ホンダ・フィットe:HEVクロスター(4WD)
あなたのステキな日常に 2023.01.14 試乗記 利便性の高さが自慢の、ホンダのユーティリティーコンパクト「フィット」がマイナーチェンジ。改良前のモデルと比べて、どこに手が加わり、どのような進化を遂げたのか? SUVテイストあふれる「e:HEVクロスター」の4WDモデルに試乗し、その仕上がりを確かめた。悩み多き国産Bセグメント
日本のBセグメントコンパクトといえば、「トヨタ・パブリカ」あたりまでさかのぼらずとも、「スターレット」や「日産マーチ」の頃から数えてもざっくり半世紀近い歴史がある。その間、ファミリーカーからパーソナルカーへとニーズを広げ、仕向け地も広げながら進化してきたわけだが、現時点では大きな曲がり角を迎えている。
日本メーカーにとっての台数的な主要マーケットである米国・中国では、その小ささが敬遠され、欧州では強固な地場資本を相手に苦戦するばかりだ。肝心の日本市場でも、軽やAセグメントのスライドドア物件の人気におされて、シェアを奪われている。
と、そんな現状を最も端的に表しているのがフィットの不振だろう。販売台数は年間10万台を切り、登録車のなかだけでみても順位は10位前後にとどまり……と、かつて「トヨタ・カローラ」を引きずり下ろしてトップセラーに居座り続けた面影はない。先代はDCTで、現行は電動パーキングブレーキで、海外のサプライヤーに泣かされた不幸はあったものの、いずれにせよ往時の勢いを取り戻すのは難しそうだ。ホンダでは同じ血筋の「ヴェゼル」がフィットの不振を補っており、時に販売台数で追い抜かれたりしているのをみると、このクルマの斜陽ぶりがひときわ切なく映る。
そんなフィットの現行型が発表されたのは、2019年の東京モーターショー(参照)。そして2022年10月に、デビューから3年を経てのマイナーチェンジが施された。一部で不振の理由と称されたエクステリアデザインは、バンパーとグリルの形状が微調整された程度でシンプルな方向性が保たれたのは、個人的には至って賢明な判断だったように思う。
ライバルとは一線を画す機能性
今回のマイナーチェンジではラインナップに変更があり、大胆なバイカラーが印象的だった「ネス」に代わって、スポーティーな走りを売りとする「RS」が復活した。また、メカニズムの面ではガソリンエンジンを1.3リッターから1.5リッターに置き換えたほか、e:HEVも駆動用モーターの最高出力が14PSプラスとなっている。すなわち、動力性能の強化が全ラインナップに共通したポイントというわけだ。
試乗車は、5つのラインナップのなかでもちょっと異端となるクロスター。バンパー下やホイールアーチなどのクロスオーバー的な加飾には部分的にシルバーの差し色が入り、ラギッドなイメージをちょっと強めている。
試乗車はe:HEVの4WD。サスペンションは他の4WD車と共通だが、専用設定の高偏平タイヤを組み合わせることにより、最低地上高はそれらよりもさらに5mm高い155mmを確保した。ちなみに同じクロスオーバータイプのクルマで近いところを挙げると、「トヨタC-HR」の4WDモデルが155mm、「マツダCX-3」が160mmとなる。
「トヨタ・ヤリス」や「日産ノート」「マツダ2」といった直接的なライバルたちのことを思い浮かべながらこのクルマをみるに、やはりフィットが他を圧する最大の特徴はパッケージングだという思いを新たにする。特に後席の居住性のよさは一目瞭然。さらにその座面をチップアップして背高ものを載せることも可能……と、センタータンクレイアウトの利は機能においても明らかだ。初代フィットの登場からは20年以上の時がたち、すでに特許は失効しているから、コンセプト自体は他メーカーも使用することは可能だ。しかし、それに合わせたアーキテクチャーや生産設備の更新、並行して迫られる電動化移行のタイミングなども思うと、このアイデアはホンダだけが使い続けるものとなる可能性も高い。
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こんなに快適だったっけ!?
e:HEVの動力性能は、モーターベースでは1割は向上しているはずだが、あからさまに速くなったという感触はない。恐らくは、乗り比べてみればわかる、そんな感じだろうか。ただし、普段使いにおけるモーター稼働域はちょっと増えたかな、という印象だった。ちなみに燃費は、カタログ値的には前期型との差は微々たるもの。今回の試乗における計測値は、満タン法で16.9km/リッター、車載計読みで17.9km/リッターと、4WDということを差し引いてもやや振るわなかった。
ちょっと驚かされたのは乗り味だ。前型クロスターを試乗した際の印象や、“普通”のフィットの感触を思い出してみても、それらとは一線を画す据わりのよさが感じられ、突き上げの丸さや横揺れの小ささといった項目も一枚上手。総合的にみても、Bセグメントとしてかなり上質にまとめられている。考えてみればクロスターの4WDはこれが初試乗だったわけだが、足の長さというよりもリアサスの形式や重量に合わせたチューニングがピタリはまってるのではないかという感触だった。
ほかにも、乗り降りしやすい車高や優れた前方視界といった日常面での長所が挙げられるものの、その対価は262万円余。周囲のライバルに対して練られてはいるが、フィットとしてみればクロスターは奮発感のあるお値段だ。車格は小さいけれどもユーティリティーは高く、そこそこの走破性を備えつつも存在に威圧感はない。そういうわかりにくさを美点ととらえ、自分の暮らし向きに当てはめられる人にとっては、いい道具であるだけでなく、肌身に染みる道具となる資質はある。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
ホンダ・フィットe:HEVクロスター
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4095×1725×1570mm
ホイールベース:2530mm
車重:1280kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:106PS(78kW)/6000-6400rpm
エンジン最大トルク:127N・m(13.0kgf・m)/4500-5000rpm
モーター最高出力:123PS(90kW)/3500-8000rpm
モーター最大トルク:253N・m(25.8kgf・m)/0-3000rpm
タイヤ:(前)185/60R16 86H/(後)185/60R16 86H(ダンロップ・エナセーブEC300+)
燃費:24.2km/リッター(WLTCモード)
価格:262万0200円/テスト車=296万2300円
オプション装備:ボディーカラー<フィヨルドミスト・パール&ブラック>(8万2500円)/Honda CONNECTディスプレイ+ETC2.0車載器(19万8000円) ※以下、販売店オプション フロアカーペットマット<プレミアムタイプ>(2万8600円)/ドライブレコーダー<DRH-224SDフロント用>(3万3000円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:1460km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:304.5km
使用燃料:18.0リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:16.9km/リッター(満タン法)/17.9km/リッター(車載燃費計計測値)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。