進化と洗練 「アルピーヌA110 GT」が体現するフレンチスポーツの哲学
スポーツカーの本質を求める人へ 2022.06.28 アルピーヌA110 GTにみるスポーツカーの本分<AD> 軽快な走りが身上のアルピーヌのミドシップスポーツカー「A110」。フレンチスポーツの哲学を体現するハンドリングマシンは、マイナーチェンジでどのような進化を遂げたのか? 新設された上級モデル「A110 GT」で、ワインディングロードへと向かった。ラグジュアリーな大人のアルピーヌ
将来的にEV(電気自動車)専用ブランドとなることを目指し、2025年より3車種の新型EVを投入すると発表したアルピーヌは、かたや2022年の1月に、A110をマイナーチェンジした。これをガソリンモデルの集大成というべきか、はたまた残りの時間を駆け抜けるための“終わりの始まり”と呼ぶべきかはわからない。ともかくA110の登場から約6年の歳月を経て、その走りをいま一度しっかりと煮詰めてきたことだけは確かである。
このマイナーチェンジで一番わかりやすいトピックは、ハイパフォーマンスグレード「S」と新設された「GT」に搭載される1.8リッター直列4気筒ターボエンジンが、最高出力300PSの“大台”に乗ったことだろう。しかしながら、今回の試乗で筆者が深く感心したのは、高められたピークパワーではなく全体的なドライバビリティーの向上だった。
筆者が試乗したのは、3グレードのなかで一番ラグジュアリー指向が強いGT。しっとりと座り心地のよい革張りのシートを備え、シックなブラウンのインテリアも選べるオトナのA110だ。ちなみにこのシートは、ダイヤル式のリクライニング機構とシートリフターが付いており、これとチルト&テレスコピックを駆使することで、実はスポーツ仕様であるA110 Sのフルバケットシートよりも低い着座位置がつくり出せる(A110 Sのクッションを外さない状態での話だが)。
トルクを増したエンジンとそれを受け止めるシャシー
そんなA110 GTは、インテリアのトーンに合わせるかのようにその動的質感も実に洗練されている。
走らせて真っ先に感じたのは、既存のモデルと比べての低中速トルクの向上だ。今回、アルピーヌは7段DCTを強化してエンジンのブーストアップに対応。枷(かせ)から解放されたエンジンは、内部に手を加えることなくその最大トルクを320N・m/2000rpmから340N・m/2400rpmへと高めてきた。300PS/6300rpmという最高出力は、この増強した最大トルクをピークパワー発生回転数付近まで、きっちり発揮し続けることで得られた結果である。従って、数字だけで言えば前期型A110 S(292PS/6420rpm)との差はわずか8PSにすぎないが、実際に走らせたフィーリングは、よりその力強さが増している。加えてブーストのかかりも滑らかに制御されており、速さよりも乗りやすさが増したという印象が強いのである。
さらに面白いのは、こうした“S相当”の高出力が、ベースグレードと同じ「シャシー・アルピーヌ」(スタンダードな足まわりとスタビライザー)と、前:205/40R18、後ろ:235/40R18サイズの「ミシュラン・パイロットスポーツ4」で受け止められていたことだった。
試乗当日の天候は無情にも雨であり、ぬれたワインディングロードでA110 GTは、最初のうちはミドシップ特有のフロント荷重の小ささを示した。簡単に言えば、ハンドルだけで曲がろうとするとアンダーステア感が強かったのだ。しかし、コーナーの入り口できちんとブレーキングしてフロント荷重を高める走りへ切り替えると、それまでの希薄な操舵感がウソのようにタイヤが路面を捉えだした。そしてブレーキリリースの仕方、そこからのハンドルの切り方を緻密にしていくほどに、その走りは滑らかさを増していった。
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あらためて実感した素性のよさ
この走りには、心底ほれぼれさせられた。それと同時に、これは推測だが、シャシー・アルピーヌのスプリングやスタビライザー剛性が以前と変わらないのだとすれば、タイヤか、そのロールスピードをコントロールするダンパーが、わずかに仕様変更されたのではないかと感じた。
というのも、同じくシャシー・アルピーヌを採用していたという前期型の「ピュア」および「リネージ」は、あえて市販のミシュラン・パイロットスポーツ4より若干グリップレベルを落としたタイヤを履くことで、A110を操る楽しさを表現していた。しかし、252PSと320N・mのパワー&トルクでもスリルを感じられたその操縦性は、今回300PSと340N・mで雨のなかを走らせても、不安なく落ち着いていられるほどになっていたのだ。
真相は定かではないが、なんにしろA110 GTの走りは洗練された。そしてフロントダンパーの上質な荷重の受け止め方や、ダブルウイッシュボーンサスペンションがもたらす横剛性の高さに、スポーツカーとしての素性のよさを、あらためてひしひしと感じた。
わかりやすさより本質を求める
ちなみに、筆者はこの数日前に、晴れた路面でもA110 GTを試乗していた。そこで同じく新型となったA110 Sと、乗り比べをしたばかりであった。
ドライ路面で走らせたA110 Sは、「シャシー・スポール」の足まわりとオプションのエアロパッケージがもたらす抜群の安定感が魅力的だった。ハイグリップな「ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2」タイヤを履きこなし、コーナーの奥へとどこまでも飛び込んでいけそうなスタビリティーの高さに、これをサーキットで走らせたらさぞかし楽しかろうと感じた。
対してA110 GTは、ひらりと鋭いターンインがA110 Sとのコントラストを際立たせていた。むろんA110 Sも荷重領域が高いクローズドコースではこうした動きをすることが予想できたが、だからこそ余計にその“アルピーヌらしさ”を普段から満喫できるA110 GTには魅力を感じた。
アルピーヌA110は、そのステアリングを握ったことがない人からすると、いささか“わかりにくい”スポーツカーだと思う。ライトウェイトスポーツカーとして考えると長らくロータスが軽さとスパルタンさを誇っていたし、パワーとプレミアム性を兼ね備えるミドルウェイトスポーツカーとしては「ポルシェ718ケイマン/ボクスター」が不動の地位を築いている。
遅れて現れたアルピーヌA110は、この中間のキャラクターを持つスポーツカーだ。しかし、だからこそロータスのマシンよりも快適で、かつ718ケイマン/ボクスターより軽快な走りを味わうことができる。そして実のところ、この中庸こそがわれわれにとって一番欲しいところだったりする。
馬力競争などすることなしに、スポーツカーはその魅力を深めることができる。大切なのは、バランス。筆者にそれを再確認させてくれたA110の洗練と進化は、まさにマイナーチェンジのお手本ともいえるものであった。
(文=山田弘樹/写真=荒川正幸)
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