フォルクスワーゲン・ポロTSIスタイル(FF/7AT)
これぞドイツ車の味わい 2022.08.08 試乗記 現行型で3ナンバーになったものの、「フォルクスワーゲン(VW)ポロ」はサイズや居住性などのバランスが日本のユーザーにぴったりの一台だ。先代の生産終了から5年、買い替え需要がピークを迎えるであろうタイミングで上陸したマイナーチェンジモデルの仕上がりをリポートする。絶妙なサイズ感
地形や道路の整理もままならぬ勢いで戸建てや集合住宅が建ちまくった戦後の発展期。その残滓(ざんし)のような、お疲れ気味の街に住んでいると、クルマの大きさを嫌なほうに実感することが多い。
つい先日は、地元民でも難儀する近所の裏道に紛れ込んだ「ジャパンタクシー」が電柱にバンパーをがっつり擦ってしまうところを目撃した。こちらが誘導するまでもなく、そそくさと現場を後にしたが、後に営業所でしかられたのだろうと思うと気の毒になる。
そんな環境のなかで出くわすことが多いのが5代目、つまり先代のポロだ。寸法的には「マツダ2」よりも小さいそのサイズなら、昭和の古いマンションのパレットにもトレッドを気にすることなくすんなり収まり、狭小な民家でもなんとか止められ……と、そういう事情が垣間見える。「ワゴンR」なんかにすればおおむね丸く収まるわけだが、軽自動車のシェアがぶっちぎりで低い東京にいると、そうはしたくない事情もあるのだろう。
でも確かに5代目のポロは、そのコンパクトな体にドイツ車的な剛健さがギュッと凝縮された、稀有(けう)なキャラクターのクルマでもあった。取り回しの便利さとの引き換えで室内が狭すぎる感もあったが、とはいえ子供の小さい家族ならなんとか実用に足るくらいの空間は確保されている。機能を多くは求めないけど性能には口うるさい、そんなダウンサイジング志向のユーザーにとっても、5代目のポロは絶妙な居所だったのだと思う。
全長が25mm大きくなった
そのポロもディスコンから5年以上の時がたち、後を受けた6代目も先ごろマイナーチェンジを迎えた。代替需要もいよいよピークを迎えるだろう、果たして5代目のユーザーにとって、6代目はどのような位置づけのクルマに映るのだろうか。
新しいポロはマイナーチェンジに伴って前後バンパーや灯火類のデザインが変更され、特に後ろ姿はゴルフとの関連性が強まったように見える。この意匠変更に伴い全長は25mm増しの4085mmになったが、全幅は1750mmをキープ。5ナンバー枠を死守する日本のBセグメントとは一線を画するが、欧州のBセグメントとしては「プジョー208」とほぼ同じ、中央値といったところになるだろうか。
ただし、このセグメントも需要の中心がクロスオーバー系に移りつつあり、それらを含めるとコンパクトな部類に入るだろう。パッケージは直近の前期モデルと同じ。5代目に比べると前後席間のレッグスペースが増え、荷室容量も2割くらいは大きくなっている。つまり、5代目に対して大きくなったぶんの実利はきちんと供しているということだ。
マイナーチェンジのポイントは兄貴分のゴルフに倣った車内外のデジタル環境の進化にある。9.2インチのインフォテインメントシステム「ディスカバープロ」はボイスコントロールを備える最新バージョンに進化。メーターも液晶パネルの「デジタルコックピット」を全グレードに採用し、ベースモデル以外は10.25インチの大画面バージョン「デジタルコックピットプロ」が標準設定となる。また、空調も温度調整などがタッチパネル化されるなど、先行する他モデルに歩を並べた。
エンジンを1リッターターボに統一
前期型の登場から4年がたつも、内装の質感はまだまだ一線級で戦えるレベルにある。ここ数年のVWのモデルはコスト配分のアラが内装に表れるパターンが見受けられ、現在は補正のただ中にあるが、ポロは企画が早かったこともあり一定の余幅が築けていたのだろう。華やぎのなさもまたVWらしいところだが、こと質感で言えば個人的にはゴルフと比しても大きく遜色ないようにも見える。
搭載されるエンジンは全グレードで1リッター3気筒ターボ。5代目の佳作、「ブルーGT」を思い起こさせる「TSI Rライン」のエンジンが1.5リッター4気筒ではなくなったのはちょっと残念だが、その役割を「GTI」に収斂(しゅうれん)させるのか、あるいはそれに該当する新たなグレードが設定されるのかは分からない。
でも、この「up!」由来の3気筒ユニットはシンプルながら出力特性も回転質感もとにかく素直で実用エンジンとして嫌なところがほとんど思い浮かばない。戦略上は内燃機の選択肢が増えることはないだろう現時点で、コスト耐性も高そうなこのユニットが手元にあったことはVWにとって超ラッキーではないかと勝手に想像する。このマイナーチェンジを機に可変ジオメトリーのタービンが採用され、エンジン本体も高圧縮化されたことに伴ってわずかながら燃費も向上した。
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抜群のスタビリティー
前期型に対しては最大トルクの発生回転域も400rpmほど低くなっているが、その恩恵は肌身に感じるほどではない。相変わらず初速がもやっとしていることを織り込んでおかないと、交差点の右折時など瞬発力を要する場面で思いどおりにいかないこともありそうだ。ゴルフに載る48Vのマイルドハイブリッドシステムがあればとも思うが、それは車格的にもトゥーマッチだろう。その代わり、いったん速度が乗ってしまえば速度管理は楽で意思とのズレもない。ノイズレベルも低く、特に長時間のドライブでボディーブローのように効いてくる高周波系の音・振動はきれいに封じられている。
シャシーの剛性や精度のレベルは相変わらず高く、高速域に至るまでのスタビリティーは抜群だ。しっかりライントレースするというだけでなく、大入力をものともしない塊的な強さが感じられる。前に乗る機会のあったRラインは大径タイヤやスポーティーな足まわりということもあって、端々で硬さを感じることが多かったが、試乗車の「スタイル」はタイヤのエアボリュームの大きさも生かした路面アタリの丸さが印象的だ。ポロのキャラクターにはこちらの足まわりのほうが見合っていると思う。
回してもうれしくもなんともないが、真ん中においしい具がみっちり詰まったエンジンを使いこなしながら、路面にしっかり接地し凹凸に盤石に対峙(たいじ)するドライバビリティーに身を委ねる。ポロには5代目と変わらずちょっとクラシックなドイツ車の趣がある。「W124」とか「ゴルフ3」とか、典型といわれるそれらに比べると確かにライトでスムーズだが、味わいの傾向としては同じ類いのものだ。208とも「ルーテシア」とも異なる、なんとあらばゴルフとも一線を画するドイツ的個性、それが肌身に染みている向きにとって5代目の代替はやはり6代目しか考えられないだろう。
(文=渡辺敏史/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・ポロTSIスタイル
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4085×1750×1450mm
ホイールベース:2550mm
車重:1170kg
駆動方式:FF
エンジン:1リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:95PS(70kW)/5000-5500rpm
最大トルク:175N・m(25.5kgf・m)/1600-3500rpm
タイヤ:(前)195/55R16 91V XL/(後)195/55R16 91V XL(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5)
燃費:17.1km/リッター(WLTCモード)
価格:324万5000円/テスト車=343万5000円
オプション装備:ディスカバープロパッケージ(15万4000円) ※以下、販売店オプション フロアマット<テキスタイル>(3万3000円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:4250km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:158.2km
使用燃料:13.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:12.0km/リッター(満タン法)/11.9km/リッター(車載燃費計計測値)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。