レクサスRZ450eプロトタイプ(4WD)【試乗記】
じっくり見極めよう 2023.03.15 試乗記 すべてを電気自動車(BEV)にという道筋には懐疑的な姿勢を貫くトヨタだが、2035年にレクサスをBEV専業ブランドにすることはすでに公表している。その実質的なスタートといえるのが初のBEV専用車「RZ」だ。プロトタイプモデルをサーキットで試した。bZ4Xのレクサス版
結果的にRZはどうも難しいタイミングで世に出ることになったようだ。すでに2022年4月に発表されてはいたが、その直後に兄弟車たる「トヨタbZ4X」と「スバル・ソルテラ」が、スタッドボルトが緩んでホイールが脱落する恐れがあるとして、発売早々リコール(当然RZも対策する必要があったはず)対象となったのはご存じのとおり。ようやく販売再開にこぎつけ、次はRZというところだったが、レクサスのトップである佐藤恒治トヨタ次期社長が先ごろの記者会見で、2026年には次世代のBEVを発表すると明らかにした。ということは、RZは発売前にもかかわらず、旧世代であると言われたようなものではないだろうか。もちろんトヨタ/レクサスに限らず、世界中の自動車メーカーがBEVの将来像を見通すべく試行錯誤しているのが現状ではあるものの、なんだかちょっとRZに同情してしまうのである。
レクサスとして初めての専用開発BEVであるRZは、ざっくり言えばトヨタbZ4X/スバル・ソルテラのレクサス版である。まだ正式発売前の日本仕様プロトタイプという位置づけだったため、サーキットで行われた試乗会の時点では詳細なスペックは明らかになっていないが、当日資料として配られた主要諸元によれば、レクサスRZのボディー外寸は全長×全幅×全高が4805×1895×1635mmとbZ4Xよりも若干長く幅広い。彫りの深いアグレッシブなスタイルを持つためと推測されるが、BEV専用プラットフォームはbZ4Xなどと同じものと思われ、実際2850mmのホイールベースは同一、前後輪間のフロア下に搭載する駆動用リチウムイオン電池の71.4kWhという容量もまったく同じである。WLTCモードの航続距離は494kmという。いっぽうbZ4Xの4WDは487kmである。
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前後合わせて230kW
グレードや装備などについては不明だが、試乗車はすべて前後にモーターを搭載する4WDモデル。RZはフロントに150kW(204PS)、リアに80kW(109PS)を生み出すモーターを搭載し、前後合わせて230kW(313PS)の最高出力を発生するという。bZ4Xの4WDは前後に各80kWのモーターを備え、トータル160kW(218PS)の最高出力だったから、RZのほうがずっと強力だ。0-100km/h加速は5.3秒というが(bZ4Xは4WDモデルが7.7秒、FWDが8.4秒と発表されていた)、実際にフル加速するとだいぶ力強いものの、当日は最高速の上限が指示されていたのですぐに右足を緩めなければならなかった。車重は2110kgで、最高速は160km/hという。
モーターに補機類を一体化したeアクスルを前後に搭載するRZは、前後トルク配分を100:0から0:100の間で最適制御する「DIRECT4」と称する4WDシステムが特徴。サーキットのコース上のみ、しかも短時間ながら、なるほど重さを感じさせない自然なターンインも、コーナー立ち上がりの盤石のスタビリティーもさすがは4WDだけのことはあると思われた。乗り心地もザラザラした感じはなく、滑らかかつフラットで総じて好印象だった。もちろん平滑なサーキット上で走っただけという点を差し引く必要はあるが、このあたりには高強度材を多用し、LSW(レーザースクリューウェルディング)や構造用接着剤などを使って強固に組み上げたボディー、さらに初めからボディー前後に装着されたパフォーマンスダンパーの効果と言えるだろう。
ビジネスライクなインテリア
エッジの効いたボディースタイルに比べて、インテリアはいまひとつ華やかさに欠けるというのが率直な第一印象だ。シフトセレクターはbZ4Xと同じダイヤル式だが、それ以外のコントロール類は「NX」や「RX」など他のレクサスと同様。ただし、バイオ素材のウルトラスエードや高触感合成皮革などサステイナブルを重視したという内装はちょっとビジネスライクすぎるかもしれない。全体的にNX/RXよりもbZ4Xに近い地味な雰囲気で、簡潔だが素っ気ない。せめてインテリアのグレー基調をもう少し明るい色合いにしてくれたら、と思う。価格も当然発表前だが、bZ4Xやソルテラよりは相応に高いはずだから、ユーザーが納得してくれるかちょっと心配でもある。
室内スペースについてはまったく不満はない。ただし、長めのホイールベースを生かして後席レッグルームは広々としているものの、フロアと座面クッションの距離(ヒール段差)が十分ではなく、膝裏が持ち上がるような姿勢になってしまうのはbZ4Xなどと同じである。電池残量表示が大まかなバーグラフ表示のみ(残り%が表示されない)という点なども含め、レクサスといえどもこのタイミングでは改良を加えられなかったものと思われる。
将来の可能性に期待
目新しい技術的トピックが少ないなか、注目はステアバイワイヤ(SBW)の操舵システムだ。ステアリングホイールとフロントタイヤの間に機械的な連結メカニズムを持たない、量産車としては世界初のシステムだという(といっても同じものがトヨタbZ4Xにも搭載されると発表済み)。長方形の操縦かんのような、いわゆるヨーク型ステアリングホイールは左右150度しか回らない。つまりロックトゥロックで1回転も回らないほどクイックで、持ち替えなしで操作することができる。加えて前方視界やメーター視認性の向上、不要な振動やキックバックを遮断できることも特長である。
このステアバイワイヤ装備のRZの試乗車は2台のみ用意されており、ほんのちょっと試乗できただけだが、かなり大きく変化するレシオに慣れが必要ということを除けば、なかなかの出来栄えと感じられた。そもそもSBWは昔から開発されてきたシステムだが、安全性の確保(RZのシステムは独立した2系統を備える)やユーザーメリットとコストとの兼ね合いなどで実現していなかった。だが将来の自動運転やユニバーサルデザインを見据えた場合の可能性は大きい。ここはひとつおおらかに見守りたいところだが、どのようなかたちで提供されるのか(普通のオプション?)は不明である。話題づくりだけに終わらないことを期待するが、現状ではひとつだけ、小さなセンターパッドの周辺とコラムにスイッチやレバー、回生レベル用パドルが数多く隣り合って設置され、結果的に煩雑で使いにくくなっている点を改善してほしい。
一般道に持ち出してもおそらくはレクサスブランドにふさわしい静粛性や滑らかさをみせるはずだが、今はまだBEV対決の一次リーグ段階だということを勘定に入れても、やはりちょっと慎重すぎないかという印象を拭えない。まだまだじっくりと構えて、トヨタの本気を見極めればいい。
(文=高平高輝/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
レクサスRZ450eプロトタイプ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4805×1895×1635mm
ホイールベース:2850mm
車重:2110kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
フロントモーター最高出力:204PS(150kW)
フロントモーター最大トルク:--N・m(--kgf・m)
リアモーター最高出力:109PS(80kW)/4535-1万2500rpm
リアモーター最大トルク:--N・m(--kgf・m)
システム最高出力:313PS(230kW)
システム最大トルク:--N・m(--kgf・m)
タイヤ:(前)235/50R20 104V XL/(後)235/50R20 104V XL(ダンロップSPスポーツマックス060)
一充電走行距離:494km(WLTCモード)
交流電力量消費率:--Wh/km
価格:--万円
オプション装備:--
テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh
