第235回:エリート特急からリゾート特急へ
2022.06.27 カーマニア人間国宝への道足で使うべきはクーペではなくSUVか
BMWの新型「220iクーペMスポーツ」は素晴らしかった。よし、これを買おう! と思ってクルマを降りようとした瞬間、クーペのやや難儀な乗降性に逡巡(しゅんじゅん)し、「SUVを買ってみようかな……」と思うに至った還暦カーマニアの私である。
その遠因は、今年導入した「タントスローパー」にある。私はこれまで、こういった重心の高いクルマが苦手だったが、タントは重心の高さを感じさせないコーナリング性能を持っている。着座位置が高いぶん、大好きな首都高を走っていても見晴らしがイイ。防音壁越しに東京タワーもよく見える。もちろん乗降性は抜群。なら、多少背が高いクルマのほうがいいんじゃないか!?
軽ハイトワゴンほどではないにせよ、かつてはSUVも重心が高く、コーナリングが苦手だったが、近年はまったく変わった。「ランボルギーニ・ウルス」なんざ、フォーミュラマシンのようにコーナリングする。これだけコーナリングがよければ、このテのクルマを避ける必要はない!
これまで私はSUVを、自分の生活には何のメリットももたらさないと断じてきた。全高の高いクルマは、コーナリングや空気抵抗に関して全面的に不利。悪路を走る趣味がない自分には、SUVは無用の長物だった。
しかし、状況は変わった。現代のSUVは、コーナリングも視界も乗降性も全部よかったりする。フェラーリを持つ私が普段の足に乗るべきは、クーペではなくSUVかもしれない!
では、どのモデルを選ぶべきか。
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全高低めのSUVがドンピシャ
真っ先に思い浮かんだのが、「BMW X2」だ。
X2が登場したのは約3年前。試乗会で「X2 xDrive20i MスポーツX」に乗って箱根のワインディングを走り、その走りに感動したのである。あれ以来、ずっと心のどこかにX2が棲(す)んでいた。
そのときは、「これでディーゼルがあったなら」と思ったが、それ、考えてみたらとっくに出てるじゃないか! しかも当初の「18d」(最高出力150PS)は、今年マイチェンで「20d」(最高出力190PS)になったようだ。うおお、乗りたい乗りたい! 今すぐ乗りたい!
そこで、広報車をお借りすることにした。オレンジ色の「X2 xDrive20d MスポーツX」、しかもサンルーフ付きだ! わぁ~い!
それは、とってもステキなクルマだった。
まず、乗り降りがとってもラク! ドアは長くないし、シートの高さもちょうどいい。X2は全高低めのSUV。これくらいがドンピシャだ! これなら米寿まで乗れるかもしれん。
走りもスバラシイ。乗り心地は3年前よりもしなやかだし(19インチタイヤ装着)、ディーゼルは言うまでもなくトルクフル。スペック的にはわがエリート特急こと先代「320d」とほぼ同じながら、エンジンの進化によって、静粛性は段違いだ。特にアイドリングストップからの始動時は、とっても静かでガソリン車みたい~!
車両重量は先代320dに対して今回のX2ほうが4WDで150kgくらい重いこともあり、出足は少し劣るが、さすがFFベースの四輪駆動。直進性は明確にFRのエリート特急を上回る。アクアラインの橋梁(きょうりょう)部で横風を食らってもビクともしない。
インテリアもカジュアル&スポーティーで好みだ。極めつけはサンルーフ! 開口部が微妙に前寄りなので、前席でも開放感があって、ちょっとだけオープンカー気分が味わえる。とにかくラクチンでリラックスできてリゾート気分! コイツはエリート特急ならぬリゾート特急だ!
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3年落ちで約350万円のX2を発見
しかもX2は、登場から3年たっている。新型「2シリーズ クーペ」は出たばっかりなので、最低3年は待たないと中古車相場がこなれないが、X2はすでにこなれているはずだ。うおお、いくらなんだX2ディーゼルよ! エリート特急のように235万円くらいで買えるのか!?
ガーン。400万円前後……。
最近のBMWは中古車が高いっ! いや、正確には、先代3シリーズが安すぎた。なにせ3年前まで、BMWの新車は軒並み100万円引きで売られていた。だから中古車もそのぶん安く買えた。
しかし3年前、BMWの新車大幅値引きや登録済み未使用車の大軍団が突如絶滅し、そのぶん中古車相場がドーンと上がった。そこに追い打ちをかけたのが半導体不足だ。
400万円か……。エリート特急の下取りが100万円ついたとしても300万円。総額は330万円くらいに達するのか。うむう。
そんなとき検索に、1台の中古車が引っ掛かった。3年落ちで車両本体約350万円。ボディーは白でサンルーフ付き! うおおドンピシャじゃん!
私は早速メールで見積もりを依頼した。ソッコーで丁寧な返信があった。よし、実車を見に行こう! うおおおお買うぞ買うぞ買うぞX2! 待ってろよリゾート特急!
でも、ふと「なんでこれだけこんなに安いんだ?」という疑問が湧いた。修復歴アリか? いや違うな。走行距離も短い。おかしい……。
車名をよく見てがくぜん。それはX2 18dではなく、1.5リッター3気筒ガソリンターボ搭載の「18i」だったのだ!
3気筒はタントとハイゼットトラックジャンボだけでヨシ! エリート特急よ、オマエをまだまだ使い倒すぜ!
(文と写真=清水草一/編集=櫻井健一)
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清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。