ケータハム・セブン170S(FR/5MT)
走るよろこびを思い出せ 2022.11.23 試乗記 スズキのパワートレインを搭載した軽のケータハム(ダジャレじゃないよ!)が、「セブン170S」に進化。新エンジンを得た660ccのセブンは、従来モデルからどこが変わり、なにを受け継いだのか? 超軽量マシンがかなえる、ドライビングの原初のよろこびに触れた。どんなクルマと比べればいいのよ?
……今、アナタが読んでいるこうしたクルマの試乗記に、“製品の品評”に加えて“運転行為の追体験”というエンタメ要素があるとしたら、ケータハム・セブン/スーパーセブンほど執筆が難しいクルマはないでしょう。理由は、似たクルマ、比較対象になるクルマがほかにないから。セブンはどこまでいってもセブンで、「ハンドリングは〇〇より〇〇で~」とか、「〇〇と××を足して2で割った感じ~」といった表現を、一切受け付けない。
それでも、そうした安易なとっかかりナシにセブンの“クルマとなり”を皆さんと共有するには、来歴を紹介するのが手っ取り早いと思う。始まりは1957年にロータスが発表した軽量スポーツカーで、1973年にケータハムがその製造・販売権を取得。今日もつくり続けているというわけだ。もちろん、その間にはあまたの変更・改良があったのだが、鋼管フレームにアルミ板を張り付けたシンプルなクルマのつくりと、軽量・単純を是とするコンセプトは今も変わらない。ケータハム・セブンは、とにかく軽くて超原始的なクルマ。そこだけ理解してもらえれば、つかみはオッケーだ。
さて、今回紹介するクルマは、そんなケータハムのなかでもセブン170Sと呼ばれるモデルである。スズキの軽自動車用エンジンを搭載したセブンシリーズの最軽量モデル、その最新版だ。直系のご先祖さまは2013年登場の「セブン130/160」。170シリーズはその後継にあたり、今回取材したスタンダードな170Sに加え、よりスポーツ走行に特化した「170R」がラインナップされる。
ちなみに、車名の数字は「車重1t換算でのエンジンの馬力」をあらわしたもので、詳しい方ならお察しのとおり、170シリーズは160の80PSから85PSに最高出力がアップしている。そして逆算すればわかるとおり、同車の車重はわずかに500㎏(!)。これは誇張した数字ではなく、車検証にも車両重量の枠に「490kg」と記されている。
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クルマとドライバーは一蓮托生
そんなシンプルでクラシックで超軽量な170Sの取材は、車両の借受期間を通じて雨に見舞われるという、最高のシチュエーションで行われた。思い起こせば、筆者が初めてスズキエンジンのセブンに触れた日も(参照)、ロケの帰りは土砂降りの雨だった。あんときは、ライターさん&カメラマンさんに撮影機材ごと現場に置き去りにされ、ひどい目に遭った。Kさん、Aさん、その節はどうも(笑)。
そんな過去を思い出しながら試乗した170Sはしかし、追憶のなかの160より長足の進化を遂げていた。まずなにより、インテリアが文明的になった(笑)。それこそ60周年記念車の「スプリント」あたりより上等で、ここだけ見たら、ちょっと小さなモーガンである。
ケータハムの親会社が日本のVTホールディングスになったこと(参照)、「硬派な向きは170Rをどうぞ」と選択肢が増えたことが理由と思われるが、各部の仕立てはよりシッカリし、シートも機能一辺倒ではなく、視覚的にも上等なものに変えられた。そもそも従来型では、こんなベージュ内装なんて選べなかったはずだ。ヒーターの利きもいいし、新設されたフラットなヒジ置きも快適至極。センターコンソールまわりは一緒のようだが、サイドブレーキを完全に下ろせているかイマイチ自信が持てなかったり……といった操作上の不満は、なぜか解消されていた。こりゃあ、プレスリリースに書かれている以上にいろいろ変わっているゾ。と気を引き締める。
一方で、変わっていないところはもちろん変わっていない。クルマの根幹や、そこから得られる体験はまさにケータハムそのものだ。まずセブンを感じるのが乗降時の“お作法”で、編集部で最も理解があると自負する筆者ですら、ときに四肢をこんがらがせながら「次はどうすりゃいんだっけ?」と迷うレベルだ(写真キャプション参照)。乗り込んだら乗り込んだで、今度は下肢とわき腹をがっしりボディー(=センターコンソールとサイドシル)にホールドされ、これでクルマと一蓮托生(いちれんたくしょう)とハラが決まる。目前にそそり立つウインドスクリーンの近さも相まって、「これからケータハムに乗るのだ」とスイッチが入る。
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新しいエンジンがかなえる走りの進化
公道に出ても非日常の体験は続く。着座位置とアイポイントの低さは相当なもので、アスファルトはすぐそこ。横を見やれば、目と同じ高さにダンプカーのフレームだ。外界のスケール感は、「ジムニー」が「Gクラス」に見えるといった具合で、街なかを走っていると、ちょっとした小人の気分が味わえる。アルミの薄板とソフトトップ一枚を挟んで接する外界の近いこと! レスポンスにラグがあるウインカーとも相まって、自然と運転が慎重に、謙虚になる。
青信号でアクセルを踏み込んで、「おや?」と思う。過去の記憶以上にクルマが軽くなったように感じ、そこで「エンジンが変わったんだっけ」と思い出した。170シリーズはこれまでのK6A型から、R06A型にエンジンが変わったのだ。車体の軽さも相まって、2000rpmからが実用域なのは両者とも同じだが、前任が3000rpmあたりでパワーがさく裂するドッカン野郎だったのに対し(あくまで筆者の体感です)、R06Aは回転上昇を待たなくてもグイグイ走るし、そもそも回転がスムーズだ。負荷をかけた際、高周波の機械音とともに聞こえる「ゴワワ~」というエンジンサウンドに、かつてのA型を重ねるのは元「Mini」乗りの幻想か。アクセルを抜くと、いっちょうまえに「ふしゅん」とウェイストゲートから(かな? たぶん)息を吹く。
というわけで、セブン170Sは走り関係も進化している。スペックに見る数字自体は従来型とさほど変わらないが(6.9秒の0-100km/h加速は全く一緒。最高速は160km/hから168km/hになっている)、一個のスポーツカーとしてより乗りやすくなり、恐らくはちょっと速くなった。
そして、やっぱり快適なのだ! ……なんて書くと「ウソつけ」とか「これだから自動車メディアの人間は」とか言われそうだが、マジです。100km/h走行中のエンジン回転数は、5速で3300rpm、4速で4200rpmとゆとりがあり(ちなみに同エンジンの「アルト ワークス」は5速で3900rpmだった)、高速走行時にも必死さはない。実際、そこからアクセルを踏み込んでも柔軟に加速し、うっかりすると新東名や東北道でもスピード違反で捕まりそうだ。
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ストリートでは散歩気分で走らすのが吉
乗り心地も意外と良好。終始アスファルトの粒をなぞるような振動がライブ感をかき立てるが(笑)、段差を越えてもカタくてイタい突き上げはなく、ドスン、ゴトンとそれをいなす。なにより、リアに跳ねたり放られたりするような感覚がなく、タイヤがしっかり路面に接地しているのがいい。
ちなみにこのリアサスペンション、形式は古式ゆかしきリジッドアクスルだが、ホーシングをラテラルロッドではなく、巨大なA字型のアームでボディーとつないでいる(頂点側がデフ玉、2つの足側が車体。気になった人は画像をググるかヤホってみてください)。今やCOO(!)となったケータハムの“元”名物ブランドマネジャー、ジャスティン・ガーディナー氏いわく、この機構は「160になってから2~3年後の改良で採用した」とのこと。中古車を探している人はご参考までに。いずれにせよ、リジッド特有のバタつきや横ズレを覚悟して乗った人は、リアまわりの一体感に拍子抜けすることでしょう。
このように、存外に速くて快適な170Sだが、それでも飛ばす気にならないのは、車内が常にバタバタ・キシキシの嵐だから。その臨場感たるや、計器類を見ずとも速度の高まりを感じられるレベルで、高速道路でイキるのは精神衛生上(もちろん倫理上も)非常によろしくない。法定速度に従って、ラブリーでライブリーな走りを楽しむのが吉でしょう。
そんなわけで、ケータハム・セブン170Sは、目を三角にして飛ばさなくても十分に楽しい。たらたらとツーリングしているだけでも刺激的だし、そうした用途にも意外と痛痒(つうよう)なく使えるクルマである。かつてジャーナリストの森 慶太氏は、前身にあたる160を「ナイスなお散歩セブン」と評していたが、新型も本当にそんな感じだ。
とはいえ、ケータハムの本領はやはりサーキットやワインディングロードだろうし、読者諸兄姉が一番気にしているのもそこでの走りでしょう。ただし、クルマのイメージから「八艘(はっそう)飛びする源義経の如し」的批評を期待する人には申し訳ない。筆者の印象はだいぶ違って、170Sは……というよりケータハムは全般に、軽快感より臨場感、操縦にまつわる手ごたえの強さを、ゴリゴリに感じてこそのクルマだと思うのだ。
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生の充実を感じる
確かに、クルマの動きは楽しいほど軽快だ。アクセルに対するスピードの乗りは素早く、極端なロングノーズゆえのディレイを除けば、操舵に対する反応も素直で軽い。しかし、ドライバーに課せられるハンドルおよびブレーキ操作は、決して軽いものではない。それもそのハズ。このクルマにはパワーステアリングもサーボアシストも付いていないのだ! それで重量500kgの物体の進行方向を変え、速度を削(そ)ごうってんだから、ドライバーに相応なおシゴトが求められるのは当然でしょう。
しかし、だからこそこのクルマには、他車にはないライブ感があるのだ。路面のささやかな凹凸にタイヤが蹴り上げられるさま、ブレーキパッドが硬いディスクローターにこすりつけられるさまが(「リアブレーキはドラム式じゃ……」という突っ込みはナシにしてください)、手足と腰、体全体で感じられる。この感触というか質感は、パワステやらブレーキサーボやらといったアシスト装置が挟まっていたら、絶対に得られないものだろう。先に述べた乗り味だけではなく、ケータハムは操作系もダイレクトそのもので、筆者は乗るたびに、自身が道上にリアルに存在することを確認する。「ああ。今、俺、生きてる」と生の充実を感じるのである。
確かに、既存のモデルよりちょっとだけ洗練された170Sだが、目指す先はまったくもって変わっていない。このクルマのささやかな進化は、ケータハムが提供する特濃な体験を、より集中して、よりクリアに感じてもらうための気配りのようなものなのだ。じゃあその体験とは何なのよ? と問われれば、自動車の原初のよろこび、まだそれ自体が冒険だった頃の、運転でありスポーツドライビングだ。
快適性のために車内環境を外界から隔絶するようになり、疑似的にレスポンスを再現して、ドライバーにライブ感を錯覚させる。そんな、お釈迦(しゃか)さまの手のひらみたいなクルマが闊歩(かっぽ)する今日に、ケータハムは見事に向こうを張っている。存在自体がロックである。やっぱりセブンは、どこまでいってもセブンなのだ。
(文=webCGほった<webCG”Happy”Hotta>/写真=郡大二郎、webCG/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
ケータハム・セブン170S
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3100×1470×1090mm
ホイールベース:2225mm
車重:440kg(乾燥重量)
駆動方式:FR
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:5段MT
最高出力:85PS(62.6kW)/6500rpm
最大トルク:116N・m(11.8kgf・m)/4000-4500rpm
タイヤ:(前)155/65R14 75T/(後)155/65R14 75T(エイヴォンZT7)
燃費:--km/リッター
価格:577万5000円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:831km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(5)/山岳路(2)
テスト距離:217.4km
使用燃料:10.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:21.7km/リッター(満タン法)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。