第243回:幻の昭和
2022.10.17 カーマニア人間国宝への道新型「Z」で気分はトム・クルーズ
「フェアレディZ」は、日本人の心のふるさと。石原裕次郎とか吉永小百合のようなものではないでしょうか。中高年限定ですが……。
ただ、そういう古典的なスターのスタイルを守ったのは2代目までで、3代目以降はモダンに変身を図ろうとした。4代目のZ32に関しては変身が成功し、私も新車で購入したが(まだ27歳でした。涙)、それはフェアレディZを買うというより、国産の「ポルシェ928」を買うような感覚で、「ゼットだ!」という意識は薄かった。
その後Zはサッパリ売れなくなり、復活を果たした5代目、それに続く6代目も不振。正直、まったくどうでもいいクルマになっていた。
5代目、6代目に足りなかったもの、それは、一に古典的なカッコよさであり、二にそそるエンジンだった(断言)。Zにとって、カッコとエンジン以外の要素など枝葉末節。「曲がる」「止まる」性能なんてまったくどうでもいい! フェラーリと同じで!
しかし7代目は、古典的なカッコよさを持ち、そそるエンジンを積んでいる。つまり、すべての要素がそろっている。長嶋茂雄が22歳に若返ってプロ野球入りしたといってもいい! これに燃えない中高年はいまい。
その新型Zに、ようやく乗ることができる。私は燃えた。気分はトム・クルーズだ。新型Zに乗れば、還暦でも無敵にカッコよく、無敵の操縦技術を持つ“マーヴェリック”になれる!
そんな高揚感に包まれつつ、日産本社の地下駐車場にて、黄色い新型「フェアレディZバージョンST」(6段MT車)のキーを預かったのでした。
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脳内麻薬がドバドバ出る
初めて座った新型Zの運転席。それは、視点が驚くほど高かった。まるで乗用車みたい! シート高を下げようとしたけれど、すでに一番低い位置だった。
全高は1315mm。スポーツカーとしては比較的高いが、初代が1290mmだったので、それほど上がったわけでもない。古いZは、その多くが車高を落としてあるので、新型も、ノーマルだとヤケに視点が高く感じるのか。
ただ、新型は、車高がノーマルでも全然カッコいい。初代はノーマルだとまるでサマになってないので、その点ではすでに初代を超えている。視点が高いぶん視界もイイので、目の弱った中高年にはありがたい。
エンジンは、3リッターV6ツインターボだ。このエンジン、「スカイライン400R」で体験して「なんじゃこりゃあ!」と大感動したが、MTで乗るとどうなのか!?
MTで乗っても最高でした……。
最高度合いはATと同じくらいで、どちらかというとATのほうが相性はいいかもしれないが、トム・クルーズは古典的なドッグファイトで敵を撃墜しなければならないので、MTのほうがトップガン気分は盛り上がる。
このエンジンのすばらしさ。それは、どの回転域でも、必要とされる性能をきっちり出しつつ、回転域によって世界が変わることだ。
日常的な低回転域でもターボは効き、トルクは出ている。しかし、回せば回すほど、ドドーンとパワーが湧き出す! 一番気持ちいいのは5000rpm前後! スポーツモードでそこまでアクセルを踏み込めば、心地よい吸気音(らしきもの)が車内に響き、脳内麻薬がドバドバ出る。うおおおお、俺はトム・クルーズだ! マシンは「F14トムキャット」だ! 第5世代戦闘機だろうがなんだろうがかかってこい! 見せてやるぜ、ユーとミーのテクニックの差をなっ!! 操縦かん引けっ!! コブラ機動っ!!
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2ケタナンバーの初代「NSX」を発見
最新のスポーツカーなのに、気分は昭和のヒーローそのもの。Zで首都高を周回しているうちに、脳内は昭和にタイムスリップする。
昭和。それは、速さが絶対善であり、正義だった時代だ。速そうなカッコも絶対善。初代フェアレディZは、絶対善の結晶だった。そのZが405PSのターボエンジンを積み、ほぼ無敵になって現代にリボーンしたのだ! 夢じゃなかろうか……。
そのとき前方に、黄色いスポーツカーの姿が見えた。
あ、あれは?
うおおおおーーーーっ! 初代「ホンダNSX」うぅぅぅぅ~~!
初代NSXと初代Zでは、年代がまるで違うが、新型Zに乗っていると、それは完全なる同胞に思えた。マーヴェリックに対するアイスマンである。
私は“アイスマン初代NSX”をロックオンし、なめるように眺めつつ追走した。ナンバーは2ケタ。恐らく新車時から所有されているのだろう。このパーフェクトなタイムスリップ感!
それは、たまらなくぜいたくな時間だった。
分岐点でNSXの右に並びかけ、運転席をのぞき込んだが、ドライバーの中高年男性はこちらに一瞥(いちべつ)もくれず、左へと去っていった。
そうか、彼にとっては、新型Zは最新のマシン。同胞でもなんでもないんだろう……。
しかし、新型Zに乗っていると、古いスポーツカーがすべて仲間に思えてくる。このクルマには確実に、古き良き昭和が息づいている!
残念ながら、新型Zは当分買えないらしい。が、私は新型Zで幻の昭和を体験できて、本当に幸せだった。
(文と写真=清水草一/写真=池之平昌信/編集=櫻井健一)
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清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。