スバル・レヴォーグSTI Sport R EX(4WD/CVT)
プレミアム・ツーリングワゴン 2022.05.28 試乗記 「レガシィツーリングワゴン」に代わって、いまやスバルの顔となった「レヴォーグ」。そのラインナップに加えられた、2.4リッターターボモデルの実力は? 装備充実の最上級グレードに試乗して確かめた。単なる新型にあらず
「“完璧なステーションワゴン”といえば、それは“このクルマ”かもしれない」……とまあ、「スバル・レヴォーグSTI Sport R EX」のステアリングホイールを握って走り始めたとたん、いささか前のめりな感想を抱いたわけです。下ろし立てパリパリの新車にちょい乗りしただけで。
STI Sport Rは、2021年11月25日に発売されたトップ・オブ・レヴォーグ。2.4リッター水平対向4気筒ターボを搭載し、スバルのラインナップでは、1.8リッターターボを積む「STI Sport」の上位に置かれる。
価格は、STI Sport Rが438万9000円。STI Sport R EXが477万4000円。後者は、運転支援システム「アイサイト」の機能を拡張した「アイサイトX」を採用し、センターコンソールに縦長の11.6インチモニターが埋め込まれるインフォテインメントシステムを標準装備。メーター類が12.3インチのフル液晶タイプになるのも、EXならではの特権だ。ホイールサイズ、内装のトリムレベルほか、両者に機関面での違いはない。
2020年のレヴォーグのモデルチェンジに伴い、先代の1.6リッターターボ(最高出力170PS、最大トルク250N・m)が1.8リッターターボ(177PS、300N・m)に、そして今回、2リッターターボ(300PS、400N・m)が2.4リッターターボ(275PS、375N・m)へと拡大された、とシンプルに説明したいところだが、それはちょっと違うと思う。新旧モデルの価格帯を比較すると、従来の1.6と2リッターモデルをまとめて現行の1.8リッターレヴォーグが引き受けて、新しいSTI Sport Rは、一種のプレミアムモデルと考えたほうがいい。
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500万円でも高くはない!?
“ちょっと古い”クルマ好きのなかには、「スバルのワゴンが(乗り出し)500万円!?」と驚く人がいるかもしれない。ワタシも価格表を見てがくぜんとしました(ちょっと大げさ)。同社が強気の価格設定をできる背景には、もちろん「クルマのデキが素晴らしい!」ことがあるけれど、めぼしいライバルがいないのも大きい。
かつての「レガシィツーリングワゴン」vs「カペラワゴン」の故事(!?)を知る身としては、「アテンザ」改め「マツダ6ワゴン」はどうした? と声を上げたいが、実際、同車は価格控えめ、ディーゼルもあればMT車も用意されるとマニア心をくすぐる要素にあふれてはいるが、「ではレヴォーグの代わりに買いますか?」と問われたら、難しかろう。カッコはいいんだけれど。国内の販売台数にもそれが表れていて、マツダ6ワゴンの年間販売台数は1000台余りと、レヴォーグの“月間”販売台数並み。モデル末期とはいえ、マーケットは非情だ。
一方、ニッポンのフォーマル市場(!?)を席巻している輸入車ワゴンに目を転じると、にわかにレヴォーグSTI Sport Rが“割安”に感じられる。「メルセデス・ベンツCクラス ステーションワゴン」、「BMW 3シリーズ ツーリング」はもとより、「フォルクスワーゲン・パサート オールトラック」でも572万2000円からだから。エンジンの排気量や装備のレベルが異なるから厳密な比較対象とはならないが、それでも実績ある4WDの駆動方式を備え、ユニークなボクサーユニットを持つレヴォーグ STI Sport R、意外とうまい値づけかもしれない。
驚きのハイクオリティー
スバル・レヴォーグ STI Sport R EXを走らせて、いきなり感心させられるのが、2.4リッターの適度に厚いトルク、穏やかな特性、そしてボディーの高い剛性感とスポーティーなアシとのコンビネーションのよさである。クルマ全体の質感が高い。
そういえば、現行の「フォレスター スポーツ」に乗ったときにも同じような感想を抱いたっけ。かつて、トヨタの開発陣は「最初の100mでユーザーの心をつかめるよう」心がけていると聞いたことがあるが、最近のスバル車は、まさにその伝(でん)をいっている。トヨタとの業務提携の恩恵……というよりは、構造用接着剤を多用したフルインナーフレーム構造と新しいスバルグローバルプラットフォームのおかげである。
STI Sport Rの目玉となる2387cc「FA24」ユニットは、ボア×ストローク=86.0×86.0mmとスクエアだった1998cc「FA20」ユニットのボアを94.0mmに広げたもの。スバルの主戦場たる北米市場で、3列シートのSUV「アセント」に搭載されたのが最初で、自然吸気の3.6リッター6気筒ユニットの後継ということもあり、ピークパワーより常用域での使い勝手が重視されている。
アウトプットが仕立て直されたレヴォーグでは、前述のとおり最高出力275PS/5600rpm、最大トルク375N・m/ 2000-4800rpmを発生。燃費・環境性能との兼ね合いもあって、数値だけ拾うと2リッター時代よりスペックダウンしているが、日常使いでそのネガを感じることはまずないはずだ。
レヴォーグ2.4に先立って、同じエンジンを積み、スペックも等しい「WRX S4」に試乗する機会があった。その際には、「いいエンジンだけれど、WRXの名を冠するクルマの心臓としてはおとなしすぎるかなァ」と感じたものだが、ツーリングワゴンにはまさにピッタリ! 静かでスムーズ。クールな実用ワゴンのキャラクターを際立たせる。
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制御と調律のうまさに注目
特筆すべきは、CVTとのマッチングのよさ。「スバルパフォーマンストランスミッション」と名づけられた無段階変速機は疑似的に8段のギアが切られ、ツインクラッチ式に匹敵するシフトスピードがジマンだ。しかし、それ以上に感銘を与えるのが、その自然なフィールである。余裕あるフラット4と組み合わされ、運転者の足の動きに従って、思ったとおり、予想どおりの加速を示してくれる。リニアな反応。エンジンの回転数と実際の速度上昇が乖離(かいり)するCVTの悪癖はすっかり影を潜めた。
エンジンの出力特性、ステアリングのアシスト量、サスペンションの硬さ、4WDの設定、さらにはアイサイトやエアコンを個別に設定できる「ドライブモードセレクト」の調整幅が拡大したのも、2.4リッターモデルの美点だ。いまさら言うまでもないが、オーナーを驚かせる「おまけ」機能の次元をはるかに脱して、各モードともよく調教されている。例えば「ノーマル」から「スポーツ」に切り替えれば、過剰な感なく、ストレスフリーにレヴォーグ2.4をスポーツワゴンとしてドライブできる。
2代目レヴォーグが登場したときのトピックス、ぜいたくなZF製の電子制御ダンパーや、すっきりしたステアフィールをもたらす2ピニオン式の電動パワーステアリングの採用などが、STI Sport Rの登場でいよいよ花開いた印象を受ける。
ドコドコドコ……といったアグレッシブなボクサーサウンドと音に負けないスポーティーな走りで一世を風靡(ふうび)したレガシィツーリングワゴンが、ずいぶんとプレミアムなクルマになったものだ。皮肉を含まず、そう思います。ただし、冒頭の「完璧なワゴン」という評価が正しいかどうか。荷車としての真価は、オーナーの方の判断を待たねばならない。
(文=青木禎之/写真=郡大二郎/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
スバル・レヴォーグSTI Sport R EX
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4755×1795×1500mm
ホイールベース:2670mm
車重:1630kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.4リッター水平対向4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:275PS(202kW)/5600rpm
最大トルク:375N・m(38.2kgf・m)/2000-4800rpm
タイヤ:(前)225/45R18 91W/(後)225/45R18 91W(ヨコハマ・ブルーアースGT)
燃費:11.0km/リッター(WLTCモード)
価格:477万4000円/テスト車=495万3520円
オプション装備:ボディーカラー<イグニッションレッド>(5万5000円)/スマートリアビューミラー(5万5000円) ※以下、販売店オプション フロアカーペット<STI>(3万6740円)/ETC2.0車載器キット<ケンウッドビルトインナビ連動>(3万2780円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:1828km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:222.9km
使用燃料:27.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.1km/リッター(満タン法)/8.4km/リッター(車載燃費計計測値)
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青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。