ダイハツ・ムーヴ キャンバス セオリーGターボ(FF/CVT)
昭和のオヤジも欲しくなる 2022.11.12 試乗記 女性向けのニッチなモデルから、より幅広いユーザーに受け入れられるべくフルモデルチェンジ! 新型となった「ダイハツ・ムーヴ キャンバス」の進化のポイントを、新しいターゲット層に属する“昭和のオヤジ”がチェックした。ニッチ商品から屋台骨へ
新型ダイハツ・ムーヴ キャンバス(以下、キャンバス)は、2016年秋の初代キャンバス登場から、ほぼ6年ぶりのフルモデルチェンジにより登場した。もっとも、本家(?)となる「ムーヴ」の現行型は、それより1年半も長いライフに到達しているのだが、こちらのモデルチェンジはまだ先のようだ。
最近の軽自動車(以下、軽)市場の中心が、スライドドアワゴンにはっきり移行しつつあるのはご存じのとおり。実際、2018年までは伝統的なムーヴとキャンバスの販売台数は抜きつ抜かれつだったが、2019年くらいから常にキャンバスが上回るようになり、近年ではムーヴシリーズ全体の約6割をキャンバスが占めるようになっていた。軽市場全体の動向から見ると、その差は今後さらに開く可能性が高い。モデルチェンジも単純な年功序列ではなく、売れ筋のキャンバスを優先するのはビジネスとしてはまっとうなのだろう。
初代キャンバスは“親と同居する独身女性”という当時のダイハツが手薄としていた客層をピンポイントでねらったニッチ商品だった。メインで乗るのはムスメだが、共用する親もミニバンどっぷりの世代なので、スライドドアの利便性は身にしみている。購入資金はどうせ親が援助するので、スイングドアより値が張るスライドドアでも問題ない。そのうえで、若い女性の妥協なきオシャレ心を満たす……のが初代キャンバスだった。
新型キャンバスの商品企画チームによると、実際の初代ユーザーも想定どおりに20~40代の女性が多かったという。しかし新型では、今回の試乗車でもある「セオリー」という落ち着いたカラーデザインや、パワフルなターボモデル(初代はNA=自然吸気のみ)が追加されたことからも分かるように、四方八方の「こういうのがあれば買うのに……」という声を聞いての商品内容となった。ニッチからダイハツの屋台骨への脱皮である。
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6年間で変わった“かわいい”のトレンド
そんな新型キャンバスが、新旧の区別がつかないほどの超キープコンセプト商品であることからも、初代キャンバスが大成功作だったことがうかがえる。そして、キャンバスがここまで売れた最大の理由は、やはり“かわいい”デザインだった……というのがダイハツの分析である。まして、若年女性という未来のダイハツを支えるエントリー層を呼び込む任務は、新型でも捨てるわけにはいかない。
新型キャンバスの商品企画チームは、既存のターゲット層と同じく30歳前後の若い女性が多い。そんな彼女らが今後の中心ユーザーになるであろう22~24歳の“さとり世代”の嗜好を調査してみると、“かわいい”のとらえ方にも世代差があることが浮き彫りになったとか。
インスタ映えが新語・流行語大賞になったのは初代キャンバス発売翌年の2017年だった。そこにどっぷりハマった現在の20代後半~30代前半の女性が「目が大きくてモリモリのメイク」を好んだのに対して、その下の世代は「すっきり自然体」の傾向なのだそうだ。よって、新型キャンバスもそうした「かわいいの時代変化」を盛り込んで、ヘッドライトは少し小さく、鼻にあたる中央エンブレムは以前より大げさでないロゴに変更した。ちなみに、この段落内の「○○」という表記部分はすべて、新型の商品企画女性の発言そのままだ。
もっとも、その説明を受けた50代オヤジの筆者はなんとなく分かった気になっても、微妙なニュアンスは理解できていない可能性がきわめて高い。しかも、初代キャンバスの2トーンカラーをを見た瞬間に「いくらなんでも、まんま“ワーゲンバス”やんけ!」とツッコミを入れたオヤジでマニアな筆者にとって、今回のセオリーは本来望んだ存在のはずなのに「やっぱり2トーン(新型では『ストライプス』と呼ぶ)のほうが似合うなあ」と、当時と真逆の感想が口をついたりするのだから、勝手なものである。
走りにも確かな進化が感じられる
すっかり前置きが長くなってしまったが、新型キャンバスは走りもけっこう優秀である。その基本ハードウエアは当然のごとく、最新の「タント」と共通点が多い。つまり、「DNGA」を名乗るダイハツの新骨格である。静粛性、乗り心地、直進性、とことん安定志向の操縦安定性など、タントで定評のある基本フィジカルはそのままだ。
……というか、タントより絶妙に低い全高のおかげで、身のこなしは明らかにより自然である。サスペンションは柔らかめの設定だが、タントや「ホンダN-BOX」などのスーパーハイトワゴンの宿命である、頭上から倒れかかるかのようなロール感はまるでない。
発売直後の試乗会ではNAエンジン搭載車とも乗り比べることができたが、サスペンションチューンに明確な差は感じなかったものの、装着タイヤによって多少のちがいがあった。そのときは「ブリヂストン・エコピアEP150」を履く個体が、全体にステアリングの反応もより活発で応答の遅れも小さく、直進性も高かった。今回の試乗車が履いていたのも、そのエコピアである。
タントでは全車に使われる最新変速機の「D-CVT(デュアルモードCVT)」は、キャンバスではコストなどの都合から、ターボ車のみとなる。で、今回の試乗車はそのターボだった。一般的なベルトプーリーの変速機構に遊星ギアセットを組み合わせて、変速比幅を1割近く拡大するとともに、CVTが本来苦手とする中高速域でギアを併用することで、伝達効率が高まるのがD-CVTのメリットとされる。
実際、100km/h巡航時の2500rpm前後というエンジン回転数は以前より明らかに低く、それが燃費はもちろん静粛性にも効いている。昔のCVTにあった空走感めいたクセもほとんど解消していて、加減速ともダイレクトな反応が心地いい。だが、それはD-CVTというより、同じくタントで大幅改良されたKF型エンジンと、長年の経験から熟成された変速チューンによるところが大きいそうだ。
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オヤジにも刺さる新たなキラーコンテンツ
新型キャンバスでは走りについても、ターゲット層の生の声を集めたという。「運転が苦手な女性はステアリングやブレーキは軽いほどよく、乗り心地はフワフワ柔らかいのが好み」という先入観は商品企画チームにもあったそうだが、実際は「適度な手ごたえに安心感を覚えることが分かった」といい、とくにクルマのデザインやキャラクターとの統一感を重視する傾向にあった。たとえばSUVテイストの「タフト」のステアリングが軽かったりすると、強く違和感をいだくのだそうだ。
そこで新型キャンバスでも、基本的には快適性重視でも軽く柔らかくなりすぎないように、そしてステアリングの戻りをより速やかにスムーズになるよう調律して、落ち着いた身のこなしを目指したとか。なるほど、そういう経緯を聞くと、キャンバスの乗り味が筆者のようなクルマオタクオヤジにもそれなりに心地よいのはふに落ちる。
新型キャンバスでは時代変化に合わせたかわいいエクステリアデザインだけでなく、“マスク置き”に“スマホ置き”……と、若い女性には必須(なんですよね、たぶん)の、時代に合った収納の確保にも余念がない。なかでも「ホッとカップホルダー」なるドリンク保温機能(運転席・助手席用、「Gターボ」と「G」に標準装備)は、新型でも健在である後席足もとの引き出し(=置きラクボックス)に続くキラーアイテムになりそうな予感がしないではない。
これは、筆者を含む昭和オヤジが想像するような気休めレベルのオマケではない。ホルダー部を不用意にさわると「あちっ!」と声が出るくらい(とはいえ、ヤケドするほどではない。念のため)本格的な保温器具である。ありとあらゆるドリンクがテイクアウトできる今の時代には、季節を問わず重宝するのでは……と、これだけは筆者のようなコンビニコーヒー依存症の昭和オヤジにも理解できた。
(文=佐野弘宗/写真=花村英典/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
ダイハツ・ムーヴ キャンバス セオリーGターボ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1655mm
ホイールベース:2460mm
車重:900kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:64PS(47kW)/6400rpm
最大トルク:100N・m(10.2kgf・m)/3600rpm
タイヤ:(前)155/65R14 75S/(後)155/65R14 75S(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:22.4km/リッター(WLTCモード)/25.2km/リッター(JC08モード)
価格:179万3000円/テスト車=219万5666円
オプション装備:ボディーカラー<レーザーブルークリスタルシャイン>(2万2000円)/スマートパノラマパーキングパック(7万1500円) ※以下、販売店オプション 10インチ スタイリッシュ メモリーナビ(23万1000円)/カーペットマット<高機能タイプ・グレー>(2万6026円)/ETC車載器<エントリーモデル>(1万7380円)/ドライブレコーダー(3万4760円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:1248km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離637.9km
使用燃料:39.6リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:16.1km/リッター(満タン法)/16.2km/リッター(車載燃費計計測値)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。