マツダCX-50 2.5Tプレミアムプラスパッケージ(4WD/6AT)
ひと味違うマツダ 2022.07.19 試乗記 続々と新型SUVをリリースするマツダだが、アメリカやカナダにはあって、日本では買えないモデルも存在する。そんなクロスオーバーSUV「CX-50」に乗ってみたら……? アメリカ・カリフォルニアからのリポート。ワイドでワイルド
CX-50というクルマをご存じの人は、おそらくよほどのカーマニアか熱心なマツダ好きに違いない。なぜなら、日本では売っていない北米専用車だからだ。
海外渡航もしやすくなった今、「CX-5」オーナーの筆者としては名前の似ている海外の兄弟に実際に触れて乗って、その正体をつかんでおかないといけない。そんな使命感を胸に(本当は乗ってみたかっただけ)、ロサンゼルスへ試乗に出かけた。
まずCX-50の概要を説明すると、ポジションはCX-5の少し上。「マツダ3」や「CX-30」と同じ“スモールアーキテクチャー”でつくられ、生産はマツダとトヨタの協業事業としてアラバマ州に新設されたばかりの工場で行われる。ちなみにトヨタは「カローラ クロス」を扱い、生産能力はそれぞれ15万台、つまりトヨタとマツダの合計で30万台だそうだ。
というわけで初めてお目にかかったCX-50だが、率直に言ってかなりカッコいい。自動車ライターでいながら何のひねりも深みもない表現で恐縮だが、それが素直な第一印象。日本における同社の最新モデルである「CX-60」を初めて見たときの「う~ん、そうだよね、美しいよね……?」みたいな微妙な気持ちとはずいぶん違うのは、きっと気のせい……だと思う。
デザインテイストは今どきのSUVのトレンドとなっているワイルド感がわかりやすいほどちりばめられていて、美しい躍動感を求める多くのマツダ車とは違うベクトルだ。そしてなによりいいのがプロポーション。全幅は1920mm(CX-5は1845mm)と国内向けのこのクラスではちょっとありえない広さ(そのあたりが北米向けらしいところ)で全高もCX-5より6cmほど低く、おかげでワイド感がハンパない。そんなプロポーションが、誰でも感じられるスタイリングの安定感をつくり出している。フェンダーの張り出しなんて、日本向けのマツダ車もこうあってほしいと思うくらいマッチョでセクシーだ。
アメリカでは特大サイズのSUVが人気と思われがちだが、実は最も売れているのはこのクラス。そして現地のトップセラーは「トヨタRAV4」(全幅1855~1865mm)なのだが、正直言ってCX-50の平べったい感じ(ワイド感)は、RAV4にも「ホンダCR-V」(全幅1855mm)にもない。北米専用とし思い切ったワイド化を決断したCX-50は、このプロポーションで明らかにライバルをリード。サイドウィンドウに対してタイヤが外側に張り出している感じも相当なものだ。
それにしてもカッコいい。前出のようにスモールアーキテクチャーに基づいているのだが、ここまで車体を大きくつくれる余力があったのだと驚いた。
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乗り味はアメリカン
さて、CX-5オーナーとして気になるのが車内の実用性だ。室内幅はCX-5ほどワイド感がないように思えるが、後席ひざまわり(前後方向)はCX-5よりもゆとりがある。同様にラゲッジスペースもCX-5より広く確保されている。どちらもどーんと広いわけでなく“少し広い”といった程度だが、“CX-5のお兄さん”として絶妙に仕立てられているのを実感する。実はアメリカでは2021年に売れたマツダ車のうち約2台に1台がCX-5となっているが、今後は軸足をCX-50へと移していきたいというマツダの狙いがあるのだろう。
いっぽうでCX-5に対して室内をどーんと広くしていないのは、このあとに「CX-70」(CX-60の北米向けワイド版)が控えているからだろう。マツダにとってはそれとの差別化も重要なのだ。
走りはどうか。ハンドリングは、ひとことで言えば日本仕様のマツダ車よりもおおらか。ステアリングの切り始めの反応がややスローに感じられる。
それには理由があって、タイヤがオールシーズンで、それに合わせてサスペンションやパワーステアリングを最適化しているからだ。日本でCX-5に用意されているオールシーズンタイヤ装着グレード「フィールドジャーニー」と同じと考えればわかりやすい。乗り味はフィールドジャーニーに近い。
いっぽうでエンジンはトルキー。排気量は全車2.5リッターで自然吸気とターボが選べ、今回の試乗車であるターボ(「CX-8」に搭載しているものと同じタイプ)は低回転域から中回転域にかけての豊かなトルクが自慢。高回転の爽快さはないが、現地で重要視される、フリーウェイに合流する際のググっと加速する感覚はなかなかのものだ。このエンジンの魅力は、アメリカで乗ってみるとよくわかる。
そんなCX-50は、いうなれば「テリヤキソース」。照り焼きのたれは日本の調味料でアメリカでもメジャーな存在だが、かの地のスーパーでは“ソース”として売られ、焼いた肉やハンバーグにドバドバかけて使うなど、日本のものとはちょっと違う。味自体、アメリカナイズされたものだ。そんな、日本で味わうのとは異なる“現地化”がCX-50にも当てはまるのだ。
いずれにせよCX-50のカッコよさは文句なく、このスタイルだけで欲しくなってくる。ただ実用性を考えるとこの全幅は日本では厳しい……というのが無難な結論だが、とはいえ東京あたりではほぼ同じボディーサイズの「ポルシェ・マカン」を頻繁に見かけるし、それ以上に全幅のある「ランドクルーザー」や「Gクラス」そして「ディフェンダー」あたりもそれなりに走っているから、1920mmの全幅でもなんとかなる……かも?
(文と写真=工藤貴宏/編集=関 顕也)
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【スペック】
全長×全幅×全高=4719×1920×1623mm/ホイールベース=2814mm/車重=1772kg/駆動方式=4WD/エンジン=2.5リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ(最高出力:256HP/5000rpm、最大トルク:434N・m/2500rpm)/燃費=25マイル/ガロン(約10.6km/リッター、EPA複合モード)/価格=--円

工藤 貴宏
物心ついた頃からクルマ好きとなり、小学生の頃には自動車雑誌を読み始め、大学在学中に自動車雑誌編集部でアルバイトを開始。その後、バイト先の編集部に就職したのち編集プロダクションを経て、気が付けばフリーランスの自動車ライターに。別の言い方をすればプロのクルマ好きってとこでしょうか。現在の所有車両は「スズキ・ソリオ」「マツダCX-60」、そして「ホンダS660」。実用車からスポーツカーまで幅広く大好きです。