ヤマハYZF-R7 ABS(6MT)
時代が求めたスーパースポーツ 2022.06.02 試乗記 ヤマハがリリースした、まったく新しいパラツインのスーパースポーツ「YZF-R7」。「スーパースポーツの魅力をより多くの人に味わってほしい」という思いから誕生したニューモデルは、ストリートでも爽快に楽しめるマシンに仕上がっていた。前傾姿勢でも疲れが少ない
これまでのスーパースポーツは、パフォーマンスを追求するがゆえに熟練のライダー以外には難解で、どうしたらストリートで気持ちよく走れるのか分からないようなところがあった。進化して乗りやすくなったと言われる最新マシンでも、根本的な部分は変わらない。性能を突き詰め続けた代償だ。
ところがYZF-R7の場合は、トガった部分を潔く削(そ)ぎ落としてしまった。それでいて車体や足まわり、ブレーキなどはスーパースポーツクオリティーで、かつストリートでの走りを考えたセットアップが施されている。これまでエキスパートライダーでしか感じられなかった楽しさを、より多くのライダーがストリートで感じられるようになったのである。
R7はとてもスリムで軽いマシンだ。マシンにまたがると、その前傾姿勢は紛れもないスーパースポーツ、スパルタンなライディングポジションだ。それでいて余計な緊張感がないのは、マシンの軽さとスリムさのおかげ。250ccクラスから乗り換えても大きな違和感はないだろう。
エンジンは低回転から高回転までトルクフルでとても扱いやすいのだが、気分がいいのはスロットルが過度に制御されておらず、エンジン自体の特性で乗りやすさをつくり出しているからだ。スロットルへの反応がリニアなのではないかと思う。ツインの鼓動感はあまり強くないけれど、5000rpmくらいからはステップに強めの振動が出てビリビリとする。もっとも、普段ストリートで走るぶんには、それ以下を使うことが多いので、さほど気になる感じではない。
気に入ったのは乗り心地がとてもいいところ。高性能なサスペンションを低荷重でも動くようセッティングしているので、路面のショックをよく吸収してくれる。前傾姿勢は強いが、車体の軽さと穏やかなエンジンの特性、動きのよいサスのおかげで、ストリートを移動していてもスーパースポーツとしては随分疲れが少ない。
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これまでのスーパースポーツとは別物
R7のコーナリングで最初に感じたのは、高いフロントの安定感である。“立ち”が強いとか曲がらないとかではなく、ハンドリング自体は素直なのだが、とにかくフロントがドッシリとして強い接地感がある。加えて車体が軽くてサスがよく動くから、スーパースポーツにあるまじきおうようさを持っている。難しいことを考えず、体重移動などせずどっかりマシンにまたがったままでも、実にいい感じでコーナリングが可能だ。
高性能なブレーキもタッチが鋭すぎないので扱いやすく、柔らかめのサスとのマッチングも良好。前傾のキツいマシンだと下りのコーナリングはフロントに荷重がかかりすぎて難しくなってしまうこともあるが、旋回中もリアブレーキを若干強めにあてたままにしておくと、柔らかいリアサスが沈み込んでフロント荷重を減らすことができる。簡単な裏技だが、これも普通のスーパースポーツではなかなかできない……というか、サスが硬めでリアブレーキの制動力がそれほど高くない普通のスーパースポーツでは、あまり効果がないのだ。
高性能なパーツがストリートに合わせたセッティングになっているのは新鮮で、峠は猛烈に楽しい。エンジンは6000rpmから元気になって気持ちよく回っていく。同じ排気量のマルチより下のトルクがあるぶん、回して走っていなくてもトラクションがかかるのもいいところ。排気量の大きなツインはスロットルの開閉に対してダイレクトに反応してくれるので、ペースを上げていなくてもコーナリングを楽しむことができる。ツインエンジンはマルチのようなスパルタンなフィーリングではなく、どことなくオットリとした感じなのだが、ワインディングを楽しむのにちょうどいいパワーと特性だ。
またコーナリングで最も重要かつ難しいのは減速からのターンインなのだが、R7はこのプロセスでもとても乗りやすく、安心できる。実はここで効果を発揮しているのがバックトルクリミッターだ。自然な効き方をしているから注意していないと分からないのだが、スロットルを戻した時やシフトダウン時に実にいい仕事をしてくれる。ショックをいなしてなだらかな減速Gを実現するのだ。リアタイヤへスムーズに減速方向のトラクションがかかるので、減速からの倒し込みがとても楽なのである。
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今の時代に生まれるべくして生まれた一台
ワインディングロードを適当なペースで流していると、これまでのスーパースポーツとは別次元に乗りやすいので、思い切って攻めてみると最初はうまくいかない。クイックにバンクさせようとすると前輪の高い安定感によってフロントまわりの動きが遅れてしまい、コーナーに突っ込んでいってキレイに曲げていくのが意外に難しいのだ。バイクを強引に振り回そうとせず、コーナーの前半からフロントを沈めて運動性を上げる操作をし、スムーズなラインで曲げていくような走り方が必要になるだろう。低荷重域からの運動性を追求した結果、走り方も普通のスーパースポーツとは少し変わるのだが、それを探していくのも楽しさのひとつだ。
しばらくR7を走らせてみて爽快な気持ちになったのは、軽くて扱いやすいだけでなく、ストリートを走るうえで過度な高性能さを持っていないからだった。使い切れないハイパフォーマンスを電子機器で制御するのではなく(もちろんそれにも楽しさはあるのだが)、余計なパワーや装備を切り捨てた結果、ストリートを楽しむのに「ちょうどいい」スーパースポーツになっている。
冒頭でも書いているが、今までのスーパースポーツは、一般のライダーとは遊離した特別なバイクだった。一方で、道路を含むバイクの使用環境やライダーの走り方は変化しており、両者のギャップがどんどん大きくなっている印象があった。そんななかで登場したR7は、スポーツバイクのこれからの進化に一石を投じる存在になるはずだ。
今回の取材で、普段スポーツバイクに乗っていない編集部のスタッフたちも「R7は普通にストリートを走っているだけで楽しい」と語っていたのが印象的だった。コーナーを必死に攻めていなくても楽しいと感じられるスーパースポーツなど、今まで存在していなかったと思う。R7は、生まれるべくして生まれてきたスーパースポーツなのかもしれない。
(文=後藤 武/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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後藤 武
ライター/エディター。航空誌『シュナイダー』や二輪専門誌『CLUBMAN』『2ストマガジン』などの編集長を経てフリーランスに。エアロバティックスパイロットだった経験を生かしてエアレースの解説なども担当。二輪旧車、V8、複葉機をこよなく愛す。