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第250回:カーマニア、「アフィーラ」に物申す

2023.01.23 カーマニア人間国宝への道 清水 草一

レベル4の完全自動運転は目指さない?

ソニーとホンダが共同で設立したソニー・ホンダモビリティ。基本的にはソニー主導で、ホンダがそれをサポートする電気自動車(EV)のプロジェクトらしい。新しいEVのブランド名は「AFEELA(アフィーラ)」と発表された。

ソニーとホンダという黄金の組み合わせに、経済の専門家からは「期待が高まりますね」といった声が聞かれるが、古典的カーマニアの考えは違う。プレゼンの内容を聞けば聞くほど、「?」しか思い浮かばなかった。

アフィーラのブランド名を冠して販売されるEVは、自動運転に関してはレベル3を目指すが、ホンダはすでに「レジェンド」の「ホンダセンシングエリート」で、レベル3をやっている。アフィーラではそれをもっと発展させるのでしょうけど、レベル3じゃ特段のアドバンテージはない。

カーマニア的には、レベル3の自動運転そのものに、あまり魅力を感じない。レベル3は結局、自動車専用道路のみの運用にならざるを得ないが、高速道路の運転は、もともとラクチンかつ快適なもの。レベル2のACCがあれば鬼に金棒で、渋滞も怖くなくなる。それをさらに多少ラクチンにしてくれても、そんなにうれしくはないのだ。

レベル4の完全自動運転まで実現すれば革命が起きるけど、歩行者や自転車が混在する一般道でレベル4を実現するのは、想像を絶するほどハードルが高く、アフィーラはそもそもそれを目指していないようだ。ソニーだけに、プレステの『グランツーリスモ』で蓄積したデータを活用するのではという意見もあるが、『グランツーリスモ』には歩行者や自転車は出てこないよね? 20年以上やってないですが……。

ソニーとホンダが共同出資する新会社ソニー・ホンダモビリティが、ラスベガスの「CES 2023」で新ブランド名と、米テスラの対抗馬となるであろう新型EVのプロトタイプを発表した。今回はその新事業と新型車両に関し、カーマニアとしてひとこと言わせていただく。写真の車両は「テスラ・モデル3」。
ソニーとホンダが共同出資する新会社ソニー・ホンダモビリティが、ラスベガスの「CES 2023」で新ブランド名と、米テスラの対抗馬となるであろう新型EVのプロトタイプを発表した。今回はその新事業と新型車両に関し、カーマニアとしてひとこと言わせていただく。写真の車両は「テスラ・モデル3」。拡大
ソニー・ホンダモビリティが「CES 2023」で初公開した新型EVのプロトタイプ。ブランド名は「アフィーラ」だが、車名はまだ発表されていない。市販モデルは2025年前半に先行受注を開始し、同年内に発売。2026年春に北米で、次いで2026年後半に日本でデリバリーを開始する計画だ。
ソニー・ホンダモビリティが「CES 2023」で初公開した新型EVのプロトタイプ。ブランド名は「アフィーラ」だが、車名はまだ発表されていない。市販モデルは2025年前半に先行受注を開始し、同年内に発売。2026年春に北米で、次いで2026年後半に日本でデリバリーを開始する計画だ。拡大
「アフィーラ」の新型EVプロトタイプでは、デジタル技術を駆使した新しいエンターテインメントの提供がうたわれている。液晶パネルがずらりと並べられたインストゥルメントパネルは、どことなく「ホンダe」にも似ている。
「アフィーラ」の新型EVプロトタイプでは、デジタル技術を駆使した新しいエンターテインメントの提供がうたわれている。液晶パネルがずらりと並べられたインストゥルメントパネルは、どことなく「ホンダe」にも似ている。拡大
米ラスベガスで開催された「CES 2023」の会場で、新ブランド「アフィーラ」と新型EVのプロトタイプを発表したソニー・ホンダモビリティの水野泰秀会長兼CEO。
米ラスベガスで開催された「CES 2023」の会場で、新ブランド「アフィーラ」と新型EVのプロトタイプを発表したソニー・ホンダモビリティの水野泰秀会長兼CEO。拡大
ホンダ の中古車

車内でプレステし放題?

ECUにはクアルコム製のブツを採用し、1秒間に800兆回の計算処理をこなすという。テスラが採用しているECUの5倍以上だが、アフィーラによるEVの発売は2026年の予定。その頃にはテスラもそれくらいになってるかもしれない。そもそもクアルコム製でソニー製じゃない。いずれにせよ自動運転レベル3にとどまる限り、革命は起こせない。

クルマの前部に装備された「メディアバー」は、非常にレトロに感じる。そこに情報を表示して、周囲とコミュニケーションをとるということですが、つまり笑ったりシッポを振ったり、アイボみたいになるってことだろうか? 私はそういうクルマには昔から賛成なのですが、なら素直に眉毛やシッポをつけて動かしたらどうだろう(真剣です)。グリルに小さい文字を表示されても、われら中高年には読み取れない。

航続距離など走りに関しては何も発表がなかったので、そこには特別な目標はないようだ。ソニーはEV用バッテリーもつくっていないし、何もできないので、すべてホンダにおまかせか。

一番力を入れているのは、車内のエンターテインメント性を高めること。リアルとバーチャルの世界を融合していくことで、移動空間をエンターテインメント空間、感動空間へと拡張する。

「ソニー」と「エンタメ」という単語からシンプルに連想するのは、「車内でソニーの映画が見放題」「プレステもプレイし放題」なんて感じだけど、それなら「N-BOX」の車内にスマホを持ち込めばだいたい済んじゃわないか? 大画面にしたければタブレットにすればいい。持つ手が疲れるならスタンドを付ければいい。個人的には、車内で映画やゲームを楽しむ趣味は皆無ですが。

「アフィーラ」のブランド名で発表された新型EVのプロトタイプは、全長×全幅×全高=4895×1900×1460mm、ホイールベース=3000mm。5人乗りの4WD車で、レベル3の自動運転に対応する。
「アフィーラ」のブランド名で発表された新型EVのプロトタイプは、全長×全幅×全高=4895×1900×1460mm、ホイールベース=3000mm。5人乗りの4WD車で、レベル3の自動運転に対応する。拡大
エクステリアデザインは、SHM設立以前にソニーが発表したコンセプトモデル「VISION-S」「VISION-S 02」との連続性を感じさせる。タイヤサイズはフロントが245/40R21、リアが275/35R21で、サスペンションはフロントがダブルウイッシュボーン、リアがマルチリンク。
エクステリアデザインは、SHM設立以前にソニーが発表したコンセプトモデル「VISION-S」「VISION-S 02」との連続性を感じさせる。タイヤサイズはフロントが245/40R21、リアが275/35R21で、サスペンションはフロントがダブルウイッシュボーン、リアがマルチリンク。拡大
「アフィーラ」の新型EVプロトタイプの運転席……ではなく、「ホンダe」のドライブシーン。モニターが横一直線に並んだインストゥルメントパネルのデザインや、装飾性を排したシンプルさの追求などに両モデルの共通点を感じる。(写真=池之平昌信)
「アフィーラ」の新型EVプロトタイプの運転席……ではなく、「ホンダe」のドライブシーン。モニターが横一直線に並んだインストゥルメントパネルのデザインや、装飾性を排したシンプルさの追求などに両モデルの共通点を感じる。(写真=池之平昌信)拡大
車体フロント中央に「メディアバー」と命名されたディスプレイが搭載され、文字やアニメーションを表示。これで車外とのコミュニケーションを図る。
車体フロント中央に「メディアバー」と命名されたディスプレイが搭載され、文字やアニメーションを表示。これで車外とのコミュニケーションを図る。拡大

EV界ではテスラだけが貴族

ソニーの真意はまだわからないけれど、いまわかっている情報から推測すると、「ソニーはクルマのことをまったくわかってない」という結論になる。

クルマは基本的に走るだけの単純な機械で、あとは付け足しでしかない。走ることが何よりも重要であって、EVでもそれは同じ。いや、EVではICE車以上に重要だ。

テスラがEVで世界一に成り上がれたのは、EVに何が必要かを真剣に考えたからだろう。その答えが、「テスラスーパーチャージャー」による独自の高性能充電ネットワークの構築だ。おかげでテスラ車はEVとして唯一、ガソリン車にそれほど劣らない利便性を実現し、テスラを買った者しか味わえない超高速充電というある種のエンタメも実現した。他社のEVはこの点ですべて周回遅れだ。EV界ではテスラだけが貴族で、あとはほぼ全部、自前の専用充電ネットワークを持たない庶民なのだから。

EVにはまだ充電という大問題が横たわっている。それをスルーしてアプリのエンタメ性で勝負しても、惨敗は目に見えている。

EV「ホンダe」は、航続可能距離に対する価格の高さでグローバル的にも惨敗しているが、このままだとアフィーラのEVは、それ以上の惨敗を喫するだろう。ソニーが何か革命的な隠し玉を用意していることを祈るしかない。

それともアフィーラは、ソニーとホンダの趣味、道楽なのだろうか。利益は目指さず、EVで面白い実験ができればそれでいいのだろうか? それならそれでぜんぜんいいのですが。世の中、無駄も絶対必要ですからね!

(文=清水草一/写真=清水草一、池之平昌信/編集=櫻井健一)

テスラはEVに何が必要かを真剣に考え、その答えとして「テスラスーパーチャージャー」による独自の高性能充電ネットワークの構築に取り組んだ。おかげでテスラ車は、ガソリン車にそれほど劣らない利便性を実現した。EV界ではテスラだけが貴族といえる。
テスラはEVに何が必要かを真剣に考え、その答えとして「テスラスーパーチャージャー」による独自の高性能充電ネットワークの構築に取り組んだ。おかげでテスラ車は、ガソリン車にそれほど劣らない利便性を実現した。EV界ではテスラだけが貴族といえる。拡大
「アフィーラ」というブランド名には、「人がモビリティーを“知性を持つ存在”として『感じる』ことと、モビリティーがセンシングとネットワークに代表されるIT技術を用いて人と社会を『感じる』というインタラクティブな関係性への思いが込められている」という。
「アフィーラ」というブランド名には、「人がモビリティーを“知性を持つ存在”として『感じる』ことと、モビリティーがセンシングとネットワークに代表されるIT技術を用いて人と社会を『感じる』というインタラクティブな関係性への思いが込められている」という。拡大
「ホンダe」のプラットフォーム。床下に駆動用のリチウムイオンバッテリーが敷き詰められている。「アフィーラ」の市販モデルはどんなパフォーマンスを有しているのか、そして隠し玉はあるのか。今から正式発表が楽しみだ。(写真=池之平昌信)
「ホンダe」のプラットフォーム。床下に駆動用のリチウムイオンバッテリーが敷き詰められている。「アフィーラ」の市販モデルはどんなパフォーマンスを有しているのか、そして隠し玉はあるのか。今から正式発表が楽しみだ。(写真=池之平昌信)拡大
清水 草一

清水 草一

お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。

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