含めてエアサスの用意はなく、オールテレインも含めて全車コイルスプリングとなる。当然のごとく車高も変えられない。
新しいCクラス オールテレインも最新Eクラスのそれと同様に、日本仕様では2リッターディーゼルターボに48Vマイルドハイブリッドを組み合わせた「220d」のみで、新型Cクラスのステーションワゴン系では現時点で唯一の「4MATIC」=4輪駆動となる。
オールテレイン代は40万~50万円
新しいCクラス オールテレインの国内本体価格は796万円。直接的なライバルとなる「アウディA4オールロード クワトロ」の644万円や「ボルボV60クロスカントリー」の579万~674万円より明らかに高額だが、エンジンが唯一のディーゼルとなることや装備の充実度を差し引くと、実質価格差は100万円を大きく割り込む。あとは、メルセデスというブランド力(とリセールバリュー)の利点を、個々がどう評価するかだ。
日本ではベースモデルともいえる「C220dステーションワゴン アバンギャルド」も発売済みだが、本体価格ではオールテレインのほうが91万円高い。セダンを例にとると2WDと4WDの価格差は30万円。さらに、ほかのCクラスでは15万4000円相当のパッケージオプション(ヘッドアップディスプレイと例の音声認識とARナビゲーション)がオールテレインでは標準装備となるので、実質的な“オールテレイン代金”は45万円強といったところか。
これはEクラス オールテレインの登場時よりも値が張る設定である。メルセデスが当初予測した以上に、オールテレインが市場に受け入れられたということだろう。
新型Cクラスでオールテレイン専用となる部分は、前記のエクステリアや車高以外に加えて、自慢のフル液晶メーターに、ロール角と舵角、ピッチング角などの情報が表示されるオフロード画面が追加されること、そして走行モード切り替えシステムに、厳しめの悪路を想定した「オフロード+」モード(車速45km/h以下限定でヒルディセントコントロールも同時作動)と、林道や雪道、砂浜あたりをそれなりのペースで飛ばす「オフロード」モード(110km/h以下)が追加されていることだ。
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スポーツワゴンのように曲がる
今回は舗装路中心の短時間試乗だったので、前記の専用モードは試せなかったが、車高まで変えるEクラスとは異なり、Cクラスではパワステの特性、駆動システムや横滑り防止装置の制御をイジるだけである。本国には17~19インチのホイールや電子制御ダンパーの選択肢もあるなかで、日本仕様のホイールは18インチで、電子制御ダンパーは用意されない。タイヤ銘柄もアバンギャルド以上にスポーツ性が高い「グッドイヤー・イーグルF1アシメトリック3」が選ばれている。
40mmの車高アップはタイヤ径拡大の20mmと、サスペンション部分の20mmで実現されているという。さすがに40mmあると、実際にも見晴らしがよくなったことが体感できる。
地上高が大きくなったぶん、凹凸を4輪すべてで乗り越えるようなケースでは、なるほど車高の低いアバンギャルドよりはストローク感がある。いっぽうで、その車高とスポーツタイヤをアナログ(?)なサスペンションで支えることもあってか、全体的な乗り心地は明らかに引き締まっている。ロール剛性も意図的に高められているようで、水平姿勢のまま俊敏にクリアしていくコーナリングなどは、ちょっとしたスポーツワゴンを思わせるほどだ。これに比べると、アバンギャルドのほうが適度にロールしながらしなやかに曲がる。
地上高が大きいので絶対的な走破性は普通のCクラスよりもちろん上のオールテレインだが、舗装路で走るかぎりは視界以外に背高感はほとんどない。「オールテレインのようなクルマを選ぶ顧客こそ、今どきはスポーツ性の高い走りを好む」という判断か。または、本国にある電子制御ダンパーを選ぶと、またちがった乗り味を披露するのかもしれない。
さらには、常に45:55という前後駆動力配分をする本格フルタイム4WDのおかげもあって、オールテレインはどんな状況下でも高速直進安定性が高く、電動アシスト付きの2リッターディーゼル程度(?)のトルクでは完全にシャシー優勢である。意外なことに、現時点ではこれがもっとも飛ばし屋好みのCクラスかもしれない。
(文=佐野弘宗/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
メルセデス・ベンツC220d 4MATICオールテレイン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4760×1840×1495mm
ホイールベース:2865mm
車重:1900kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:9段AT
エンジン最高出力:200PS(147kW)/3600rpm
エンジン最大トルク:440N・m(44.9kgf・m)/1800-2800rpm
モーター最高出力:20PS(15kW)
モーター最大トルク:208N・m(21.2kgf・m)
タイヤ:(前)245/45R18 100Y XL/(後)245/45R18 100Y XL(グッドイヤー・イーグルF1アシメトリック3)
燃費:18.2km/リッター(WLTCモード)
価格:796万円/テスト車=864万6000円
オプション装備:メタリックペイント<ヒヤシンスレッド>(21万7000円)/レザーエクスクルーシブパッケージ<挟み込み防止機能付きパノラミックスライディングルーフを含む>(46万9000円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:558km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。