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アストンマーティンDBX707(4WD/9AT)

雄渾なるグランドツアラー 2023.01.11 試乗記 今尾 直樹 アストンマーティンのハイパフォーマンスSUV「DBX」に、さらにパワフルな「DBX707」が登場。最高出力707PS、最大トルク900N・mの膂力(りょりょく)を備えたニューモデルは、英国が誇る名門のプロダクトにふさわしい、豪快で雄々しい一台に仕上がっていた。

「3日で免許がなくなりますよ」

明けましておめでとうございます。アストンマーティンDBXの高性能版DBX707で2023年の幕を開けることができるというのは、筆者にとっても大変おめでたいことでございます。このスーパーSUVを2022年の師走に取材したおり、「3日で免許がなくなります。お気をつけください」と担当編集者のHさんが筆者に忠告してくれたのですけれど、筆者が触れたのは幸いにして1日、時間にすれば数時間、免許は無事であります。フツーが一番幸せ、というのはこういうことかもしれません。

ご存じのように707とは最高出力を示しております。707PSというスーパーパワーをガメラのような流線形のボンネットの下に隠しているスーパーSUV、それがアストンマーティンDBX707なのだ。創業1913年の英国の名門が、初のSUVとしてDBXを発表したのは2019年11月のこと。2年後の2022年2月に送り出されたDBX707は、それまでのDBXに比べ、いろんなところに手が入っている。

まずもって外観上は、高性能化によって発熱量が大きくなったエンジンをより冷やすべく、フロントのグリルが若干大型化されている。サイドシルやリアバンパーは仰々しさを増し、ルーフスポイラーも拡張している。試乗車は23インチという途方もないサイズのホイールをオプションで装着している。この超大径ホイールはボディーを小さく見せるという視覚上のトリックを生んでもいる。

「アストンマーティンDBX」をベースに、さらに動力性能を高めた「DBX707」。空力性能を強化する専用デザインのサイドシルやリアバンパー、ルーフスポイラーにより、視覚的にもベース車との差異化が図られている。
「アストンマーティンDBX」をベースに、さらに動力性能を高めた「DBX707」。空力性能を強化する専用デザインのサイドシルやリアバンパー、ルーフスポイラーにより、視覚的にもベース車との差異化が図られている。拡大
インテリアでは、ベース車の「DBX」からセンターコンソールを刷新。ドライブモードのセレクトスイッチが新設されたことで、インフォテインメントシステムのサブメニューを開かなくとも、走行モードを切り替えられるようになった。近年は異形タイプのステリングホイールを多用するアストンマーティンだが、「DBX」のそれはシンプルな円形だ。
インテリアでは、ベース車の「DBX」からセンターコンソールを刷新。ドライブモードのセレクトスイッチが新設されたことで、インフォテインメントシステムのサブメニューを開かなくとも、走行モードを切り替えられるようになった。近年は異形タイプのステリングホイールを多用するアストンマーティンだが、「DBX」のそれはシンプルな円形だ。拡大
フロントとリアには、職人の手になる真ちゅうとエナメルで出来た「アストンマーティン・ウイング」バッジを装着。「DBX707」では、リアのワードマークともどもダーククローム加工が施される。
フロントとリアには、職人の手になる真ちゅうとエナメルで出来た「アストンマーティン・ウイング」バッジを装着。「DBX707」では、リアのワードマークともどもダーククローム加工が施される。拡大
アストンマーティン DBX の中古車

SUVの皮をかぶったスーパースポーツ

注目のエンジンは、メルセデスAMG製4リッターV8ツインターボをベースに、より摩擦の小さいボールベアリングターボチャージャーを採用することで、最高出力を550PS/6000rpmから707PS/6000rpmに、最大トルクを700N・m/2200-5000rpmから900N・m/2750-4500rpmへと引き上げている。スタンダードから157PSと200N・mも向上させているのだ。

それにともない9段オートマチックは、トルクコンバーターの代わりに許容トルクのより大きい電子制御の湿式クラッチを組み合わせ、加速力を増すべくファイナルのギア比も3.07から3.27に低められている。カーボンファイバー製のプロペラシャフトの採用は、より俊敏な動力伝達と軽量化に貢献しているはずだ。

これらのモディフィケーションによって、0-100km/h加速は4.5秒から3.3秒に短縮。最高速度は291km/hから310km/hにアップ。“ゼロヒャク3秒台、時速300キロ超”のアナザー・ワールドに突入している。かの「ポルシェ・カイエン」の一番速いモデルだって、680PS、3.8秒、295km/hにすぎない。707は「ポルシェ911」でいうと「カレラ4S」の3.6秒、306km/hよりも速い。「世界最強のSUV」のビルボードを掲げるベく、トンデモナイ性能が与えられているのだ。

試乗車のマットなオリーブ色だと平成ガメラをちょっぴり思わせる、カタログ車重で2tを超える物体が、911カレラ4Sより速く加速するなんて!! う~む。感嘆するほかない。

これら性能強化に合わせて、3チャンバーのエアサスペンションを持つ足まわりも見直しを受けている。ブレーキはカーボンセラミック製ディスクを標準装備。スポーツカーの教科書どおり、ストッピングパワーも強化されている。

フロントまわりでは、パワートレインの冷却効率を高めるべく大型化されたラジエーターグリルが目を引く。横バー型のデイタイムランニングライトも「DBX707」の特徴だ。
フロントまわりでは、パワートレインの冷却効率を高めるべく大型化されたラジエーターグリルが目を引く。横バー型のデイタイムランニングライトも「DBX707」の特徴だ。拡大
4リッターV8ツインターボエンジンについては、過給機をボールベアリングターボチャージャーに変更するとともに、各部に独自のキャリブレーションを実施。大幅な出力向上とトルクアップを実現している。
4リッターV8ツインターボエンジンについては、過給機をボールベアリングターボチャージャーに変更するとともに、各部に独自のキャリブレーションを実施。大幅な出力向上とトルクアップを実現している。拡大
計器類に代えて装備される、12.3インチのインフォメーションディスプレイ。走行モードに応じて表示デザインが切り替わり、また画面の一部には、ナビゲーションシステムの地図を映すこともできる。
計器類に代えて装備される、12.3インチのインフォメーションディスプレイ。走行モードに応じて表示デザインが切り替わり、また画面の一部には、ナビゲーションシステムの地図を映すこともできる。拡大
マフラーはマットブラック仕上げで、左右2本ずつの計4本出し。エキゾーストサウンドはドライブモードに応じて変化するほか、専用のスイッチによってドライバーが任意で切り替えることも可能だ。
マフラーはマットブラック仕上げで、左右2本ずつの計4本出し。エキゾーストサウンドはドライブモードに応じて変化するほか、専用のスイッチによってドライバーが任意で切り替えることも可能だ。拡大

広いのにタイトで、間違いなく快適

スポーツカーの遺伝子を持つ、アストンマーティン史上初のSUVの、そのまた高性能モデルに乗り込む。そこはちょっとばかしSFっぽい雰囲気も漂うコックピットが待ち構えている。SUVっぽいのは着座位置が少々高いことぐらいで、現代のアストンマーティンのスポーツカーと同じ世界がつくられている。すなわち、ダッシュボードの中央に丸型のスイッチがいくつか並んでいて、真ん中の一番大きなボタンがスターターになっている。ドライバーの正面のメーター類は液晶化されていること、スポーツシートの背もたれのステッチの入り方がエヴァンゲリオンを思わせるV字型になっていたりすることなどから、よりSF度、未来度は増している。

ステアリングホイールはむしろ古典的なフツーの丸型で、筆者的には好ましい。ステアリングは丸いほうがやっぱり自然で、操作しやすいと私は思う。

ドライビングポジションは適度にタイトである。空間的には余裕がある。ホイールベースは3060mmと、フルサイズのサルーンに匹敵する長さがあり、ルーフはSUVということで高い。ところが、右側はドアの内張りの出っ張りが大きく、左側はセンターコンソールが高くなっている。おかげで右肘はドア側の出っ張りに、左肘は分厚いパッドの上にそれぞれのせ、両手でステアリングホイールに手を添えることができる。いわば広いお座敷のなかでゲーム用チェアに座っているような、タイト感とリラックス感がある。

ダッシュボード中央のスターターのボタンを押すと、3982cc V8ツインターボがガオオオオッとほえる。ブレーキペダルをちょいとばかし緩めると、SUVのスポーツカーはスイと走りはじめる。

ダッシュボードの上部に備わる、スタートスイッチとシフトのセレクトスイッチ。昨今のアストンマーティンでは、おなじみの光景だ。
ダッシュボードの上部に備わる、スタートスイッチとシフトのセレクトスイッチ。昨今のアストンマーティンでは、おなじみの光景だ。拡大
センターコンソールとサイドドアパネルはピアノブラックが標準。オプションで、カーボンファイバーのパネルも用意される。
センターコンソールとサイドドアパネルはピアノブラックが標準。オプションで、カーボンファイバーのパネルも用意される。拡大
16wayの電動調整機構やシートヒーターなどが装備されたスポーツシート。ベース車に備わるコンフォートシートも、オプションで用意される。
16wayの電動調整機構やシートヒーターなどが装備されたスポーツシート。ベース車に備わるコンフォートシートも、オプションで用意される。拡大
後席はコンベンショナルな3名乗車式。標準装備のガラスルーフは後席のヘッドルーム付近まで及んでおり、シェードを開けると大きな開放感が得られる。
後席はコンベンショナルな3名乗車式。標準装備のガラスルーフは後席のヘッドルーム付近まで及んでおり、シェードを開けると大きな開放感が得られる。拡大

英国流の“ますらおぶり”を感じる

乗り心地ははっきり硬い。タイヤサイズは前285/35、後ろ325/30という超極太ウルトラ偏平である。直径はどちらも23インチもある。めちゃくちゃデッカいピレリのスーパーカー用タイヤ「Pゼロ」を装着しているのだから、それもむべなるかな。

エアサスペンションにエアサス特有のフカフカ具合はみじんもない。ところが、である。中央自動車道の談合坂SAから先の、ちょっと荒れた路面でもDBX707はこともなげに快適に通過してみせた。まるで、たまたまNHKの『プロフェッショナル』で見た、モンスター井上尚弥がトレーナーのミットめがけてパンパンパンパンッとパンチを繰り出すように、DBX 707の電子制御のダンピング機構が、目にも止まらぬ素早さで動いている感じがした。とりわけ目地段差を乗り越えたときなんぞはパンパンパンッと攻撃的にサスペンションが動くことでボディをフラットに保っている。そういうイメージが浮かんだ。細かいことですけれど、パンパンパンッといっているのは筆者であって、クルマが発しているわけではない。

ステアリングホイールはやや重めで、クイックである。舵の入力に対するボディーの反応も、SUVとは思われぬ機敏さを示す。アクセラレーターを踏み込めば、ガオオオオオッという雷鳴のような、アストンマーティン特有の男らしいサウンドがとどろく。エキゾーストノートはドライブモードを切り替えることでも、そのためのスイッチを切り替えることによっても、大きくも小さくもできるけれど、大きくすればますますもって、ドライバーの心が駆け足をする。だんだん百獣の王ライオンになった気分、俺さま気分になってくるから、気をつけたい。

ブレーキはもう、めちゃくちゃ利く。談合坂SAで乗り換えた直後はブレーキをかけるたびにカックンになったほどで、高速でも笑っちゃうほど利く。軽くペダルに触れただけで、見る見る減速する。

ドライブモードは「Terrain」「GT」「Sport」「Sport+」に、カスタマイズモードの「Individual」を加えた全5種類。500mmの最大渡河深度を確保するなど、意外や悪路走破性にも配慮がなされている。
ドライブモードは「Terrain」「GT」「Sport」「Sport+」に、カスタマイズモードの「Individual」を加えた全5種類。500mmの最大渡河深度を確保するなど、意外や悪路走破性にも配慮がなされている。拡大
ドライブモードセレクターには「GT」「Sport」「Sport+」モードでローンチコントロールが使用できるよう改良が加えられたが、(当然のことながら)今回の試乗では試す機会はなかった。
ドライブモードセレクターには「GT」「Sport」「Sport+」モードでローンチコントロールが使用できるよう改良が加えられたが、(当然のことながら)今回の試乗では試す機会はなかった。拡大
ブレーキは前にφ420mm×40mmの、後ろにφ390mm×32mmのカーボンセラミックディスクを装備。制動力を高めるとともに、合計で40.5kgもバネ下重量を低減している。
ブレーキは前にφ420mm×40mmの、後ろにφ390mm×32mmのカーボンセラミックディスクを装備。制動力を高めるとともに、合計で40.5kgもバネ下重量を低減している。拡大
エアサスペンションは車高調整機能付きで、状況に応じて自動で車高が切り替わる。調整幅は上方が最大45mm、下方が最大50mmで、専用のスイッチによって乗員が任意で上下させることも可能だ。
エアサスペンションは車高調整機能付きで、状況に応じて自動で車高が切り替わる。調整幅は上方が最大45mm、下方が最大50mmで、専用のスイッチによって乗員が任意で上下させることも可能だ。拡大

物理法則をパワーと電子制御でねじ伏せる

山道らしい山道には今回、行っていないけれど、試した限りの印象としては、ロールはほとんどしない。サスペンションのジオメトリーやエアサスに加えて、48V電子制御式アクティブアンチロールコントロールシステムの働きのおかげらしい。このように背の高い物体が背の低いGTスポーツカーのようなレスポンスで動くというありえないことを、DBX 707は実現している。それは各種電子制御デバイスが慣性を抑え込んでいるからなのである。それをドライバーに気づかれることなくやってのけている。スゴい話である。

風切り音もロードノイズも、同日に試乗した高級サルーンと比べると、当然のことながら大きめで、ワイルドに感じる。全長5m超で全幅はほとんど2m、全高1680mmの、ホイールベースが3060mmもある巨体、車重が車検証で2310kgもあるSUVであることをいつの間にか忘れ、豪快な、男っぽいGTスポーツカーに乗っている感覚になってくる。それこそアストンマーティンの2座スポーツカー「ヴァンテージ」をドライブしてみるみたいに。しかも、ヴァンテージより洗練されている。

筆者的には次の007の愛車に推したいです。

(文=今尾直樹/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)

本文で紹介される箇所に加え、ドライブトレインでは4WDシステムのトランスファーの制御も変更。より自然で、スポーツカーに近いドライビング特性を獲得している。
本文で紹介される箇所に加え、ドライブトレインでは4WDシステムのトランスファーの制御も変更。より自然で、スポーツカーに近いドライビング特性を獲得している。拡大
SUVならではの高い機能性も「DBX707」の特徴。荷室容量は、パーセルシェルフより下で491リッター、荷室全体では638リッター。後席は電動格納式で、パワーテールゲートにはジェスチャーコントロール機能も装備される。
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全長5mを超える巨体と、2tを優に超える車両重量を持ちながら、同門のGTスポーツカーに通じるドライブフィールを有していた「アストンマーティンDBX707」。その走りからは、今年で創業110年を迎える老舗の歴史が感じられた。
全長5mを超える巨体と、2tを優に超える車両重量を持ちながら、同門のGTスポーツカーに通じるドライブフィールを有していた「アストンマーティンDBX707」。その走りからは、今年で創業110年を迎える老舗の歴史が感じられた。拡大
アストンマーティンDBX707
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テスト車のデータ

アストンマーティンDBX707

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5039×1998×1680mm
ホイールベース:3060mm
車重:2245kg(DIN、空荷重量)
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:707PS(520kW)/6000rpm
最大トルク:900N・m(91.8kgf・m)/2750-4500rpm
タイヤ:(前)285/35ZR23 107Y/(後)325/30ZR23 109Y(ピレリPゼロ PZ4)
燃費:14.2リッター/100km(約7.0km/リッター WLTPモード)
価格:3119万円/テスト車=--円
オプション装備:--

テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:4425km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:280.7km
使用燃料:40.3リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.0km/リッター(満タン法)/7.5km/リッター(車載燃費計計測値)

 
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今尾 直樹

今尾 直樹

1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。

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