新型「BMW M2」に胸アツ! なぜ運転好きは「FRのMT車」に引かれるのか?
2023.03.10 デイリーコラム“操る楽しさ”を求めて
このところ話題にのぼるニューモデルのニュースは、ざっくり言って、その過半がSUVやEVに関するものばかりという印象だ。そうした状況のなか、「その種のハナシはもうおなかいっぱい……」と感じているであろうスポーツ派ドライバーの心をわしづかみにしそうだと思ったのが、2023年2月末にBMWジャパンから届いた「新型『BMW M2』の注文受け付けをスタートし、4月から納車予定」というアナウンスである。
「コンパクトなボディーにセグメント唯一の後輪駆動コンセプト」と紹介されるこの高性能モデルは、8段ステップAT仕様と同一の価格(958万円)で6段MT仕様が設定されることも見どころのひとつとなっている。
登場したてのニューモデルでありながら、電動化デバイスを持たない“純エンジン車”であることに加えて、FRレイアウトを採用しMTの選択も可能と、この先長期の存続が危惧される希少アイテム(?)をそろえる点でも、何ともニッチでマニアックなモデルといえそうだ。
ところで、FRレイアウトやMTという半ば“旧態依然”ともいわれてしまいそうなポイントが、この期に及んで一部の人々を熱狂させるのはなぜなのか? そう問うてみたとき、FR+MTという仕様にもろ手を挙げて賛同したくなる自分自身の姿も思い浮かぶ。
何を隠そう筆者は、歴代「スターレット」でFRレイアウトを採用した最後のモデルとなったKP61型を筆頭に、やはり歴代最後のFR車となった「セリカ」の「GT-T」、さらに「ポルシェ944S」、マツダの初代「ロードスター」(NA型)、80型「トヨタ・スープラ」を所有してきた。それら多くのモデルが、まさに“その類い”に該当するものだった。
特にこだわったつもりはなかったのに、かくもFRレイアウトを備えたMT仕様車が並んだのは、やはりそれらに共通する、明確な“クルマを操る楽しさ”を味わいたかったからだと思う。
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思ったとおりに走らせたい
ランニングコンポーネンツがフロント側に集約される結果、どうしても“頭でっかち”にならざるを得ないFFレイアウトのモデルに比べ、「駆動系が後輪側にも分散されることで前後の重量配分をより均等に近づけることができる」というFR方式の特徴は、イメージ的にもより優れた走りのバランス感覚を連想させるものだ。また、「前輪が旋回、後輪が駆動と受け持つ仕事が分散されることで、タイヤのグリップ力をより効率よく引き出せて、摩耗に対しても有利」というのも、すんなりと納得できる説明だろう。
実際に、雨のサーキットや雪の上など早々にタイヤのグリップ力の限界を超えてしまうようなシーンを走行した経験からすると、限界に近い領域で頑固なアンダーステアに悩まされたり、ブレーキングの際に後輪が前輪側よりもはるかに早くロックしそうな気配を感じたりしなかったことに、「わが意を得たり」と、ひとり悦に入ったものだった。そんな瞬間を知ってしまうと、FRレイアウトを持つモデルが例外なく実現してくれる素直な走りの感覚に、信奉心はますます強まってしまうのである。
今や「加速タイムがより速く、燃費データでも上をいくAT」を差し置いて、MTのほうを――変速という純エンジン車とは切っても切れないプロセスのすべてが、ドライバーの操作に委ねられるトランスミッションを――好む酔狂(?)なドライバーの心に対しても、やはり長年にわたってそれを支持してきた自分自身は非常に共感できるし、そうした考えには合点がいく。
スタート時のクラッチワークをはじめ微低速走行の難しさが難点と指摘されることの多いMTだが、自分に言わせればブレーキをリリースした途端にクリープ現象によってある程度の速度が勝手に出てしまうAT車よりも、“超微低速”でのコントロールはむしろ楽だ。それを含めて、速度の制御が完全にドライバーの操作の支配下にあると思えるのは、やはりMTのほうだと実感する。
こうして、一部のクルマ好き(というよりは恐らく運転好き)の人にとっては、自らの意思に対してより素直で忠実に走行する感覚が得られるFRレイアウトやMTがもてはやされることになるに違いない。少なくとも「自分の場合はそうだったんだナ」と、あらためて感じた次第である。
(文=河村康彦/写真=BMW、マツダ、トヨタ自動車、日産自動車/編集=関 顕也)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。