ホンダ・シビック タイプR ホンダアクセス用品装着車(FF/6MT)
空力ってすごい 2022.10.19 試乗記 ホンダ車の純正アクセサリーを手がけるホンダアクセスが、新型「シビック タイプR」用に「テールゲートスポイラー」を開発。空力性能を磨き上げ、日常的な速度域でも体感できるという自慢の“実効空力”を、クローズドコースでチェックした。空力への強いこだわり
ホンダ車の純正アクセサリーを一手に引き受けるのが、ホンダ本体=本田技研工業の100%子会社、ホンダアクセスである。同社が手がける主な製品には、ワイパーブレードやエンジンオイルなどの消耗品、フロアカーペットにドアバイザー、ETC車載器にドライブレコーダーといった必需品、さらには「ギャザズ」のブランド名で展開する純正ナビやオーディオもある。
しかし、この記事をわざわざ読んでいただいているようなクルマ好きのみなさんにとっては、ホンダアクセスといえば「モデューロ」ブランドに代表されるカスタマイズパーツのイメージが強いかもしれない。その純正カスタマイズパーツのなかでも、アルミホイールやエアロはなんともマニアックな内容で知られる。たとえば、アルミホイールも当然ながらデザイン性を重視したものが大半だが、一部にあえて“適度なたわみが生じる剛性”として、走りの微妙な味わいにまで踏み込んだホイールを開発したりもしている。
エアロパーツもしかり。ホンダアクセスのエアロへのこだわりはとくに強い。同社のエアロは日常の速度域でも体感できる“実効空力”をキャッチフレーズに、路面に吸いつくような安定感、だれがどんな道で乗っても安心して気持ちよく操れる……ことをうたっている。
ところで、いよいよ一般デリバリーもスタートしたという新型シビック タイプRにも、最初から純正アクセサリーがラインナップされている。タイプR特有の真っ赤なカーペットに合わせたフロアマットも微妙な色合いの開発に苦労したらしい。また、インテリアのリアルカーボンパネルや赤いドアミラーカバー、あるいはシフトノブなどは、いかにも「ノーマルのタイプRのここだけは好みに合わない」というマニアがいそうで、そんなポイントをうまく突いた商品といえる。
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リアルカーボンでハンドメイド
シビック タイプRはツルシの状態で「世界最速FF」を自認するクルマだ。さすがのホンダアクセスでも、走行にかかわる機能部品をいきなり出すのはむずかしいのでは……と思ったら、まるでホンダ本体の開発チームに挑戦状をたたきつける(というのは筆者の勝手な妄想です)かのように、新型タイプRの象徴ともいえる部品を用意した。「テールゲートスポイラー」である。
ホンダアクセスにとって、エアロパーツが絶対に妥協できない商品なのは前記のとおり。リアルカーボン製のハンドメイドで、価格は27万5000円。素材や価格、そしてその形状を見ても、マジモノであることは一目瞭然だ。
盛り上がった中央部は「NACA4412」という翼断面形状をベースに、さらに後端にピックアップしたガーニーフラップを設けることで、さらなるダウンフォースを発生させて“芯のある直進性”を生むのだという。いっぽう、そこから下降していく両サイドは逆にダウンフォースを減らす形状になっていて、スムーズな旋回性能を引き出すんだとか。
ビジュアル的にも目を引くハイライトとなっている翼端板は、Aピラーの角度と緻密に合わされた形状になっている。サイドの乱流を遠ざけて直進安定性や旋回時の一体感を高めるという。あと、この翼端板はドアミラーからもちょっとだけ見えるようになっており、純粋に気分をアゲる効果も大きい(笑)。
そんなテールゲートスポイラーの“実効空力”を体感できるように……と、ホンダアクセスが試乗の舞台として用意したのは群馬サイクルスポーツセンターである。今回は複雑でタイトなコーナーと荒れた低グリップ路面で知られる同コースで、新型タイプRのノーマル車とテールゲートスポイラー装着車を2周ずつ試乗するというメニューだった。
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標準車と乗り比べてみると……
ちなみに、同スポイラーを実際に購入した場合、プロであるディーラーメカニックの手で確実に取りつけて納品されるのが原則だが、今回は特別にその場で交換しての試乗となった。このときに取り外した両方のスポイラー単体も持たせていただいた。どちらも小柄な女性でも苦もなく持ち上げられそうなくらいには軽かったが、リアルカーボンのホンダアクセス品は、筆者が片手の握力だけで簡単に持ち上げられたのには驚いた。ただ、どちらの部品も正確な重量は教えてもらえなかった。
まずはノーマルで走る。サスペンションやエンジン、ギアボックスといった根幹部品が先代改良型となる新型タイプRは、すべてのタッチがまろやかに熟成されているのが印象的だ。整備されたクローズドサーキットですこぶる速いのは山田弘樹さんの試乗リポートにもあるとおり。しかし、この日本でも屈指に過酷なワインディング路ともいえる“群サイ”でも、すこぶる速くて正確なのに跳ねるような上下動はまるでなく、しっとりとした潤いある身のこなしに終始するのが新型タイプRの真骨頂といえるかもしれない。
続いて、ホンダアクセスのテールゲートスポイラー装着車で走る。走りだした瞬間に、リアまわりがじわっと落ち着いたのにすぐ気づく。「エアロなんてサーキット以外で体感できるのか?」とお思いの向きもあるかもしれないが、マジモノのエアロ(それ自体のねらいにもよるが)は、30~40km/h程度の車速でも、少なくともちがいは体感できるものだ。
そこからさらに速度を上げると、リアの落ち着きがいよいよ明確になってくる。前後の空力バランスが変化したからか、リアだけでなくクルマ全体のフラット感も増した気がする。これなら高速道路でも、より肩の力が抜けたクルージングが楽しめそうである。
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航空機ジェットエンジンの技術を導入
ところが、ステアリングを切ると、直進時の落ち着きからは意外なほど軽快に、するりとヨーが出る。それでいて、ステアリングの反応自体はまろやかで、大きく丸いコーナリングラインを描きやすいのだ。
これと比較すると、ノーマルはステアリング反応が俊敏で、リアが軽いというわけでもないのだが、ステアリング操作に食らいつくかのように鋭く曲がる。ここ一発でクリッピングポイントを正確に射ぬきたいなら、ノーマルのほうがよさそうだ。しかし、路面コンディションが安定しない一般ワインディングを腹八分目で走り続けたり、音楽を聴きながら高速をつらつら流したり……といった日常走りには、ホンダアクセスのそれのほうが個人的に好みである。
……といった趣旨の感想を開発陣に伝えたら「正解です!」とのお墨付きをもらった(笑)。もっというと、新型タイプRオーナーになれたなら、走行シーンごとに両方のスポイラーを細かく使い分けたいというのが本心である。つまり、好みは分かれるが甲乙はつけがたい。
ところで、この独特の“丸く曲がりやすい”操縦性には、もうひとつ秘密がある。それはテールゲートスポイラー裏面に成形されたノコギリのような突起=シェブロンである。これは航空機ジェットエンジンの排気口に使われる同形状(は騒音低減のため)をヒントに、ホンダアクセスでは10年以上研究されてきたものといい“滑らかな空力特性”を生むという。
ホンダアクセスでは一辺30mmの正三角形をならべるのが効果的という知見を得ており、テールゲートスポイラー裏側のシェブロンも基本的にそうなっている。さらに、今回は特別に「N-BOX」に取りつけた実験も体験できた。マグネット式の特製シェブロン(非売品)をつけたN-BOXは非装着車よりはっきりと安定して上下動が減った。しかも、ロードノイズまで静かになっていたのは、細かく打ちつける入力が減ったからだそうだ。
やっぱり空力って深い。そしてわれわれ素人が思う以上に、その影響は甚大であることをあらためて教えてくれたホンダアクセスの空力ノウハウは、ちょっとすごい。
(文=佐野弘宗/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
ホンダ・シビック タイプR ホンダアクセス用品装着車
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4595×1890×1405mm
ホイールベース:2735mm
車重:1430kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:330PS(243kW)/6500rpm
最大トルク:420N・m(42.8kgf・m)/2600-4000rpm
タイヤ:(前)265/30ZR19 93Y/(後)265/30ZR19 93Y(ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2コネクト)
燃費:12.5km/リッター(WLTCモード)
価格:499万7300円/テスト車=564万0250円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション テールゲートスポイラー<カーボン>(27万5000円)/ドアミラーカバー<フレームレッド、左右セット>(1万5400円)/ライセンスフレーム<ベルリナブラックタイプ、フロント用+リア用>(9900円)/パドルライト<LEDホワイト照明<ドア開閉、Hondaスマートキーシステム連動、左右セット>(2万2000円)/プロテクションフィルムセット<クリア、ドアエッジ部+ドアハンドル部、フロント・リアセット>(7150円)/リアバンパープロテクションフィルム<クリア>(3850円)/ユーロホーン(8800円)/インテリアパネル・センターコンソールパネル部<カーボン、貼り付けタイプ、リアルカーボン×レッドポリエルテルあや織り>(4万7300円)/インテリアパネル・ドアパネル部<カーボン、貼り付けタイプ、リアルカーボン×レッドポリエルテルあや織り、フロント左右セット>(5万6100円)/シフトノブ<ブラックアルマイト製、レッド本革巻き>(2万0350円)/サイドステップガーニッシュ<フロント部LEDレッドイルミネーション、ドア開閉連動、「TYPE R」ロゴ付き、ブラックアルマイト製、フロント・リア用左右4枚セット(3万0800円)/パターンプロジェクター<LEDイルミネーション、ドア開閉連動、「TYPE R」ロゴ付き、フロントドア左右セット>(3万8500円)/LEDテールゲートライト<テールゲート開閉連動、ON/OFFスイッチ付き>(1万1000円)/ワイヤレス充電器<取り付け位置:センターコンソール部、Qi規格、15W急速充電対応+取り付けアタッチメント>(3万0800円)/フロアカーペットマット プレミアムタイプ<消臭・抗菌加工、ヒールパッド、アルミ製エンブレム付き、フロント・リアセット>(6万6000円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:1472km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。