トヨタ・クラウン クロスオーバーG“アドバンスト・レザーパッケージ”(4WD/CVT)
これがトヨタの選ぶ道 2023.01.10 試乗記 大きく変貌を遂げた16代目「トヨタ・クラウン」。車型が異なる4タイプが用意されるというラインナップのなかで、先陣を切って登場した「クロスオーバー」のハイブリッドモデルをロングドライブに連れ出し、実際の使い勝手や乗り味を確かめた。中高年ほどメリット大?
2022年に登場した国産新型車でもっとも議論を巻き起こしたクルマといえば、通算16代目となったクラウンだろうか。新しいクラウンは事実上の国内専用商品から海外でも販売されるグローバル商品へと脱皮。伝統的セダンから一転、SUV的なモデルが中心となって、最終的には4つのバリエーションが用意される予定という。
そんな新型クラウンのなかで、このクロスオーバーが第1弾となったのは、これが従来のクラウンからもっとも自然に乗り換えられるモデルだからという理由が大きいようだ。
たとえば、車体サイズである。クラウン クロスオーバーは先代比で全長が20mm、全幅が40mm拡大している。全幅がついに1.8mを突破したことは、日本人の目からはグローバル商品化のデメリットでもあるが、拡大幅そのものは正常進化の許容範囲内というべきだろう。ホイールベースは先代比で逆に70mmほど短くなっているものの、エンジンを横置きするFFレイアウトがベース(ただし、駆動方式は全車4WD)となったことで相殺されて、後席足元空間は逆に広くなった。
FFベースレイアウトのもうひとつの懸念は、最大舵角が小さくなって、小回り性能が犠牲になることだ。しかし、クラウン クロスオーバーでは後輪操舵を全車標準化することで、最小回転半径を従来と同等の5.4m(先代のそれは2WDモデルで5.3~5.5m)におさめた。つまり、取り回し性や居住性は、少なくとも数値上はまったく犠牲になっていないわけだ。
加えて、新たにクロスオーバースタイルとしたことで、前後のシート高は先代クラウンを含む伝統的セダンより50~80mmも高くなり、乗り降りするときの腰の上下動が小さくなったことで乗降性が大きく向上したとトヨタは主張する。これは従来のクラウンユーザーの中心である中高年(=足腰が弱ったことに悩む向きも多い)ほどメリットが大きいことが予想される。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
“クラウンらしさ”はどこにある
つまり、新型クラウン クロスオーバーは主要な機能性は従来型からほとんど犠牲にせず、そのうえで乗降性や居住空間、そして4WDによる走りの安定性など、新しいメリットを得たということだ。こう考えると、商品としてはスキのない王道の進化といえなくもない。
それでも、いまだに新型に否定派がおられるのは、根強いクラウンファンが少なくないことに加えて、これまで培われてきた“クラウンらしさ”が、このクルマにはあまりに希薄だからでもあろう。
エクステリアデザインも先代で導入した6ライトウィンドウのファストバック風4ドア……ということ以外、クラウン的な記号性は見事なまでに感じられない。インテリアも巨大センターコンソールにFRだった先代の雰囲気を感じなくもないが、大型の多機能センターコンソールは駆動方式を問わずに高級車表現のお約束でもある。実際、内装調度類にも歴代クラウンのおもかげはとくにない。
確固たるイメージをもつ商品をモデルチェンジする場合、駆動方式やパッケージレイアウトを変えるにしても……というか、そういう根本を変えるときにこそ、デザインや乗り味における“らしさ”を定義することからはじめるのがクルマの商品企画の常道である。それを定義したうえで、継承する部分とあえて変える部分を意図的に振り分けるものだ。
しかし、新型クラウンの発売直後に企画担当氏に「このクルマのどこがクラウンですか?」とうかがうと、「(鼻先やステアリングホイールの)王冠エンブレム」という答えが返ってくるだけだった。つまり、新型クラウンの開発においては“トヨタブランドの個人オーナードライバー向けの最高級商品”という位置づけ以外、味わいやデザインにおいて、昔ながらのクラウンらしさをあえて表現する意思はなかったということなのだろう。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
マニアックなこだわりを捨てる
ただ、乗り心地については“歴代クラウンの「ロイヤルサルーン」のお客さまにも満足いただける快適性”を意図したと、前記の企画担当氏は語っている。実際、豊富な地上高を生かして上屋をゆったり上下させるストローク感のある乗り心地は、まずまず快適だ。ただ、高級乗用車としては高速道では少しフラット感に欠ける気がするし、ダンピングにも今一歩、潤いあるねばり感がほしいところではある。
そこには21インチタイヤの影響もあるかもしれない。このクラスではちょっと挑戦的サイズともいえる21インチは、開発陣によると、なにより“見た目”を最優先しての採用だとか。しかも、大径タイヤのビジュアル効果を最大限に活用すべく、ショルダーがこれまでにないほど角ばった=大きく見える21インチタイヤの開発をメーカーに打診。そのトヨタの要望に応じたのが「ミシュラン」と「ダンロップ」の2社で、今回の試乗車にはそのひとつのミシュランが履かされていた。
見た目のイメージより自然でマイルドな操舵反応は、さすが新開発タイヤの恩恵がうかがえる。このインパクトあるビジュアルと自然な性能を両立したミシュランタイヤには、今後は他社からも引き合いがあると想像する。いっぽうで、ワダチなどの路面不整に進路が影響されやすいあたり、やはり特有のクセが皆無とはいえない。ロイヤルサルーンの伝統的な乗り味を好む向きには、もう少し路面変化に鷹揚(おうよう)な乗り味がいいのではないかと思う。そのあたりは下位グレートの19インチも試したいところだ。
FFベースながら4WDのみとしているクラウンだが、この2.5リッター直4ハイブリッドに乗るかぎり、「クラウン伝統のFRの味わいをFFで再現しよう」といったマニアックなこだわりはとくに感じない。ステアリングフィールは良くも悪くもFF系そのもので、4WDの駆動配分もあくまでフロント駆動が主体。安定感はすこぶる高いが、リアから積極的に旋回させるような挙動は示さない。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
向上したダイナミック性能
ただ、そんな4WDに加えて、トヨタブランドでは初出となる新開発マルチリンクリアサスペンション、後輪操舵(ダイナミックリアステアリング=DRS)が相まったクラウン クロスオーバーの走りは悪くない。
とくにDRSの効果は絶大だ。高速ワインディングロードや都市高速などのゆるいコーナーなどでは、ステアリングを切った分だけ正確に反応して、そのまま見えないレールの上を滑るかのようなトレース感が心地よい。これはリアタイヤがフロントと同じ方向に切れる高速域での美点だ。そのいっぽうで、駐車場や交差点では最初は“おっ”と声が出るくらいに小回りがきく。駐車場で大きく操舵して動いているときにイン側のドアミラーからは、リアタイヤが大きく切れているのが視認できるほどである。
また、最新のトヨタ車の電動油圧ブレーキは従来のアキュムレーター(蓄圧器)式から、内蔵モーターでマスターシリンダーを直接押すオンデマンド式に切り替わりつつあり、新しいクラウンも例外ではない。今回のブレーキも個人的には少しあいまいな足ごたえが残っており、完ぺきとはいいがたい。しかし、従来のトヨタの回生協調ブレーキと比較すると、ダイレクト感や正確性が確実に上がっている。
というわけで、この新しいクロスオーバーセダンには、歴代クラウンのような昔ながらの“日本車的なおもてなし感”は薄い。しかし、路面変化には少し影響されやすいが、ドライバーの運転技量にはあまり左右されない走りっぷりは、クラウンらしくないがトヨタらしいといえるかもしれない。ダイナミクス方面の新技術もたっぷりだし、パワートレインも今回の2.5リッター直4ハイブリッドこそ従来改良型だが、2.4リッター直4ターボ版は新しい。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
二者択一の結果
新型クラウンの路線変更に対しては、個人的には「是非もなし」というほかない。というのも、クラウンではオーナーの高齢化がのっぴきならないほど深刻になっていたからだ。
「ゼロクラウン」の愛称で親しまれた12代目が“若返り”をかかげて登場した2003年時点で、クラウンオーナーはすでに50~60歳代が中心になっていたという。「アスリート」を新設したゼロクラウンは、その平均年齢を40代後半~50代前半まで若返らせたが、続く13代目(2008年発売)ではその反動もあってか、一気に平均57~58歳に上がった。
それを受けて、さらなる危機感のもとで開発された14代目は、“イナズマグリル”や“ピンククラウン”が話題となって台数こそ少し持ち直したものの、販売最終期のオーナー平均年齢は販売年数分がほぼそのまま上昇して、ついに60代半ばを突破してしまった。
2018年に発売された先代=15代目が6ライトウィンドウなどこれまでのお約束を覆すデザインや、ニュルでの走り込みなど“らしくない”特色を前面に押し出したのは、まさに背水の陣だったからだ。実際、開発担当者の口から「ここでお客さまの若返りがかなわなければ、クラウンは最後かもしれない」とも聞いた。
そんな15代目は20~30歳代のオーナー比率がわずかに高まったというが、平均ではさらに高齢化。クラウンオーナーが大挙して免許返納年齢に突入するのも目前となった。しかも、発売翌年の2019年から販売台数も前年割れとなり、その後も前年比マイナスが続いた。ビジネスとして考えれば、クラウンをこれまでどおりの手法で世代交代する選択肢は、すでになくなっていたのだろう。
「プレミオ/アリオン」の晩年のように完全に命脈が尽きるまでそのままつくり続けるか、まったく新しいクルマとして生き残るか。クラウンに残された現実はこの二択であり、トヨタは後者を選んだ。その選択の成否を判断するのは、もう少し待つ必要があるだろう。
(文=佐野弘宗/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
トヨタ・クラウン クロスオーバーG“アドバンスト・レザーパッケージ”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4930×1840×1540mm
ホイールベース:2850mm
車重:1790kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.5リッター直4 DOHC 16バルブ
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:186PS(137kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:221N・m(22.5kgf・m)/3600-5200rpm
フロントモーター最高出力:119.6PS(88kW)
フロントモーター最大トルク:202N・m(20.6kgf・m)
リアモーター最高出力:54.4PS(40kW)
リアモーター最大トルク:121N・m(12.3kgf・m)
システム最高出力:234PS(172kW)
タイヤ:(前)225/45R21 95W/(後)225/45R21 95W(ミシュランeプライマシー)
燃費:22.4km/リッター(WLTCモード)
価格:570万円/テスト車=587万2150円
オプション装備:ボディーカラー<プレシャスブロンズ>(5万5000円)/デジタルインナーミラー(4万4000円) ※以下、販売店オプション フロアマット<エクセレントタイプ>(6万7100円)/HDMI入力端子(6050円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:3845km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(6)/山岳路(3)
テスト距離:282.3km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:13.1km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。