ビモータKB4(6MT)
日伊合作の個性と独創 2022.11.27 試乗記 ビモータの手になる独創的な車体に、カワサキの1リッター直列4気筒エンジンを搭載した「ビモータKB4」。軽量でパワフル、かつユニークでクラシックな手づくりの一台は、“個性的”という言葉では足りないほどに個性あふれるマシンだった。第一印象は「意外とフレンドリー」
「ワタシでいいんでしょうか」ともったいない気分になりながら、普段からゼータクと縁のないライダーがビモータKB4の革シートにまたがる。シート高は810mm(+/-8mmの調整が可能)。身長165cmの昭和体形の場合、両足の親指が地面につくくらい。まるで参考にならないと思いますが、普段乗っているミドル級のスーパースポーツ(2003年型「ヤマハYZF-R6」)と同じ感覚だ。スタンドを払って車体を起こす際の重さも同様で、ビモータのオリジナルフレームにカワサキの1リッターマルチシリンダーをつったKB4の車重は194kgである。
早速エンジンをかけて走り始めると、「意外といけるかも」と期待が高まる。トップブリッジ下から生えるセパレートハンドルのグリップ位置はたしかに低いけれど、タレ角はほどほど。もちろん上体の前傾は強いが、タンクを抱きかかえるような極端な姿勢ではない。ステップ位置はやや後ろだがスポーツモデルとしては順当なところ。かっぷくがいい人ではタンクの上におなかがのり、手足が長いライダーでは折り曲げた足が「ちょっと窮屈なのでは」といらぬ心配をしてしまうが、総じて「サーキット以外での実用性はない」といった無理なポジションではない。
KB4の動力系には、「ニンジャ1000SX」由来の4気筒(142PS、111N・m)と6段トランスミッション、排気系、そしてエンジンマネジメントなどが(ほぼ)そのまま使われていて、思いのほかフレンドリー。せいぜい3000rpm前後で流す街なかでは、過敏なスロットルレスポンスにおびえることなく、厚いトルクに頼っておだやかに走ることができる。都内での撮影を終えると、早速“いつもの峠道”を目指した。
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ユニークなブランドのユニークなプロダクト
バイクフレームのスペシャルビルダーたるビモータメカニカの設立は1973年。モータースポーツで名をあげて、少量ながら市販モデルもつくるようになったイタリアンに典型的な経歴を持つブランドだ。創業者のひとりであるマッシモ・タンブリーニは、同社を離れた後、ドゥカティでスーパーバイクの傑作「916」を手がけたことで知られる。
ビモータはフレームのスペシャリストとして、ドゥカティのほかホンダ、カワサキ、スズキ、ヤマハと、さまざまなメーカーのエンジンを搭載してきた。その際のネーミングはシンプルで、ホンダエンジンなら「HB」、スズキなら「SB」、ヤマハなら「YB」となる。今回のKB4は、カワサキエンジンを用いた4番目のモデルということになる。
小規模メーカーゆえの浮き沈みを経て、2019年からは川崎重工グループのKawasaki Motors Europeが、休眠状態だったビモータの再生を支援している。KB4は「TESI H2」に続く新生ビモータの第2弾。TESI H2は「H2」シリーズのスーパーチャージドエンジンを載せた孤高のハイエンドであり、KB4は「乗りやすく、トルクがあり、軽量なモーターサイクル」をコンセプトに開発された“ファン・トゥ・ライド”なバイクとされる。
流行のロケットカウル風……というか、かつての「KB1」への敬意を感じさせる丸いギョロ目が特徴的なこのバイクは、見る角度によってずいぶんと印象が変わる。流麗なサイドビューとは裏腹に、正面から見ると意外とボリュームがある。左右に設けられた空気取り入れ口がその一因で、前方からのエアはダクトを通じてテールカウル下のラジエーターに導かれる。ラジエーターをエンジン前という通常の位置から動かしたことで、最大の重量物(エンジン)を前進させて前荷重を増せたというのがビモータの主張である。車検証を確認すると、前後重量は前:120kg、後:80kgとなっている。
視覚的なアクセントにもなっているエアダクトは、エンジンを避けていったん外に張り出し、シート付近で再び絞られるのでライダーの足つきを悪化させることはない。「そこまでしてラジエーター位置を変える必要があったのか?」と自分のような凡人は考えてしまうが、新奇なアイデアをちゅうちょなく採り入れ、しかも市販化してしまうのがビモータというバイクであるから、ココは「さすがだ!」とニンマリするしかない。
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ミドルクラスの軽快感とリッタークラスのパワー
ビモータKB4は、同社得意の鋼管トレリスフレームで保持された4気筒1043ccを、1万rpmを超えてフルスケール回せば1速だけで100km/hを超えてしまう。その一方、トップギアでの100km/h巡航は4200rpm付近で優雅にこなす。
タンの革シートにまたがって走っていると、時に高価なウッド素材でつくられたヨットに乗っているかのような、なにかギシギシとパーツが擦れ合うような感覚がある。言うまでもなくKB4は精度の高い部品を用いたれっきとした工業製品だけれど、ふんだんに使ったオリジナルカーボンパーツの影響か、どこかハンドメイドの趣がある。
そんなのんきなことを考えていられたのも交通が流れている間だけで、ダラダラと動く渋滞にハマると、どうやっても上体を伸ばせないポジションがツラい。肩、腰、体重がのる両手のひら、そしてヘルメットを支える首に疲労がたまっていく。ビモータオーナーの方々は、きっと山の麓にガレージ付きの別荘を持つか、少なくともトランスポーターと助手を雇っているに違いない。
ヤレヤレと思いながら峠道を走り始めると、細かいつづら折りでは乗り手の技量の問題もあって、ショートホイールベース化(1000SXより50mm短い)がもたらす恩恵はよくわからなかったが、ある程度のRがとられたセクションに達すると、ミドル級の感覚でカーブに進入し、リッターバイクの加速で脱出していくのでこれは爽快だ。平均よりちょい下手くらいのライダー(←ワタシです)でも、KB4が掲げるファンの一端を味わえる。ちなみに、リアサスペンションが1000SXのダンパーを思い切り寝かせたホリゾンタルスタイルから、スイングアームに挟まれたリンク内にダンパーを立たせたカタチに変更されているのもKB4のトピックだ。
機嫌よくカーブの連続をこなしているうちに、往路の苦労も忘れて「すっかりKB4のとりこになりました」……と言いたいところだが、実は当初よりリアブレーキがエアをかんだらしく少々スポンジーで、腰が引けた状態で走っているうちにいよいよ怪しくなってきた。不幸な出来事が起こらないうちに退散することにする。ビモータKB4の価格は437万8000円である。
(文=青木禎之/写真=向後一弘/編集=堀田剛資)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2050×774×1150mm
ホイールベース:1390mm
シート高:810mm(+/-8mm)
重量:194kg
エンジン:1043cc 水冷4ストローク直列4気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:142PS(104.5kW)/1万rpm
最大トルク:111N・m(11.3kgf・m)/8000rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:--km/リッター
価格:437万8000円

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。