第252回:フェラーリの母、アルファ・ロメオはいま
2023.02.20 カーマニア人間国宝への道母はこのところ元気がない
毎年恒例のJAIA(日本自動車輸入組合)試乗会。私はこれに参加したいがために自動車ライターの道を進んだと言っても過言ではない。たしか28歳の時に初参加しているので、今年で34年目だろうか。自分がまさかこんな年寄りになっちゃうなんて思ってもいなかったが、34年後の今年も大試乗会を開催してくださるなんて、ありがたくて涙が出る。
そういえば近年というかここ20年くらい、自動車ライター志望の若者をひとりも見ないが、JAIA主催の大試乗会に参加したいと熱望しない者など自動車ライターにならなくてヨシ! ユーチューバーとかになってください。もうなってるか。涙。
最新の輸入車が一堂に会するJAIA試乗会、2023年の目玉は何か。もちろんよりどりみどりではありますが、個人的にはアルファ・ロメオの「トナーレ」に大注目し、試乗希望にマルをつけて提出した。ついでに「ジュリア」にもマルをつけた。
アルファ・ロメオはフェラーリの母。つまり私の母でもある。母はこのところ元気がないと聞いているが、かつて「155ツインスパーク」の炸裂(さくれつ)にときめき、「147ツインスパーク」の頼りなさに痺(しび)れた私としては、母の具合が猛烈に気になる。今回、売れ筋のコンパクトSUVをリリースすることで、復活を期しているに違いない。
ところがトナーレは本番前に出展中止。代わりに「ステルヴィオ」が用意されていた。ガーン。でもまぁステルヴィオにも4~5年前の登場時以来乗っていない。既存モデルの近況を知るのもアルファ・ロメオファンとして大事なことである。4~5年も放置していてファンもクソもありませんが。
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バリバリのギャルがステキな若奥さまに
4~5年前、正確には4年半前に乗ったステルヴィオは、2リッター直4ターボの「ファーストエディション」だったが、アレは恐ろしいほど乗り心地の悪いクルマだった。「ゴリゴリのステアリングカー」といえば聞こえはいいが、アルファのエンジニアが「SUVとして世界最小のロール角」と胸を張っただけのことはあり、サスペンションがほとんどストロークしなかった。碓氷峠を後席で体験して真剣にクルマ酔いし、「ステルヴィオはもうコリゴリ~!」と思ってしまいました。
あれから4年半。もうコリゴリのステルヴィオはどうしているのか。今回乗るのは「2.0ターボQ4ヴェローチェ」である。
ええ~~~~っ! こんなにフツーになってたの~~~~~っ!
あのガッチガチだったステルヴィオが、こんなにしなやかになっちゃって……。あまりの激変ぶりに大衝撃。バリバリのギャルが、4年半後にステキな若奥さまになっていたなんて! 旦那さまが公務員でもオッケーな感じよ~っ!
それにしてもステルヴィオ、なにもかもがあまりにもフツーだ。サスもフツーになったけどエンジンも猛烈にフツー。ついでにフォルムも今どきのSUVとして超フツー。アルファなのは顔だけといってもいい。
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5年という歳月の長さを痛感
というわけでステルヴィオのステキな奥さまぶりに大ショックの私だったが、ジュリアは大丈夫だろう。5年半前、ジュリアが出た時は、そのあまりのステアリングレスポンスのクイックさに狂喜した。510PSの「クアドリフォリオ」はもちろんのこと、ベースグレードですらステアリングをコブシ1個分切っただけで横っ飛びする。ウヒョ~これだよこれ! これが死と隣り合わせの快楽だ! フォルムはまんまBMWの「3シリーズ」だけど、このメチャメチャクイックすぎるハンドリングは超イタリアンで最高! と思いました。
ジュリアに乗るのも4年ぶりくらいなのですが、お母さま、相変わらず横っ飛びなさいますか? はいはい、きっと飛ぶに違いありませんね。なにしろフェラーリの母アルファ・ロメオですから。
ええ~~~~~っ! いつからこんなに穏やかになられたんですか~~~~~~っ!
ステアリングをコブシ1個分切っても、ボディーがジワッとロールして向きがふわ~っと変わるだけ。なんという安楽志向! エンジンもフツーだし、走っているとかなり癒やされます。まさかジュリアがこんな癒やし系になっていたとは……。あらためて4年の歳月の長さを痛感いたします。
私もこの4年間、介護もせず母を放置していた責任がありますが、フェラーリの母がそろってこんなフツーになってたなんて、まったく全然知らなかった! やっぱり156アゲイン! もちろん155でもヨシ! DTMでAMGをやっつけろ! 懐古趣味でどうもスイマセン。
(文=清水草一/写真=清水草一、池之平昌信/編集=櫻井健一)
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清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。