フォルクスワーゲン・ゴルフR(4WD/7AT)
ライバル不在の万能マシン 2023.03.10 試乗記 300PSオーバーの高出力エンジンとトルクベクタリング機構付きの4WDシステムを組み合わせた、新しい「フォルクスワーゲン・ゴルフR」。速さ、操作性、乗り心地と、従来型から全方位的に進化を遂げた新型は、まさに万能マシンと表すべきクルマに仕上がっていた。フォルクスワーゲン最速の量産車
『webCG』の取材で新しいゴルフRをドライブするのは、今回で2回目だ。前回は箱根で開催されたメディア試乗会で「ヴァリアント」に乗ったが、今回は“素”のゴルフR……すなわち、ゴルフの基本形ともいえるハッチバックのRとなる。
ゴルフRの最高速度は車体形式を問わずに250km/hでリミッターが作動するそうだが、0-100km/h加速はハッチバックで4.7秒、ヴァリアントで4.9秒。つまり、今回のゴルフRはフォルクスワーゲンの量産カタログモデルでは最速というべきクルマでもある(数値はすべて欧州仕様のもの)。パワートレインのスペックはヴァリアントと共通なので、この加速性能の差はもっぱら、ヴァリアントより60kg軽い車重(これは日本仕様の数値)によるものだ。
超高性能Cセグメントステーションワゴンは今やほかにほとんど例がなく、稀有な存在といえるヴァリアントに対して、ハッチバックのゴルフRにはライバルが少なくない。たとえば“Cセグメントハッチバック、300PS以上、4WD”という条件で検索すると、現行世代といえるモデルでは「メルセデスAMG A45 S 4MATIC+」と同ブランドの「A35 4MATIC」、そして「BMW M135i xDrive」「アウディRS 3スポーツバック」「S3スポーツバック」、さらには「トヨタGRカローラ」などがヒットする。
ここにゴルフRを加えた7台のなかでは、最高出力で400PS台、最大トルクで500N・m台をうたうA45 SとRS 3が少し抜けた感があるが、320PSのゴルフRや450N・mのM135iはそれに次ぐ存在といえるだろう。しかも、ゴルフRはこのなかではもっともコンパクトなサイズで、車重もGRカローラに次いで軽い点は評価すべきである。とくにクラス最強のA45 Sに対しては、100kg以上も軽いのだ。
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従来型よりさらに進化した乗り心地
新型ゴルフRの主要ハードウエアは、左右後輪それぞれに油圧多板クラッチを配して、どちらも完全フリーから完全ロックまで自在に制御できる4WD機構の「Rパフォーマンストルクベクタリング」以外は、先代改良版といっていい。プラットフォームやアシまわりもアップデートされているが、基本レイアウトやサスペンション形式はそのままである。
それもあってか、新型ゴルフRはすこぶるつきの速さやコントロール性に磨きがかかっただけでなく、クルマ全体に熟成感がただようのが大きな特徴である。山道中心の短時間試乗に終わった前回のヴァリアントとは異なり、まる2日間で市街地や高速、山坂道まで走ったゴルフRでもっとも印象的だったのは、恐ろしいほどの乗り心地のよさだ。
「コンフォート」「スポーツ」「レース」「カスタム」という4種類の走行モードが用意されるのも先代同様で、パワートレインや可変ダンパー、パワーステアリング、そしてエンジン音などが各モードに応じて最適化される。柔らかいコンフォートモードや中間のスポーツモードにおける、高精度かつ滑らかなサスペンションのストローク感は先代の印象と大きくは変わらない。ただ、先代では低偏平スポーツタイヤ特有の肌ざわり(というか、尻ざわり)が少しだけ残っていたが、新型ではそうしたわずかな鋭い突き上げも、見事なまでに解消されている。各部のフリクション低減に加えて、車体の局部剛性やタイヤそのものも進化した結果と思われる。
今回とくに快適に感じられたモードは、中間にして基準モードともいえるスポーツである。特定路面の突き上げこそコンフォートのほうが優しいケースもあるが、新型はスポーツでの突き上げも素晴らしくまろやかなのだ。しかも、タイヤとコイルスプリング、さらにシートまで含めたクルマ全体のバネに、ダンピングがピタリと合っており、路面の凹凸やうねりをフワピタと吸収して上屋はフラットに保たれる。コンフォートも先代から安定感が増しているが、それ以上にスポーツの進化が大きく、結果的にコンフォートの必要度が以前より下がったようにすら思えるのだ。
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「レース」モードでも感じられる洗練
カスタムモードにすると15段階という細かさで調整できるのも、最近のフォルクスワーゲンの可変ダンパー「DCC」に見られる特徴である。ただ、この新型ゴルフRでは、すべての走行モードで熟成がきわまっている。ダンピングも文句なしのバランスで設定されており、カスタムで下手にイジる必要性はまったく感じない。
ヴァリアントの試乗記でも書かせていただいたが、たとえばダンピングだけを極端に柔らかくして、それ以外をすべて硬派なレースモードに設定して走ると、トルクベクタリングならではの駆動制御が如実に体感できる。それはそれで面白いのは事実だが、ただ面白いだけでもある。客観的に快適かつ優秀なダイナミクス性能を発揮するのは、コンフォート、スポーツ、レースと、トータルで開発されたデフォルトのモード群であることは間違いない。
先述のとおり、なかでも基準ともいうべきスポーツモードは、市街地から山坂のワインディング路まで素晴らしくバランスしている。しかしゴルフRならではの性能を味わえるのは、やはりレースモードだろう。
このモードは基本的にクローズドサーキットを想定したもので、ダンピングも明らかに引き締まる。しかし、それでも荒れた低ミュー路で飛んだり跳ねたりは一切しない。これまで以上にしなやかで、無粋に揺すられたりもしない。また、以前はスロットル制御も「アクセルを踏んだら即全開?」と錯覚するレスポンス最優先の設定だったが、新型のそれは過渡域をきっちり味わいながら微妙なアクセル操作ができるようになっている。そこも、新型ゴルフRが熟成感をただよわせるポイントのひとつだ。この「EA888」型エンジンも世代が進んでチューンが高まるにつれ、その音質も実の詰まったきめ細かいものになってきた。今では4気筒ターボ屈指の快音を奏でる。
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ライバルは身内にあり
いかにも高価な対向ピストンキャリパーこそ使われていないが、ディスク径を拡大してマスターシリンダー容量も増やすという生真面目な仕事がなされたブレーキは、タッチも利きも良好だ。そんなブレーキを使ってターンインで荷重移動して素早くヨーを出し、あとはアクセルを踏めば踏むほど舵角が減っていく回頭性は、新開発の左右トルクベクタリング4WDによる恩恵というほかない。
前回のヴァリアントでは、アウト側のリアトルクで“押し曲げる”という感覚が強かったそのコーナリング特性も、ホイールベースが50mm短く、車重も60kg軽いハッチバックでは、より軽快な味わいとなっている。
もっとも、さすがにFRベースの4WDのようにテールを明確に振り出す挙動にはならないし、同じシステムを使うRS 3のように極端なドリフト制御になることもない(本国に用意される「Rパフォーマンスパッケージ」というオプションには同様のモードがあるらしい)。しかし、フロントがインに切れ込むと同時に、テールも喜々として追従する所作は、ヴァリアントより自然なハンドリングである。
Cセグメントトップレベルの走行性能と、世界最高の実用車であるゴルフの名に恥じない快適性や実用性が融合した“もっともオールラウンドなゴルフ”であるところが、ゴルフR伝統の美点である。快適きわまりない乗り心地や快音を奏でるエンジンなど、最新のRはそのオールラウンド性能がさらに極限まで磨き上げられている。対して、ゴルフRより明らかに高い性能を絞り出しているA45 SやRS 3は、よくも悪くもラフで不敵な味わいを醸している。なので、実際に乗り比べてこれらとゴルフRで迷う人は少なそうである。
となると、今回のゴルフR最大のライバルはやはり、同じゴルフRのヴァリアントだろうか。実用性と重量や価格の兼ね合いは各自の好みと用途によるが、左右トルクベクタリングとホイールベースの長短による乗り味のちがいは、おそらく皆さんが思っている以上に大きいので要注意だ。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・ゴルフR
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4295×1790×1460mm
ホイールベース:2620mm
車重:1540kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:320PS(235kW)/5350-6500rpm
最大トルク:420N・m(42.8kgf・m)/2100-5350rpm
タイヤ:(前)235/35R19 91Y/(後)235/35R19 91Y(ブリヂストン・ポテンザS005)
燃費:12.3km/リッター(WLTCモード)
価格:639万8000円/テスト車:668万7300円
オプション装備:ボディーカラー<ラピスブルーメタリック>(3万3000円)/DCCパッケージ(22万円) ※以下、販売店オプション フロアマット<テキスタイル>(3万6300円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:3936km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(5)/山岳路(2)
テスト距離:488.0km
使用燃料:44.5リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:11.0km/リッター(満タン法)/11.3km/リッター(車載燃費計計測値)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。