フォルクスワーゲンTロックTDIスタイル(FF/7AT)
ゴルフを超えた!? 2022.10.22 試乗記 マイナーチェンジしたフォルクスワーゲンのクロスオーバー「TロックTDI」に試乗。内外装のブラッシュアップや、快適・安全装備の充実などがうたわれるが、人気のディーゼルモデルはどれほどの進化を遂げたのか。その仕上がりをリポートする。早すぎるマイナーチェンジ
現在、フォルクスワーゲン ジャパンが販売するSUVには、「ポロ」クラスの「Tクロス」、「ゴルフ」クラスのTロック、さらに大きな「ティグアン」がある。このうち、日本でのデビューが一番新しいのがTロックで、発売は2020年7月のこと。それからわずか2年、2022年7月にはマイナーチェンジ版の販売が始まっている。
フォルクスワーゲン車としては早すぎるマイナーチェンジだが、Tロックは5年前の2017年にすでにヨーロッパでデビューしており、そこから日本導入に時間がかかったために日本市場でのモデルサイクルが短くなってしまった……というのが実のところだ。
そうした背景はあるものの、ヨーロッパでのデビューから順当に4年でマイナーチェンジを実施し、これまでのイメージを受け継ぎながらなかなか魅力的な進化を遂げている。
SUVではなく、あえてクロスオーバーを名乗るTロックは、全長4250mm、全高1590mmのコンパクトで低めのフォルムを特徴としながら、最新のフォルクスワーゲンデザインを採用。フロントグリルにLEDのライトストリップを取り入れているのはその最たる例だ。ライト点灯時に光るライトストリップを「VW」エンブレムの両脇に配置することで、おにぎり型のデイタイムランニングライトとともに、ひと目でTロックとわかる表情をつくり上げている。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
使いやすく質感の高いインテリア
エクステリア以上に進化が著しいのが、Tロックのインテリアデザイン。ゴルフクラスといっても最新世代のゴルフとはメーターやダッシュボードが共通化されているわけではないが、インフォテインメントディスプレイがタブレット風のデザインになったり、タッチコントロール式のエアコン操作パネルや新デザインのステアリングホイールを採用したりと、フォルクスワーゲンの最新デザインがここにも取り入れられている。
エアコンの操作パネルは、マイナーチェンジ前のダイヤルを回す方式のほうが好みだったが、タッチコントロールになっても直感的に操作できるのはうれしいところ。最新世代のゴルフのように、いちいちインフォテインメントの画面を切り替えるのに比べたら格段に使いやすい。そのうえ、ダッシュボードやドアトリム、ドアアームレストには、ステッチを施したソフトパッド素材が使われており、マイナーチェンジ前に感じていた質感の物足りなさは一気に解消。本家のゴルフを超えたと言っても過言ではないだろう。現行ゴルフオーナーの私としては、複雑な心境だが……。
そんなTロックには、これまでどおり、1.5リッター直4直噴ガソリンターボを搭載する「TロックTSI」と、2リッター直4直噴ディーゼルターボの「TロックTDI」が用意される。さらにマイナーチェンジを機に、スポーツモデルの「TロックR」が登場。そのなかから、今回は販売の中心になることが予想されるTロックTDIに試乗した。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
頼もしいTDIエンジン
TロックTDIには、「スタイル」と「Rライン」の2グレードが用意されている。どちらも、同一車線内全車速運転支援システムの「トラベルアシスト」などの運転支援システムや、マトリクスLEDヘッドライトの「IQ.ライト」といったアイテムが標準で装着され、あとは純正ナビゲーションシステムを追加するだけという充実の装備を誇る。違いといえば、Rラインがよりスポーティーな内外装を採用することで、それに合わせてタイヤサイズも、スタイルの215/55R17に対して、Rラインは215/55R18にインチアップとなる。今回はおとなしい仕様のスタイルを選択した。
搭載される2リッター直4ディーゼルターボの「2.0 TDI」は、最高出力150PS、最大トルク340N・mを発生するが、これはマイナーチェンジ前と同じ。デュアルクラッチギアボックスの7段「DSG」が組み合わされ、前輪を駆動する仕様も、そのまま受け継がれている。
まずは軽くアクセルペダルを踏んで動き出してみると、低回転からトルクが充実する2.0 TDIエンジンは発進から軽やかで、その後も力強い加速を見せてくれる。最新のディーゼルエンジンに比べるとややノイズが大きめだが、それでもスピードが上がるにつれてノイズは気にならなくなる。特に高速走行時は7速100km/hのエンジン回転数が約1550rpmと低めに抑えられ、ロードノイズや風切り音でエンジン音はほとんど耳に届かない。
湿式多板クラッチを採用するDSGは動きもスムーズ。アクセルペダルを深く踏み込めば、4000rpmを上回るあたりまで勢いは続き、高速道路の合流や追い越しでも、目指すスピードまで素早く到達するのは頼もしいかぎりだ。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
スタイルにも欲しいあのオプション
SUVとしては低めの全高が特徴のTロックだけに、セダンやハッチバックなどから乗り換えても、さほど違和感なく運転できるのもこのクルマの魅力のひとつ。コーナリング時のロールはよく抑え込まれており、高速走行時のフラット感もまずまずといったところだ。
ただ、路面によってはショックを拾いがちで、特に後席ではその傾向が顕著だった。同じ日に試乗したTロックRのほうがむしろ快適に思えたほどだ。TロックRには電子制御サスペンションの“DCC”(アダプティブシャシーコントロール)が標準装着されており、TロックTDI Rラインでもオプションで選ぶことが可能。このTロックTDIスタイルでもDCCが選べたらいいのに……。
さらに希望を付け加えると、FFだけでなく4WDの設定も欲しいところ。フォルクスワーゲン ジャパンのSUVラインナップのなかで、スポーツモデルの「R」を除くと、4WDが用意されるのは2リッターのガソリンエンジンを積むティグアンだけで、ディーゼルエンジンと4WDの組み合わせは存在しないのだ。
空前のキャンプブームだけに、TロックTDIの4WD仕様が発売されれば、それなりに需要があると思うのだが……。それにしても、運転がしやすく、ストレスのない加速を見せ、燃費も優秀なTロック。近ごろ街なかで出会う機会が多いのにも納得である。
(文=生方 聡/写真=神村 聖/編集=櫻井健一)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
フォルクスワーゲンTロックTDIスタイル
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4250×1825×1590mm
ホイールベース:2590mm
車重:1460kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:150PS(110kW)/3500-4000rpm
最大トルク:340N・m(34.7kgf・m)/1750-3000rpm
タイヤ:(前)215/55R17 94V(後)215/55R17 94V(ハンコック・ヴェンタス プライム3)
燃費:18.6km/リッター(WLTCモード)
価格:439万3000円/テスト車=500万3500円
オプション装備:“Discover Pro”パッケージ(15万4000円)/レザーシートパッケージ(28万6000円)/電動パノラマスライディングルーフ(13万2000円) ※以下、販売店オプション フロアマット<テキスタイル>(3万8500円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:1453km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター
◇◆◇こちらの記事も読まれています◇◆◇
◆関連ニュース:「フォルクスワーゲンTロック」のマイナーチェンジモデルが上陸
◆関連記事:フォルクスワーゲンTロックR(4WD/7AT)【試乗記】

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースレポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。