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メルセデス・ベンツCLS220dスポーツ(FR/9AT)

美と走りのメルセデス 2022.07.30 試乗記 サトータケシ 美しさを存在意義とし、今日もメルセデス・ベンツのラインナップに花を添えている「CLS」。見ても触れても運転しても滑らかなスリーポインテッドスターの4ドアクーペは、デザインや走りなど、昔ながらのクルマの魅力で語りたくなる、いまや貴重な存在だった。

デザインで語られるクルマ

2018年に3代目となる現行メルセデス・ベンツCLSが登場したとき、世のクルマ好きがデザイン談義で盛り上がったのは楽しかった。このCLSは、シンプルにフォルムで見せることをテーマとした、メルセデス・ベンツの新しい考え方でデザインされた最初のクルマだったのだ。

メルセデスが「Sensual Purity」と呼ぶデザインのコンセプトは、鋭利なキャラクターラインや複雑な面の構成で“盛る”のではなく、削(そ)ぎ落とす方向で造形するというもの。いわば引き算の美学でデザインされている。

これが賛否両論を巻き起こした。個人的には、キャラクターラインにしろフロントマスクにしろ、全体に装飾を華美に感じた2代目CLSよりもすっきりとしていて、好ましいと感じたけれど、高級感が足りないとか、工夫に欠けてまったりとしているという批判の声もあった。

もうひとつ、真横から見たノーズが逆スラントになっていること、すなわち一番高い位置になるボンネット部が前に突き出ていて、低い位置になるにつれて後退する、でこっぱちというかサメの頭のような形状になっていることも話題になった。ツルンとしたスタイルもサメやイルカを思わせたから、筆者は「くじらクラウン」のような感じで「シャークヘッドCLS」と呼んだけれど、これはまったく広まらなかった……。

いずれにせよ、「メルセデス・ベンツたるものが、4ドアクーペみたいなフマジメなクルマをつくるのか」というお叱りの声を受けた初代から、CLSというモデルはとにかくカッコが話題になるモデルである。そんなクルマはありそうでなかなかないので、貴重な存在だ。そして2021年の秋に、フロントグリルがよりくっきりとした輪郭の台形となり、バンパーもそれに合わせて形状が変わるなど、ちょっとしたお化粧直し(参照)を経て現在に至っている。

低く伸びやかなフォルムが特徴の4ドアクーペ「メルセデス・ベンツCLS」が登場したのは2004年。3代目にあたる現行型はプレスラインを極力排したシンプルな意匠で注目を集めた。
低く伸びやかなフォルムが特徴の4ドアクーペ「メルセデス・ベンツCLS」が登場したのは2004年。3代目にあたる現行型はプレスラインを極力排したシンプルな意匠で注目を集めた。拡大
2018年登場のクルマなので、インテリアの造形は現行型「Sクラス」「Cクラス」より一世代前のテーマに沿ったものだ。今回の(といっても2021年秋のだが)改良ではステアリングホイールが刷新され、タッチ式のステアリングスイッチが採用された。
2018年登場のクルマなので、インテリアの造形は現行型「Sクラス」「Cクラス」より一世代前のテーマに沿ったものだ。今回の(といっても2021年秋のだが)改良ではステアリングホイールが刷新され、タッチ式のステアリングスイッチが採用された。拡大
試乗車にはナッパレザーシートやシートベンチレーター、Burmesterのサラウンドサウンドシステム、エアサスペンションからなるオプションの「エクスクルーシブパッケージ」が採用されていた。
試乗車にはナッパレザーシートやシートベンチレーター、Burmesterのサラウンドサウンドシステム、エアサスペンションからなるオプションの「エクスクルーシブパッケージ」が採用されていた。拡大
長く低い車体形状からも察せられるとおり、リアシートは足元には十分なスペースがあるものの、頭上まわりはやや窮屈。座席にはシートヒーターが標準装備される。
長く低い車体形状からも察せられるとおり、リアシートは足元には十分なスペースがあるものの、頭上まわりはやや窮屈。座席にはシートヒーターが標準装備される。拡大
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見ても触れても走らせても滑らか

久しぶりに対面したメルセデス・ベンツCLSは、2リッターの直列4気筒ディーゼルターボを積む「200dスポーツ」。デビュー時に好感を抱いたすがすがしさはそのままに、キラキラ感を増していた。キラキラの源は、フロントグリルに輝く無数のスリーポインテッドスター。なんでもこれを「スターパターングリル」と呼ぶそうで、連想したのはルイ・ヴィトンのモノグラムをちりばめたバッグだ。

これも議論を呼びそうだけれど、CLSはそもそもエエかっこしぃのクルマだから、アクセサリーと相性がいい。キラキラはしているけれどギラギラはしていないので、でしゃばりすぎない、程よいアクセントになっていると感じた。

一方で、ステアリングホイールの形状が最新のものに変わった以外は、ディスプレイを横にふたつ並べたインストゥルメントパネルなど、インテリアに大きな変更はない。取説を読まずとも直感で操作できるすぐれたインターフェイスと、滑るような手触りのレザーに代表される上質さ。このふたつの方向からのアプローチによって、ドライバーは大事にもてなされているという実感を得る。ちなみに、試乗車はオプションで52万4000円ナリの「エクスクルーシブパッケージ」を装着していたので、シートはしっとり滑らかなナッパレザーだった。

MBUX(メルセデス・ベンツ・ユーザー・エクスペリエンス)にもすっかり慣れたので、「ハーイ、メルセデス」と呼びかけ、声で目的地を設定してスタートする。乗り込んでから発進するまでの一連の流れもスムーズだ。で、このクルマは外観やインターフェイスと同様に、走らせてもトゥルンと滑らかなのだった。

まず、低回転域で豊かなトルクを発生するエンジンのおかけで、走りだしが滑らかだ。このディーゼルエンジンは、化学反応によって窒素酸化物を水と窒素に還元する排出ガス浄化システム「BlueTECH」や、粒子状物質を除去するフィルターといった仕組みに注目が集まりがちだ。その一方で、可変ジオメトリーターボやフリクションの低減によって、低回転域からアクセル操作に対する反応を素早くすることにも取り組んでいる。これによって、1860kgという準ヘビー級の車体が、「よっこらしょ」ではなく、一切のちゅうちょや引っかかりを感じさせることなく、滑るように発進する。このシームレスな加速感は、存在することを感じさせないのに仕事をする、忍者のようなトルクコンバーター式9段ATの手柄でもある。

エクステリアでは、新たに採用された「スターパターングリル」が特徴。グリル内にスリーポインテッドスターの模様がちりばめられている。
エクステリアでは、新たに採用された「スターパターングリル」が特徴。グリル内にスリーポインテッドスターの模様がちりばめられている。拡大
ステアリングホイールのリムには静電容量式のタッチセンサーを採用(従来型はトルク感応式)。運転支援システムの作動時に、「ドライバーがハンドルから手を離している」という誤認識が発生しにくくなった。
ステアリングホイールのリムには静電容量式のタッチセンサーを採用(従来型はトルク感応式)。運転支援システムの作動時に、「ドライバーがハンドルから手を離している」という誤認識が発生しにくくなった。拡大
細かいところでは、ヘッドアップディスプレイが全車標準装備となったのも、2021年秋の改良のトピックだ。
細かいところでは、ヘッドアップディスプレイが全車標準装備となったのも、2021年秋の改良のトピックだ。拡大
「CLS220d」に搭載される2リッター直4ディーゼルターボエンジン。マイルドハイブリッド機構などは備わっておらず、燃費はWLTCモードで16.5km/リッター(「エクスクルーシブパッケージ」は16.4km/リッター)となっている。
「CLS220d」に搭載される2リッター直4ディーゼルターボエンジン。マイルドハイブリッド機構などは備わっておらず、燃費はWLTCモードで16.5km/リッター(「エクスクルーシブパッケージ」は16.4km/リッター)となっている。拡大
熟成が進んだトランスミッションの制御もあって、「CLS220d」の走りはスムーズそのもの。電動アシスト機構なしでも、力不足は一切感じない。
熟成が進んだトランスミッションの制御もあって、「CLS220d」の走りはスムーズそのもの。電動アシスト機構なしでも、力不足は一切感じない。拡大

エアサスと優秀な電子制御の合わせ技

滑るような発進加速の次にやってくるのは、いかにもエアサスらしい、少し浮遊感のある乗り心地のよさだ。魔法のじゅうたんには乗ったことがないので「マジックカーペット・ライド」という表現を軽々しく使うわけにはいかないけれど、毛足の長いじゅうたんの上をはだしで歩くような気持ちよさがある。「毛足の長いカーペット・ライド」だ(そのままか……)。

タウンスピードの心地よさは、高速道路に入って巡航速度が上がっても変わらない。心地いいと感じるのは、舗装の荒れた箇所やつなぎ目をふんわりと乗り越えつつも、乗り越えた後はぴしっと姿勢を正すからで、ふわんふわんしない。

前述したように、試乗車はエクスクルーシブパッケージを装着しており、これには「AIR BODY CONTROLサスペンション」が含まれる。エアサスと連続可変ダンパーを電子制御するこのシステムが、快適な乗り心地に貢献しているとみた。速度が上がると自動で車高を下げて安定性を高め、コーナーでの横傾きやブレーキング時のノーズダイブを察知すると、足まわりを引き締めて対応する。「AIR BODY CONTROLサスペンション」の“中の人”が相当に優秀な印象で、状況に応じてあっちを締めたり、こっちを緩めたりと、大活躍している。

ここでダイナミックセレクトを「Sport+」にセットすると、エンジンは高回転域を保つようになり、ちょっとだけシフトショックが大きくなるのと引き換えにシフトも素早くなり、足まわりもしっかりとする。エンジンはさすがに、かつての自然吸気ガソリンエンジンのようにカーンと回るというわけにはいかないけれど、それでも「♪ルルルルル」と朗らかに回ってパワーも十分だから、同乗者がいないときにはスポーツセダンとして楽しめる。

先述のとおりエアサスペンションが装備されていた今回の試乗車。ドライブモードに応じて減衰力が変化するほか、任意で車高の調整も可能となっている。
先述のとおりエアサスペンションが装備されていた今回の試乗車。ドライブモードに応じて減衰力が変化するほか、任意で車高の調整も可能となっている。拡大
タイヤサイズは、前が245/40R19、後ろが275/35R19と、かなりの低偏平。試乗車にはダンロップのハイパフォーマンスタイヤが装着されていた。
タイヤサイズは、前が245/40R19、後ろが275/35R19と、かなりの低偏平。試乗車にはダンロップのハイパフォーマンスタイヤが装着されていた。拡大
ドライブモードは「Eco」「Comfort」「Sport」「Sport+」「Individual」の5種類。Individualではパワートレインやサスペンション、パワーステアリングなどの制御を個別に設定できる。
ドライブモードは「Eco」「Comfort」「Sport」「Sport+」「Individual」の5種類。Individualではパワートレインやサスペンション、パワーステアリングなどの制御を個別に設定できる。拡大
ボディーカラーは、試乗車の「ダイヤモンドホワイト」を含む全15色が用意される。
ボディーカラーは、試乗車の「ダイヤモンドホワイト」を含む全15色が用意される。拡大

古典的なクルマの魅力に満ちている

単純にパワーがあって乗り心地がいいだけなら、「滑らかに動く」とは感じないはずだ。ハンドルを切る動作にしろ、アクセル操作にしろ、そうした入力に対して素早く、思いどおりに反応してくれるから、このクルマは滑らかで気持ちがいいと感じる。快楽ということは、心地よくてしかも楽しいということだと思うけれど、このクルマにはまさにそれがある。

ADAS(先進運転支援システム)に関しては、追従にしろ車線逸脱防止にしろ、標識読み取りにしろ、現時点での最先端を行くものの、いまのところ各社頭打ちというか、どんぐりの背比べになっている。

もちろん、だれもが自由かつ安全に移動することができるよう、ADASの開発はがんがん進めてほしい。ただし、このクルマはそうしたハイテクよりも、話が弾むような特徴のあるデザインや、心地よい乗り心地と楽しいコーナリング、アクセルを踏むたびにニヤリとするようなパワートレインなど、昔ながらのクルマの魅力に満ちていた。

そして、そうした魅力が4ドアセダン(メルセデスはクーペと呼んでいるけれど)という、いまや古典的ともいえるスタイルにギュギュッと凝縮されているのがおもしろい。押し出しの強い高性能SUVが追い越し車線をがんがん走っている高速道路で、このクルマで走行車線を軽く流している姿を、カメラマンの機材車から眺めた。控えめだと思えたデザインが、ゴツいクルマが増えた今日の交通環境だと上品に輝いて見える。そこまで考えてデザインしたのかな、と考えさせるあたりも、このクルマはおもしろい。

(文=サトータケシ/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)

今回試乗した「CLS220dスポーツ」は、日本におけるCLSのベースグレード。高出力エンジンを搭載した上級グレードや、“AMGモデル”というわけではないが、それでも気持ちのいい走りを楽しむことができた。
今回試乗した「CLS220dスポーツ」は、日本におけるCLSのベースグレード。高出力エンジンを搭載した上級グレードや、“AMGモデル”というわけではないが、それでも気持ちのいい走りを楽しむことができた。拡大
今どきの高級車らしくADASは充実。アダプティブクルーズコントロールに操舵アシスト付きの車線維持支援機能、レーンチェンジアシスト、パーキングアシストなどが標準装備される。
今どきの高級車らしくADASは充実。アダプティブクルーズコントロールに操舵アシスト付きの車線維持支援機能、レーンチェンジアシスト、パーキングアシストなどが標準装備される。拡大
“4ドアクーペ”とはいえ基本となる車形はセダン。リアには乗車スペースとは分離されるかたちで、容量520リッターのトランクルームが備わっている。
“4ドアクーペ”とはいえ基本となる車形はセダン。リアには乗車スペースとは分離されるかたちで、容量520リッターのトランクルームが備わっている。拡大
デザインや走り、乗り心地など、昔ながらのクルマの魅力に満ちていた「メルセデス・ベンツCLSクーペ」。これからの時代にも、ぜひこうしたモデルに頑張ってほしい。
デザインや走り、乗り心地など、昔ながらのクルマの魅力に満ちていた「メルセデス・ベンツCLSクーペ」。これからの時代にも、ぜひこうしたモデルに頑張ってほしい。拡大

テスト車のデータ

メルセデス・ベンツCLS220dスポーツ

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4995×1895×1425mm
ホイールベース:2940mm
車重:1860kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:194PS(143kW)/3800rpm
最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/2800rpm
タイヤ:(前)245/40R19 98Y XL/(後)275/35R19 100 Y XL(ダンロップSP SPORT MAXX RT2)
燃費:16.4km/リッター(WLTCモード)
価格:946万円/テスト車=1029万2000円
オプション装備:ボディーカラー<ダイヤモンドホワイト>(13万円)/エクスクルーシブパッケージ(52万4000円)/ガラススライディングルーフ(17万8000円)

テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:2175km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:294.0km
使用燃料:20.0リッター(軽油)
参考燃費:14.7km/リッター(満タン法)/16.4km/リッター(車載燃費計計測値)

メルセデス・ベンツCLS220dスポーツ
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サトータケシ

サトータケシ

ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。

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