フォルクスワーゲン・ゴルフヴァリアントTDI Rライン(FF/7AT)
カッコよく楽しい 2023.02.22 試乗記 フォルクスワーゲンのCセグメントステーションワゴン「ゴルフヴァリアント」に追加設定されたディーゼルエンジン搭載車に試乗。ハッチバックよりも長く広いボディーとディーゼルが織りなす走り、そしてワゴンならではの使い勝手をロングドライブで確かめた。あのフォルクスワーゲンが帰ってきた
「走る・曲がる・止まる」という基本性能に徹底的にこだわったクルマづくりと、盛るのではなく削(そ)ぎ落とすデザイン。そんなフォルクスワーゲンの質実剛健なクルマづくりが好きだった。好きだった、と過去形になっているのは、ここ数年、フォルクスワーゲンどうしちゃったんだろう、と思うことが多々あるからだ。
きっかけは2015年のディーゼル不正問題で、いまさら蒸し返すなって話もありますが、いわゆる“ディーゼルゲート”は自動車産業の歴史でも最大級の汚点だった。あとここ数年の間に出たコンパクトSUVが、流行を追いかけて手軽にちゃちゃっとつくった印象で、フォルクスワーゲンらしくなかった。心が離れた理由は、信頼が薄れたからだ。
でもどうでしょう、このリファインしたディーゼルエンジンを搭載したゴルフヴァリアントの信頼感たるや! 不振を極め、ファンからも罵声やブーイングを浴びせられ続けたバッターが、起死回生の逆転サヨナラホームランを打った。あのフォルクスワーゲンが帰ってきた。フォルクスワーゲン・イズ・バック!
と、コーフンのあまり結論から先走ってしまいましたが、まず冷静にモデルラインナップから紹介したい。
すでにハッチバック版の「ゴルフ」に積まれている2リッター直4のクリーンディーゼルエンジン「TDI」が、ステーションワゴン版のゴルフヴァリアントにも搭載されるようになった。ゴルフヴァリアントTDIのラインナップは、「アクティブベーシック」「アクティブアドバンス」「スタイル」、そして今回試乗した最上級版でありスポーティーグレードの「Rライン」という4グレード構成である。
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ファン・トゥ・ドライブも味わえる
柔道家が最初に組み合った瞬間に相手の強さがわかるというように、停止状態からアクセルペダルにそっと足をのせた刹那(せつな)、「あぁいいじゃん!」と、ビビッときた。想像よりはるかにスムーズかつ静かに、そして想像よりかなり力強く、ゴルフヴァリアントはすーっと走りだした。BEVのふわっとした浮遊感のある加速感も気持ちがよいものだけれど、重たいものが精密に回転していることが感じられるディーゼルターボの加速も、これはこれで快感だ。
極低回転域からアクセルの微妙なオン・オフに反応してくれるから、赤信号に引っかかってその度にゼロ発進を繰り返すようなシーンでもストレスがない。ディーゼルエンジンというと遠出に向いていると思いがちであるけれど、このクルマは低回転域でのドライバビリティーが抜群に高いから、都内をうろうろするのにもいい。スペックを見ると、360N・mというぶっといトルクを1600rpmという低い回転数から発生していることがわかる。
発進加速から速度を上げていくときも、やはり重たいものが精緻に作動していることが伝わってくる。室内の静粛性は抜群で、回転を上げてもオーディオのボリュームを上げる必要はない。3000rpmぐらいまでの領域で十二分に走るから、ふつーに走るならそれ以上の回転域は使うことはない。それでもさらに回しても、エンジンの音質は木管楽器のように耳にやさしいものだから、不快ではない。「トゥルルル」というまろやかな回転フィールも、心を穏やかにしてくれる。
このディーゼルエンジンはまったくの新開発ではなく、従来のものに手を加えたものだという。単に燃費がいいだけでなく、雑味のない回転フィールとアクセル操作に対するナチュラルな反応によって、ファン・トゥ・ドライブも味わえる。うっかりすると存在を忘れてしまうほどシームレスに変速している7段「DSG」もいい仕事をしている。
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カッコは18インチ、快適性は17インチ
シェルターに守られているように感じるボディーのがっしりした感じは、このクラスではアタマひとつもふたつも抜けている。特に、ワインディングロードのコーナーの途中で、舗装が荒れている箇所を通過するときの安心感と信頼感は抜群だ。ボディー全体でショックを受け止めるいっぽうで、サスペンションが正しい角度で路面に接して柔軟に伸び縮みする印象で、外乱に出くわしても常に安定している。
こういうときに、ステアリングホイールやシートを通じて、クルマがどういう状況にあるかが伝わってくることも、このクルマの優れた点だ。クルマと会話ができる。ただ、ひとつだけ気になるのが、荒れた路面を通過するときの突き上げが理想よりほんの少し大きいこと。ややゴツゴツする。
理由として考えられるのは、試乗車が快適性より走りに振ったRラインであることと、オプションの18インチのタイヤとホイールを装着していたことだ。Rラインは専用のスポーツサスペンションを備えており、たしかにコーナーでの身のこなしは軽快であるけれど、その代償として少しハーシュネスがキツくなっているように思える。
また、標準のタイヤが225/45R17であるのに対して、オプション装着されていたタイヤは225/40R18と、やや薄い。たしかに18インチのホイールはカッコいいけれど、快適性を重視すれば17インチか。セコいことを書けば、18インチを選ぶと6万6000円のエクストラコストがかかる。
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遊び道具をなんでも積める
試乗車ではオプションの「テクノロジーパッケージ」が選択されていたので、駐車支援システム“Park Assist”まで備わっていたけれど、アダプティブクルーズコントロールやレーンキープアシスト、プリクラッシュブレーキなどの基本的な安全・運転支援システムはもちろん標準装備される。
アダプティブクルーズコントロールも滑らかに作動したいっぽうで、ほかにはないこのクルマの特徴は、直進安定性のよさやフラットな乗り心地のおかげで、どこまでも遠くに行けると思えることだ。都内をうろうろしてもいいし、地平のかなたを目指してもいい。
ハッチバック版でもゴルフの荷室は十分だと思っていたけれど、ヴァリアントの荷室は広大だ。簡単な操作で後席の背もたれを倒すと、サーフボードでもスキー板でもゴルフバッグでも釣り竿(ざお)でも、思いつく遊び道具はなんでも飲み込みそうだ。積めないギアが思い浮かばない。機能的でビシッと引き締まっているハッチバックのほうがスタイリング的には好みであるけれど、この積載能力を見るとヴァリアントにも魅力を感じる。
カッコいいとか楽しいというのもクルマの大事な要素ではありますが、このクルマの場合は機能を徹底追求することで、カッコよさとファン・トゥ・ドライブを実現しているあたりがさすがだ。このクルマなら信頼できる。
ライバルたちもどんどんよくなっているけれど、やっぱり実用車のメートル原器はゴルフである、ということをあらためて実感した。
(文=サトータケシ/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・ゴルフヴァリアントTDI Rライン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4640×1790×1485mm
ホイールベース:2670mm
車重:1500kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:150PS(110kW)/3000-4200rpm
最大トルク:360N・m(36.7kgf・m)/1600-2750rpm
タイヤ:(前)225/40R18 92Y/(後)225/40R18 92Y(ブリヂストン・トランザT005)
燃費:19.0km/リッター(WLTCモード)
価格:441万6000円/テスト車=499万9000円
オプション装備:ボディーカラー<オリックスホワイト マザーオブパールエフェクト>(6万6000円)/“Discover Pro”パッケージ(19万8000円)/テクノロジーパッケージ(20万9000円)/18インチアルミホイール(6万6000円) ※以下、販売店オプション フロアマット<テキスタイル>(4万4000円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:2379km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:364.0km
使用燃料:18.4リッター(軽油)
参考燃費:19.7km/リッター(満タン法)/19.3km/リッター(車載燃費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。