ポルシェ911カレラ4 GTS(4WD/8AT)
アシのいいヤツ 2022.04.15 試乗記 締め上げられた専用チューンのシャシーに、パワフルな3リッター水平対向6気筒ツインターボを搭載する「ポルシェ911カレラ4 GTS」に試乗。GTSは各世代の節目を前にして登場する集大成的な存在ともいわれるが、果たしてその仕上がりやいかに。ビッグマイナーチェンジ近し!?
ポルシェが「GT」という記号を使う場合、かつてはGTカテゴリーレースを厳格に意識したモデルを指したものだが、今はそうとはかぎらない。GTSがその典型だ。1964年の「904カレラGTS」や1981年の「924カレラGTS」はホモロゲーションモデルだったが、1992年に登場した「928 GTS」はモータースポーツを想定しておらず、いわば928の最終進化形だった。
21世紀のGTSの元祖は2008年に登場した「カイエンGTS」である。それは928 GTS的なGTSの再来でもあり、以降は定番グレードして定着した。当初はシリーズ中もっともパワフルな自然吸気エンジンを積むカタログモデルという位置づけだったGTSも、ポルシェ量産エンジンのターボ化が進んだことで、現在は大半がターボとなっている。
今回の911カレラ4 GTSもターボエンジンだが、それでも動力性能は最上級の「911ターボ/ターボS」に次ぐレベルに落とし込まれており、シャシーはターボに準じるほぼ最上級の内容で固められている。発売時期はだいたいカタログモデルとしては最後発……といった、GTSのお約束は今も守られている。
現行911(992型)に追加されたGTSの国内予約注文がスタートしたのは、2021年6月である。最初の992型となった「カレラS/カレラ4S」の登場から3年弱。GTSの登場で992型の役者がそろったことになるわけだ。そして、それに合わせるかのように、世のスクープメディアでは「992型そのもののビッグマイナーチェンジ近し!」と騒がしくなってきた。
992型のGTSも先代の991型と同様に「カレラ」系のすべてのモデルに設定される。「クーペ」「カブリオレ」「タルガ」という3種の車体形式があり、うちクーペとカブリオレには4WDのほかに2WDのもある。現行タルガはGTSでなくても4WDのみだ。
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シャシーを大幅にアップグレード
というわけで、今回の主題はカレラ4クーペのGTSである。2WDの「カレラGTS」については下野康史さんによる試乗リポートをお送りしているが、そのときがレアな7段MTだったのに対して、今回はデュアルクラッチの8段PDKである。知っている人も多いように、現行911でMTが選べるのは2WDのカレラだけで、カレラ4はもともとPDKのみ。こうしたクルマの基本部分は、GTSといってもほかの911と同じだ。
GTSはエンジンもシャシーも専用チューンである。エンジンはおなじみの3リッターターボで、最高出力480PS/最大トルク570N・mというピーク性能値は、カレラより95PS/120N・m、カレラSより30PS/40N・m上回る。電子制御可変ダンパーの「PASM(ポルシェ・アクティブ・サスペンション・マネジメント)」は今や911全車に標準装備されるが、GTSはさらに10mmローダウンされたPASMスポーツシャシーがスタンダードとなる。
タイヤサイズ設定はGTS特有である。フロント20インチ、リア21インチというホイール径はカレラSやターボ、ターボSと同様で、フロント245、リア305というタイヤ幅はターボ系よりは細いが、カレラSと同じである。ただ、フロントタイヤの偏平率が、カレラSが40なのに対して、GTSのそれは35となる。カレラSよりステアリングレスポンスを重視した選択だろうか。
さらに、センターロックホイール、フロント408mm、リア308mmという大径ブレーキ、そしてリアのヘルパースプリングなどはターボのシャシーチューンに準じる内容である。エンジンの性能アップ以上にシャシースペックのアップグレードが目立つのも現代GTSならではの特徴で、いわば“アシのいいヤツ”的な仕立てなのが、このクルマのキモといっていい。
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ターボと自然吸気のイイトコどり
エンジンの仕上がりは素晴らしい。現代の過給エンジンらしく低速から十分な力感を発揮するが、2000rpm付近まではさすがに線が細い。本格的にトルクが湧いてくるのは2000rpmを超えてからで、そこから5000rpmくらいまでが、普段使いでも気持ちよく走れる常用域だ。そして、5000rpmを超えるとリミットの7000rpmまではさらにレスポンスとサウンドが高まる。
トップエンドにおける“ビィーン”という音質が、自然吸気(NA)時代のように絞り出すようなメタリックサウンドでないのが残念といえば残念だが、回転上昇にともなう緻密な展開はよくできた自然吸気エンジンのようである。また、マイルドなスロットル特性となる「ノーマル」モードでも過給ラグめいた間がまるで感じ取れないのもよくできたNA的であり、過給圧の高いハイチューンターボとしては素直に感心する。いっぽうで、中速域でのずぶといトルクは最新の直噴ターボならでは……ともいえ、このGTS用フラットシックスは、ターボとNAのイイトコどりのような感触といえるだろう。
先述の下野さんが試乗した7段MTのカレラGTSには、筆者も別の機会に乗ることができた。これだけの許容トルクながらもけっして重くないクラッチペダルの操作感、確実さと軽さを兼ね備えた最新7段MTのシフトフィールは、なるほど素晴らしかった。ただ、日常の濃厚な運転感覚をいつくしむには最高の7段MTも、純粋な走行性能を求めるなら、8段となった最新PDKが有利……と、今回あらためて思ったのも事実である。
最新PDKのギアレシオはトップの8速こそ、MTの7速よりハイギアードだが、それ以外の1~7速はMTの1~6速よりすべてローギアードで、しかもクロスしている。とくに走行モードを「スポーツプラス」にすると、エンジンも変速もいよいよ鋭さを増す。それでもアクセル操作に先走るような軽々しい吹け上がりではなく、ある種の“重み”がしっかり残されているのがまた快感である。
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路面に吸いつく足まわり
カタログモデルとしては最後発のGTSゆえか、専用のシャシーチューニングにも熟成感がただよう。柔らかなノーマルモードでは乗り心地よく、硬い「スポーツ」モードでも日常での乗り心地悪化は最小限である。
それにしても、このとんでもない安心感はなんだ。今回の試乗車には半自動運転にまつわる先進運転支援デバイスは備わっていなかったが、高速道では見えないレールがあるかように直進して、山坂道ではすさまじいばかりのオンザレール感を披露してくれた。ドライ路面での試乗のみとなった今回は、コーナリング中に筆者程度が蛮勇をふるってみたところで、リアタイヤがむずがる兆候など、これっぽっちも見せなかった。
カレラ4の油圧多板クラッチ式4WDはフルグリップ状態でも状況に応じて適度にトルクをフロントに配分するうえ、今回の試乗車にはオプションの「リアアクスルステアリング」も追加されていた。一定以上の速度ではリアタイヤは同位相に切れているはずで、前後とも、とにかく強烈なグリップ感である。さらに、911のリアアクスルステアリングは、可変スタビライザーの「ポルシェ・ダイナミック・シャシー・コントロール(PDCC)」の同時装着が前提なので、その安定感がさらに高まる。
なにせ911なので、PASMやPDCCをさらに引き締めるスポーツモードは本格サーキットも想定した調律のはずである。しかし、そのアシさばきはしなやかで、アンジュレーション(起伏)が激しく、左右バラバラに蹴り上げるような山坂道でもヒタリと路面に吸いつく。そんな最上質のシャシーを前にすると、480PS/570N・m程度(?)ではまだまだ余裕すら感じさせる。現代のGTSはかつてのホモロゲーションモデルとは異なり、公道でこそ留飲の下がる仕立てなのがうれしい。それが、GTSが911だけでなく、どのポルシェでも定番人気グレードとなっている理由のひとつだろう。
(文=佐野弘宗/写真=田村 弥/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
ポルシェ911カレラ4 GTS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4520×1850×1300mm
ホイールベース:2450mm
車重:1500kg(DIN)
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター水平対向6 DOHC 24バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:480PS(353kW)/6500rpm
最大トルク:570N・m(58.1kgf・m)/2300-5000rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20 91Y/(後)305/30ZR21 100Y(ピレリPゼロ)
燃費:10.3リッター/100km(約9.7km/リッター、欧州複合モード)
価格:1974万円/テスト車=2625万1000円
オプション装備:ボディーカラー<クレヨン>(45万2000円)/レザーインテリア<ブラック、ステッチカラー変更レーシングイエロー>(66万2000円)/リアアクスルステアリング(37万5000円)/ポルシェ・セラミック・コンポジット・ブレーキ<PCCB>(148万7000円)/パワーステアリングプラス(4万4000円)/ポルシェ・ダイナミック・シャシー・コントロール<PDCC>(53万5000円)/スポーツデザインパッケージ<ブラック仕上げ、ハイグロスブラック>(50万4000円)/GTスポーツステアリングホイール<レザー仕上げ>(0円)/フロントアクスルリフトシステム(40万2000円)/イオナイザー(4万8000円)/Race-Texベルトアウトレットリム<ISOFIX含む>(6万4000円)/ポルシェクレストエンボスヘッドレスト<フロント>(3万8000円)/シートベンチレーション<フロント>(17万7000円)/グレートップウインドスクリーン(1万9000円)/アルカンターラサンバイザー(6万9000円)/アルカンターラルーフライニング(19万4000円)/インテリアトリムパッケージ<装飾コントラストカラーステッチ>(51万5000円)/エクステリアカラー同色インテリアパッケージ(0円)/ティンテッドLEDマトリクスヘッドライト<PDLS Plus含む>(31万9000円)/スピードメーター<ダイルレーシングイエロー>(5万8000円)/エクスクルーシブデザインテールランプ(2万5000円)/BOSEサラウンドサウンドシステム(23万6000円)/レーシングイエローシートベルト(7万4000円)/サイドウィンドウトリムブラック<ハイグロス>(7万9000円)/ライトデザインパッケージ(8万4000円)/スポーツクロノストップウオッチダイヤル<レーシングイエロー仕上げ>(5万8000円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:1490km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(6)/山岳路(3)
テスト距離:294.7km
使用燃料:48.3リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.1km/リッター(満タン法)/6.3km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。