第244回:トヨタ教恐るべし
2022.10.31 カーマニア人間国宝への道限りなく延びる納期
新型「シエンタ」が狂ったように売れているらしい。発売から1カ月で4万台を受注したらしい。またしても受注停止になるのだろうか……。
世の中不景気なのに物価ばかり上がって、みんな家計が苦しいはずなのに、新車の販売に関しては景気が良すぎて息が苦しい。
実は私、先代シエンタの元オーナーなんです。こういうクルマ、好きなんです。だって、コンパクトなサイズで室内広々、2列目床下にダイブインの3列目シートを出せば、7人まで乗れる。もちろん燃費もイイ。究極の高効率じゃないですか! 常にコスパを最重視するカーライフを送ってきたカーマニアとして、シエンタは見逃せないクルマなのです!
先代シエンタは、なによりもまず、トヨタ製シトロエンとでもいうべきデザインにほれた。石橋をたたいて渡るようなクルマを山のようにつくってきたトヨタが、こんなアバンギャルドなクルマを出すなんて! と思い、新車を購入しました。
でも、半年くらいで売ってしまいました。理由は「アクセルガバチョ」。停止状態から発進する際、死ぬほど丁寧にアクセルを踏んでも、アクセルがガバチョと開いて軽い衝撃が首にくる。試乗時には気づかなかったんだけど、自家用車として乗ってみたら、1週間くらいで気になり始めて、1カ月でもう暴れたくなり、半年が我慢の限界だった。
ちなみに先代シエンタのアクセルガバチョは、私が買った1.5リッター直4ガソリンモデルのみで、ハイブリッドは問題ナシでした。
イタフラ系を和風に調理
アクセルガバチョといえば、昔、「トヨタ・マークII」などのハイソカーで顕著だった覚えがあるが、まさか21世紀にひっそりとよみがえっていたとは……。
その後、某誌で20台ほどの国産車のアクセルガバチョ度を検証したところ、確かにシエンタのガソリンモデルのみ、少しだけ気になるレベルであることが判明した。ほんの少しなんだけど、毎日だと耐えられなかったんだよなぁ。民話『嫁の屁』みたいなものだろうか。シエンタ、好きだったんだけどなぁ。
そのようなほろ苦い思い出があるシエンタが新型になり、さらにデザインが魅力的になりました。こういうイタフラ系のデザインの小型車、大好きです。私は全然懲りてません!
というわけで、「シエンタ ハイブリッド」をお借りして、試乗に臨みました。
うーむ、フィアットやルノーをほうふつとさせるこのデザイン、イタフラ系を見事に和風に調理していて絶品だ。走りもイイ。さすが「ヤリス」で感動した1.5リッター直3ハイブリッド。エンジンはコロコロと心地よく回り、アクセルを踏めばスススーと気持ちよく加速する。低速時の足まわりはやや固めだけど、これはTNGA独特の乗り味。速度を上げれば欧州車のような安定感をみせる。さすがトヨタ! 文句のつけようがナイ!
霞が関入口から首都高に乗り入れると、トンネル内が妙にやかましい。なんだかスゲェ音がする。
うおおおお、ベタベタな車高の「ランボルギーニ・アヴェンタドール」が、俺のシエンタをブチ抜いて行ったぁ!
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
高級車も見下ろせる
首都高ってこういうクルマに出会えるから大好きです。見ているだけで楽しいです! 首都高を走っていれば、自分でスーパーカーを買わなくても、数百円でこういうのを拝めるんだから本当に最高!
私はシエンタでアヴェンタドールを追走した。混雑しているので、速度は時速40kmくらい。じっくりお尻を拝める速度である。いやー絶景だ。
それにしても今日のアヴェンタは、低速域でも狂ったようにほえまくっている。時速50kmくらいになるとシフトアップして少し静かになる。これって1速から2速のシフトアップ……だよね? それを後ろから追うわがシエンタの燃費計は、29km/リッターあたりを示している。トヨタハイブリッドシステムはこれくらいの速度が一番得意なのだ。涙が出る。
芝公園出口でアヴェンタは消えた。代わって現れたのはつや消しグレーの「メルセデスAMG G63」。うーむ、これまた燃費悪そうだなぁ。なんで、都心でこういうのを足に使うかねぇ。シエンタなら、もっと断然便利で燃費もいいのにさぁ。
シエンタ ハイブリッドに乗っていると、いつの間にかトヨタ教に洗脳されてしまう。今度のシエンタ ハイブリッドには、私が買った先代の1.5リッター直4ガソリン車みたいな隙はナイ! パッケージングは世界最高! 燃費もヘタすりゃ30km/リッター! デザインだってイタフラ系のおしゃれさん! ありとあらゆる高級車を、上から目線で見下ろせる! だからこんなに売れてるのかな?
(文と写真=清水草一/編集=櫻井健一)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。