クルマとしての魅力を磨いたハイブリッドカーの代名詞
【徹底解説】新型トヨタ・プリウス 2023.01.31 ニューモデルSHOWCASE トヨタの看板車種をつとめてきたハイブリッドカー(HEV)「プリウス」がフルモデルチェンジ。“燃費第一”だったこれまでとは異なり、クルマとしての魅力を磨いて再出発を切った。5代目となる新型の実力を、デザインや装備、走り、燃費性能と、多角的に徹底解剖する。新しい在り方を模索するトヨタの看板車種
世界一のHEVメーカーといえるトヨタにとって、プリウスは象徴的な存在だ。初代モデルは今から約25年前の1997年末に、世界初の量産HEV乗用車として誕生(参照)。ちなみに、その開発責任者をつとめたのが、現トヨタ会長の内山田竹志氏である。
初代では“一風変わったエコカー”にすぎなかったプリウスがブレークしたのは、5ドアの空力ルックで登場した2代目(2003年秋登場)からだ。とくに北米でヒット作となった。環境問題に関心が高い俳優のレオナルド・ディカプリオが、2005年2月のアカデミー賞授与式に乗りつけたことで知名度が一気に上がった。翌2006年にはアル・ゴア元副大統領の主演で地球温暖化問題をあつかったドキュメンタリー映画『不都合な真実』が上映され、またこの時期はガソリン価格も歴史的な高騰を記録するなど、プリウス人気を後押しする事象が重なったのだ。
3代目プリウスは2009年に登場したが、今度は日本で人気が爆発する。リーマンショックを機に導入されたエコカー減税・補助金に加えて、205万円という発売時のスタート価格が最大の理由だろう。それは2代目を30万円近く下回り、しかも車格が下の「ホンダ・インサイト」のたった16万円高にとどまっていたからだ。結果、3代目プリウスは発売から4年間、国内登録車販売ランキングの1位に君臨。その後も最後まで2~3位をキープした。
続く2015年に国内発売された4代目は、新世代技術コンセプト「TNGA」を初めて掲げて登場。こうしたトヨタの技術革新がプリウスから始まることが多いのも、その存在の大きさゆえだ。しかし、走りも燃費もさらに進化していた4代目だが、デザインに賛否が分かれたからか、発売直後の2年間は安定の国内登録車販売1位を獲得したもののその後の販売は下降線をたどった。
というわけで、5代目である。HEVは完全に普通のものとなり、プリウスの販売も2~3代目ほどの勢いがなくなっているのは事実。実際、企画段階では電気自動車(BEV)やタクシー専用車へのくら替えも検討されたとか。しかし最終的には、今回の5代目も乗用メインのHEV専用車として登場した。
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【ラインナップ】
事実上のエントリーモデルは“サブスク”専用
新型プリウスにはHEVとプラグインハイブリッド車(PHEV)が用意されるが、現時点(2023年2月)で正式発表されているのはHEVのみなので、今回はそちらに限定して解説する。
まず、プリウスのHEVにはパワートレインが2種類あり、それぞれに2グレードずつ、計4グレードが用意される。さらに全グレードで2WDと4WDが選べるので、車両本体の選択肢は都合8種類である。
ただし、もっとも安価(2WDで275万円、4WDで297万円)な1.8リッターHEVの「X」は、実質的にビジネス専用グレード。内装は真っ黒、車体色も白と銀のみとなる。個人ユーザーを想定するのは同じく1.8リッターの「U」、そして高性能版となる2リッターの「G」と「Z」の3グレードだ。
外観では、大径19インチホイールが標準装備されるのが、2リッターモデル最大の特徴である。室内の装備内容は最上級のZが頭ひとつ抜けており、UとGはよく似ている。ただし、事実上のエントリーモデルとなるUは当面、トヨタ独自のサブスクリプションサービス「KINTO」専用で、通常購入できないのは注意が必要だ。
【主要諸元】
グレード名 | X | X E-Four |
U | U E-Four |
G | G E-Four |
Z | Z E-Four |
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基本情報 | 新車価格 | 275万円 | 297万円 | 299万円 | 321万円 | 320万円 | 342万円 | 370万円 | 392万円 |
駆動方式 | FF | 4WD | FF | 4WD | FF | 4WD | FF | 4WD | |
動力分類 | ハイブリッド | ハイブリッド | ハイブリッド | ハイブリッド | ハイブリッド | ハイブリッド | ハイブリッド | ハイブリッド | |
トランスミッション | CVT | CVT | CVT | CVT | CVT | CVT | CVT | CVT | |
乗車定員 | 5名 | 5名 | 5名 | 5名 | 5名 | 5名 | 5名 | 5名 | |
WLTCモード燃費(km/リッター) | 32.6 | 30.7 | 32.6 | 30.7 | 28.6 | 26.7 | 28.6 | 26.7 | |
最小回転半径 | 5.3m | 5.3m | 5.3m | 5.3m | 5.4m | 5.4m | 5.4m | 5.4m | |
エンジン | 形式 | 直列4気筒DOHC | 直列4気筒DOHC | 直列4気筒DOHC | 直列4気筒DOHC | 直列4気筒DOHC | 直列4気筒DOHC | 直列4気筒DOHC | 直列4気筒DOHC |
排気量 | 1797cc | 1797cc | 1797cc | 1797cc | 1986cc | 1986cc | 1986cc | 1986cc | |
最高出力 (kW[PS]/rpm) | 72[98]/5200 | 72[98]/5200 | 72[98]/5200 | 72[98]/5200 | 112[152]/6000 | 67[91]/5500 | 67[91]/5500 | 67[91]/5500 | |
最高トルク (N・m[kgf・m]/rpm) | 142[14.5]/3600 | 142[14.5]/3600 | 142[14.5]/3600 | 142[14.5]/3600 | 188[19.2]/4400-5200 | 120[12.2]/3800-4800 | 120[12.2]/3800-4800 | 120[12.2]/3800-4800 | |
過給機 | なし | なし | なし | なし | なし | なし | なし | なし | |
燃料 | レギュラー | レギュラー | レギュラー | レギュラー | レギュラー | レギュラー | レギュラー | レギュラー | |
フロントモーター | 最高出力 (kW[PS]) | 70[95] | 70[95] | 70[95] | 70[95] | 83[113] | 83[113] | 83[113] | 83[113] |
最高トルク (N・m[kgf・m]) | 185[18.9] | 185[18.9] | 185[18.9] | 185[18.9] | 206[21.0] | 206[21.0] | 206[21.0] | 206[21.0] | |
リアモーター | 最高出力 (kW[PS]) | 30[41] | 30[41] | 30[41] | 30[41] | ||||
最高トルク (N・m[kgf・m]) | 84[8.6] | 84[8.6] | 84[8.6] | 84[8.6] | |||||
寸法・重量 | 全長 | 4600mm | 4600mm | 4600mm | 4600mm | 4600mm | 4600mm | 4600mm | 4600mm |
全幅 | 1780mm | 1780mm | 1780mm | 1780mm | 1780mm | 1780mm | 1780mm | 1780mm | |
全高 | 1420mm | 1420mm | 1420mm | 1420mm | 1430mm | 1430mm | 1430mm | 1430mm | |
ホイールベース | 2750mm | 2750mm | 2750mm | 2750mm | 2750mm | 2750mm | 2750mm | 2750mm | |
車両重量 | 1350kg | 1410kg | 1360kg | 1420kg | 1400kg | 1460kg | 1420kg | 1480kg | |
タイヤ | 前輪サイズ | 195/60R17 | 195/60R17 | 195/60R17 | 195/60R17 | 195/50R19 | 195/50R19 | 195/50R19 | 195/50R19 |
後輪サイズ | 195/60R17 | 195/60R17 | 195/60R17 | 195/60R17 | 195/50R19 | 195/50R19 | 195/50R19 | 195/50R19 |
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【パワートレイン/ドライブトレイン】
最新世代のハイブリッドシステムに全面刷新
パワートレインは当然のごとくHEV専用だ。かつて「THS II」と呼ばれたトヨタ独自の「シリーズパラレルハイブリッド式」で、モーター走行、エンジン走行、エンジン+モーター走行、シリーズハイブリッド走行……と、あらゆるパターンを最適に使い分けながら走る。
これまでのトヨタ製HEVは、基本的にプリウスのモデルチェンジをきっかけに世代交代してきたが、今回の“第5世代”は、2022年1月登場の「ノア/ヴォクシー」に搭載されて初めて世に出た。
先代プリウスに搭載されていた第4世代に対して、モーター出力を引き上げるいっぽうで、小型軽量化しているのが特徴だという。搭載されるリチウムイオン電池の容量(4.08Ah)も、ノア/ヴォクシーのそれと同じだ。
そこに組み合わされるエンジンには、前記のとおり1.8リッターと2リッターがある。U(と営業車仕様のX)に搭載される1.8リッターは、ノア/ヴォクシーと同チューン(最高出力98PS、最大トルク142N・m)の「2ZR-FXE」型で、140PSというシステム出力は、先代プリウスに対して18PSアップとなる。
GとZに搭載される上級パワートレインの2リッターエンジンは、TNGA世代の「M20A-FXS」型で、出力は違えど「レクサスUX250h」に積まれているものと同じだ。単体では152PS、188N・mを発生し、システム出力は196PSとなっている。
4WDに使われる高出力型リアモーターも、ノア/ヴォクシーで世に出たものだ。従来の7.2PSから41PSへと大幅にパワーアップしたほか、ほぼ“発進専用”だった先代のそれが、転がり抵抗の小さい非同期誘導モーターだったのに対して、新型ではより高出力・高効率な交流同期モーターとなり、高速での操縦安定性にも積極的に寄与するようになった。
カタログ燃費(WLTCモード)は1.8リッター車が2WDで32.6km/リッター、4WDで30.7km/リッター、2リッター車の2WDが28.6km/リッター、4WDが26.7km/リッターだ。
先代のデビュー時には通常グレードで37km/リッター台、燃費優先グレードの「E」にいたっては40km/リッター超をうたっていたのに比べると、インパクトは薄い。それもあって、開発陣もあえて「新型プリウスは表面的な燃費性能にこだわらなかった」と語る。しかし先代発売当時の数字は、WLTCモードより有利なJC08モードによるものであり、後に示されたWLTCモードの数字は、2WDで27.2~32.1km/リッター、4WDで25.4~28.3km/リッターとされている。つまり、同じ1.8リッターモデルなら新型プリウスは燃費でもしっかり進化しているわけだ。
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【ボディーサイズ/デザイン】
燃費だけでなく走りやデザインも重視
新型プリウスも、“リアにハッチゲートをもつ5ドアサルーン”の車体形式や、“ワンモーション的なフォルムにリアエンドをスパッと断ち切ったエアロルック”といったデザインの基本路線は、2代目からの伝統を守る。いっぽうでハンマーヘッドシャークをモチーフにしたフロントエンドは、トヨタの最新デザインに共通するキーポイントである。
車体サイズは全長×全幅×全高=4600×1780×1420~1430mm。先代比で25mmアップした全長や20mm大きくなった全幅は、時代に合わせたサイズ拡大といった印象だ。しかし、40mm低くなった全高に加えて、フロントウィンドウを猛烈に傾斜させたクーペルック、19インチ(ただし2リッター車のみ)という大径タイヤ&ホイールを組み合わせたたずまいには、プリウスを単なるエコカーではなく、クルマとしての魅力で選ばれる商品へ脱皮させようという意図が強くうかがえる。
ルーフの頂点が先代の前席頭上付近から後席付近に移動しているのも、デザイン上の新型のハイライトとなっている。空力的には先代のように前寄りのほうが有利だというが、あえてのデザイン優先の姿勢にも、新型の開発コンセプトがあらわれている。事実、Cd値(空気抵抗係数)は先代の0.24より悪化した0.27となっているが、低い全高や、大径化したかわりに幅細となったタイヤによる前面投影面積の縮小で、空気抵抗の大きさを示すCdA値は、先代とほぼ同等に収まっているという。
先述のとおり、先代プリウスはTNGAを冠した最初のトヨタ車であり、新世代プラットフォーム「GA-C」の第1号車でもあった。新型プリウスの基本骨格は第2世代GA-Cともいえる改良型で、今回もそれを用いた最初のモデルとなる。車体剛性は大幅に強化され、前後サスペンションも、形式こそこれまでと同様だが、すみずみまでリファインされているという。また今回からアクセルペダルがオルガン式に変わっていることにも注目だ。
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【インテリア/荷室/装備】
乗車スペースは改善され、荷室は狭くなった
そのエクステリアデザインから「室内が狭くなったのでは?」との不安を抱く向きも多いと思うが、前後席のヒップポイントもより低く、そしてより後ろに移動しているので、ヘッドルームは先代と大きく変わらない。ドライビングポジションは逆に改善されており、またホイールベースが先代より50mm伸びて2750mmとなったこともあって、いわゆるタンデムディスタンス=前後席間距離もわずかながら広くなっている(先代比+8mmの936mm)。ただ、荷室はそのしわよせを受けており、容量は先代より縮小している。
インテリアデザインは水平基調のシンプルなダッシュボードに、独立したセンターディスプレイや液晶メーターパネルを配置したもので、トヨタは「アイランドアーキテクチャー」と称している。ステアリングやメーターパネル周辺はBEVの「bZ4X」によく似たものだ(同じではないが)。センターディスプレイは営業車仕様のX以外では標準装備となっており、その画面サイズは最上級のZが12.3インチ、GとUが8インチである。
このディスプレイのほかにも、Zの専用装備としては、外装ではLEDアクセサリーランプや、前後バンパー/ホイールアーチなどのツヤあり加飾があり、内装では電動調整機能つきの合成皮革シート、前席ベンチーション、空調の「ナノイーX」、フロントドアのスーパーUV&IRカットガラス、ワイヤレス充電器があげられる。機能面では半自動駐車が可能な「アドバンストパーク」も大きな特徴だ。
社会貢献という理念からトヨタ製HEVに必ず用意されることになっているAC100V・1500W給電システムは、新型プリウスでは全車標準装備となる。ソケットは荷室側面と後席用のセンターコンソールに設置されており、センターコンソールから車外にコードを引き出す際に用いる窓枠アタッチメントも、標準で付属する。
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【バイヤーズガイド】
KINTOの利用も前向きにご検討を
乗用車として必要な性能や機能を十分に踏まえているという意味で、1.8リッターのUグレードでなんら不足はない。自動緊急ブレーキやアダプティブクルーズコントロール、トヨタ独自の「プロアクティブドライビングアシスト」といった主要な先進運転支援システム(ADAS)も標準装備である。また、ステアリングヒーターや前席シートヒーター、スポーツシート、上級シート表皮、そして「ブラインドスポットモニター」「バックカメラ」「緊急操舵支援/フロントクロストラフィックアラート/レーンチェンジアシスト」「パノラミックビューモニター」といった豊富なメーカーオプションが、好みや必要に応じてトッピング可能なのもUグレードの特徴だ。
ただ、事実上のエントリーモデルでもあるUは、前記のように当面KINTOでのサブスク契約しか受け付けていない。KINTOではもちろん多様なプランが用意されるが、たとえば新型プリウスUを5年契約で乗る場合、初期費用なしのプラン(中途解約は違約金発生)で月々1万9030円から。途中解約自由・契約期間3年のフリープランで、初回申込金24万7940円+月々4万4440円から(4年以上乗る場合は再契約料13万3320円がかかるが、月々費用は少し安くなる)となる。
もっとも、上述の支払額には任意保険(車両保険込み)やメンテ費用、税金、消耗品代、故障修理時の代車費用、ADASやコネクト機能のアップグレード代もすべて含まれるので、割り切ったらそれなりに魅力的な設定といえる。また、2022年1月末現在のトヨタ公式サイトに掲載される納車のめども、GやZグレードでは明記されていないのに、KINTO専用のUグレードは1.5~2カ月と明記されている。
それでも、従来どおり正面から購入したいというなら、予算が許せば最上級のZグレードを選びたい。前記のように室内装備がかなり豪華になるほか、半自動駐車システムの「アドバンストパーク」も付いてGの50万円高なら、十分に納得できる。もちろん、ZやGの2リッター車をKINTOでサブスク契約することも可能だ。
(文=佐野弘宗/写真=トヨタ自動車/編集=堀田剛資)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。