ライバルとの差は? 話題の走りは? 実車に感じた「三菱デリカミニ」の気になるトコロ
2023.01.27 デイリーコラムまだまだ話したいことがある!
昨年(2022年)11月の先行公開以来、ずーっとこのかいわいをにぎわせ続け、世の注目を集めている三菱の「デリカミニ」。「東京オートサロン2023」での実車のお披露目では、プレスカンファレンスから程なくしてショーが一般公開となったこともあり、クルマに集まる人の多さにマジで驚いた。かつて三菱の軽ワゴンが、ここまで注目を集めたことがあっただろうか? いや、ない!(←失礼) 乗るしかない、このビッグウエーブに。
『webCG』では過去にも複数回にわたりデリカミニを紹介しており、直近ではこの月曜日にも、玉川ニコ氏が人気のヒミツに迫るコラムを上げている(参照)。しかし、このクルマにはまだまだ気になるポイント、語るべきポイントがあるのだ。今回は、撮影会、東京オートサロンと取材の機会に浴した記者が、実車に触れての所見と関係者にうかがった話からデリカミニを語りたいと思う。テーマは、人気の源泉であるそのデザイン! ……に関しては散々触れられているので、今回はその使用感をお題としたい。もちろん、現状では妄想でしかない部分もあり、しかも数カ月以内に答え合わせができてしまう内容だ(発売は本年5月の予定)。もし記者がお門違いなことを書いていたら、「アイツ、適当なことを言ってやがったな」と後からくさしてくださいませ。
さて、デリカミニの使用感について考えるうえで、ひとつ押さえておくべきことがある。三菱も特段隠しているわけではないし、すでにお気づきの方も少なくないだろう。過日のコラムで清水草一氏も触れていたとおり(参照)、このクルマの中身は、実は「eKスペース/eKクロス スペース」なのだ。2020年に登場した2代目eKスペースの新たな派生モデルであり、eKクロス スペースの大幅改良モデル。それが、デリカミニの正しい解釈である。
というわけで、偉そうに「今回のお題は~」なんて書いたものの、デリカミニの使用感は、eKスペース/eKクロス スペースとほぼ一緒だと思われる。のっけから身もフタもなくて、申し訳ない。
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市販版ではここは改善してほしい
発表済みのあれこれを見ても、例えば開口幅650mmのリアスライドドアと、そこに用意されるハンズフリー開閉機能、クラス最長の320mmの後席スライド機能などは、ベース車でもライバルに対するアドバンテージとして語られていたポイントだ。前からも後ろからも引き出せる助手席のアンダーボックスなど、収納類も実車を見た限りは基本的に踏襲。アウトドアで重宝する樹脂製のラゲッジボードとPVC製の後席シートバックも、実はeKクロス スペースの中・上位グレードに同じように採用されていた。リーフレットのたぐいを見ても、特段変わったところは見当たらず、今のところは目新しいトピックはない。そもそも、このあたりについては大直しを迫られるほど、顧客から要望や不満が寄せられなかったのだろう。
思い起こすに、eKスペース/eKクロス スペースの機能性・利便性は、ライバルを研究し尽くした競争力の高いものだった……と、せんえつながら記者は思っています。上述のとおり、使用感につながる各部の寸法はクラストップかトップレベル。デジタルルームミラーなどの装備類も「ライバルにあってウチにないものはない」という練られた品ぞろえだった。タッチ操作の空調パネルは好みが分かれるところだが、それを含めた内装の質感も、クラスの平均を超えていたと記憶している。ピラーレスドアや前席のロングスライドといった飛び道具こそないものの、各要素でレーダーチャートをつくったら、一番面積が広い(≒総合点数が高い)のは案外このクルマなんじゃないか? と、ひそかに考えていたのだ。
だから、デリカミニも大丈夫。たぶん。
……強いて気になる点を挙げるとすると、それはUSBポートの設定だ(小声)。確かベース車では、標準装備は助手席シートバックに1つだけ。前席用は販売店オプションのナビとセットとか、確かそんな扱いだった。ちなみにざっと調べたところ、「ホンダN-BOX」ではほとんどのグレードでダッシュボードに2個を標準装備。「ダイハツ・タント ファンクロス」は前席用・後席用に1つずつが標準で、オプションで前席用に1つ増設可能。「スズキ・スペーシア ギア」は前席用に2個が標準で、オプションでさらに1つ増やすことができた。
まぁ、シガーソケット+カー用品でどうにでもなる話なのだが、やはりデリカミニでは、もうちょっと増やしてほしい。展示車両には増設されたポートは見当たらなかったが、「記者の観察がザルだった」あるいは「あれは試作で、市販車では増えていた」というオチに期待したい。
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走破性の“狙いどころ”はどのあたり?
ここまでは使い勝手の話。ここから先は操縦性や乗り心地といった、「乗ったらどうよ?」についてのお話だ。
皆さんご存じのとおり、デリカミニはFF車と4WD車で足まわりをつくり分けている。理由はもちろん、4WD車の悪路走破性を高めるためで、三菱伝統のオフロードミニバン“デリカ”の名を名乗る以上、ライバルのような“なんちゃって系”では、マジで済まされないのである。
開発責任者がオートサロンで語ったところによると、「このクルマでキャンプに行ってほしいと提案するからには、悪路で不安を与えるようなクルマにはしたくない」とのこと。プレスリリースでは「路面をしっかりと捉えながら車内には振動を伝えにくい設定とし、砂利道などの未舗装路を走行する際の安定性と快適性を高めました」と紹介されている。
このあたりから察するに、性能の狙いどころは“はやりの軽クロスオーバー+α”といったところか。積極的に悪路を楽しむものではないにせよ、少なくとも不整地で千鳥足になったり、バンパーがガリガリになったりはしないクルマに仕上げてくるはずだ。そこのツボを三菱が外すことはまずないとして、問題は悪路に配慮した4WD車の足まわりが、舗装路での乗り味にどう影響してくるかである。
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悪路と舗装路での“性能”を両立できるか
三菱に聞いたところ、デリカミニの最低地上高は、FF車では155mmとベース車と変わらず、4WD車では160mmと10mm高くなっている(ベース車では車両の底部にドライブトレインが通るぶん、4WD車のほうが最低地上高が低いのだ)。個人的には「もうちょっと上げてくるかな?」と思っていたのだが、これが彼らの導き出した最適解なのだろう。それに、これだけのリフトアップでもデリカミニの全高は「Tプレミアム」(4WD)で1830mmに達しているのだ! この数字、ルーフレール込みとはいえ、かの「ダイハツ・ウェイク」(1835mm)に迫るものである。
背が高くなると、当然ながら上屋はふらつきやすくなる。それを抑えるためにはサスペンションを締める必要があり、結果として腰高系のクルマには、見た目に反して舗装路での乗り心地が硬いものが少なくない。また車高が高くなると必然的に空気抵抗は増える(=燃費が悪化する)し、横風にも弱くなる。悪路を除くと、あまり性能的にいいことはないのだ。
確かに、なかには「適度にロール感が増して、運転がしやすくなった」なんて例もあったりもしたが、それらはなべて、もっと背の低い……というか、縦横比がマトモなクルマをリフトアップした場合である。そもそも、ベース車の段階でここまでノッポだったクルマを、さらにノッポにしたケースなど聞いたことがない! 記者にはその乗り味が想像つかないのである。
……もちろん、当方のようなズブの素人に指摘されるまでもなく、三菱もこれらの課題は百も承知だろう。気になるのは、彼らがどのあたりに着地点を見いだしたかである。上述の理由からちょっと不安にはなるものの、三菱は日本における乗用4WDのパイオニア。あまたのSUVを手がけてきた手だれだ。さすがにヘンなことにはならないだろう……と思う。たぶん。大丈夫ですよね⁉
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高まる注目度とクルマへの期待
……以上が、現状において記者が三菱デリカミニに思うこと、気になっていることである。
全国軽自動車協会連合会が発表した2022年の軽の年間販売台数を見ると、ホンダN-BOXが20万台超、ダイハツ・タントとスズキ・スペーシアが10万台超となっている。これに対して三菱は、eKシリーズを全部足しても3万台ちょっとと、まぁずいぶんな差をつけられている。
もちろん、これほどの差がつくほど商品のデキが違うはずがない。だとしたら、皆が軽を買う際の候補車リストに、そもそもeKシリーズが入っていない。ユーザーの目に留まっていないのだ。ならば話題性を盛りに盛って、いやでも目につくようにするべし。同時に軽の購買層以外からも、お客を引き込めるクルマにしてやろう。
デリカミニというクルマが持つあまたのトピック……例えば、“eK”の名を捨てて“デリカ”を名乗ったことや、劇的すぎるデザインの変更、ライバルとは一線を画す「走破性をあきらめない姿勢」などの背景には、こうした思惑があったのではないか。
翻って現状を見ると、まさに三菱の思惑どおり。ネットかいわいでは「しょせんコスメ違い」とくさす声もあるが、それも含めて話題の燃料だ。クルマに詳しい人はもちろん、そうでない人も「なにこれカワイイ!」とデリカミニを見ているわけで、ここまでの盛り上がりっぷりは、当の彼らも予想していなかったことだろう。
三菱は、ここまで自分で上げてしまったハードルを、ちゃんと越えられるのか? 現行型「アウトランダー」「eKクロスEV」と続いてきた新型車の前向きな運気を、デリカミニでも継続できるのか? ちょっとイジワルな見方だけど、そういう意味でも、記者は今から5月が楽しみなのである。
(文=webCGほった<webCG”Happy”Hotta>/写真=三菱自動車、webCG/編集=堀田剛資)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。