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カワサキZ650RS 50thアニバーサリー(6MT)

“Z”の名の継承者 2022.06.11 試乗記 後藤 武 カワサキから、クラシックスタイルの新型ネイキッドモデル「Z650RS」が登場。「Z900RS」に続く新たなレトロスポーツは、モダンな2気筒エンジンを搭載しながら、走りにおいても古くからのファンを納得させる一台に仕上がっていた。

“イメージ優先”のマシンなのでは?

テスターの後藤は「Z1」オーナーである(参照)。高校時代に乗った「Z400FX」から始まり、アメリカに住んでいた20代後半は「Z900」や「Z1000J」などでレース活動もしていた。古くからZを乗り継いできたライダーからすると、今回のZ650RSは、とても気になるマシンだ。

兄貴分のZ900RSは、スタイルだけでなくカワサキ独自のサウンドチューニングで往年のZをほうふつさせるフィーリングをつくり出していた。ところがZ650RSに搭載されているのはツイン(並列2気筒エンジン)。これで昔のZらしいフィーリングがつくれるとは思えない。デザインだけZ900RSのようにした、イメージ優先のマシンなのではないかと試乗前は思っていた。ところがこの予想、いい方向へ外れることになったのである。

Z650RSに搭載されているツインエンジンは、低回転からトルクフル。2000rpmより回転を落とすとギクシャクしてしまうが、これ以上の回転を維持していればストリートをキビキビ走るのに十分なトルクを発生する。スロットルを開けると迫力ある吸気音が響き、180°ツインの歯切れのよい排気音と鼓動感とともに加速していく。Z900RS同様に、官能的なサウンドを考えたチューニングが行われているようだ。

低中速でのフィーリングは予想していたレベルだったのだが、驚いたのは高回転まで回した時だ。5000rpmを超えたくらいからパワーが盛り上がってきて、威勢のよい吸気音が大きくなり、加速力を高めていく。この時のフィーリングや排気音が、Z1や「Z2」にとてもよく似ているのだ。

2022年春に発売されたばかりの「カワサキZ650RS」。スポーツネイキッド「Z650」のコンポーネンツを利用しつつ、往年の「Z」シリーズの意匠を再現した、ネオクラシックモデルだ。
2022年春に発売されたばかりの「カワサキZ650RS」。スポーツネイキッド「Z650」のコンポーネンツを利用しつつ、往年の「Z」シリーズの意匠を再現した、ネオクラシックモデルだ。拡大
お約束の丸目単眼のヘッドランプだが、その中身はモダンなLED。往年の「Z」をオマージュしたという、だ円形のテールランプもLED式だ。
お約束の丸目単眼のヘッドランプだが、その中身はモダンなLED。往年の「Z」をオマージュしたという、だ円形のテールランプもLED式だ。拡大
エンジンは、排気量649ccの水冷並列2気筒DOHC。低中回転域での力強さやコントロールのしやすさ、優れたスロットルレスポンスが特徴だ。
エンジンは、排気量649ccの水冷並列2気筒DOHC。低中回転域での力強さやコントロールのしやすさ、優れたスロットルレスポンスが特徴だ。拡大
サスペンションはストリートを考えて柔らかめのセッティング。加減速に応じて、やや大きめにピッチングする。
サスペンションはストリートを考えて柔らかめのセッティング。加減速に応じて、やや大きめにピッチングする。拡大

ツインだから再現できた昔の4気筒的フィーリング

しばらく走ってみてなるほどと思った。Z1、Z2は、4気筒DOHCではあるけれど高回転では重々しい回り方をする。ヒュンヒュンとスムーズに吹け上がる最新のマルチよりもツインに似たフィーリングだし、独立した4本マフラーだから、マルチでありながら独特の鼓動感と歯切れのよい排気音を奏でる。そんな昔の空冷マルチの加速感を現代のエンジンで再現するのであれば、マルチよりもツインのほうが適当なのだろう。このエンジンの味つけはとても面白い。

完成度はとても高いが、あえて突っ込むとしたらひとつは振動。ツイン特有の振動はかなり対策されてはいるが、中速域で共振点がある。5000rpm前後でシート、6000rpmくらいでハンドルがビリビリと震える。この回転以外では振動はほとんど気にならないものの、特にシートの振動は大きめで、ワインディングでペースを上げながら走ると、タコメーターの針がこの回転域を通るたびに一瞬シートがビリビリと震えるのが分かる。

トルクがあってレスポンスがいいことに加え、エンジンブレーキが強めに利くので、車の後ろを走っている時などはスロットルワークを丁寧にやらないと加減速でギクシャクしてしまうこともある。最近はスロットルの開け始めを意識的に穏やかにしているマシンも多いから、そういったバイクから乗り換えると気になるかもしれない。

今回の試乗車は、特別仕様車の「50thアニバーサリー」。「Z」シリーズの誕生50周年を記念したモデルだ。
今回の試乗車は、特別仕様車の「50thアニバーサリー」。「Z」シリーズの誕生50周年を記念したモデルだ。拡大
「50thアニバーサリー」の特徴である、火の玉カラーならぬ「ファイアーボールカラー」の塗装。キャンディーカラーを重ね塗りすることで、深みのある発色を実現している。
「50thアニバーサリー」の特徴である、火の玉カラーならぬ「ファイアーボールカラー」の塗装。キャンディーカラーを重ね塗りすることで、深みのある発色を実現している。拡大
メーターは速度計とエンジン回転計を備えた2眼式。中央には走行距離や燃費、残燃料などを表示する液晶ディスプレイが装備されている。
メーターは速度計とエンジン回転計を備えた2眼式。中央には走行距離や燃費、残燃料などを表示する液晶ディスプレイが装備されている。拡大

フロント17インチでも味つけは“旧車風”

ビックバイクをイメージしてどっしりした味つけになっているのではないと考えていたけれど、ハンドリングは軽快。車体も軽いのでコーナリングでは気持ちいいくらいにバイクがバンクしていく。

実はZ1、Z2も実用速度域でのハンドリングは非常にシャープで俊敏だった。当時としては大きく重いバイクを扱いやすくするためのセッティングだったのである。Z650RSのハンドリングは細い19インチフロントタイヤを履いた昔のZとは違うが、ストリートでもバイクを操る楽しさがある点は共通している。もちろん、ワインディングでの乗りやすさ、安定感は、旧車とは比べ物にならないほど高い。

最後までなじめなかったのはフロントブレーキだった。握り始めのタッチが非常に鋭く、何気なく握るとガツンとブレーキが利いてしまうのである。フロントフォークも柔らかめなのでノーズダイブも激しく、最初のブレーキングでは驚いた。

ただ、緊急時の危機回避を考えるのであればこういったブレーキはある意味で安心できる部分もある。普段は丁寧な操作を心がければいいし、ライダーもしばらく乗っていれば操作を学習するから、タッチの鋭さは気にならなくなってくることだろう。そして緊急時のブレーキングでパニック状態になっていても、取りあえずブレーキレバーを握れば高い制動力が得られるので、後はABSを利用して安定した姿勢を維持すればいい。ABSは緻密に操作されている感じではないが、ストリートで不意に飛び出してくる障害物を回避することなどを考えても能力に不足はない。ABSが組み合わされているからこそ可能なブレーキセッティングだ。

前後17インチのタイヤと軽量なボディーの恩恵で、コーナーでの身のこなしは非常に軽快だ。
前後17インチのタイヤと軽量なボディーの恩恵で、コーナーでの身のこなしは非常に軽快だ。拡大
タイヤサイズは前が120/70ZR17、後ろが160/60ZR17。フロントブレーキにはφ300mmのダブルディスク、リアブレーキにはφ220mmのシングルディスクを採用しており、今日のマシンにふさわしい、高い制動性能を実現している。
タイヤサイズは前が120/70ZR17、後ろが160/60ZR17。フロントブレーキにはφ300mmのダブルディスク、リアブレーキにはφ220mmのシングルディスクを採用しており、今日のマシンにふさわしい、高い制動性能を実現している。拡大
足まわりは、前がφ41mmの正立テレスコピックフォーク、後ろが水平リンク式モノサスペンションの組み合わせ。高い路面追従性と軽快なハンドリング、快適な乗り心地を同時に追求した調律となっている。
足まわりは、前がφ41mmの正立テレスコピックフォーク、後ろが水平リンク式モノサスペンションの組み合わせ。高い路面追従性と軽快なハンドリング、快適な乗り心地を同時に追求した調律となっている。拡大
シートは座り心地がよくホールド性に優れているものの、シッティングポジションが決められてしまうので、もう少し自由に動きたいと思うことも。
シートは座り心地がよくホールド性に優れているものの、シッティングポジションが決められてしまうので、もう少し自由に動きたいと思うことも。拡大
名車と呼ばれるモデルを多数輩出し、熱心なファンも多いカワサキ。一家言ある信奉者も少なくないと思われるが、「Z650RS」はそうした向きも納得させられる出来栄えのマシンだった。
名車と呼ばれるモデルを多数輩出し、熱心なファンも多いカワサキ。一家言ある信奉者も少なくないと思われるが、「Z650RS」はそうした向きも納得させられる出来栄えのマシンだった。拡大
今日では、往年の名車をオマージュしたネオクラシックモデルは多数存在しているが、走りにおいてもその特徴をここまで再現しているのは、カワサキの「RS」シリーズだけ。そんなところも、RSシリーズが支持される理由なのだろう。
今日では、往年の名車をオマージュしたネオクラシックモデルは多数存在しているが、走りにおいてもその特徴をここまで再現しているのは、カワサキの「RS」シリーズだけ。そんなところも、RSシリーズが支持される理由なのだろう。拡大

大事なのは中身が伴っていること

最近はまったく聞かなくなったが、70年代から80年代にかけてのカワサキファンは、優等生すぎない個性的なバイクづくりを愛し、多少気になるところがあっても「カワサキだから」と笑って許していた。細かいことを気にしない男らしさがカワサキ乗りの条件というような風潮で、どこか阪神ファンにも共通した匂いがあった。

昔からZ1や「マッハ」などを乗り継いできている自分には、まだこういう感覚が残っているので、多少アラが目立つくらいがカワサキらしいと思うのだが、Z900RSも今回の650RSも(フロントブレーキは好きになれないが)実にいいバイクだと思う。

多くのメーカーが名車をオマージュしたマシンを多数投入しているが、単にデザインや車名だけを受け継いでもヒットするわけではない。そんななかでカワサキのZ900RSが高い人気を誇っているのは、昔からのカワサキ乗りが納得できる味つけやつくり込みをしているからだろう。そしてその考えは、Z650RSにも間違いなく受け継がれているのである。

(文=後藤 武/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)

カワサキZ650RS 50thアニバーサリー
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カワサキZ650RS 50thアニバーサリー(6MT)【レビュー】の画像拡大

【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2065×800×1155mm
ホイールベース:1405mm
シート高:800mm
重量:190kg
エンジン:649cc 水冷4ストローク直列2気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:68PS(50kW)/8000rpm
最大トルク:63N・m(6.4kgf・m)/6700rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:23.0km/リッター(WMTCモード)
価格:110万円

後藤 武

後藤 武

ライター/エディター。航空誌『シュナイダー』や二輪専門誌『CLUBMAN』『2ストマガジン』などの編集長を経てフリーランスに。エアロバティックスパイロットだった経験を生かしてエアレースの解説なども担当。二輪旧車、V8、複葉機をこよなく愛す。

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