第729回:あえて王道をいかないホンダの新型SUV「ZR-V」のデザイン的なアプローチを開発者に直撃
2022.11.17 エディターから一言![]() |
2022年11月17日に発表されたホンダの新型CセグメントSUV「ZR-V」。このセグメントには先行するライバルが多く、日本のみならず世界的にもホットなマーケットを構成している。今回は、ZR-Vのデザインやパッケージングの開発に携わった4人に話を聞いた。
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球体のイメージでシンプルに造形
「異彩解放」をコンセプトにグローバルマーケットを見据えて開発されたホンダZR-Vは、見るからにこれまでのホンダ車とは異なる存在感を放っている。実車の正式発表前に公開された情報から特にそのフロントフェイスに賛否両論が巻き起こったと聞くが、まずはエクステリアを担当した田村敬寿さん(以下、田村)に話を聞いた。
──ZR-Vの開発コンセプトは「異彩解放」。そしてデザインテーマは「グラマラス&エレガント」とのことですが、結構攻めたこのエクステリアデザインは狙ったものですか?
田村:狙いです(笑)。オフロードニーズに焦点を当てたクロスカントリーやRVといったかつてのモデルを「SUV 1.0」、現在のタフさと快適性を兼ね備えたモデルを「SUV 2.0」、そしてその次のモデルをわれわれは「SUV 3.0」と定義しました。そこで目指したのが「美しく意のまま」という自分を表現できるSUVです。次のSUVは「美しさみたいなところは大事だよね」ということになり、異彩解放という全体の大きなコンセプトの下にどうやったらその美しさを出せるのかを考えました。
──何かモチーフにしたようなものはあったのでしょうか?
田村:このクルマの(デザインの)表現方法では、まずはシンプルにいこうという方向性が生まれました。美しさをシンプルにまとめて異彩解放として表現するんだ、となったときに考えついたのが球体。楕円(だえん)体のイメージでシンプルに美しくつくろうということです。
──サイドモールやガーニッシュなどもなく、エクステリアは確かにシンプルですね。
田村:シンプルというキーワードは、ホンダの大きなテーマとしてもしっかりと受け継がれています。ただ、単純な丸い塊にしてしまうとつまらないですから、バンパーの左右に設けたスリットエアカーテンや空力パーツをちょっとシャープなイメージで構築し、対比として埋め込みました。
日本向けに一番とがったものを提案
──他ブランドは、自社アンデンティティーの構築に注力している印象があります。しかしZR-Vは「H」のエンブレムがフロントにないとホンダ車に見えないというか……。
田村:(ホンダには)モデルを上から下まで同じ顔にしなければいけないというところはないんですね。ホンダブランドを表現する幅が、ちょっと他のメーカーより広くなっているともいえます。
──グローバルモデルとのことですが、主戦場は北米市場ですか?
田村:北米ではエントリーモデルとして設定される車種なので、主にスタイリングやデザインで一番ターゲットとしたのは日本です。
──そうなんですね。数が見込める北米市場を前提に考えて、それを日本風にちょっとシンプルにセンスよくアレンジしたのかなと思ったのですが。
田村:基本は逆です。日本向けに一番とがったものを提案しました。シンプルな塊感の表現や、まず、個性的な縦グリルやボディーカラーを(面積的に)多く用いたバンパーをつくって、そこに北米で好まれるラギッドなイメージ、例えばフロントバンパーの下に黒くて力強いデザインを付け足したり、ハニカムグリルで「CR-V」や北米のフラッグシップSUV「パイロット」との共通性を表現しました。
──顔がなかなか個性的だったので、まずはアメリカ向けにつくってそれを日本に持ってきたのかなと思ったのですが、まったく逆ということですね。
田村:全体を塊で表現するという考えは、日本に軸足を置いたものです。ただ、塊でシンプルにまとめるというテーマはグローバルで通用すると考えましたので、そこから先の個性の出し方は販売する地域に合わせて料理で言えばコショウを振るように味つけを変えてあります。
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形状と機能の融合が魅力につながる
エクステリアで狙ったシンプルさは、インテリアでも共通している。そのインテリアデザインを担当したのが上野大輝さん(以下、上野)だ。
──ダッシュボードの基本デザインは「シビック」の流用でしょうか?
上野:一文字のエアアウトレットをダッシュボードの(水平上の)センターに置くということ自体は踏襲しているんですけれど、一個一個の機能部品に関してはZR-V向けに別でつくっています。パッと見の印象はホンダファミリーというかシビックからの流れをくんだものになりますが、形状と機能の融合も内装的な魅力につながると思いますので、使いやすさにはこだわりました。
──実際にUSBコネクターを挿してはいませんが、ハイデッキセンターコンソール下のUSBジャックは上のバーに手が当たらなくてスッと挿せるデザインなんだなと思いました。
上野:そうなんです。そういったUSBジャックの角度だったり、走行中に下半身を安定させるニーパッドの採用や配置なども、人の動きをしっかりと考慮してつくり上げています。ハイデッキセンターコンソールは、パーソナルな空間をというアイデアから取り入れました。
──失礼ながらCR-Vなどと比べるとずいぶん質感がアップしてるなという感じが。
上野:そう思っていただけると本当にありがたいです(笑)。今回、いわゆる大きな加飾パネルを一切なくしてるんです。その代わり形状から得られる質感や素材とのコーディネーション、細かなところのディテールを緻密につくり上げました。現在、ピアノブラックのパネルが主流になっているようですが、使っていくうちに指紋がついてしまったりするので、造形からくる質感みたいなものがパッと目に飛び込んでくるようなデザインにしています。
──確かに大きな加飾パネルはありませんね。よくインパネのデザイナー、ドアのデザイナーと作者が分かれたような印象のクルマってあったりするんですが……。
上野:このZR-Vに関してはインパネもコンソールもキャビンまわり全部を含めて、同じ世界観で統一したデザインに仕上げました。
──ドアにもハイデッキセンターコンソールと同じ膨らみがありますね。
上野:そうですね、ドアの意匠にもちゃんとリピートさせました。どこをとってもZR-Vだと伝わるようなものになっているんじゃないかなと思ってます。
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セダンライクな乗車姿勢
撮影のために車両を移動させると、視界がいいことに気づいた。さらにSUVフォルムにもかかわらず、乗り降りがしやすいのもZR-Vの特徴である。そこで、パッケージングを担当した伊藤智広さん(以下、伊藤)に話を聞いた。
伊藤:ZR-Vでは、セダンライクなドラポジを目指しました。クルマと乗員の一体感の向上を狙っています。そのうえで、SUVとしての機能性と流麗なフォルムのバランスを考えました。
──前も横も、運転席から車外が見やすく、視覚情報が十分といった印象を覚えました。
伊藤:最近のホンダ車は大体そうなのですが、視界にも相当こだわっています。気持ちよく走ってもらうために、水平基調のインパネを採用したり、ピラー(の位置)も手前に引いたりしています。カーブや交差点を曲がるときに死角が少なく、思ったとおりのラインで安全に曲がっていけるような視界をケアしてます。もちろん後ろも見やすくしています。
──左右が非常に見やすいというか、クルマを路肩に寄せやすい感じがしました。
伊藤:乗り回しの良さもZR-Vの特徴です。街なかではそういうのが効きますし、多分ワインディングロードも相当攻められると思うんですよ(笑)。メーカーがそういうこと言っていいかわからないですが、かなり気持ちよく走れるSUVになっているはずです。リアシートもセダンと同じような乗車姿勢にしていますので、長距離の移動でも疲れが少なくできるのかなと思います。
──リアシートの高さは?
伊藤:シビックと同じで、セダンライクな座り心地の良さを目指しました。SUVは1列目よりも2列目の座面が高いことが多いんですが、後ろ(の座面の高さ)を抑えることで流麗なルーフラインの構成にも寄与しています。
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目指したのは色気で心が躍るインテリア
ZR-Vのボディーカラーは、新色の「プレミアムクリスタルガーネット・メタリック」や「ノルディックフォレスト・パール」を含む全7色のラインナップ。派手さを抑えめにしたボディーカラー展開になっている。そうした内外装のカラーやマテリアル、フィニッシュを担当したのが後藤千尋さん(以下、後藤)だ。クルマの内・外装色、素材、最終的な表面の処理を総合的に開発しているという。
──ZR-Vで、ぜひ見てほしいというポイントはどこでしょう?
後藤:今回、グラマラス&エレガントという世界観を内外装でリンクするようにコーディネートしました。特に新色のエクステリアカラー2色とマルーンの内装色は、そういった世界観が色濃く反映できていると思っていますので、心躍るような時間と心満たされる時間という2つを味わっていただきたいです。
──内装の質感が高く、落ち着いた雰囲気で心が満たされるという点については同意しますが、心が躍るには外装色がちょっと地味に思えてしまいます。SUVでありながらスポーティーな走りも味わえるのがZR-Vのセリングポイントというお話なので、もう少しエネルギッシュなビタミンカラー的な方向もありかなと、個人的には感じました。そこはあえてシックで大人っぽい仕上がりが狙いですか。
後藤:そうです。その心躍るというところで私たちが目指したのが、グラマラスです。元気いっぱい若々しくエネルギッシュにというよりも、色気で心が躍るという大人の高揚を重視しました。心の躍り方の着地点の違いというか、そういったところを私たちは世界観として持っているので、例えばシックに見えるけれども光が当たった瞬間に鮮やかに輝く色の変化が楽しめるような「パール調プライムスムース」などは、そうした狙いから採用しました。輝きのあるマテリアルは、下手をするとすごくキワモノというか下品に見えてしまうような危険性もはらんでいますので、色気とかエレガントさにつながるように調整を重ねました。
──北米向けにラギッドというキーワードが出ていましたが、わかりやすくはっきりしたボディーカラーやタフなイメージは、日本向けではないということですか?
後藤:新色のノルディックフォレスト・パールはグローバルで共通のカラーで、北米、中国、そして日本、これから出ていく各市場にも設定します。この色が比較的、いま言ったラギッドや力強さというところと、都会的=モダンイメージの両方を満たす色だと考えています。
──実車を見る際に注目してほしいポイントは?
後藤:ぜひ光の当たる場所で、時間を変えて見ていただきたいです。光の当たり方によって表情や印象がすごく変わるので、ZR-Vのいろいろな魅力を発見してほしいと思っています。
(文=櫻井健一/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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櫻井 健一
webCG編集。漫画『サーキットの狼』が巻き起こしたスーパーカーブームをリアルタイムで体験。『湾岸ミッドナイト』で愛車のカスタマイズにのめり込み、『頭文字D』で走りに目覚める。当時愛読していたチューニングカー雑誌の編集者を志すが、なぜか輸入車専門誌の編集者を経て、2018年よりwebCG編集部に在籍。