プジョー308SW GTハイブリッド(FF/8AT)
プジョーはエライ! 2022.11.26 試乗記 方々で好評な新型「プジョー308」ではあるものの、バカンスの国のニューモデルなら、やはりステーションワゴンに乗らなければ始まらない。プラグインハイブリッドパワートレインを積んだ最上級モデル「308SW GTハイブリッド」を試す。Cセグメントなのにラグジュアリー
秋の好日、デリバリーが始まったプジョーのヌーヴェル308SW GTハイブリッドで、筑波方面に出かけた。筆者はその出来のよさに感嘆を禁じえなかった。感嘆を禁じる必要もないので、そのままにしておいた。感嘆のダダ漏れ。
webCG編集部の地下駐車場で、ドアを開けただけで感嘆した。プジョーの新しいライオンのマークが影絵のように地面に投影されたからだ。Cセグメントの実用車なのに、このような遊びのシステムが搭載されている。せっかくだから西武ライオンズとか新日本プロレスとかと提携して、マークを切り替えられるようにするとウケるのではないでしょうか。なんてことを思った。
室内に乗り込むと、内装のつくりがプジョーの旗艦「508」と遜色ないことに感嘆した。最近のプジョーはスゴイ。308SW GTハイブリッドが最上級モデルだとはいえ、スターターのオン/オフで、電動のシートが自動的に前後し、乗り降りを楽にさせてくれることにも感嘆した。シートにはマッサージ機能まで付いている! 感嘆の連続ヒット! 1回の表、プジョー早くも1点先取である。
簡単に感嘆しすぎやろ! というツッコミもあるかもしれない。しかしながら、筆者に言わせれば「フォルクスワーゲン・ゴルフ」に代表されるヨーロッパのCセグメントは元来、実用のためのクルマである。ヨーロッパの最激戦区であり、最大のマーケットのCセグメントがこんなにもラグジュアリー化している。
しかも、新型308の場合、それを、どうだぁ、というドヤ顔ではなくて、ごく当たり前のすまし顔でやっている、ように思われる。プジョーにおけるサービス、おもてなしのスタンダードがゲキ上げしている、と考えてよいだろう。
同クラスの「トヨタ・カローラ」のことを考えてみよう。例えば、ドアを開けるとトヨタのマークが投影されたり、システムのオン/オフでシートが自動的に前後したり、あるいは運転席と助手席にマッサージ機能が付いていたりする、ということである。感嘆を禁じえないでしょう。
同時に、かつてはニッポン車が得意としてきた快適装備を、フランスのプジョーがニッポン車に先駆けて装着している。そのことに感嘆する。自動車100年の大変革期は、価値観の大変革期である。革命が起きているのだ。ぜいたくはみんなのもの。さすが自由・平等・博愛の国の自動車である。
新型308の初体験を済ませておられる方にとっては、なにをいまさら、だろうけれど、なんせ筆者は今回が初めてである。引き続き感嘆の連続安打、感嘆のダダ漏れが続くことをお許しください。
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実際よりも小さなクルマに乗っているみたい
プラグインハイブリッドのシステムそれ自体は、508と基本的に同じである。プジョーで一番大柄なボディーの旗艦に用いられているパワーユニット(PU)を、2クラス下のボディーに搭載している。といっても、こういうことは自動車の世界ではよくあることで、これについては筆者も感嘆しない。
PUは、おなじみの1.6リッター直4ターボのガソリンエンジン(最高出力180PS)に電気モーター(同110PS)を加え、モーターと電池とのやりとり等を制御するシステムを後席の下、外部電源による充電が可能なリチウムイオンバッテリーを荷室の下に搭載している。
駆動方式は純然たる前輪駆動で、システム最高出力は225PS、システム最大トルクは360N・mもある。これらの数値も、トルクアップに対応すべく、トルクコンバーターの代わりに湿式多板クラッチを用いた8段オートマチックを組み合わせていることも508と同じだ。
プラグインハイブリッドのモーターと電池、制御系を搭載したことで、車重は1720kgと、1.5リッターの4気筒ディーゼルターボを搭載する「308SW GT」より240kgも重くなっている。
ところがどっこい、この重量増加は電気モーターの大トルクのおかげで意識することはない。電気モーターの最大トルクは320N・mもあり、前述したようにシステム最大トルクは360N・mもある。それを、「508SW GTハイブリッド」と比べると、ちょうど100kg軽いボディーと組み合わせているのだ。
ドライブモードには「エレクトリック」「ハイブリッド」「スポーツ」の3つがある。どのモードを選んでいても、発進時はEV走行となり、バッテリーのエネルギーが許す限り、基本的にエンジンは始動しない。フル充電で最長69kmのEV走行ができる。
EV走行は当然、スムーズで静かで、初期加速が力強い。近年のプジョーに特徴的な小径ステアリングホイールは筆者の座高だとちょうどリムがメーターに重なって、速度と回転計がまったく見えない(メーターの表示パターンは変えられますが)。という欠点はあるものの、さほどステアリングを切らなくても、Cセグメントとしては比較的大きなボディーを動かすことができ、実際よりもコンパクトなクルマに乗っている感がある。
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混じり気のない硬質さ
EV走行は135km/hまで可能で、首都高速に上がっても、風の音だけを聴きながらの静かな巡航を続けられる。電気エネルギーを保存するモードもあるし、積極的にチャージするモードもあるけれど、EVしか入れない自治体が日本あるわけではないから、電力をためておく必要がない。なので、筆者はほぼハイブリッドモードに任せていた。
アクセルを深々と踏み込むと、電気エネルギーが十分あってもエンジンが始動する。その際、振動とか大きな音が伴う、ということはない。あ。エンジンがかかった、と分かる程度である。
筆者にはハイブリッド車に乗っているという心構えがある。だから、エンジンがそのうちかかり、その際にはある程度の振動と音が伴う。と思っている。その予想より音も振動も低い。EVにありがちなヒュ~ンという電子音があまり聞こえない。これは電気の制御システムがドライバーから離れた後席の床下に搭載されていることによる、のかもしれない。
ただ、不思議なことにいったんヒュ~ンという音を耳がとらえると、けっこう聞こえてくるようになる。これはでも、人間という生き物の特性だと思うのですけれど、ちがうでしょうか。意識する/しない、のちがい、というか。
ボディーは大変しっかりしている。プラットフォームは、CからEまで幅広いセグメントに対応できる「EMP(エフィシエントモジュラープラットフォーム)2」の進化版のバージョン3で、従来のバージョンより構成部品の半数が新しいという。新型308の発表時の資料によれば、「振動快適性を向上させるために構造要素を接着することでボディーの剛性を最適化して」いる。鉄板が厚いことによるしっかり感ではなくて、薄いけど高い。ような気がする。
印象的なのは乗り心地がよいことで、タイヤとホイールの重さ、存在をほとんど意識させない。225/40R18というタイヤのサイズはいまどきフツウだとしても、大したものだと感嘆を禁じえない。出ました、感嘆。
タイヤのトレッド面の硬さは一定程度伝わるものの、入力に対してピピッと素早く、シャープに脚が反応している感じがする。シャープなんだけど、とんがってはいない。針の先が丸まっているような、繊細な感覚。もうちょっと分かりやすく表現すると、ちょっと硬めだけど快適である。
フランス車なのに硬質感がある。それは混じり気のない硬質さで、スッキリしている。なかなかステキなクルマである。
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飛ばさなくても楽しめる
翌日、ウチから常磐自動車の守谷SAに行く手前で電池は空っぽになった。webCG編集部から、およそ50km。そこからはエンジンが始動したり、休んでEV走行に切り替わったりした。筆者はエンジン車に愛着があるので、エンジンの始動はむしろ歓迎するところである。といって、100km/h巡航は至って平和で、内燃機関の存在をさほど意識させない。風の歌を聴くだけである。
久しぶりに筑波山に行ってみると、山道は荒れ放題に荒れている。その荒れた狭い山道を、308SW GTハイブリッドはスイスイ上り、スイスイ曲がって、スイスイ駆け降りる。ハンドリングは正確で、極めてよく曲がる。ロールはけっこう深い。さほど飛ばさなくても、ロールしながら気持ちよく曲がるから、ドライバーとしては「やってる」気分になる。
小径のヘンテコなカタチのステアリングホイールなのに、山道でも違和感がない。街なかでも山道でも違和感がないのである。シャープすぎることなく、適度にクイックで、自然なレスポンスに感じられる。そのことにあらためて感嘆する。
でもって、脚がいい。電子制御のサスペンションだと筆者は信じていたほど、いまでも、そうでないことが信じられないほど、快適なのにシャキッとしている。感嘆。
新型308はハッチバック同士の比較でホイールベースが先代よりも55mm延びて2680mになり、SWはさらに50mm長い2730mmにも達している。大きくなったおかげで、居住空間も荷室も広がっている。それなのによく曲がる。スポーツモードを選ぶと、エンジンが活発になり、スポーツワゴンという性格が強くなる。
今回の燃費は283.0km走って、満タン法で14.4km/リッターだった。ウチの近所にも充電施設があるはずで、そこで充電しておけばよかった。これからはそうしよう。と後悔先に立たず。積極的にチャージするモードを選ばないと、電気エネルギーは消費する一方で、プラグインハイブリッド車のプラグインハイブリッド車たるゆえんを生かすにはやっぱり充電しないといけない。そして、蛇足ながらホントにEVを生かすには、電気は自然エネルギーに限る。
それにしても、いろんな制約のあるなか、モーターでもエンジンでもファン・トゥ・ドライブなクルマをつくっているのだからプジョーはエライ!
(文=今尾直樹/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
プジョー308SW GTハイブリッド
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4655×1850×1485mm
ホイールベース:2730mm
車重:1720kg
駆動方式:FF
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:180PS(133kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:250N・m(25.5kgf・m)/1750rpm
モーター最高出力:110PS(81kW)/2500rpm
モーター最大トルク:320N・m(32.6kgf・m)/500-2500rpm
システム最高出力:225PS
システム最大トルク:360N・m
タイヤ:(前)225/40R18 92Y/(後)225/40R18 92Y(ミシュラン・プライマシー4)
ハイブリッド燃料消費率:17.5km/リッター(WLTCモード)
EV走行換算距離:69km(WLTCモード)
充電電力使用時走行距離:69km(WLTCモード)
交流電力量消費率:180Wh/km(WLTCモード)
価格:557万1000円/テスト車=600万3930円
オプション装備:ボディーカラー<パールホワイト>(8万2500円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:3205km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:283.0km
使用燃料:19.7リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:14.4km/リッター(満タン法)/14.4km/リッター(車載燃費計計測値)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。