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新しい「ルノー・カングー」が得たものと失ったもの

2022.12.26 デイリーコラム 清水草一

「オシャレな脱力系」のイメージが……

2022年10月16日のカングージャンボリーで、新型「カングー」が日本初公開された。それは、驚くほど日本のファンに寄り添ったものだった!

最初に新型カングーの顔の写真を見た時、私は「カングーは終わった」と思いました。正確には、「日本におけるカングーブームは初代と2代目で終わり、今後はそれらがネオクラシックカーとして愛されていく運命が決定された」というニュアンスだ。

新型の顔は、現在のルノーフェイスに沿ったものではあるのだろうが、どうにもこうにも事務的で、夢も希望も抱けない(と私は感じる)。フランス車はオシャレでなくてはならない。特にカングーはオシャレな脱力系でなくてはならないのに、新型はオシャレでも脱力系でもなく、お堅い公務員系に見える。

しかもボディーがうんと大きくなり、全幅は2mを超える(?)と伝えられた。さすがにその数値はドアミラーを含むものでしたが(ボディーの幅は1860mm)、日本のカングーファンの9割は、「こんなのはカングーじゃない!」と感じたんじゃないだろうか。

かくいう私、カングーを愛車にしたことは一度もないのですが、このテのクルマとして、「フィアット・クーボ」(1.3リッターディーゼルの並行輸入モノ)を買ったことがあり、先代「トヨタ・シエンタ」も買いました。

コンパクトなMPVは、日常の足としてとっても便利なのです。カングーなら足まわりが絶品だし、見た目も脱力系のオシャレさん。実用に徹していながら、乗ればヨーロッパの実生活を感じることができる。カーマニアの方向性として、カングーはひとつのゴール。だからこそ、こんなに人気があるのですね。

そう思いつつ私がクーボやシエンタを選んだのは、先代カングーの全幅(1830mm)が実用車としては広すぎたのと、ガソリンエンジンがボディーに対してやや非力で、燃費もイマイチだと思ったからです。

ただ、先代の最後に限定で400台輸入された「リミテッド ディーゼル」(6段MT)はすばらしかった。フランス本国では、大部分のカングーはディーゼル。これぞ本物だし、ディーゼルならトルクが段違いで燃費もイイ。あれには涙が出た。

山梨・山中湖で3年ぶりに開催されたファンイベント、カングージャンボリー2022に姿を見せた新型「カングー」。黄色い車体色に黒いバンパーという、カングーらしい仕様で登場した。
山梨・山中湖で3年ぶりに開催されたファンイベント、カングージャンボリー2022に姿を見せた新型「カングー」。黄色い車体色に黒いバンパーという、カングーらしい仕様で登場した。拡大
これは、ウレタンパーツの“装飾”がない新型「カングー」。従来型のファンにしてみれば、もはや別物という印象を受けるかもしれない。
これは、ウレタンパーツの“装飾”がない新型「カングー」。従来型のファンにしてみれば、もはや別物という印象を受けるかもしれない。拡大
新型「カングー」が国内で発売されるのは2023年の春。従来型のカングー(写真)は現在、1.2リッター直4ターボのEDC(AT)車とMT車が販売されている。
新型「カングー」が国内で発売されるのは2023年の春。従来型のカングー(写真)は現在、1.2リッター直4ターボのEDC(AT)車とMT車が販売されている。拡大
新型「カングー」のリアビュー。ブラックのバンパーは、日本のファンの要望を取り入れた、日本仕様車限定の装備のひとつだ。
新型「カングー」のリアビュー。ブラックのバンパーは、日本のファンの要望を取り入れた、日本仕様車限定の装備のひとつだ。拡大
すっかり現代化された、新型「カングー」のコックピット。水平基調のインストゥルメントパネルや浮き上がって見えるセンターモニターが特徴となっている。
すっかり現代化された、新型「カングー」のコックピット。水平基調のインストゥルメントパネルや浮き上がって見えるセンターモニターが特徴となっている。拡大
ルノー カングー の中古車

日本のファンには特別な計らい

しかし、ルノーはすでに新規のディーゼル開発から撤退したと聞いている。よって新型の日本仕様は、あの顔にガソリンエンジンの組み合わせ(+EVとか?)になるんだろう。そんなの魅力ないヨ! それなら「シトロエン・ベルランゴ」のほうが1億倍イイ! 日本におけるカングーブームは、ベルランゴが引き継ぐしかない! という結論が導き出された。これが「カングーは終わった」と思った根拠である。

ところが新型カングーの日本仕様は、乗用車バージョンにもかかわらず、観音開きのリアゲートを日本専用に用意し、イエローのボディーカラーとブラック仕上げのバンパーも、わざわざ日本のために採用したという。ホイールはカングーのテッパンであるテッチン! ここまでやってくれると、イメージがかなり変わる。

さらなる驚きは、ディーゼルターボが生き残っていたことだ。日本向けカングーのディーゼルは、あの限定モデルで終了と思い込んでいたのに、まさか! ディーゼルファンとしては、うれしい悲鳴!

1.5リッターディーゼルターボのスペックは、最高出力116PS/3750rpm、最大トルク270N・m/1750rpm。先代のリミテッドディーゼルと変わらないが、トランスミッションは7段EDC(デュアルクラッチ)のみ。MTがないのは惜しいけれど、ATのほうがより広い層に受け入れられる。近年の小排気量ディーゼルターボは、排ガス規制強化の影響で極低速トルクが薄く、MTだと発進に少し気を使うので、EDCには納得だ。ベルランゴもATしかないんだしさ。

一方の1.3リッターガソリンターボエンジンは、最高出力130PS/6000rpm、最大トルク240N・m/1600rpm。先代の1.2リッターから排気量が拡大され、スペックも向上している。こちらは、新型の重量増加に適度に対応してくれるだろう。

こういった要素を検分すると、新型カングーは、ここ日本におけるダメージをかなり抑えられるのではないだろうか。ただ、ボディーサイズがベルランゴより大きくなっているのはやはり痛い。カングーのメリットとして、「ベルランゴよりは小さい」というのがあったと思うので……。

新型カングーの価格は未発表だが、総合的にはベルランゴの勝ちだろう。ちょっと残念ではあるけれど、同じフランス車に代役が登場しているのは本当によかった。今後は、カングー日本仕様のさらなるマニアック化に期待しましょう!

(文=清水草一/写真=花村英典、ルノー、ステランティス/編集=関 顕也)

日本仕様の新型「カングー」のボディーサイズは、全長×全幅×全高=4490×1860×1810mm。ホイールベースは2715mmと公表されている。
日本仕様の新型「カングー」のボディーサイズは、全長×全幅×全高=4490×1860×1810mm。ホイールベースは2715mmと公表されている。拡大
新型「カングー」には、1.3リッターガソリンターボのほか、1.5リッターのディーゼルターボ(写真)もラインナップされる。組み合わされるトランスミッションは、いずれもEDCと呼ばれる7段AT。
新型「カングー」には、1.3リッターガソリンターボのほか、1.5リッターのディーゼルターボ(写真)もラインナップされる。組み合わされるトランスミッションは、いずれもEDCと呼ばれる7段AT。拡大
新型「カングー」の日本仕様車のバックドアは観音開きとなっている。海外仕様車はどうかといえば、上ヒンジでパネルの下端が上方に持ち上がる、多くのハッチバック車に見られる形式である。
新型「カングー」の日本仕様車のバックドアは観音開きとなっている。海外仕様車はどうかといえば、上ヒンジでパネルの下端が上方に持ち上がる、多くのハッチバック車に見られる形式である。拡大
後席は3人掛けで、3座独立になっているのが新旧「カングー」の特徴(写真は新型カングーのもの)。前席背面には後席用のピクニックテーブルも備わる。
後席は3人掛けで、3座独立になっているのが新旧「カングー」の特徴(写真は新型カングーのもの)。前席背面には後席用のピクニックテーブルも備わる。拡大
「カングー」的なほかのフランス車として思いつくのが、シトロエンのMPV「ベルランゴ」。「プジョー・リフター」の姉妹車なのだが、ベルランゴのほうが見た目の個性はやや強め。
「カングー」的なほかのフランス車として思いつくのが、シトロエンのMPV「ベルランゴ」。「プジョー・リフター」の姉妹車なのだが、ベルランゴのほうが見た目の個性はやや強め。拡大
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