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インディアン・スポーツチーフ(6MT)

ザ・ワインディング・モンスター 2023.03.04 試乗記 河野 正士 アメリカの老舗インディアンモーターサイクルから、新型クルーザー「スポーツチーフ」が登場。“走りを磨いたクルーザー”というユニークなニューモデルは、いかにして登場したのか? 看板に偽りなしか? その実力を、テキサスのワインディングロードで試した。

車重300kgの怪物で“スポーツ”を楽しむ

大型クルーザーである新型インディアン・スポーツチーフでスポーツするのは、なかなかに痛快だった。

もちろん、ここで言うところの“スポーツ”とは、スーパースポーツやネイキッドでワインディングロードを走るスポーツライディングとは少し違っている。なにせ、エンジンは排気量1890ccのV型2気筒空冷OHVであり、車重は300kgを超え、ホイールベースは1640mmもある。そもそも、そんなクルーザーでスポーツする意味があるのか? という疑問すら湧いてくる。

しかし今、アメリカを中心としたビッグクルーザー市場では、走りのポテンシャルを高めたスポーツクルーザーで超高速のハイウェイクルーズやワインディング走行を楽しむ=スポーツするのが大流行。いや、単にはやっているだけでなく、アフターパーツメーカーを巻き込んで巨大な経済圏をつくり上げているのだ。そして、その経済圏でのシェア争いを可視化しているのが、バガーと呼ばれるサイドリアケース付きの大型クルーザーで競われる人気レース「The King of Baggers(ザ・キング・オブ・バガース)」だ。そこではマーケットと同じく、インディアンとハーレーダビッドソンがしのぎを削っている。

2021年に発表された新生「チーフ」(スチールパイプを使った新型フレームに、それまで大型クルーザーに搭載されていた「サンダーストローク116」エンジンを搭載したパフォーマンスクルーザーだ)では飽き足らず、それをベースに走りを磨いたスポーツチーフを市場投入した理由は、この経済圏でのシェア拡大を狙ったためだ。もちろん、手の入れようは中途半端なものではなく、例えば前後足まわりのパフォーマンスを高め、カウルを装着し、ライザーと呼ばれるトップブリッジとハンドルをつなぐクランプを長くして、高く幅の狭いハンドルを装着している。

2021年デビューの現行型「チーフ」をベースに、専用の足まわりなどで運動性能を高めた「スポーツチーフ」。2023年2月21日に米国で発表され、時を同じくして日本仕様の詳細や価格も公表された。
2021年デビューの現行型「チーフ」をベースに、専用の足まわりなどで運動性能を高めた「スポーツチーフ」。2023年2月21日に米国で発表され、時を同じくして日本仕様の詳細や価格も公表された。拡大
今もクラシックな造形を守るインディアンの各モデルだが、その装備は最新鋭。計器類や、ライディングモードセレクターの操作画面などの役割を担う4インチタッチスクリーンは、Bluetoothを介して携帯端末と接続でき、電話の応答や音楽の再生などが可能となっている。
今もクラシックな造形を守るインディアンの各モデルだが、その装備は最新鋭。計器類や、ライディングモードセレクターの操作画面などの役割を担う4インチタッチスクリーンは、Bluetoothを介して携帯端末と接続でき、電話の応答や音楽の再生などが可能となっている。拡大
エンジンに関してはベース車の「チーフ」から変更はなく、挟角49°の空冷V型2気筒OHV 2バルブ「サンダーストローク116」を搭載。最大で162N・mという大トルクを発生する。
エンジンに関してはベース車の「チーフ」から変更はなく、挟角49°の空冷V型2気筒OHV 2バルブ「サンダーストローク116」を搭載。最大で162N・mという大トルクを発生する。拡大
ライディングポジションに関するところでは、ベース車よりややライダーに近づけられたハンドル位置と、ミッドマウントポジションのステップが特徴。臀部(でんぶ)をしっかりカバーするソロシートとも相まって、どっかりとバイクに腰を据え、快適なポジションをとれる。
ライディングポジションに関するところでは、ベース車よりややライダーに近づけられたハンドル位置と、ミッドマウントポジションのステップが特徴。臀部(でんぶ)をしっかりカバーするソロシートとも相まって、どっかりとバイクに腰を据え、快適なポジションをとれる。拡大

足まわりにみるファン・トゥ・ライドの秘密

チーフシリーズには、かねて「スポーツ」「スタンダード」「ツーリング」という、出力特性が異なる3つのライディングモードが採用されている。このうち、スポーツモードはなかなかにパワフル……いやワイルドで、モードを変更するとアイドリング中でも振動が増したのが分かり、排気音が荒々しくなる。そしてアクセル操作に対するエンジンレスポンスが鋭くなる。いや鋭すぎて、日本の道路環境では使用を躊躇(ちゅうちょ)するほどだ(参照)。

もちろん、スポーツチーフにも同様のライディングモードがセットされているのだが、今回の試乗では、既存のチーフでスポーツモードを使ったときより、そのジャジャ馬を乗りこなすことができた。一番の理由は、足まわりの強化にあるのだろう。

スポーツチーフはフロントに、φ43mmのKYB製倒立フォークをセットしている。パワフルな水冷エンジン、そしてフレームマウントの大型カウルとリアケースを搭載した「チャレンジャー」のものをベースに、その長さや減衰力特性をスポーツチーフ向けに調整したものだ。またリアには、独自の減衰特性を備え、他のチーフモデルと比べてサスペンションストロークを24mm伸ばした、FOX製ツインショックを新たに採用している。

このリアショックの採用が、スポーツチーフのジオメトリーにさまざまな変化を生み出している。まずリアの車高が20mm上がり、その姿勢変化に合わせて、ステアリングヘッドと2本のフロントフォークで構成される二等辺三角形の“高さ”部分にあたる、フォークオフセットをわずかに増やしてトレイル量を調整。これに合わせてサスペンションのセッティングが行われた。また、ストローク量の増えたリアショックと減衰力を高めたフロントフォークにより、ギャップを通過したときのショックの吸収性も改善。加減速時の車体の姿勢変化もつくりやすくなった。

これらの改良により、既存のモデルではアクセルのオン/オフで車体の挙動が唐突に、かつ大きく出てしまい、ギクシャクしがちだったスポーツモードでの走りが、いい具合にいなせるようになったのだ。

「スポーツチーフ」の特徴であるクオーターフェアリングと、「チャレンジャー」ゆずりのフロントの足まわり。タイヤに関してはベース車と同じく、前:130/60B19、後ろ:180/65B16サイズの「ピレリ・ナイトドラゴン」を装着している。
「スポーツチーフ」の特徴であるクオーターフェアリングと、「チャレンジャー」ゆずりのフロントの足まわり。タイヤに関してはベース車と同じく、前:130/60B19、後ろ:180/65B16サイズの「ピレリ・ナイトドラゴン」を装着している。拡大
ハンドルまわりには削り出しのトリプルクランプと6インチのライザーを備えたモトスタイルバーを装備。「チーフ」とも「チーフ ボバー」とも異なるカスタムスタイルを表現している。
ハンドルまわりには削り出しのトリプルクランプと6インチのライザーを備えたモトスタイルバーを装備。「チーフ」とも「チーフ ボバー」とも異なるカスタムスタイルを表現している。拡大
リアサスペンションにはタンクが別体となったピギーバック式のFOX製ツインショックを採用。4インチ(約100mm)のトラベル量を持たせることで、リーンアングルを29.5°に増大させた。
リアサスペンションにはタンクが別体となったピギーバック式のFOX製ツインショックを採用。4インチ(約100mm)のトラベル量を持たせることで、リーンアングルを29.5°に増大させた。拡大
「チーフ」では狂気すら感じさせた「スポーツ」モードの「サンダーストローク116」エンジンだが、「スポーツチーフ」では改良された足まわりにより、そのパワーをちゃんと御すことができた。
「チーフ」では狂気すら感じさせた「スポーツ」モードの「サンダーストローク116」エンジンだが、「スポーツチーフ」では改良された足まわりにより、そのパワーをちゃんと御すことができた。拡大
本格的な試乗は、米テキサス州オースティンのテキサス・ヒル・カントリーで実施。写真のとおり、路面のうねりによって先が見えない、“縦方向のブラインドコーナー”が連続するなかなかの難コースだ。
本格的な試乗は、米テキサス州オースティンのテキサス・ヒル・カントリーで実施。写真のとおり、路面のうねりによって先が見えない、“縦方向のブラインドコーナー”が連続するなかなかの難コースだ。拡大
ブレーキは前後ともにブレンボ製で、前にはφ320mmの2枚のフローティングディスクと4ピストンキャリパーを、リアにはφ300mmのフローティングディスクと2ピストンキャリパーを装備。ボッシュ製のABSが装備される。
ブレーキは前後ともにブレンボ製で、前にはφ320mmの2枚のフローティングディスクと4ピストンキャリパーを、リアにはφ300mmのフローティングディスクと2ピストンキャリパーを装備。ボッシュ製のABSが装備される。拡大
その巨体からは想像できない、高いコーナリング性能を備えていた「スポーツチーフ」。ベース車よりリーンアングルは大きくなっていたが、それでもステップを擦ってしまうほどだった。
その巨体からは想像できない、高いコーナリング性能を備えていた「スポーツチーフ」。ベース車よりリーンアングルは大きくなっていたが、それでもステップを擦ってしまうほどだった。拡大
カラーリングには、今回試乗した個体の「ブラックスモーク」のほかに、「ルビースモーク」(写真)と「ステルスグレー」「スピリットブルースモーク」の全4種類が用意されている。
カラーリングには、今回試乗した個体の「ブラックスモーク」のほかに、「ルビースモーク」(写真)と「ステルスグレー」「スピリットブルースモーク」の全4種類が用意されている。拡大

ワインディングが愉快・痛快!

フロントのブレーキの強化も、そのアグレッシブな走りをサポートしてくれる。フロントブレーキは、フロントフォークと同じくチャレンジャーにも採用されるラジアルマウントのブレンボ製4ポットキャリパーをダブルでセット。ディスク径も320mmと大きく、ストッピングパワーもコントロール性も申し分ない。

リアが重いクルーザーモデルは、リアブレーキを中心にブレーキをかけたほうが車体の安定感と制動力が増す。しかしこのスポーツチーフでは、フロントを積極的に使っても高い制動力を示し、同時にフロントフォークが制御するノーズダイブも適度で、車体姿勢も安定している。ブレーキパッドやマスターシリンダー内のパーツを変更し、スポーツチーフの車重やキャラクターに合わせた制動特性を入念につくり上げていること、その効果を最大化するため、サスペンションセッティングをしっかりつくり込んでいることの表れだ。

今回、スポーツチーフの試乗の舞台となったのは、米テキサス州オースティンの郊外にある、テキサス・ヒル・カントリーと呼ばれる丘陵地帯だ。そこでは、曲率の緩やかなコーナーと日本的にタイトなワインディング区間が、丘陵地帯特有の激しい高低差のなかに存在する。車体をバンクさせたまま、起伏によって“縦方向”で先が見えないブラインドコーナーにアプローチし、その先の下りで車体を切り返して、また車体を寝かしたまま登りのコーナーに入っていく。その感覚はまさにジェットコースターだ。

“縦ブラインド”ではさすがにアクセルを緩めざるを得ないが、それをクリアすれば、強烈なスポーツモードの出力特性を生かして前車に追いつく。そして、坂を下り切ったところでの車体の切り返しや、タイトコーナーへのアプローチなどでは、強化された足まわりがその走りをサポートする。もちろん、寝かせればすぐにステップが路面にヒットしてしまうが、それでも重量300kg超の巨体をこんな風に走らせられるなんて、今までになかった経験だ。

痛快! インディン・スポーツチーフの印象は、その一言に尽きた。

(文=河野正士/写真:インディアンモーターサイクル/編集=堀田剛資)

インディアン・スポーツチーフ
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【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2301×842×1270mm
ホイールベース:1640mm
シート高:686mm
重量:302kg(燃料非搭載時)
エンジン:1890cc 空冷4ストロークV型2気筒OHV 2バルブ(1気筒あたり)
最高出力:--PS(--kW)/--rpm
最大トルク:162N・m(16.5kgf・m)/3200rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:--km/リッター
価格:328万円~339万8000円

河野 正士

河野 正士

フリーランスライター。二輪専門誌の編集部において編集スタッフとして従事した後、フリーランスに。ファッション誌や情報誌などで編集者およびライターとして記事製作を行いながら、さまざまな二輪専門誌にも記事製作および契約編集スタッフとして携わる。海外モーターサイクルショーやカスタムバイク取材にも出掛け、世界の二輪市場もウオッチしている。

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