BMW i7 xDrive60(4WD)/BMW 760i xDrive(4WD/8AT)
巧みな二刀流 2022.11.06 試乗記 7年ぶりの全面刷新を受けて7代目となるG70系……と、偶然にもラッキーナンバーが重なる新型「BMW 7シリーズ」が、間もなく日本の路上を走り始める。ひと足先にカリフォルニアで試した電気自動車(BEV)「i7」と、V8ツインターボの「760i」の仕上がりを報告する。この顔に理由あり
日本における新しい7シリーズのパワートレインバリエーションは3つ。3リッター直列6気筒ガソリンターボを基に48Vマイルドハイブリッド化した「740i」、そのディーゼル版ともいえる「740d」、そして前後アクスルにモーターを配したBEVの「i7」だ。駆動方式は740iのみがFRの2WDとなる。
ちなみに本国では4.4リッターV8ターボ+48Vの760iのみならず、そのプラグインハイブリッド版となる「M760e」、さらにはi7の性能強化版となる「M70」などの「Mパフォーマンス」銘柄もすでに発表されているが、これらの日本展開は未定とのことだ。そして本国ではi7の側が先行的に生産されているのに対して、日本仕様は内燃機モデルが先行的に納められ、i7は現状プレオーダーの扱いとなっている。このあたりは仕向け地の需要を見据えての判断だろう。
新型7シリーズの車体はロングボディーに一本化され、そのサイズは全長が5391mm、全幅が1950mm、全高が1544mm、ホイールベースが3215mmとなる。先代に比べると天地方向に60mm高くなっているが、これはバッテリー搭載によるかさ上げ代や、後述するインフォテインメント環境の構築も含めたコンフォート側への配慮が重なってのものとみえる。
言い換えれば、この車体側の厚みを生かす意匠として取り組まれたのが、見る者を仰天させた新型7シリーズの顔面まわりということになるのかもしれない。BMWの特徴である片側2灯ライト=ツインサーキュラーの拡大解釈としてライト部とデイタイムランニングライト(DRL)&ウインカー部を上下2段積みとしてBMWの言うところの「4アイズ」を構成。DRL側にはオプションで、スワロフスキー製クリスタルをLEDで照らし出すことで目元のキラキラ感を高める「クリスタルヘッドライト・アイコニック・グロー」と題されたデコレーションが用意されており、グリル内を照らし出す間接照明と併せて、その独自な存在感をさらに高めるようしつらえられた。
BMWとしてはこの顔立ちを7シリーズのようなトップエンドのモデルのみに採用していく意向だ。もちろん他銘柄との差別化や自社下位との区別という大義はあるのだろう。今回試乗が行われたカリフォルニアではすでに「リヴィアンR1T」や「ルーシッド・エア」など新興勢のBEVも走っている。
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内装もガラリ一変
こういった多様すぎる市場環境のなかでいかに埋没することなく存在感を高めていくか。挑戦的なデザインをそのプロセスのけん引役とする、その心持ちは、ちょうど20年くらい前、21世紀を迎えたBMWがそのかじ取りをクリス・バングルに委ね、世界が仰天した4代目の7シリーズが登場したあのときにちょっと似ているのかもしれない。
「X7」や「XM」といったSUV系のモデルに充てがわれれば意外にもすぐに目になじむこの顔面も、配されたのが最上級サルーンの7シリーズとあらば、本当にこれで大丈夫なのかと飲み込みには時間を要する。そういう保守的感覚のクルマ好きにとっては、至ってBMWらしいサイドビューが心のよりどころになるはずだ。
顔面の破壊力に比べればまだ心穏やかに受け止められるものの、実は内装も相当強力な変貌を遂げていた。前ドアからダッシュボードへと一直線につながる特徴的なクリスタル調のオーナメントはアンビエントアイテムの一環で、設定テーマに応じて多色発光するだけでなく、空調風量の調整や前席パワードアの開閉、シートポジションメモリーなどの静電ボタンが隠されるように配される。ほかにもシートや「iDrive」のコマンダーなどのフィニッシュを見るに、BEV的一発芸かと思われた「iX」のデザインテーマが7シリーズには色濃く反映されていることが分かるだろう。
装備面において新しい7シリーズの最大の見せ場となる後席は、シートコントロールなどの操作モノをドアアームレストに仕込んだスマホ画面大の液晶タッチパネルに内包。先代比でガラス面積を40%増やしたパノラマガラスサンルーフにはLED配光によるアンビエントイルミネーションを配している。
また、オプションの「リアシートエンターテインメントエクスペリエンス」を選べば、天井部から31インチの液晶ディスプレイが展開。8K対応のタッチパネルスクリーンは全画面表示にも左右席独立にも使えるだけでなく、「YouTube」「Netflix」「Fire TV」などのオンデマンドメディアにも個別に対応している。オーディオにはBowers & Wilkinsのサラウンドシステムが用意されており、最上級のオプションでは後席サブウーファー内蔵の40スピーカー・総合出力1965Wの強力なパッケージも選択が可能だ。
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想像の上をいく静粛性
こうやって目に見える装備的なところでも質量ともにライバルとの差をつけんとする意気込みは満々だが、果たして、今回の試乗で最も驚いたのは乗ってナンボのところだ。
まず乗ったのはi7。容量101.7kWhのバッテリーを床下に搭載するツインモーターBEVということで予想していた静粛性のレベルは、あっさりと覆された。ともあれモーターやインバーターといったメカニズム系の作動音はもとより、逐一衝撃を受け止める足まわり由来の入力音、ロードノイズやパターンノイズといったタイヤ由来のそれ、そして風切り音など、あらゆる雑音がきれいに封じ込められている。
ちなみにエンジニアに確認したところ、意外なことに音響的なノイズキャンセリングの類いは搭載していないとのことで、間違いなくこのセグメントトップの静粛性は、すべて物理的な解決策によって得られているということだろう。それにしてもメカノイズも味のうちだったBMWが、静粛性で乗る者を驚かせることになるとは思いもよらなかった。クルマが動力源から静かになる以上、競うべきはここ。そういう時代ということだろう。
i7は静粛性だけではなく他の快適項目も十分にライバルに対峙(たいじ)できる説得力を備えている。くだんの装備関連もともあれ、つくり込みもキメが細かい。シートのステッチワークひとつとっても、なにかライバルとかぶらない新しい表現を……という意気込みが見て取れる。
ちなみに、後席31インチディスプレイも視聴してみたが、シートをある程度リクライニングする前提で見るに、確かに他銘柄のインフォテインメントとは異なるゆとりが感じられた。とかく僕のような半端者だとお楽しみ方面にネタは振られがちだが、本当のエグゼクティブであれば、この巨大モニターは、移動の最中に担当者を隣に座らせてのレクや、なんならプレゼンテーションのリハなどにも使うことだろう。そういうときのためにというわけではないかもしれないが、このモニターの展開時にはソースが後続車に丸裸にならないようにリアウィンドウのシェードが自動的に上がるなど、キメの細かい設定も仕込まれている。ちょっと見上げる着座姿勢だと前席の状況が気にならない……という点では、簡易的なパーティションの役割も果たせているのかもしれない。
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どちらを選んでも損がない
もちろんBEVがゆえの素性もあって、i7の走りはBMWらしいドライビングファンの示唆に富んでいる。特にiXでも感じた、入力に対しての車体姿勢をも勘案した駆動配分の巧みさは間違いなくこのクルマの動的質感に寄与している。動きゃいい速きゃえらいという発想でBEVを軽々しく論ずる向きには全然理解できないことだと思うが、こういうクオリティーのためにジェネラルな自動車メーカーは切磋琢磨(せっさたくま)を繰り広げてきた。その財は軽んじられるべきではない。
そのうえで760iに乗ると、やはりBMWのゆえんたる片りんがエンジンのはじけるビート感などに見え隠れするわけだ。乗り心地は甲乙つけがたく、そしてハンドリングは明らかに軽快。だがi7の側も低重心高からくるズシッと据わったドライブフィールがまたアッパーサルーンとして魅力的ではある。とあらば、そのキャラクターの違いは内燃機ならではの気持ちに訴える情感か、モーターだからこその静粛性や精緻さということになってくるが、ここに優劣をつけるような話は難しいし意味もない。
ましてや日本仕様は搭載されるエンジンが伝家の宝刀“ストレート6”だ。現代の価値観を未練がましく追いかけるも、来るべき未来を先取りしてのぞき見るも、少なくともハードのデキについては互いの選択に損はない。「i4」に乗った際にも同じ思いを抱いたが、両刀使いでもきちんと利に偏りのないニュートラルなアーキテクチャーを供しているところが、この流動的な時代を生きるBMWの強さではないだろうか。とあらば果たして新しい7シリーズは、商業的成否を筆頭に、今の民意を映す鏡となるべく生まれたクルマなのだろうか。見る側には、そういう興味ががぜん湧いてくる。
(文=渡辺敏史/写真=BMW/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
BMW i7 xDrive60
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5391×1950×1544mm
ホイールベース:3215mm
車重:2640kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
フロントモーター最高出力:258PS(190kW)/8000rpm
フロントモーター最大トルク:365N・m(37.2kgf・m)/0-5000rpm
リアモーター最高出力:313PS(230kW)/8000rpm
リアモーター最大トルク:380N・m(38.6kgf・m)/0-6000rpm
タイヤ:(前)255/40R21 102Y XL/(後)255/40R21 102Y XL(ピレリPゼロ)
交流電力量消費率:19.6-19.4kWh/100km(5.12-5.15km/kWh、WLTPモード)
一充電走行距離:591-625km(WLTPモード)
価格:--円
オプション装備:
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
参考燃費:--km/kWh
BMW 760i xDrive
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5391×1950×1544mm
ホイールベース:3215mm
車重:2270kg
駆動方式:4WD
エンジン:4.4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:544PS(400kW)/5500rpm
エンジン最大トルク:750N・m(76.5kgf・m)/1800-5000rpm
モーター最高出力:18PS(13kW)
モーター最大トルク:200N・m(20.4kgf・m)
タイヤ:(前)255/40R21 102Y XL/(後)255/40R21 102Y XL(ピレリPゼロ)
燃費:11.2リッター/100km(約8.9km/リッター、WLTPモード)
価格:--万円
オプション装備:
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。