マセラティMC20(MR/8AT)【海外試乗記】
真のグランツーリスモ 2022.09.26 アウトビルトジャパン マセラティが送り出す本物のグランツーリスモ。古いGT時代とフェラーリとの結婚に終止符を打ち、マセラティはついに再び勇気を持って「MC20」をつくり上げ、スポーツカーのエリートたちと競い合うようになった。果たして彼らの新たなスタートは成功するのだろうか?※この記事は「AUTO BILD JAPAN Web」より転載したものです。
新型MC20とF1テクノロジー
F1テクノロジーがマセラティにも? 最近、どのスポーツカーメーカーも、モータースポーツのトップクラスからエンジン部品やハイブリッド、エアロダイナミクスを採用したことを自慢げに語るようになった。しかし多くの場合、それは純粋なマーケティング用語にすぎないのだ。
モデナに本拠を置くこの“チーム”は、まだF1とは何の関係もないが、噂によると、イタリア勢は近いうちにハースかザウバーと組むことになるという。しかし、フェラーリとの長年のパートナーシップにより、F1への接近はいつの間にか実現されていた。
しかし、マラネロが初めからMC20のプロジェクトに参加したわけではない。では、マセラティの新型スーパースポーツカーにF1技術が搭載されることの真意はどこにあるのだろうか?
MC20もリアに6気筒ターボエンジンを搭載しているが、もちろんそれはまだF1の技術にリンクしているわけではないのだ。
「Nettuno(ネットゥーノ)」と呼ばれるこの新型エンジンは、マセラティ自身が設計・製作したもので、デュアル燃料噴射、デュアル点火、プレチャンバーの使用などが盛り込まれている。
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7500rpmで最高出力630PSを発生
デュアルイグニッションは、1気筒あたり2つのスパークプラグを使用するもので、マセラティのエンジンはF1のパワーユニットと共通の原理を採用している。
エンジンに関する詳しい情報は? 排気量3リッター。V型。2つのターボチャージャー。電子制御式ウェイストゲート。運転席と助手席の後ろの低い位置に配置。Tremec製8段デュアルクラッチトランスミッションを搭載している。
最高出力630PS/7500rpm、最大トルク730N・m/3000-5500rpmを発生。機械式LSDは標準装備。電子式は2380ユーロ(約33万円)で、テスト車には装着されている。このスペックだけでもかなり期待できそうな内容だ。
6気筒のサウンド……、はどうだろう。リスニングとドライビングの実技テストはこれからだ。その前に、MC20のコンセプトについて少し説明を加えよう。
「メラクSS」「MC12」に続くマセラティ第3のミドエンジンスーパースポーツカーは、ダラーラと共同開発したカーボンファイバー製モノコックをベースに、電気モーターの使用を前提に準備されたものである。
マラネロの兄貴分、フェラーリでもアルミニウム構造に限定しているなか、同様のモノコック構造を採用しているのはマクラーレンのみ。MC20の広々とした室内もそのためだ。
インテリアは、上質な素材、カーボンファイバーを多用したシンプルなデザインで印象的なものとなっている。オンラインインフォテインメントも最新で、ナビゲーションも必要以上にジャマにはならず案内してくれるし、サウンドシステムも素晴らしい音を奏でる。そのうえ、伝統的で親しみやすい機能も備わっている。
例えば、ボタンひとつでドアが開く、ストラップでドアを閉じる。あるいは「アルファ・ロメオ・ジュリア クアドリフォリオ ヴェルデ」でおなじみのモードコントロールなどだ。ノブをひねると「Wet」「GT」「Sport」「Corsa」「ESPオフ」モードに切り替わる。
各プログラムでは、レスポンスから排気フラップ、シフトタイム、さらにトラクションコントロールからダンパーの硬さまで、パラメーターが調整される。電子デバイスによるトラクションコントロールは、100%(Wet)から90、60、30と少しずつ小さくなっていき、最終的にはOFFになる。
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シザードアの採用で乗降性が向上
シザードアは、印象的なデザインだけでなく、乗り込みを容易にするための工夫も施されている。そして、オプションのレーシングバケットシートに、完全にリラックスして座ることができるのだ。ただでさえ低い着座位置だが、マクラーレンではさらにお尻がアスファルトに近くなる。
シートは電動で調整し、シェル全体を前方または後方に傾けることができる。変速機などの操作コントローラーは直感的で無駄がない。
細かい点では、スクリーンを使っての温度設定がやや不便なため、運転から目を離すことが多くなる。また、バックミラーをディスプレイとして使うのは、少し慣れが必要だ。それに付随する外装カメラもそうだ。
MC20の美しいリアエンドでは、サイドとボンネットに設けられたエアインテークがエンジンを冷却し、インタークーラーにフレッシュエアを供給する。
さらに、控えめなティアオフエッジと大型のディフューザーを備えている。アンダーボディーは完全に覆われている。テールフィンや深いスポイラーリップは、MC20には不要と発表という。
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専用開発された「ダンプトロニックX」システム
マシンを起動する前に、試乗車について少し説明しよう。ブレーキバイワイヤデジタル(オプション)として設計されたカーボンセラミックブレーキがテスト車両に搭載されている。
さらに、245幅と305幅のブリヂストン製20インチタイヤと、ビルシュタイン製のアダプティブサスペンションを装備している。ドイツのサスペンションメーカーが、MC20のために特別に開発したのが「ダンプトロニックX」システムだ。これがラウジッツリンクでどのような性能を発揮するかは、またの機会に。
その前に、モノコックやインテリア、カーボンブレーキなど、軽量化の成果を挙げておこう。イタリア人は2.3kg/PSという目標を掲げていたが、2.5kg/PSにとどまっている。実際にMC20はファクトリー仕様より100kg以上重くなっており、これは決してよいスタートだとはいえないものの、ポルシェ、フェラーリ、マクラーレンのライバルはMC20よりも軽くはないのだ。
カントリーロードと高速道路へ。静止している時のネットゥーノは、630PSという字面の印象とは全く違う、かなり細い音がする。そして、最初の数メートルもどちらかというと控えめで、われわれが想定していたような爆発的な迫力はない。少なくともGTモードでは、むしろ滑らかでクリーミーだ。
しかしSportモードに入れると、MC20が目を覚ます。背中の鼓動は明らかに喉越しがよくなり、シフトタイムもキレている。まさにそのとおりだ。マセラティのサスペンションは実によく、都心の石畳の路面でもそれほど震えることなく飲み込み、高速道路ではほとんど長距離走行の達人にまで上り詰めた。
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最高速度は326km/h?
ステアリングは緩すぎず、正確すぎず、まさにグランツーリスモと呼ぶにふさわしいきめ細かさ。新型エンジン、ネットゥーノの制御を走行プログラムのCorsaモードに設定し、一度スピードを上げて気分を盛り上げると、もう止まらない。
2000rpm以下ではまだブースト圧がわずかに残っているが、それ以降はコンプレッサーが歪(ゆが)みなくチェーンにぶら下がり、スロットルのジャークのリズムに合わせて同時に回転し、タコメーターはリミッターを連打するほど勢いよく空中に舞い上がる。ちなみに、スタッカートの硬質なエキゾーストノートのため、かなり壮快かつ愉快な体験ができる。
ターボの備わった6気筒エンジンは期待を裏切らない。200km/hであってもさりげなく落ち着き、2回シフトダウンすれば250km/h、300km/hまでも難なく駆け上がる。最高速度326km/hは、むしろ控えめな表現だ。
しかしながらそんな走りの楽しさのなかで、残念ながらカーボンブレーキはネガティブに目立ってしまう。フィードバックに欠け、細かいドージングができず、全体的に古くさく、石のような感触で、残念だ。一方、縦方向のダイナミクスについては、ストッパーが強力で少なくとも制動距離に関しては納得できる。
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0-100km/h加速は2.9秒
ポルシェならおそらくテストを中止するところだが、マセラティの開発チームは冷静に受け止め、他の測定の前にローンチのテストをするよう勧めただけだった。うれしいことに、スプリントスタートでブリヂストン製タイヤが一時的に温められる。ステアリングホイールのローンチボタンを押すと、回転数は3500rpmに落ち着き、6気筒エンジンが素晴らしい音を立て、2つのターボチャージャーがうなりを上げ、そして走りだすのである。
MC20がスリップすることなく飛び出し、ギアチェンジのたびにブースト圧が力強くアクションを起こし、2.9秒後には100mの壁を破るのだ。そして、その勢いはとどまるところを知らない。200km/h(9.0秒)、250km/h(15.4秒)、280km/h(21.6秒)へと。0-300km/h加速には、2.5kmのストレートは短すぎた。
ブレーキも、先ほど述べたようにややマヒしているが、幸いなことにタイヤのグリップ力は高く、ABSはうまく調和しており、100km/h走行時から停止まで30.7mという優れた制動距離も納得のいくものだ。
いよいよMC20が本格始動
そしてサーキット走行。今回はラウジッツリンクだ。コルサモードでロールインするとシャシーがかなり硬すぎることが明らかになる。もう少し柔らかいほうがいい。そして、もうひとつ目立つことがある。常時稼働しているツインターボは、MC20を想像以上にオーバーステアにしているが、それを利用すると楽しく走ることができる。
それでも、速いラップを刻む秘訣(ひけつ)は、その俊敏性に挑戦するよりも、むしろそれを鍛えることにある。それこそが、フレッシュなタイヤを装着しての重要なラップタイムへのアプローチなのだ。
つまり、コーナーの立ち上がりで少し戻し、安定したところでエイペックスに向かって誘導し、できるだけ早く巨大なトルクを取り戻すことを確認するのだ。特に、高いギアを使ってコーナーから加速する場合に効果的だ。
トラクションそのものもすごいのだが、730N・mという最大トルクの数値を鑑みると、有限であるともいえる。特に低速ギアでは、ラップタイムを向上させるよりも早く、横向きになることに気づくだろう。そして起伏のあるブレーキングゾーンで急減速すると、まるで魔法にでもかかったようにシャシーがハードに切り替わるのだ。
そのため、マセラティは次のコーナーで完璧には曲がれず、スタートからフィニッシュまでの長い左コーナーでのバンプも完全にはカバーしきれなかった。何が起きたのだろう? どうやらABSが、ハードブレーキングが荒すぎると判断し、自己防衛策として自動的にサスペンションを硬めに戻したようだ。
さらに何度かトライして、1周はゴーストの介入なしにうまくいったが、それでも最終的にはコンマ数秒しかラップタイムを更新できなかった。結局、すべてはスピードが足りなかったのだ。630PS、1604kg、いいタイヤ。1分30秒台前半のタイムがパッケージとして必要だったが、結局、1分31秒41にとどまった。ラップタイム自体は遅くはないのだが、イタリア人もわれわれも、トライデントにはもう少し期待していたはずだ。
ザクセンリンクのほうがMC20に合っていたかもしれない。近々、チェックしてみようと思う。
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結論
マセラティに賛辞を送る。本物のグランツーリスモであるMC20は、高速道路でも田舎道でも快適に走ることができ、レース場でも楽しく機敏に動き、ブレーキもきちんと利かせることができる。エクセレンテ!
(Text=Guido Naumann/Photos=Maserati S.p.A.)
【スペック】
全長×全幅×全高=4669×2178×1224mm/ホイールベース=2700mm/乾燥重量=1604kg/駆動方式=MR/エンジン=3リッターV6 DOHC 24バルブ ターボ(最高出力630PS/7500rpm、最大トルク730N・m/3000-5500rpm)/トランスミッション=8AT/0-100km/h=2.9秒/0-200km/h=9.0秒/最高速度=326km/h/価格=23万ユーロ(約3220万円)より

AUTO BILD 編集部
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