ジープ・グランドチェロキー リミテッド2.0L(4WD/8AT)
欧州勢と真っ向勝負 2022.11.24 試乗記 ジープのフラッグシップモデル「グランドチェロキー」に追加設定された、2列シートの標準ボディー車に試乗。先に上陸した「グランドチェロキーL」よりも125mm短いホイールベースに最高出力272PSの2リッター直4ターボを組み合わせた、その走りやいかに。2列シートの標準仕様が上陸
JAIA(日本自動車輸入組合)が公表している輸入車新車登録台数を見ていると、最近のジープの勢いを感じざるをえない。ここ数年は、ブランド別販売ランキングで9位、日本ブランドを除く海外ブランド車としては7位……が、ジープの定位置。ジープより上位にいるのは、おなじみのドイツ4ブランド(メルセデス、フォルクスワーゲン、BMW、アウディ)と、同じく実質ドイツ系(?)のMINI、そしてボルボだけだ。しかも、2014年から2021年まで8年連続で、新型コロナ禍にもめげず右肩上がり(=前年比増)を続けている。
というわけで、ジープの日本側担当者は「入れれば売れる!」との自信を日に日に深めているにちがいない。そうでなければ「グラディエーター」や「コマンダー」なんて変わりダネをならべて売るなんでできなかったはずだ。ジープの本拠である北米、そして欧州ではグラディエーターは売られるがコマンダーはない。逆にインドにはコマンダーはあるがグラディエーターは手に入らない。
そんなジープが最新のSUV市場に真正面から挑むフラッグシップがグランドチェロキーだ。ご承知のように、日本では3列シーターのロング版「L」が先行して発売となった。北米市場でも主力はロングだという。
グランドチェロキーLの上級グレード「サミットリザーブ」は、路上を滑るようにフラットな乗り心地と余分な動きのない正確な身のこなし……という点で、この2022年に乗った新車のなかでも、個人的に1、2を争うダイナミクス性能の持ち主と思っている。しかも、内装はレザーとウッドで丹念に仕立てられており、5.2mという全長は「キャデラック・エスカレード」に「ロールス・ロイス・カリナン」「メルセデス・ベンツ/マイバッハGLS」などに次ぐ世界屈指の体格を誇る。それで価格は2021年末発売時で999万円。競合と比較しても割安感があった。
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インテリアのちがいが目立つ
そんなグランドチェロキー(以下、グラチェロ)にこうして2列ショート版(というか、車名末尾にLのつかない標準モデル)が追加されたのも、やはり日本市場でのジープの勢いを感じるところだ。新型グラチェロの長短モデル両方が手に入る市場は、米本国や中国のほか、世界的にも数えるほどしかない。
ショートのグラチェロは既存のロングより全長で290~300mm、ホイールベースで125mm短い。BMWの「X5」やポルシェの「カイエン」、メルセデスの「GLE」などとドンピシャに競合するサイズといえる。
2列ショート版のグラチェロは、日本での標準グレードにあたる「リミテッド」のみとなる。ロングやプラグインハイブリッド(PHEV)にあるサミットリザーブは日本では用意されない。リミテッドはサミットリザーブに対して、ホイールサイズが21インチから18インチになるほか、当然ながら快適・安全装備も差別化される。
ただ、グラチェロの場合、グレードによるインテリア調度類のちがいが思った以上に気になる。シート表皮は全車がレザーシートだが、サミットリザーブは肌ざわりがより柔らかい「パレルモレザー」となる。ダッシュボードの加飾パネルも、本木目のサミットリザーブに対して、リミテッドは木目調。センターコンソールも、サミットリザーブではサイド部分が柔らかなレザークッションがあしらわれるのに、リミテッドは硬いプラなのだ。
これら調度品の現実的なありがたみは、こうして言葉で表現するより、実際にクルマに乗り込んで触れたときのほうが大きい。名だたる欧州高級車ブランドの同クラスSUVと比較しても、その質感や高級感においてサミットリザーブなら引けを取らないが、リミテッドだと微妙に安っぽく感じてしまう人は多いのでは……と思う。
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素性の良いプラットフォーム
ロングのパワートレインが3.6リッターV6なのに対して、ショートのそれは2リッター直4ターボと、そこにモーターを追加したPHEVの「4xe」という2種類となる。今回試乗したのは前者の2リッター直4ターボだった。ちなみに、都合3種類となるグラチェロのパワートレインだが、アメ車らしくすべてレギュラーガソリン仕様なのはうれしい。
V6と直4ターボという2つのエンジンは「ラングラー」やグラディエーターでもおなじみのものだ。最高出力はほぼ同等。全開付近でのパンチ力は最大トルクが大きいターボに分があるが、激しい起伏をジワジワ低速で転がすときの柔軟性は排気量の大きいV6が有利。ただ、今回のような混雑した都市部を駆け回るには、2リッターターボの活発さはメリットが大きかった。
18インチタイヤとコイルスプリングの組み合わせとなるリミテッドの乗り心地は、低速では意外なほど引き締まっている。この点は、エアサスと可変ダンパーで21インチを見事に履きこなしているロングのサミットリザーブの域には、正直いって達していない。
ただ、クルマ体全体にみなぎる高い剛性感は、すべてのグラチェロに共通する美点だ。低速でのゴツゴツが少し気になった乗り心地も、速度が高まるほどしなやかに、そしてフラットに落ち着いてくる。グラチェロの基本骨格は、もともとはグローバルでの復権を目指すアルファ・ロメオ専用として設計開発された「ジョルジョ」プラットフォームが土台といわれている。こうして、より強めのカツが入るほど味わいと潤いが出てくるあたりは、ジョルジョの素性の良さを示す証左かもしれない。
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その勢いに期待が高まる
サミットリザーブの絶品の乗り心地や各部の高級感を体験すると、ショートでもそれがほしくなってしまうのが人情だ。それは、個人的に3列シートはまったく必要としないからでもある。まあ、ショートでも4xeではサミットリザーブが選べるのだが、集合住宅暮らしの筆者にはPHEVも不要だ。
米本国のラインナップを見ると、ショートの2リッター直4ターボ車にサミットリザーブの用意はないようだが、3.6リッターV6ならある。それでもいい……といった話は筆者のごく個人的な願望ではあるものの、競合と冷静に比較しても、それは魅力的な存在になりえると思うのだ。
たとえば、日本でのX5のエントリーモデルは現在、直6ディーゼルにマイルドハイブリッドを組み合わせた「xDrive 35d」で、価格は1030万円。対するグラチェロはガソリンターボのリミテッドで892万円である。額面はX5のほうが高価だが、X5は先進運転支援システム(ADAS)もフル装備(グラチェロは道路標識認識機能や車線維持機能が省かれる)されて、ホイールも19インチとなる。さらに直6ディーゼルの魅力も加味すると、総合的なコスパはX5に分があるように見える。
グラチェロのショートにV6のサミットリザーブが追加されるとしたら、本体価格は1100万円前後だろうか。X5だと同じxDrive 35dでも「Mスポーツ」と競合する。X5のMスポーツは20インチタイヤに可変ダンパーも備わるが、サミットリザーブもそこは負けていないし、ADASもフル装備となる。さらに豪華な内装調度や「マッキントッシュ」のプレミアムオーディオまで標準と考えると、今度はグラチェロに買い得感が漂いはじめる。
いずれにしても、欧州勢が牛耳る同セグメントに、真正面から挑める非欧州車はグラチェロくらいしか思いつかない。それに今のジープの勢いなら、「こういうのがあればいいのに」という願いをすぐかなえてくれそうで、期待感は高まるというものだ。
(文=佐野弘宗/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
ジープ・グランドチェロキー リミテッド2.0L
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4900×1980×1810mm
ホイールベース:2965mm
車重:2090kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:272PS(200kW)/5250rpm
最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/3000rpm
タイヤ:(前)265/60R18 100H/(後)265/60R18 100H(ブリヂストン・デューラーH/Pスポーツ)
燃費:--km/リッター
価格:892万円/テスト車=922万1000円
オプション装備:ボディーカラー<ダイアモンドブラッククリスタルP/C>(5万5000円)/サンルーフ(18万円) ※以下、販売店オプション フロアマット<5人乗用モデル>(6万6000円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:780km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。