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2年ぶりに大幅改良 「マツダCX-8」はミニバンに勝るファミリーカーか?

2022.11.04 デイリーコラム 鈴木 真人

「多人数乗用車」もさまざま

2022年4月に「マツダCX-8」に試乗した。それまで3列シートSUVにはあまりいい印象がなかったので疑心暗鬼だったが、乗ってみたら素晴らしい出来栄えだった。マツダらしい運転の楽しさがあり、コンパクトカーのような操縦性である。2列目は快適なおもてなし席だし、3列目も十分に実用に足ると思えた。ファミリーカーとしても使える優秀なパッケージングである。記事に書くだけでなく、webCGのイクメン編集部員に購入を強く勧めた。

同年5月には2台のミドルサイズミニバンに乗った。「ホンダ・ステップワゴン」と「トヨタ・ヴォクシー」である。いずれもフルモデルチェンジを受けたばかりの最新モデルで、両側スライドドアを備える。子育てファミリー向けの使い勝手のよさが極限まで追求されていて、シートアレンジの多彩さは驚異的。イクメン編集部員には、やっぱりミニバンを買うべきだと伝えた。わずかひと月で前言撤回である。

9月になってコンパクトミニバンの新型「トヨタ・シエンタ」に乗ったら、これがまたよかった。5ナンバーサイズで取り回しがよく、走りは軽快だ。小さなサイズなのに、3列目にはしっかりと居住空間が確保されていて、無理な姿勢を強いられない。ダイブイン機構を使って3列目シートを格納すると、広い荷室が出現する。これで十分ではないか。またしてもイクメン編集部員に判断の変更を告げることになった。意見がころころ変わって情けない限りである。

CX-8の大幅改良について取材する機会があったので、あらためてファミリーカーとしての資質を考えてみることにした。新しく追加された特別仕様車が「Grand Journey(グランドジャーニー)」。その名のとおり、家族の旅をテーマにしたレジャー志向のモデルだ。走りをアピールする新機種の「Sports Appearance(スポーツアピアランス)」と明確にキャラクターを分け、ファミリーユースに的を絞って開発されている。やはり、ミニバンの代替として3列シートSUVの魅力を押し出していこうという考えがあるようだ。

通算4度目となる仕様変更が施された「マツダCX-8」。写真の「グランドジャーニー」ほか新グレードも設定された。
通算4度目となる仕様変更が施された「マツダCX-8」。写真の「グランドジャーニー」ほか新グレードも設定された。拡大
「マツダCX-8」のインテリア。「マツダの理想とする走りと安全性能を実現する多人数乗用車」というコンセプトは大いに支持され、デビュー翌年には目標販売台数の倍となる年間3万台強が売れた。
「マツダCX-8」のインテリア。「マツダの理想とする走りと安全性能を実現する多人数乗用車」というコンセプトは大いに支持され、デビュー翌年には目標販売台数の倍となる年間3万台強が売れた。拡大
2022年4月、仕様変更前の「マツダCX-8」に試乗した際の筆者。自慢の3列目シートは、一度おさまってしまえば長時間の移動も苦にならない快適性が確保されている。
2022年4月、仕様変更前の「マツダCX-8」に試乗した際の筆者。自慢の3列目シートは、一度おさまってしまえば長時間の移動も苦にならない快適性が確保されている。拡大
マツダの最新SUVに合わせ、スタイリングもリフレッシュされた「CX-8」。ユーザー層は比較的若く、30代以下がおよそ4割を占めるという。
マツダの最新SUVに合わせ、スタイリングもリフレッシュされた「CX-8」。ユーザー層は比較的若く、30代以下がおよそ4割を占めるという。拡大
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ミニバン以上に家族向け!?

CX-8がデビューしたのは2017年。2012年に「CX-5」がデビューし、2015年に「CX-3」が続いた。新世代車のSUVが好評なのを受けて市場に投入された大型モデルである。すでにミニバンの「MPV」「ビアンテ」「プレマシー」が廃止されており、顧客流出を避けるために新たな選択肢を示す必要があった。「市場を創造する」ことを目指したというのがマツダの説明である。今でこそ3列シートSUVがトレンドとなっているが、当時はまだ数が少なかった。待ち望んでいたユーザーは多かったようで、発売翌年の2018年には3万台以上を売り上げている。

ターゲットの設定は正しかった。78%が既婚で子どものあるユーザーで、CX-5の44%を大幅に上回る。年齢層は30代までが37%と最多で、まさに子育てファミリーなのだ。CX-8は5人以上が乗車するケースが半分を占めており、これはミニバンをしのぐ数字だという。購入の際に比較検討の対象として多いのは、トヨタの「ハリアー」「アルファード」「ランドクルーザープラド」。実際の下取り車は、他社のクルマの場合は大型と中型のミニバンが上位を占める。

CX-8も含め、3列シートSUVの強みはデザイン性と運転感覚だ。ミニバンはスペース効率を高めるためにシンプルな箱型になってしまうし、剛性を確保することが難しいので走りはある程度諦めざるを得ない。対して、ミニバンのアドバンテージはなんと言っても使い勝手のよさだ。両側スライドドアの便利さは一度使ったら手放せないし、豊富なバリエーションのシートアレンジでさまざまな用途に対応できる。

すべてを手に入れることはできないので、ユーザーはメリットとデメリットを見極めて選ぶことになる。悩ましい決断を強いられるわけだが、もう一つ比較するべき項目があった。安全性である。先進安全装備はどのモデルでも充実していて、大きな差はない。CX-8がアピールするのは、追突された際に3列目シートの乗員を守る性能である。

最新型「マツダCX-8」の前席。今回は足まわりの特性も見直し、快適性とコントロール性を向上。乗員が疲れにくく酔いにくい、フラットで穏やかな乗り心地を実現したという。
最新型「マツダCX-8」の前席。今回は足まわりの特性も見直し、快適性とコントロール性を向上。乗員が疲れにくく酔いにくい、フラットで穏やかな乗り心地を実現したという。拡大
写真のようなインテリアカラーが用意されるのも、多くのミニバンにはない特徴といえる。「CX-8」には、6人乗り仕様と7人乗り仕様がラインナップされている。
写真のようなインテリアカラーが用意されるのも、多くのミニバンにはない特徴といえる。「CX-8」には、6人乗り仕様と7人乗り仕様がラインナップされている。拡大
仕様変更に際し、走行モードを切り替える「Mi-Drive(ミードライブ)」には、従来の「ノーマル」「スポーツ」に加えて「オフロード」モードが設定された。
仕様変更に際し、走行モードを切り替える「Mi-Drive(ミードライブ)」には、従来の「ノーマル」「スポーツ」に加えて「オフロード」モードが設定された。拡大

違いは事故のときに出る

自動車には法規制があり、安全性能が基準に達しなければ販売できない。日本では50km/hのフルラップ追突、アメリカでは80km/hの70%オフセット追突で評価される。アメリカのほうが厳しい基準なのは確かだが、それでも十分ではない。日米ともに、チェックされるのは燃料漏れの有無だけなのだ。マツダでは独自の基準を設けてテストしている。80km/hの70%オフセット追突で、燃料漏れに加えて最後席の生存空間を確保すること、非衝突側の後席ドアが人力で開けられることを求めているのだ。

交通事故総合分析センターのデータでは、追突事故の99%は80km/h以下で発生している。想定されるのは、高速道路で渋滞の最後部に後続車が突っ込むケースだ。3列目シートには多くの場合子どもや老人が乗っており、ダメージを受けやすい。生存空間の確保は重要である。

テストの映像を見せてもらうと、強い衝撃でクルマの後端はグシャッとつぶれていた。クラッシャブルゾーンで力を吸収しており、タイヤハウスの前方はあまり変形していない。内部の写真を見ると、3列目シートには衝撃の影響がほとんど見られず、乗員が押しつぶされることはなさそうだ。非衝突側の後席ドアが無事だったのはもちろんで、衝突側のドアも開いたそうだ。説明担当のエンジニアに、ミニバンでも同様の耐衝撃性が得られるかと聞いてみた。明言はしなかったが、構造的には難しいのではないかと話してくれた。

以前からCX-8は安全性を重視して選ばれることが多かったという。親ならば子どもを危険にさらしたくないのは当然で、優先度の高い性能である。利便性も大切だが、安全と引き換えにはできない。webCGのイクメン編集部員と、もう一度話をする必要がありそうだ。

(文=鈴木真人/写真=マツダ、山本佳吾/編集=関 顕也)

「CX-8」にはガソリンエンジンもラインナップされているが、ディーゼル需要が高く、全体の7割近くを占める。なお、駆動方式の需要はFFが6割、4WDが4割とのこと。
「CX-8」にはガソリンエンジンもラインナップされているが、ディーゼル需要が高く、全体の7割近くを占める。なお、駆動方式の需要はFFが6割、4WDが4割とのこと。拡大
メーターパネルは3眼タイプ。写真は「CX-8グランドジャーニー」の、オフロードモード選択時のもの。
メーターパネルは3眼タイプ。写真は「CX-8グランドジャーニー」の、オフロードモード選択時のもの。拡大
仕様変更を受けた最新の「マツダCX-8」のデリバリーは、2022年12月下旬に始められる(写真は新グレード「スポーツアピアランス」)。
仕様変更を受けた最新の「マツダCX-8」のデリバリーは、2022年12月下旬に始められる(写真は新グレード「スポーツアピアランス」)。拡大
鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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