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スズキ・ソリオ バンディット ハイブリッドSV(FF/5AT)

時代に応えるハイブリッド 2023.02.18 試乗記 佐野 弘宗 スズキの便利なコンパクトトールワゴン「ソリオ」に、フルハイブリッド車(以下、HEV)が復活。他社のものほど“デンキ感”は強くないものの、しっかり燃費に貢献するシステムを搭載した新型ソリオのHEVは、せちがらい今日にありがたい一台に感じられた。

3年のときを経て復活した理由

これまで純ガソリンエンジン車とマイルドハイブリッド車(以下、MHEV)という2本立てだったスズキ・ソリオに、HEVが復活した(参照)。

ソリオのHEVといえば、先代途中の2016年11月に追加されて、それと同じパワートレインは翌年7月に「スイフト」にも搭載された。しかし、2020年11月にソリオがフルモデルチェンジすると、HEVはカタログから落とされてしまう。スイフトHEVもその直前の2020年8月に販売終了しており、このスズキ独自のHEVは、いったん姿を消す。スズキの鈴木俊宏社長は、その理由を現行ソリオの発表会場で「これまでのHEVの販売状況を踏まえて、新型車ではMHEVだけにした」と説明。つまりは売れなかったのだ。

先代ソリオHEVの発売当時の価格は、MHEVの約22万円高。燃費の改善幅は4.2km/リッターで約15%(当時はJC08モード)だった。今から考えればお得な気もするが、当時のソリオ購買層にはあまり刺さらなかったわけだ。

その後、このハイブリッドシステムは高出力化されて「エスクード」に搭載される。2022年4月のことだ。エスクードの主要市場である欧州でのCO2排出規制をクリアするために、ふたたびHEVが必要とされた。

で、今回のソリオである。一度は「売れないから」と引っ込めたHEVを約3年で復活させた理由を、スズキ広報部は「なくしたらなくしたで、ほしいという問い合わせは少なからず届いていた。しかもガソリン価格が上昇すると、その声は大きくなった」と説明する。つまりは、今度は売れそうということだ。

新しいソリオのHEVのMHEVとの価格差は20万円弱で、燃費差も2.7km/リッター=約14%(WTLCモードでの比較)。先代のときと条件は大きくは変わらないが、ガソリン高の昨今では、あのとき以上に魅力的に映る。

全高1745mmというノッポなボディー形状と、それがかなえる高いユーティリティー性を特徴とする「スズキ・ソリオ」。新しいHEVモデルは、スタンダードな「ソリオ」とカスタム仕様の「ソリオ バンディット」(写真)の、両方に設定される。
全高1745mmというノッポなボディー形状と、それがかなえる高いユーティリティー性を特徴とする「スズキ・ソリオ」。新しいHEVモデルは、スタンダードな「ソリオ」とカスタム仕様の「ソリオ バンディット」(写真)の、両方に設定される。拡大
「ソリオ バンディット ハイブリッドSV」のインテリア。MHEVモデルの「ハイブリッドMV」と比べると、メーターの意匠や機能が異なるほか、各部の装飾がチタンシルバーに変更されていたり、インパネオーナメントの色がボルドーだったりと、細かなところで差異化が図られている。
「ソリオ バンディット ハイブリッドSV」のインテリア。MHEVモデルの「ハイブリッドMV」と比べると、メーターの意匠や機能が異なるほか、各部の装飾がチタンシルバーに変更されていたり、インパネオーナメントの色がボルドーだったりと、細かなところで差異化が図られている。拡大
シートの仕様は基本的にMHEVと共通。前席はセパレート式で、高い室内高とも相まって後席へのウオークスルーが可能となっている。
シートの仕様は基本的にMHEVと共通。前席はセパレート式で、高い室内高とも相まって後席へのウオークスルーが可能となっている。拡大
車体を飾るハイブリッドバッジは、MHEVではシルバー基調、HEVでは黒基調(写真)のデザインとなる。
車体を飾るハイブリッドバッジは、MHEVではシルバー基調、HEVでは黒基調(写真)のデザインとなる。拡大
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走りにみる“ハイブリッド感”は控えめ

そもそも現行ソリオのパワートレインは、すべて先代からのキャリーオーバー。今回のHEVも、先代ソリオ(やスイフト)で使っていたものをそのまま再搭載している。このスズキ独自のハイブリッドは、エンジンとスズキでは「AGS」と呼ばれる自動MT、そしてISG(スターター兼発電機)を組み合わせたマイルドハイブリッドのパワートレインをベースに、さらにファイナル部分に大型リチウムイオン電池とつながった駆動モーターをアドオンしたものである。MHEVで使われる助手席下の小型リチウムイオン電池も、そのまま残る。

自然吸気の1.2リッターガソリンエンジンは他のソリオとまったく同チューンとなっている。さらに変速機の5段AGS、最高出力3.1PS、最大トルク50N・mのISG、同じく13.6PS、30N・mの駆動モーター、そして100V、6Ahの大型駆動用リチウムイオン電池……といった各要素も、細かい性能値を含めてすべて先代と変わりない。

スズキのHEVは電気のみのEV走行も可能だが、駆動モーターに単独でソリオを縦横無尽に走らせられるほどの性能はもたせていない。またブレーキ回生やエンジン発電による駆動用リチウムイオン電池への充電も、同じ駆動モーターの役割だ。ISGはエンジンの再始動とAGSの変速アシスト、そして小型リチウムイオン電池と補機バッテリーへの充電に徹する。

よって、実際にはEV走行はあくまで限定的で、低負荷巡航や減速などで「走行中にふとエンジンが止まる」といったパターンが大半だ。アクセルをわずかでも踏み込むと、即座にエンジンが始動する。そういう場合にはモーターがエンジンをアシストしているのだが、モーター自体の出力も控えめなので明確に体感できるほどではない。エンジンを停止してのEV発進も、もろもろの条件が整ったときにかぎられる。というわけで、事前知識なしだと、“ハイブリッドカーに乗っている感”は正直いって薄い。それは先代ソリオも同様だった。

HEVモデルのWLTCモード燃費は、純ガソリン車の19.0km/リッター、MHEVの19.6km/リッターに対し、22.3km/リッターとなっている。
HEVモデルのWLTCモード燃費は、純ガソリン車の19.0km/リッター、MHEVの19.6km/リッターに対し、22.3km/リッターとなっている。拡大
「ソリオ」のフルハイブリッドシステムは、60km/h以下の速度域ならEV走行も可能。Aセグメント車のエンジンベイに収まるコンパクトさも特徴だ。
「ソリオ」のフルハイブリッドシステムは、60km/h以下の速度域ならEV走行も可能。Aセグメント車のエンジンベイに収まるコンパクトさも特徴だ。拡大
HEVモデルのメーターは「HYBRID」のロゴと青い差し色が特徴で、文字盤の意匠も他のモデルとは異なる。またインフォメーションディスプレイの表示には、モーターのパワーフローが追加されている。
HEVモデルのメーターは「HYBRID」のロゴと青い差し色が特徴で、文字盤の意匠も他のモデルとは異なる。またインフォメーションディスプレイの表示には、モーターのパワーフローが追加されている。拡大
エンジン走行もEV走行もパラレルハイブリッド走行も可能なスズキ製フルハイブリッドシステムだが、EV走行(および走行アシスト)と走行用バッテリーへの充電を1つのモータージェネレーターに任せているため、シリーズハイブリッド走行は不可能となっている。
エンジン走行もEV走行もパラレルハイブリッド走行も可能なスズキ製フルハイブリッドシステムだが、EV走行(および走行アシスト)と走行用バッテリーへの充電を1つのモータージェネレーターに任せているため、シリーズハイブリッド走行は不可能となっている。拡大

HEV化のための犠牲は最小限

つまり、パワートレインの味わいは、ときおり走行中にエンジンが止まる以外、MHEVとよく似ている。ただし、MHEVの変速機がCVTなのに対して、HEVのそれがASG=自動MTとなるのが、スズキ方式の特徴である。

このAGSだが、ISGが絶妙に介助してくれるので、変速ショックや変速時のトルク切れといった自動MT特有のクセはほとんど感じられない。しかし神経質に観察すると、シフトスピードはDCTやATと比較して、ちょっと遅い。せっかちな人はそこに違和感をもつかもしれないが、個人的にはその程度の軽いカラクリ感は、逆に心地よくもある。

というわけで、ソリオは本格的なHEVだからといって、1.2リッターのMHEVより明確にパワフルともいいがたい。MHEVより50kg重い(HEVとしては軽いともいえるが)ウェイトもあって、動力性能は全体に控えめに感じるくらいだ。

内外装もHEVだからといって、一見しただけでは特別なものはなにもない。スライド機構付きのリアシートも、また通常時のラゲッジスペースも、純ガソリンエンジン車やMHEVのそれと選ぶところはない。しかし、これはあくまで一見しただけの場合で、トランクのフロアボードを持ち上げると、ほかのソリオとはちょっと様子が異なる。通常のソリオは、床下が大きな空洞=サブトランクになっているのだが、HEVではそこが発泡スチロールでカバーされており、車載工具などの小物が入るだけだ。そのカバーの下には、駆動用のリチウムイオン電池が入っているのだ。いずれにしても、HEVで犠牲になっているのはここだけである。こうした点も先代ソリオと同じである。

「ソリオ」ではHEVモデルのみに装備されるシフトパドル。トランスミッションは、純ガソリン車やMHEVがCVTなのに対し、HEVでは5段のロボタイズドMTとなっている。
「ソリオ」ではHEVモデルのみに装備されるシフトパドル。トランスミッションは、純ガソリン車やMHEVがCVTなのに対し、HEVでは5段のロボタイズドMTとなっている。拡大
広々とした後席まわりの空間は、パワートレインの種類によらない「ソリオ」の大きな魅力。グレードに応じてピクニックテーブルやロールサンシェード、リアサーキュレーターなども装備される。
広々とした後席まわりの空間は、パワートレインの種類によらない「ソリオ」の大きな魅力。グレードに応じてピクニックテーブルやロールサンシェード、リアサーキュレーターなども装備される。拡大
荷室の機能性も、基本的には純ガソリン車やMHEVと同じ。後席のリクライニングや格納、スライド調整機能は、荷室側からも操作が可能だ。
荷室の機能性も、基本的には純ガソリン車やMHEVと同じ。後席のリクライニングや格納、スライド調整機能は、荷室側からも操作が可能だ。拡大
走行用のリチウムイオンバッテリーは荷室の床下に搭載。これにより、荷室の床下収納は廃されている。
走行用のリチウムイオンバッテリーは荷室の床下に搭載。これにより、荷室の床下収納は廃されている。拡大

ガソリン高の時代にありがたい

このように、ソリオのHEVは動力性能でも実用性でも、良くも悪くもMHEVと大きな差はないが、シャシーの感触だけは予想以上にちがっていた。

記憶のなかにあるソリオのMHEV(参照)より走行中の上下動が減った。乗り心地も滑らかになり、安心感も増した。高速道に踏み入れると印象はさらによくなり、100~120km/hでのフラットな安定感はなかなかに心地よい。ステアリングフィールが少し曖昧で、利きが鈍い(よくいえばマイルド)のは相変わらずだが、ロールスピードにも抑制が利くようになった。

タイヤサイズや銘柄はMHEVと同じで、バネやショックが特別に締め上げられた、あるいは緩められた感触もない。実際、凹凸を乗り越えたときのサスペンションの動きはより柔らかに感じるくらいなのだが、上屋の動きは明らかに小さくなっている。

従来のMHEVと今回のHEVで、明確に変わったところといえば重量だ。既述のとおりクルマ全体では50kg増で、車検証によると前軸で10kg、後軸で40kg増えている。結果として、前後重量配分はMHEVの59:41から57:43に改善。重量増の大半は駆動モーターと大型リチウムイオン電池(と高圧ケーブル)と思われるが、多くがエンジンルーム下方や床下に搭載されるので、低重心化もされているのだろう。もちろん、重量配分や重心が少しばかり良くなったところで、絶対的に重くなってしまえば元も子もない。しかし、今回程度の重量増なら、それらのメリットのほうがネガを上回りそうだ。

新旧ソリオHEVのカタログ燃費をJC08モードでそろえて比較すると、先代の32.0km/リッターに対して、新型は27.1km/リッターとなる。新型のほうが燃費が悪い理由は、先代より60kg重いウェイトの影響と思われる。それでも現行ソリオ同士なら、MHEVより確実に低燃費。2年前に乗ったMHEV(参照)の実燃費と比較しても、カタログ値と同様に今回のHEVのほうが13%ほど良好だった(満タン法による比較)。そこに乗り心地や安定感の向上というメリットも加味すれば、ガソリン高のご時世では、HEVの商品力は確かに以前より高まっている。

(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)

「ソリオ」ではMHEVや純ガソリン車に4WD仕様がラインナップされるが、HEVモデルの駆動方式はFFのみの設定だ。
「ソリオ」ではMHEVや純ガソリン車に4WD仕様がラインナップされるが、HEVモデルの駆動方式はFFのみの設定だ。拡大
足元の仕様はHEVもMHEVも基本的に共通。ただしホイールの色は異なり、「ソリオ」のHEVはブラック、「ソリオ バンディット」のHEVはミディアムグレー(写真)となる。
足元の仕様はHEVもMHEVも基本的に共通。ただしホイールの色は異なり、「ソリオ」のHEVはブラック、「ソリオ バンディット」のHEVはミディアムグレー(写真)となる。拡大
予防安全・運転支援システムについてはMHEVとは若干仕様が異なり、HEVではなぜかアダプティブクルーズコントロールが全車速対応型ではなくなる。一方で、車両接通報装置が備わるのはHEVだけだ。
予防安全・運転支援システムについてはMHEVとは若干仕様が異なり、HEVではなぜかアダプティブクルーズコントロールが全車速対応型ではなくなる。一方で、車両接通報装置が備わるのはHEVだけだ。拡大
外装では、専用デザインのバッジやホイールの色に加え、バックドアサイドスポイラーの装備もHEVモデルの特徴。さらに標準車では、グリルやフォグランプガーニッシュ、バックドアガーニッシュがブラックとなり、「バンディット」ではアウタードアハンドルがメッキ仕様となる。
外装では、専用デザインのバッジやホイールの色に加え、バックドアサイドスポイラーの装備もHEVモデルの特徴。さらに標準車では、グリルやフォグランプガーニッシュ、バックドアガーニッシュがブラックとなり、「バンディット」ではアウタードアハンドルがメッキ仕様となる。拡大
燃費性能に加え、乗り心地や操縦安定性についても向上が見て取れた「ソリオ」のHEVモデル。さすがに車両の価格差をガソリン代の節約分で補うのは難しいが、それでも十分な商品力を持つモデルといえるだろう。
燃費性能に加え、乗り心地や操縦安定性についても向上が見て取れた「ソリオ」のHEVモデル。さすがに車両の価格差をガソリン代の節約分で補うのは難しいが、それでも十分な商品力を持つモデルといえるだろう。拡大
スズキ・ソリオ バンディット ハイブリッドSV
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スズキ・ソリオ バンディット ハイブリッドSV(FF/5AT)【試乗記】の画像拡大
 
スズキ・ソリオ バンディット ハイブリッドSV(FF/5AT)【試乗記】の画像拡大
 
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テスト車のデータ

スズキ・ソリオ バンディット ハイブリッドSV

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3790×1645×1745mm
ホイールベース:2480mm
車重:1050kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:91PS(67kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:118N・m(12.0kgf・m)/4400pm
モーター最高出力:13.6PS(10kW)/3185-8000rpm
モーター最大トルク:30N・m(3.1kgf・m)/1000-3185rpm
タイヤ:(前)165/65R15 81S/(後)165/65R15 81S(ダンロップ・エナセーブEC300+)
燃費:27.1km/リッター(WLTCモード)
価格:224万6200円/テスト車=256万5365円
オプション装備:ボディーカラー<タフカーキパールメタリック シルバー2トーンルーフ>(4万4000円)/全方位モニター付きメモリーナビゲーション(18万7000円) ※以下、販売店オプション フロアカーマット<ジュータン>(2万9315円)/ETC車載器(2万1120円)/ドライブレコーダー(3万7730円)

テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:655km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:506.1km
使用燃料:31.2リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:16.2km/リッター(満タン法)/17.4km/リッター(車載燃費計計測値)

 
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佐野 弘宗

佐野 弘宗

自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。

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