フォルクスワーゲンTロックR(4WD/7AT)
際立つバランス 2022.10.10 試乗記 「フォルクスワーゲンTロック」のマイナーチェンジに合わせて、4WDのフラッグシップモデル「TロックR」が上陸。これまでFWDのみの導入であった日本のラインナップにおいて、待望にして期待のハイパフォーマンス4WDは、いかなる走りを見せるのか。待望のハイパフォーマンスモデル
ついにというか、ようやくというか、フォルクスワーゲンのTロックに、スポーツモデルのTロックRが追加された。クロスオーバーSUVとして世界的に人気のTロックが日本に上陸したのは2020年7月のことで、デビュー当初は2リッター直4直噴ディーゼルターボを搭載する「TロックTDI」のみの設定。翌年5月には1.5リッター直4直噴ガソリンターボが追加されているが、いずれも前輪駆動仕様だった。
これに対して、ヨーロッパには「4MOTION」と呼ばれる4WD仕様や、パワフルな2リッター直4直噴ガソリンターボと4MOTIONを組み合わせたTロックR、さらにはソフトトップを備えた「Tロック カブリオレ」などさまざまなモデルが用意されており、とくにスポーツモデルのTロックRは、日本上陸が待ち望まれていたのだ。
そんな注目のモデルが、Tロックのマイナーチェンジを機に日本のラインナップに加わった。フォルクスワーゲンのスポーツモデルといえば、かつては「GTI」というイメージが強かったが、「ゴルフR32」が起源といわれる「Rモデル」が登場したことで、より速いRモデルにその人気はシフトしつつある。
現在、GTIは「ゴルフ」と「ポロ」、そして「up!」(日本での販売は終了)に設定されているのに対して、Rモデルはゴルフ、「ゴルフヴァリアント」、「ティグアン」、Tロック、「アルテオン/アルテオン シューティングブレーク」(日本未導入)とラインナップが拡大傾向にあることからも、その人気のほどがうかがえるだろう。
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300PSを誇るパワーユニット
TロックRのハイライトは、なんといっても高性能なパワートレインだ。搭載される2リッター直4ガソリンターボの「2.0 TSI」エンジンは、最高出力300PS、最大トルク400N・mを発生し、デュアルクラッチギアボックスの7段DSGと4MOTIONにより、そのパワーがあますところなく路面に伝えられる。
ユニークなのは多彩な走行モードが用意されること。スポーツモデルにふさわしく、可変ダンピングステムの“DCC”(アダプティブシャシーコントロール)には「コンフォート」と「スポーツ」に加えて「レース」モードが設定され、さらに「スノー」や「オフロード」といった4WDを最大限に発揮できる「4MOTIONアクティブコントロール」を搭載。しかもそれらはセンターコンソールのダイヤルで簡単に選択できるのだ。オンロードだけでなく、あらゆる道での万能ぶりが期待できる。
この日試乗したのは、「Rモデルといえばこのブルー!」というくらいイメージが強い「ラピスブルーメタリック」をまとう一台。室内にはそれとコーディネートされたブルーのダッシュパッドが備わり、さらにブルーのステッチがアクセントのステアリングホイールやR専用ナパレザーシートなど、気分を盛り上げてくれるアイテムが盛りだくさんだ。
ちなみに通常モデルではナビゲーションシステム“Discover Pro”がメーカーオプションであるのに対して、TロックRには標準で装備される。マイナーチェンジにともない、インフォテインメントディスプレイがタブレット風のデザインになり、以前よりも高い位置に移されて見やすくなった。
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驚きの乗り心地
今回のメディア向け試乗会では、オンロードを中心にTロックRを試した。さっそくコンフォートモードで走りだすと、2000rpmから5200rpmで最大トルクの400N・mを発生する2.0 TSIは、アクセルペダルを軽く踏むだけで1200rpmのごく低回転から豊かなトルクを生み出し、街乗りでも実に扱いやすい。
アクセルペダルを踏み増すと、より力強い加速が味わえるし、アクセルペダルに乗せた右足にさらに力をこめると、4000rpmあたりから一段と勢いを増し、レブリミットの6500rpmまで突き進む感じは爽快そのもの。それでいて、鋭い加速中に挙動が乱れることはなく、安心してアクセルペダルを踏みきれるのが4MOTION=4WDの魅力である。
驚いたのはその乗り心地の良さ。TロックRには専用スポーツサスペンションと235/40R19タイヤが標準装着されていて、やや硬めのセッティングながら、路面からのショックは角が丸められ、心地よい硬さを示している。後席でもこの印象は変わらず、我慢せずに済むのはうれしいところだ。
高速走行時の挙動も落ち着いており、フラットな乗り心地や優れた直進安定性のおかげで長距離ドライブは疲れ知らず。標準装着される前述の可変ダンピングシステム“DCC”が、スポーティーさと快適性を見事に両立させていたのだ。
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魅力的なスポーツモデル
試乗時間の関係で、今回はワインディングロードを走る機会はなかったが、標準のDCCやSUVとしては低めの全高のおかげで、走行時のロールやピッチングはきっちりと抑えられ、そのスポーティーさを楽しむことができた。
そんなTロックRだが、個人的に残念なのが、「ゴルフR」や「ティグアンR」に搭載される「Rパフォーマンス トルクベクタリング」機能が、このTロックRには採用されないこと。Rパフォーマンス トルクベクタリングは、リアアクスルに搭載された2組の多板クラッチが左右のトルク配分を変え、リアの外輪により多くのトルクを配分することで、コーナリングしやすい状況を生み出すというもの。
これがあればよりアンダーステアが抑えられた軽快なハンドリングが期待できるのに……。また、Tロックの最上グレードでありながら、ワンランク上のサウンドシステムが選べないのも寂しいところである。
それでも、パワフルなエンジンや4WDが搭載されて気持ちのいい走りが楽しめて、スポーツモデルとしては乗り心地も快適。さらに、「マトリクスLEDヘッドランプ」や同一車線内全車速運転支援システム“Travel Assist”、駐車支援システム“Park Assist”といった便利な機能や、パワーシートやナビゲーションシステムなどが標準装着されることを考えると、626万6000円という価格を含めて、このTロックRは実に魅力的なモデルといえるだろう。
(文=生方 聡/写真=神村 聖/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
フォルクスワーゲンTロックR
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4245×1825×1570mm
ホイールベース:2590mm
車重:1540kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:300PS(221kW)/5300-6500rpm
最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/2000-5200rpm
タイヤ:(前)235/40R19 96Y/(後)235/40R19 96Y(ハンコック・ヴェンタスS1 evo2)
燃費:--km/リッター
価格:626万6000円/テスト車=633万7500円
オプション装備:ボディーカラー<ラピスブルーメタリック>(7万円) ※以下、販売店オプション フロアマット<テキスタイル>(3万8500円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:1484km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースレポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。