ボルボS90リチャージ アルティメットT8 AWDプラグインハイブリッド(4WD/8AT)
懐かしさのなかに吹く新しい風 2023.01.07 試乗記 パワフルなプラグインハイブリッドシステムを搭載した「ボルボS90」が上陸。電動化を推進したパワートレインや、Googleとの連動による最新インフォテインメントシステムの採用により、伝統的なフラッグシップセダンの走りはどう変わった?ルーツはクーペのスタディーモデル
それまでの「S90 B6 AWDインスクリプション」に代わるフラッグシップセダンとして2022年7月に導入されたのが、「S90リチャージ アルティメットT8 AWDプラグインハイブリッド」だ。いかにも最近のボルボらしい長い名称からもわかるように、パワートレインは外部充電が可能なボルボ自慢のハイブリッドシステムで、内容はステーションワゴンの「V90リチャージ アルティメットT8 AWDプラグインハイブリッド」に搭載されているシステムと同一である。そのメカニズムは、最高出力317PSの2リッター直4ターボエンジンと同71PSのスターター兼発電用モーター(CISG)、同145PSのリアモーターで構成される。エンジンが始動しないEVモードの場合はこのリアモーターのみで走行する後輪駆動車となる。
ボルボといえばステーションワゴンというベテラン勢、あるいは「XC」系のSUVでしょうという最近のドライバーにしてみれば、「ボルボのフラッグシップセダンってどんなモデルだっけ?」という反応もむべなるかな。2017年の導入初期は500台の限定モデルとしての販売であり、その後日本での販売が途絶えたこともあったから、S90の印象は薄いといわれてもしかたがない。
ただ、新世代ボルボのフラッグシップセダンとして2016年1月のNAIAS(北米国際自動車ショー)でパブリックデビューした現S90は、実は相当な意欲作である。そう言い切れる理由は、新世代ボルボを示唆したコンセプトカー3部作のトップバッターとなった「コンセプトクーペ」のデザインテイストやディテールを見事に再現しているからだ。
コンセプトクーペは2015年のIAA(フランクフルトモーターショー)で公開されたデザインスタディーで、今に続くSPA(スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー)プラットフォームを用いた新しいデザインランゲージをまとっていた。スタディーモデルはクーペ、市販モデルはセダンという違いこそあれ、並べてみれば両者の共通性に気づくだろう。セダンでありながらどことなくクーペライクでスタイリッシュなイメージは、そこにルーツがある。
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電動走行が主役に
販売休止の期間を経て、2021年8月に受注生産モデルとしてラインナップに復活したS90 B6は、前述のように2リッター4気筒ターボエンジンに電気スーパーチャージャーを組み込んだ48Vマイルドハイブリッドシステム搭載車(MHEV)であった。エンジンは最高出力300PS、最大トルク420N・mを、モーターは同13.6PS、同40N・mを発生。組み合わせられるトランスミッションは8段ATの四輪駆動車だった。生産はS90のグローバル生産拠点である中国の大慶工場が担当している。
今回ステアリングを握ったS90リチャージは、エンジンが最高出力317PS、CISGが同71PS、リアモーターが同145PSを発生。そのパワフルな走りは、記憶のなかにあるS90 B6のそれとは別モノだった。外部充電が可能な電動モデル(PHEV)とあって、スペックシート上の車重は2100kgとB6よりも180kg重い設定となるものの、そうしたハンディを感じさせない重厚さのなかに軽快感が織り込まれたような独特のテイストが印象的である。
S90リチャージには、「Pure」「Hybrid」「Power」「Constant AWD」の4つの走行モードが用意されている。Pureモードはリアモーターだけで走行する純電動モードで、140km/hまでの速度領域をカバー。Hybridモードは基本となる走行モードで、バッテリーに十分電気がある場合にはモーター優先で走行しエンジンは走行状況に応じて稼働する。Powerモードはエンジンを常時使うことで強力な加速を実現。ドライバーが意識して充電を行いたい場合もこのモードを選択する。Constant AWDモードは常時四輪駆動となり、雨天や降雪時などの滑りやすい路面における走破性を高めている。
そうした予備知識の下で、パワーユニット始動後のデフォルトとなるHybridモードで走り始める。試乗時間の関係で混み合った横浜市内を抜け首都高に乗る1時間程度のルートでは、首都高本線への合流時に何度かエンジンの稼働を確認しただけで、ほとんどのシーンをモーターのみの電動走行でまかなえた。
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積極的なノイズ対策
首都高の流れに乗って淡々と走るぶんにはエンジンは作動せず、アクセルを少し深く踏み込んだ程度ではエンジンが目覚める気配もない。当たり前だがHybridモードでバッテリー残量に余裕がある状態では、まるで純EVをドライブしているようなフィーリングである。最小回転半径=5.9mゆえに街なかで扱いやすいとはいえないが、重心が低く4つのタイヤがしっかりと路面を捉えているその感覚は、剛性感あふれるソリッドなセダンボディーとともに、イイモノ感にあふれている。
245/40R20サイズの「ピレリPゼロ」タイヤはルックス的な理由からの選択でもあるのだろうが、騒音吸収スポンジを内蔵するノイズキャンセリングシステム「PNCS」が搭載されており、ロードノイズもほとんど気にならなかった。試乗車両の走行距離は1300kmを少し超えたところで、タイヤがひと皮むけた程度のコンディションであったことも無関係ではないだろう。ちなみにPNCSには、タイヤ構造と車体内で生じたキャビティノイズと呼ばれる騒音を数デシベル分抑える働きがあるという。
このタイヤや標準装備されるラミネーテッドサイドウィンドウなどの複合的な効果により、高速走行時のキャビンは実に居心地がいい。電動車が静かで快適なのは今や周知の事実で、このS90リチャージもその例に漏れない。バッテリーの搭載などの点でSUVの形状が有利なのは確かだが、SUVに比べて着座位置が低くドライバーがより路面に近いセダンは、ハンドリングや駆動力のコントロール面において同じプラットフォームを用いるXC系よりも緻密さを強く感じるのは気のせいだろうか。
EV走行換算距離が「T8 Twin Engine AWD」と呼ばれていた従来型の約2倍となる81km(WLTCモード)に延びたことも見逃せない。さらにHybridモードでバッテリーの使用状況を「Auto」に設定すれば、Googleとの連動により渋滞や道路のアップダウンなどを考慮した、目的地までの予測ルートにおけるエネルギー使用の最適化が車両主導で実施される。
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主役の座は譲っても
一般論として、令和のいまどきに果たしてセダンを欲するユーザーがどれほどいるのかという疑問はあるかもしれないが、セダンへのこだわりが捨てられない層は確実に存在する。今回撮影を担当したカメラマン氏もそのひとりで(現在の愛車は日本の高級セダン)、撮影中に「価格を気にせず言えば、この荷室の広さと(内外装の)質感はかなり魅力的ですね」と感想を述べていた。独立した荷室は防犯面でもメリットがあり、セダンの需要が軟調な北米市場でもサイズにかかわらずいまだ一定の売り上げが見込めるのはそうした理由からだという。
最新のボルボ車に共通するセリングポイントのひとつに挙げられるGoogleの搭載は、スマホなどで普段からGoogleを利用している人であれば、同じようなロジックで車両設定やインフォテインメント系のコントロールが行えるので便利に感じることだろう。音声コマンドの認識精度は高く、コツさえつかめばまるでリビングにいるように……とは大げさだが、ほぼ間違いなく目的地検索や気象情報の確認、エアコンやオーディオの操作が行える。
SUVやスポーツカーのような自己主張がなく、かつてのボルボ=ステーションワゴンのような“ボルボらしさ”も控えめなセダンは、正直刺さらない人にはまったく刺さることのないモデルかもしれない。しかし、地味ながらきらりと光る実用性や快適性がある。たとえマーケットでの主役の座をSUVに譲ったとしても、その魅力が完全に失われたわけではない。
ドイツや英国のセダンとも、ましてやラテン系のそれとも違う北欧テイストの内外装と、メーカーのプライドとして譲れない安全性の高さこそがS90リチャージのセリングポイントである。主張は控えめだがその芯はしっかりとしていて、久しぶりのセダン体験には懐かしさのなかに吹いた新しい風を感じたのだった。
(文=櫻井健一/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
ボルボS90リチャージ アルティメットT8 AWDプラグインハイブリッド
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4970×1880×1445mm
ホイールベース:2940mm
車重:2100kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:317PS(233kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/3000-5400rpm
フロントモーター最高出力:71PS(52kW)/3000-4500rpm
フロントモーター最大トルク:165N・m(16.8kgf・m)/0-3000rpm
リアモーター最高出力:145PS(107kW)/3280-1万5900rpm
リアモーター最大トルク:309N・m(31.5kgf・m)/0-3280rpm
タイヤ:(前)245/40R20 99W/(後)245/40R20 99W(ピレリPゼロ)
ハイブリッド燃料消費率:14.5km/リッター(WLTCモード)
充電電力使用時走行距離:75km(WLTCモード)
EV走行換算距離:81km(WLTCモード)
交流電力量消費率:240Wh/km(WLTCモード)
価格:1059万円/テスト車=1103万9650円
オプション装備:Bowers & Wilkinsプレミアムサウンドオーディオシステム<1400W、19スピーカー、サブウーハー付き>(36万円) ※以下、販売店オプション ボルボ・ドライブレコーダー<フロント&リアセット/スタンダード/工賃含む>(8万9650円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:1365km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

櫻井 健一
webCG編集。漫画『サーキットの狼』が巻き起こしたスーパーカーブームをリアルタイムで体験。『湾岸ミッドナイト』で愛車のカスタマイズにのめり込み、『頭文字D』で走りに目覚める。当時愛読していたチューニングカー雑誌の編集者を志すが、なぜか輸入車専門誌の編集者を経て、2018年よりwebCG編集部に在籍。