革新のプレミアムセダン キャデラックCT5を知る・試す
先進の気風 ここにあり 2022.12.01 CADILLAC CT5に宿る先進のブランドフィロソフィー<AD> 100年を超える歴史を誇り、今なお革新的であり続けるキャデラック。彼らの手になるラグジュアリーセダン「CT5」には、どんな価値観が宿っているのだろうか。アメリカの文化を肌で知り、あまたのクルマを乗り継いできた生粋のカーガイが、そのステアリングを握った。上質な落ち着きを感じるインテリアと走り
「あ、いいクルマですね」
キャデラックCT5の運転席に収まり、しばらく走ったところで神戸アレック氏がつぶやいた。小声だが、確信を抱いていることが伝わってくる。CT5は流麗なファストバックスタイルのミドルサイズプレミアムセダン。試乗したのは、4WD機構を備える「スポーツ」グレードのモデルである。アレック氏は、ファーストインプレッションで、このクルマの素性を見抜いたらしい。
アレック氏は、インテリアコンサルタントとして住居の内装デザインやリノベーションなどをプロデュースしている。もうひとつの顔は、カーマニア。常に複数所有で、これまでに50台以上のクルマを乗り継いできた。購入するだけではなく、試乗する機会も多い。内外装のデザインを吟味しながら、走りや乗り心地にも研ぎ澄まされた感覚で向き合う。
「このクルマは2リッターターボエンジンですよね。知らなかったら、3リッターV6だと勘違いしてしまいそうです。キャデラックらしい大きいエンジンの重厚感があるんですよ。ヨーロッパのクルマだと、軽快感を前面に出してスポーティーさを強調する傾向がありますが、CT5には大人っぽいしっとりした手触りを感じます」
運転しながら、アレック氏は内装の仕上がりにも目を向けた。「なんだか、クロワッサンぽいですね」と不思議な言葉を発した。どういう意味なのだろう。
「内装のすべてのカーブの曲率がそろっていて、共通したアーチを描いているじゃないですか。クロワッサンのように柔らかでまとまりのあるフォルムです。これは簡単なことではなくて、優しいラインのなかにいきなりカクッとした部分が出てくるクルマもあるんですよ。CT5のような統一感のあるクルマに乗ると、人間は無意識のうちに落ち着いた気分になるのだと思います」
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吟味すればするほどよさが分かる
ゆっくりとアクセルを踏み、確かめるようにハンドルを切る。控えめに加速を試みたあとに、ブレーキペダルの感触もチェック。ていねいにクルマの素性をチェックすると、もう一度最初の言葉を繰り返した。
「やっぱり、いいクルマですね。乗っていて、どんどんよさがにじみ出してきます。第一印象がよくても、しばらくするとがっかりする場合もあるんですよ。でも、CT5は乗るほどにいいクルマだと思えてきました」
アレック氏が好感を持ったもののひとつが、トランスミッションの働きだ。CT5には10段オートマチックトランスミッションが採用されている。このクラスでは最も進んだ機構だと言っていいだろう。
「トランスミッションの多段化は、燃費向上だけが目的じゃないんですね。どの速度域で走っていても、スムーズに変速します。わざと乱暴な運転をして急なアクセル操作も試してみましたが、シフトショックがガツンとくることはありません。制御がすごくうまいと思います」
まるでCVTのようにシームレスな変速を実現している。しかも、思いのままに俊敏な加速を見せる。アレック氏は、エンジンとの組み合わせが絶妙だと感じたようだ。
「マルチシリンダーのような堂々たる力感があるのは、トランスミッションの効果が大きいからなんですね。キャデラックの伝統を感じさせる、優雅なトルクを感じます。最近の小排気量ターボ車のなかには、ダウンサイジング感がそのまま出てしまう残念なクルマも見かけますが、この味つけは見事ですね」
高速道路巡航の室内は静かで、CT5は音響空間としても優秀だ。アコースティックラミネートガラスをはじめ、徹底的に遮音が施されている。
「オーディオシステムはBoseですか。やっぱり、低音がいいですね。今かかっているのはロン・カーターで、ベースが心地よく響いています。15スピーカーがいい音を鳴らしているのはもちろんですが、クルマの中がうるさかったら意味がありません。臨場感あふれる音響を楽しめるのは、静粛性がしっかりと確保されているからなんですね」
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懐の深い乗り味とシュアなハンドリング
少し路面の悪い道に入り、乗り心地が試されるシーンになった。クルマにとって素の性能がむき出しになる試練の場だが、CT5はたじろがない。路面のショックを悠然と受け流していく。
「アメリカって、日本みたいに道路がきれいじゃないところが多いんです。そういうところを走っても多少のことでは壊れないような下半身、足まわりの強靱(きょうじん)さが求められます。CT5はやっぱりアメリカ育ちで、運転していて安定感が伝わってきますね」
アレック氏は幼少期をアメリカで過ごしていて、かの地のクルマ事情をよく知っている。日本に帰ってきて、国柄、土地柄に合わせてクルマの違いが表れることに気づいたという。
「CT5に乗っていると、ああ、アメリカ車だな、と感じますね。段差を乗り越えるときなど、懐かしさを覚えました。いい意味で、ゆるさがあるんです。ヨーロッパ車のようにシビアじゃない。ソリッドな走りを追求するのもいいと思いますが、それだけでは疲れてしまう。洗練された“鈍感力”が余裕を生み出し、エレガントさをまとわせています」
かつてのアメリカ車はふわふわした動きが特徴で、よく言えばおおらかで鷹揚(おうよう)な走りだった。好ましい持ち味ではあったものの、ハンドリングはシャープさに欠け、俊敏な動きは苦手というデメリットがあったのも事実だ。しかし新世代のキャデラックは違う。2003年にデビューしたコンパクトなスポーティーセダン「CTS」は、新設計のプラットフォームを採用し、走りを鍛えたモデルだった。CT5はその後継車である。
「今はキャデラックもドイツのニュルブルクリンクでテストを行い、走りを磨き上げています。ヨーロッパのプレミアムセダンと肩を並べる高速性能とシュアなハンドリングを手に入れました。でも、彼らと同じじゃないんですよ。基本をしっかりつくって強い芯を持たせていますが、そこに優雅さも加えています。機能一辺倒ではない“余白”があるんですね」
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100年を超えて先進であり続けるブランド
インポーターによると、CT5は日本では比較的若いオーナーに受け入れられているという。購入者の約1割が20代の若者というのは、プレミアムセダンとしては例外的といえるだろう。その理由を挙げるとしたら、こうした中身に納得感があるからではないか。革張りの上質なインテリアに、Boseのオーディオシステムをはじめとする充実した装備、欧州車に比肩する走りのクオリティー。キャデラックには似つかわしくない表現かもしれないが、CT5の内容は「お得」と評して差し支えないもので、それが合理性を是とする若者の、新しい価値観に親和するのかもしれない。
そして、もうひとつ考えられる理由を挙げるとしたら、それはキャデラックというブランドの先進性だ。
キャデラックが誕生したのは1902年。それ以来、長きにわたってアメリカを代表する高級車として支持され続けてきた。歴史と伝統を感じるのは当然だが、もうひとつの顔は先進性である。常に最新技術を取り入れてきたのがキャデラックなのだ。セルフスターターは1912年に世界で初めて採用しているし、ほかにもシンクロメッシュ機構、ダブルウイッシュボーン式前輪独立懸架、パワーステアリングなどが挙げられる。
「アメリカでは、キャデラックはずっと先進的というイメージが持たれています。実際、CT5にも最新の先進運転支援システム(ADAS)が装備されていますね。カメラの映像を映し出すリアカメラミラーや、車両のまわりをクリアに見せるHDサラウンドビジョンなど、安全で快適な走行のための装備も充実しています。クルマが危険を察知すると、シートに組み込まれたバイブレーターが振動して知らせてくれるのには感心しました」
今日の日本において、CT5のユーザー年齢がヨーロッパのセダンに比べて若いのは、こうしたブランドの先進性が知られるようになったことが影響しているのではないか。
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デザインにも表れるようになった革新性
アメリカでは、かねて先進的なオーナーがキャデラックを好んでいた。アレック氏が初めてキャデラックに乗ったのは10歳ぐらいのころで、シッターの女性が運転するクルマだったという。
「1990年代ですが、たぶん10年以上前のモデルだったと思います。まるでウオーターベッドの上に乗っているような感覚で、シートは家のソファのよう。とても驚いたのを覚えています。家のクルマはドイツ車ばかりだったので、まったく違う乗車体験でしたね。シッターのマダムは、とてもおしゃれな人でした。アジア人の子供を預かるというのがあまり一般的ではなかったころです。新しいものに興味のあるアクティブな女性で、キャデラックに乗る人イコール先進的な人というイメージを持つことになりました」
日本に帰ってきて大学に入り、しばらくしてCTSや「XLR」「DTS」といった新世代のモデルが発売される。アレック氏のなかで、「人」によってもたらされたキャデラックの先進的なイメージが、「製品」とつながった。
「“アート&サイエンス”というデザインコンセプトで、シンプルでエッジィなフォルムが新鮮でした。CT5はさらに洗練度を高めていると思います。内装ではシートとドアトリムが2色使いで、このクルマでは赤のステッチが施されています。この赤のトーンが明るめで、スポーティーな雰囲気を演出していますね。国産車だともう少しくすんだ赤が多いんです。芸が細かいのが、カーボンパネル。よく見ると、無機質なパターンのなかに赤を組み込んであるんですよ。ステッチの赤と響き合っていて、トータルにデザインを考えていることがよく分かります」
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ブランドの“すべて”が宿っている
調度と色調の専門家であるアレック氏が高く評価する、キャデラックの内装。それはアメリカならではの色彩感覚が基調となっているようだが、同時にデザイン手法の緻密さも統一感をもたらしているのではないかと、アレック氏は考える。
「家の家具を選ぶ場合、床の木材とソファのファブリックや壁紙の色を、全部一枚のシートに並べてバランスを見るんです。このクルマの内装も、パレットに並べてみてから決めているのでしょうね。シート生地はベージュとブラックの組み合わせですが、ベージュといってもホワイトに近い。『プラチナム』グレードの濃いベージュを赤ステッチと組み合わせるとやぼったくなってしまいますが、適切な色を選んでいますね」
CT5には、キャデラックの持つ世界観がトータルに表現されている。走りとデザインが調和し、唯一無二のクルマになっているのだ。
「走りと居住性のバランスがとれたセダンという車型に、キャデラックの伝統と革新性が見事に詰め込まれています。今はSUVが人気ですが、人と荷物が積めて快適に移動でき、スポーティーさが楽しめるセダンはやはり魅力的だと思います。日本では比較的若いオーナーが多いと聞きました。確かに無駄なものがなく合理的で、自分の納得感を大事にする人に受け入れられているのではないでしょうか」
CT5に試乗して、アレック氏はキャデラックというブランドの深みと可能性を強く実感したと語る。
「あらためてキャデラックらしさとは何かということを考えました。これから電動化の時代を迎えると、ほかのクルマとの違いを見せるのが難しくなります。でも、キャデラックはブランドの強みをさらに増しているから、不安はありませんね」
伝統を大切にしてきたから、進化することができる。CT5でキャデラックの現在を見極めたアレック氏は、実り豊かな未来へ思いをめぐらせたようだ。
(文=鈴木真人/写真=荒川正幸)
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