ランドローバー・レンジローバー スポーツ ダイナミックHSE D300(4WD/8AT)
そこに道がある限り 2023.03.11 試乗記 旗艦「レンジローバー」に続いて、「レンジローバー スポーツ」もフルモデルチェンジ。第3世代となる新型では内外装デザインのモダニズムをさらに推し進めたほか、シャシーの刷新によってドライバビリティーの強化も図っている。山口県を舞台に試乗した。つるりとしたボディーパネル
貴族の皆さんが親しむスポーツといえば乗馬やポロ、ゴルフにテニス、それにハンティングなどだろうか。広大な荘園の一角にあるその舞台にラケットやクラブ、猟銃などの道具とローストビーフサンドを詰め込んだバスケットを乗せて乗りつけるのがレンジローバーだとすれば、ドライブ自体をスポーツにするためのギアがレンジローバー スポーツだ。
レンジローバーと同じようにフラッシュサーフェス化を突き詰めたボディーパネルには、ひとつとして鋭角な部分がない。ヘッドランプもグリルもすべてが滑らかな同一の面に収められる。もはや前後ともバンパーと呼べるような出っ張りはなくなり、テールゲートもリアセクションのなかでスムーズに処理されている。
無駄な装飾を限りなく排したとのことだが、クラムシェル型ボンネット中央部のふくらみだけは力強さ=スポーツの象徴として残されている。細身ながらも眼光鋭いヘッドランプとともにただ者ではない印象を見る者に与える。レンジローバーの遺伝子を感じる一方で、ほかの何物にも似ていない不思議ないでたちのクルマである。
2995mmのホイールベースは現行型レンジローバー(標準ホイールベース車)と同寸。全長×全幅×全高=4960×2005×1820mmというボディーのスリーサイズは先代モデルよりもわずかに大きく、レンジローバーよりはわずかにコンパクト。絶対的には大きいが、5mを超えると超えないとでは街に乗り出す際の心持ちが違うはずだ。なお、横幅は20mm拡大しており、こちらは2mを超えると心理的な不安がだいぶ大きい……。
日本仕様は3リッターディーゼルのみ
シャシーはレンジローバーと共通の「MLA-Flex」。フロントがダブルウイッシュボーン、リアがマルチリンクの足まわりにはエアスプリングを使う。「スイッチャブルボリュームエアスプリング」と名づけられたこのシステムは、エアバッグ内の圧力を変化させることでサスペンションの帯域幅を広げられるという触れ込みである。なにしろスポーツなのでレンジローバーと同じような乗り味ではなく、補修跡の残る路面などでは相応に揺すられる感覚があるが、もちろん直接的な衝撃を受けるようなことはなかった。頼りがいのあるがっしりとしたサスペンションである。ハンドリングについては後述する。
MLA-Flexアーキテクチャーはマルチパワートレインに対応しているのが特徴であり、3リッター直6ディーゼルターボエンジンの300PS仕様と350PS仕様、3リッター直6ガソリンターボエンジンの400PS仕様にそのプラグインハイブリッド版である440PS仕様と510PS仕様など、国によっては多彩にラインナップされている。2024年にはピュアな電気自動車も追加される予定だという。4.4リッターV8ターボは、レンジローバーと同様に本国イギリスでも受注がストップしているようだ。今のところわが国で選べるのは300PSの3リッターディーゼルターボの「D300」のみ。400PSのガソリンターボ「P400」は導入記念の特別仕様車「ローンチエディション」に搭載されていたが、すでに完売御礼だという。
完璧な直6ディーゼルエンジン
もちろん今回の試乗車もD300。650N・mもの最大トルクを1500-2500rpmで発生するため、わずかにアクセルを押し込むだけで車重2.5tのヘビー級ボディーがためらいもなく前に出る。月並みながら踏めば踏んだぶんだけトルクが出るので、アクセルを戻したり急いでブレーキに踏みかえたりという不安がない。
マイルドハイブリッドが付いているので低速域では最高出力18PS、最大トルク42N・mのモーターによるアシストが利いているはずだが、そもそも車重が重すぎるため、これを感じ取るのは難しい。アイドリングストップからのスムーズな再始動だけでもその価値は十分にある。
優れたディーゼルエンジンを褒めたたえる際に「ディーゼルらしさがない」という決まり文句が使われることが多いが、このエンジンはさらに上をいく。クルマの中にいても外にいてもそれらしいサウンドがまったく聞き取れないのだ。運転中にアクセルを深く踏み込んだ場合は、サウンドジェネレーターが発するV8エンジンのような音が響く。アイドリング状態にして車外に出てみても何も聞こえないのはキツネにつままれたような気分であり、思わず車検証で燃料の種類を確認してしまったほどだ(もちろん軽油だった)。
控えめなV8サウンドを聞きながらのドライブは気分がいい。きれいな円形のステアリングホイールはレンジローバーよりもわずかにコンパクト。ハンドリングは極めて正確で、エアサスはここぞとばかりに引き締まるため、思いどおりのライン取りが可能だ。街なかでは大きく感じられたボディーはこうしたセクションでは小さく感じられる。レンジローバーの血筋は郊外路でこそ輝く。
まだ奥がある
整理整頓されたインテリアは、最新のランドローバー各車に共通のクリーンな雰囲気だ。セミアニリンレザーなどのおなじみの豪華な仕立てももちろんできるが、新しいレンジローバー スポーツではアニマルフリーが可能になっているのがトピックだ。
シート表皮には「ウルトラファブリック」と呼ばれる素材を採用。表面保護層とトップスキン層、温度/湿度調整マイクロフォーム層、布製の裏地層の4層構造からなるこのレザー調素材は、レザーの長所をすべて取り入れたと豪語するだけあって、その質感はまさにレザーそのもの。まる2日にわたった今回の試乗で、自分が腰掛けていたシートがセミアニリンレザーではないことに気がついたのは最後の最後のことだった(教えられて知った)。ダッシュボードの上に貼られたフリースのような短起毛の素材が、反射を適切に抑えてくれたことも記しておきたい。
かくも見事に仕上がっている新型レンジローバー スポーツなのだが、われわれが味わった性能はそのごく一端にすぎず、開発陣はさらなる高みを見据えていたようだ。というのも、最大7.3度まで後輪を操舵するオールホイールステアリング(最小回転半径が6.1mから5.3mに)や電子制御式アクティブデファレンシャル、最大1400N・mのトルクでスタビライザーを引っ張ったり縮めたりしてボディーロールをコントロールする「ダイナミックレスポンスプロ」などの新機軸が、今回の試乗車には軒並み未装着。生産上の都合では仕方がないが、キャビンへの侵入音を低減するアクティブノイズキャンセリングも間に合わなかったという。
これらをすべて装着すれば、上から2番目のレンジローバーとしてはアフォーダブルに感じられる価格が相応に跳ね上がるのは間違いないが、この先の世界をお伝えできないのでは、もやもやした気分が晴れない。道があれば分け入ってみる。その精神こそがレンジローバーである。
(文=藤沢 勝/写真=ジャガー・ランドローバー・ジャパン/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ランドローバー・レンジローバー スポーツ ダイナミックHSE D300
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4960×2005×1820mm
ホイールベース:2995mm
車重:2480kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:300PS(221kW)/4000rpm
エンジン最大トルク:650N・m(66.3kgf・m)/1500-2500rpm
モーター最高出力:18PS(13kW)/5000rpm
モーター最大トルク:42N・m(4.3kgf・m)/2000rpm
タイヤ:(前)285/45R22 114Y M+S XL/(後)285/45R22 114Y M+S XL(ピレリ・スコーピオンゼロ オールシーズン)
燃費:11.3km/リッター(WLTCモード)
価格:1296万円/テスト車=1515万7490円
オプション装備:ブレーキキャリパー<レッド>(5万6000円)/空気清浄システムプロ(7万円)/Wi-Fi接続<データプラン付き>(3万6000円)/オンラインパック<データプラン付き>(3万3000円)/ブラックエクステリアパック(34万8000円)/固定式パノラミックルーフ(27万7000円)/ツインスピードトランスファーギアボックス<ハイ&ローレンジ>(6万円)/フロントセンターコンソール急速クーラーボックス(11万4000円)/フロント&リアサイドラミネートガラス(14万2000円)/家庭用電源ソケット(2万1000円)/コールドクライメートパック(7万7000円)/コントラストルーフ<ブラック>(12万7000円)/アダプティブオフロードクルーズコントロール(4万5000円)/マニュアルリアサイドウィンドウサンブラインド(4万円)/ボディーカラー<ランタオブロンズ>(9万6000円) ※以下、販売店オプション ドライブレコーダー(5万6650円)/ディプロイアブルサイドステップキット(59万8840円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:1850km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター

藤沢 勝
webCG編集部。会社員人生の振り出しはタバコの煙が立ち込める競馬専門紙の編集部。30代半ばにwebCG編集部へ。思い出の競走馬は2000年の皐月賞4着だったジョウテンブレーヴと、2011年、2012年と読売マイラーズカップを連覇したシルポート。