BMW X5 xDrive40d Mスポーツ(4WD/8AT)
パイオニアの底力 2022.12.12 試乗記 BMWの基幹SUV「X5」のなかから、最高出力340PSの3リッター直6ディーゼルを搭載した「xDrive40d」に試乗。4世代・22年にわたり歴史を重ねてきた“走りのSUV”の開祖は、今どんなクルマとなっているのか? マーケットを切り開いた先駆者の実力に触れた。実はお得(?)な「40d」の中身
BMW X5に、この2022年2月に追加された最新バリエーションがxDrive40d(以下、40d)だ(参照)。車名から想像されるように、既存の「xDrive35d(以下、35d)」より高性能化された3リッター直列6気筒ディーゼルエンジンが最大の特徴である。
可変ジオメトリーターボの採用などで獲得した40dの最高出力は340PS/4400rpm、最大トルクが700N・m/1750-2250rpm。35d(286PS/4000rpm、650N・m/1500-2500rpm)と比較すると、わずかに高い回転数で54PS、50N・mの上乗せとなっている。そして35dと同じく、そこに11PS、53N・mの48Vマイルドハイブリッド機構を組み合わせている。
35dがスタンダードと「Mスポーツ」という2種類のグレードを用意しているのに対して、40dは上級のMスポーツのみ。1199万円という40dの本体価格は、同じMスポーツ同士で比較すると35dより100万円高い(2022年11月末現在)。
両グレードの差は、エンジン以外もけっこう大きい。たとえば現状のラインナップでサードシートが手に入るX5は40dだけで、35dには用意されない。さらには「アダプティブMエアサスペンション」「ハーマンカードン・サラウンドサウンドシステム」「4ゾーンオートエアコン」「ソフトクローズドア」「プロテクションガラス」「Mエキゾーストシステム」、さらにはフロントシートのベンチレーションやマッサージ機能、保冷/保温機能付きのカップホルダー、リアシート電動可倒機構……などは35dにはなく(大半はオプションで選択可能だが)、やはり40dでは標準装備となる。
35dとの100万円という差額そのものは小さいものではないが、こうして装備内容やエンジン性能を考えると、総合的には40dのほうが割安な感じがしなくもない。
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パワーより質感にありがたみを覚える
それにしても、今回あらためて2022年11月末現在の最新のカタログを見ていると、2022年2月の発表当初から本体価格が上がっていることは想定内にしても、35dで3列シートが選べなくなっていたのにはちょっと驚いた。もっとも、半導体・部品不足による供給難が続く昨今、商品確保を優先して、価格や仕様内容が猫の目のように変わるのは、BMWにかぎったことではない。
というわけで、X5の40dを走らせてみる。筆者自身、現行X5の35dに最後に乗ったのは1年以上前。35dでも性能的には十分に余裕があるうえに、今回はあくまでピーク値で1割強の上乗せだ。走り出した瞬間に「うわっパワフルになった!」と明確に指摘できるほどではなかったのが正直なところだ。
ただ、アイドルストップからの再始動がとても滑らかで、そこからの鋭い吹け上がりと心地よいビート感がまるでディーゼルらしくない肌ざわりなのは、さすがBMWのストレートシックス。これ単独で乗るかぎりは、レブリミットがガソリンより1500-2000rpm低いだけで、まるでディーゼルとは思えない。
2000rpmくらいからグイっとトルクが盛り上がり、その勢いがレブリミットの5000rpmまでほとんど落ち込まずに吹け切るのは素直に快感だ。体感的な動力性能は35dの遠い記憶から大きく変わるわけではないが、この高回転域での美点は、もしかしたら40dならではかもしれない。
マイルドハイブリッドはエンジン再始動や回生のほか、加速時には駆動アシストもする。アシスト時の最大トルクは35N・mだそうから、それを動力性能として体感するのはむずかしい。ただ、アクセルペダルをじわりと踏み込んだときに、高めのギアをキープしたまま穏やかに加速していく所作や、過給ラグが小さめ(皆無とはいわない)なレスポンスのよさに、その“電動化”の恩恵が感じられなくもない。
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峠道をホットハッチのように駆ける
シャシーまわりでは前述のとおり電子制御エアサスペンションが標準装備で、さらに試乗車には後輪操舵機構「インテグレイテッドアクティブステアリング」もオプションで追加されていた。その走りはひとこと、素晴らしかった。
「コンフォート」モードのときの乗り心地は驚くほどスムーズでしなやか。路面の凹凸をふわりと吸収しながらも、上屋の上下動そのものはフラットに抑制されている。エアサスといえば、かつては細かい凹凸が連続するような路面で追従しきれなくなるのが宿命みたいな感じだったが、そんなクセは今やこれっぽっちも感じさせない。
そしてドライブモードを「スポーツ」もしくは、そこからパワートレインがさらに鋭くなる「スポーツプラス」にすると、ディーゼルのピックアップは明らかに高まり、フットワークには明確にハリが出る。しかもアシはただ引き締まるだけでなく、滑らかな荷重移動はきっちり許容しつつも、ピッチングやロールなどの無駄な挙動だけが抑制されるのがいい。無粋に揺すられるようなこともない。
今回の試乗中、本来ならひと昔前の5ナンバーサイズだったBセグメントホットハッチあたりがドンピシャであろう、せまく曲がりくねった山坂道に迷い込んでしまうことがあった。場違いなのは承知でいうと、スポーツプラスモードにセットしたX5は、そこで小型ホットハッチに引けを取らないほど軽快に走った。タイトなS字の切り返しも、俊敏かつピタリと安定してクリアして見せたのだ。
これは素晴らしい完成度の電子制御エアサスペンションや可変ダンパー、そして電動スタビライザーに加えて、後輪を低速で逆位相、高速で同位相に操舵するインテグレイテッドアクティブステアリングの効能もかなりあるように思えた。
四輪駆動システムのxDriveも、4WDならではの安心感と、後輪駆動ベースらしい自在性のバランスがとてもよい。その制御を横滑り防止装置の作動を少しだけ弱める「トラクション」モードにすると、さらにたまらない。明確にタイヤが滑るような領域でなくても、後輪で積極的に路面を蹴り、回頭性をアシストするマニア好みの動きになる。
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“あの衝撃”はないものの……
初代の発売から20年以上、通算4世代を数えるX5は延々と正常進化の歴史を続けている。よって、安心安全の定番銘柄ではあるが、どうにも新鮮味がないのも正直いって否めない。というわけで、今回も失礼ながらあまり期待せずに試乗にのぞんだのだが、パワートレインに快適性、そしてハンドリングの完成度の高さは、さすがはBMW、そしてさすがは舗装路でのスポーツ性を最大の売りとする近代SUVの元祖……と感服せざるをえなかった。
今ではベントレーやロールスロイス、ランボルギーニ、そしてフェラーリまでがひしめくようになった高級SUV業界だが、その先駆け=元祖となったのが、2000年に世に出た初代X5である。この2年後に「ポルシェ・カイエン」が続いたのが、高級ブランド各社がSUVに光明を求めるきっかけとなった。今回も、X5に初めて遭遇した20数年前ほどの驚きはさすがになかったが、その熟成きまわる乗り味にはうなるしかなかった。元祖が蓄積してきた知見はダテではないということか。
ちなみに、海外メディアなどのスクープ情報によると、X5は遠くない将来の大幅改良へむけた準備が進んでいるようだが、これだけよくできたシャシーやパワートレインには、大きく手が入ることはないのでは……と勝手に思っている。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
BMW X5 xDrive40d Mスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4935×2005×1770mm
ホイールベース:2975mm
車重:2450kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ディーゼル ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:340PS(250kW)/4400rpm
エンジン最大トルク:700N・m(71.4kgf・m)/1750-2250rpm
モーター最高出力:11PS(8kW)/1万rpm
モーター最大トルク:35N・m(3.6kgf・m)/2500rpm
タイヤ:(前)275/45R20 110Y XL/(後)305/40R20 112Y XL(ピレリPゼロPZ4)※ランフラットタイヤ
燃費:12.1km/リッター(WLTCモード)
価格:1141万円/テスト車=1456万2000円
オプション装備:BMW Indivirualボディーカラー<ジャバ・グリーン>(75万3000円)/BMW Indivirualエクステンドレザーメリノ アイボリーホワイト(0円)/コンフォートパッケージ<フロントコンフォートシート+ヒートコンフォートパッケージ+フロントマッサージシート+フロントアクティブベンチレーションシート>(43万7000円)/プラスパッケージ<4ゾーンオートマチックエアコンディショナー+カップホルダー[フロント]+ソフトクローズドア>(15万円)/インテグレイテッドアクティブステアリング(17万2000円)/Mカーボンミラーキャップ(12万4000円)/レザーフィニッシュダッシュボード(13万5000円)/アンビエントエアパッケージ(4万4000円)/スカイラウンジパノラマガラスサンルーフ(37万7000円)/リアサイドウィンドウローラーブラインド<手動>(4万1000円)/サンプロテクションガラス(6万8000円)/Bowers&Wilkinsダイヤモンドサラウンドサウンドシステム(68万6000円)/BMW Individualアルカンタラアンソラジットルーフライニング(16万5000円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:1587km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(4)/山岳路(2)
テスト距離:449.6km
使用燃料:46.0リッター(軽油)
参考燃費:9.8km/リッター(満タン法)/10.1km/リッター(車載燃費計計測値)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。