ランドローバー・レンジローバー ファーストエディションP530(4WD/8AT)
ありがたき出来栄え 2023.02.20 試乗記 プレミアムSUVの開祖であり、いまだにその中心にあり続ける「ランドローバー・レンジローバー」。その実力を確かめんと信州の雪中行軍に臨んだのだが、冬の山道をあっけなく踏破する盤石のパフォーマンスに、筆者はただただ感服するしかなかった。今なお孤高の存在
2023年の今年、ランドローバーは誕生75周年の節目を迎えている。人の年なら親戚のおじいちゃんを思い浮かべるかもしれないが、4分の3世紀といえばありがたみもひとしおだろう。
第2次大戦後の1948年、ときのローバー社が米軍の小型軍用車「ジープ」に触発されてつくった「ランドローバー・シリーズ1」に始まるその歴史において、明確に新章の始まりを告げたのが、1970年に登場したレンジローバーだ。
軍需や業務向けの供給が主だったシリーズ1(とその改良型の「シリーズ2」)に対して、レンジローバーでははっきりと民生を意識したコンセプトが立てられた。1960年代以降、レジャーユースとしてクロカンモデルがじわじわともてはやされ始め、ジープの「ワゴニア」、トヨタの55型「ランドクルーザー」と、一般ユーザーをターゲットにしたモデルも登場してくる。そうしたなかでレンジローバーが強く意識したのは、静かさや快適さといった上質側の価値軸だ。シリーズ1ゆずりの高い走破性に加え、高級車ばりの設(しつら)えや乗り心地が与えられたことで、レンジローバーはイギリスの富裕層の間で、週末のアクティビティーのお供としてもてはやされた。また近隣の欧州のみならず、イギリス最強の商材でもあるカルチャーが憧憬(しょうけい)の対象であるアメリカや日本でも、その存在がもてはやされることとなった。
21世紀はSUVがブームからスタンダードへと変貌を遂げ、それを持たない自動車メーカーはごくごく限られるほどになった。ランドローバー自身も「ディフェンダー」や「ディスカバリー」「レンジローバー イヴォーク」「レンジローバー ヴェラール」、そしてレンジローバーの車格にほど近い「レンジローバー スポーツ」と、そのバリエーションを広げている。
これほどバリエーションを増やしてもなお、レンジローバーは孤高の存在だった。それは動かさずとも座れば伝わるほどに、だ。
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ボディーの合わせ込みに表れる自信
軽く見下ろすように座らせる着座位置、前の四隅がかっちり見切れるクラムシェルボンネット、側方を見通すに顔を出しやすい低いベルトライン、手のひらの腹でもしっかりグリップできる三角形寄りのステアリングスポークの断面形状。それらを扱いやすいように位置合わせしてしていくと、気づけば背もたれは立ち気味に、背筋は伸び気味にと、自然にドライバーは折り目正しい姿勢で構えることとなる。ランドローバーいわくの「コマンドポジション」だ。
残念ながら、代を追うごとにこのドラポジは変わっている。ライバルの車格も見据えながら、慎重にモダナイズを重ねるデザインもその理由だが、最近では25%オフセットや側面衝突といった新たな衝突基準への対応など、実務的な理由も含めて内外装の設計にはさまざまな制約がつきまとう。それもあってか、見下ろし視点や前端の見切りのしやすさなどはなんとかキープされているが、ベルトラインの高さやステアリング形状といったアクの強い特徴は、ほぼ感じ取れなくなった。それでもスポーティネスで押してくる他の多くのSUVに比べれば、端正な収まり感はちょっと異質だ。
それにしても、新しいレンジローバーの内外装の潔癖なつくり込みには驚かされる。ドアやゲートなどの開口面とフェンダーパネルのチリ合わせなどは、不均衡な入力によるねじれを想定するオフロード車両とは思えない。残念ながら、筆者は新型レンジローバーでは過酷な悪路を体験していないのだが、恐らく過去のそれらの体験からいえば、あぜんとするような走破力を有しているはずだ。その能力から見積もれば、ボディー剛性にとんでもなく余力がなければ、ここまでの詰め方はできないだろう。
今回は信州の雪のなかをはい回っただけだが、たとえシルクのスーツで岩場をよじ登るような、そんな扱い方であっても、レンジローバーはドライバーに苦労を求めない。手元の「テレインレスポンス」で適切な走行モードを選択するだけで、見合った車高調整や駆動配分、デフロック制御、ギア選択をすべて行ってくれる。テレインレスポンス然(しか)り、そして下り坂で歩くほどの車速を維持し続けるヒルディセントコントロール然り、今では多くのモデルが似たような仕組みを備えるが、その端緒はランドローバーにある。目指すのは悪路をいかに安心確実に、そして快適に走破できるか。彼らのプロダクトに共通するところの真ん中にいるのは、やはりレンジローバーだ。
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こんなに簡単・快適でいいの?
それにしても、時折視界を奪うほどに降りすさぶ雪のなか、この巨体に揺られてのドライブが、こんなにアホみたく極楽でいいものだろうか。予期せぬ挙動が現れる覚悟は常にしておかなければならないと、そう自分に言い聞かせながらも、確かなトラクション感を伴ってごくごく普通に走れてしまうものだから、眼前の過酷な景色からもリアリティーが伝わってこない。レンジローバーで悪環境を走ろうというのなら、最大の敵は路面ではなく、後席にサボローを幻視しそうな、自らの慢心なのかもしれない。
ちなみに、今回履いていたノキアンのスタッドレスタイヤは、“見せるトレッド”化が著しい日本のそれに比べると、随分もっさりした見た目ながら、ノイズ的にもグリップ的にも及第以上で、ドライ路の高速巡航で舵感が曖昧になるようなこともなかった。
レンジローバーのロングドライブには、間違いなく他のクルマにはない多幸感がある。目の前で赤じゅうたんがコロコロ転がり続けているのでは、と思うほど乗り心地はゆるふわだし、内装の設えものは触感うんぬんもさることながら、目に入る革シボや縫い目ひとつも眼福だ。敵は「ベンテイガ」か「カリナン」か。そういうケンカはそっちの領分でやってくださいと思いつつも、今度のレンジがそれくらいの意気込みでつくられたことは伝わってくる。
あきれるほどの雲上界だけど、不思議と腹は立たない。それはレンジローバーが長年歩んできた道への、クルマ好きとしての敬意のほうが勝るからだ。ブランドは4分の3世紀。レンジは半世紀超え。ますますお盛んでよろしおす。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
ランドローバー・レンジローバー ファーストエディションP530
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5065×2005×1870mm
ホイールベース:2995mm
車重:2680kg
駆動方式:4WD
エンジン:4.4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:530PS(390kW)/5500-6000rpm
最大トルク:750N・m(76.5kgf・m)/1850-4600rpm
タイヤ:(前)285/45R22 114T XL M+S/(後)285/45R22 114T XL M+S(ノキアン・ハッカペリッタR5 SUV)
燃費:7.6km/リッター(WLTCモード)
価格:2307万円/テスト車=2570万6630円
オプション装備:ボディーカラー<サンセットゴールド>(96万5000円)/シャドーエクステリアパック(18万5000円)/ウインドスクリーン<ヒーター付き>(3万4000円)/フルコントラストルーフ<ブラック>(12万7000円)/24ウェイ電動フロントシート<ヒーター&クーラー、ホットストーンマッサージ機能付き>&リアエグゼクティブクラスコンフォートプラスシート(67万3000円)/ドライブレコーダー(5万6650円)/ディプロイアブルサイドステップキット<SWB用>(59万5980円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:7735km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:537.5km
使用燃料:74.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.2km/リッター(満タン法)/7.5km/リッター(車載燃費計計測値)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。