メルセデス・ベンツGLC220d 4MATIC(4WD/9AT)
“最後”にふさわしい 2023.03.16 試乗記 メルセデス・ベンツの屋台骨を支えるミドルクラスSUV「GLC」がフルモデルチェンジ。キープコンセプトゆえに変化を感じづらいが、電動化を推進するメルセデスにおいて、それはエンジンを搭載する最後のGLCにふさわしい出色の出来栄えだった。メルセデスのベストセラー
本国では2022年夏に発売となっていた新型GLCが上陸した。先代にあたる初代モデルの国内発売が2016年2月だったから、ほぼ7年でフルモデルチェンジされたことになる。土台となるエンジン縦置きの「MRA II」アーキテクチャーはいうまでもなく、最新の「Cクラス」と共有する。同世代のCクラスから約1年半遅れでの発売という時間軸も、先代とほぼ同じである。
ちなみに、「BMW X3」に「アウディQ5」、さらに「ボルボXC60」「ランドローバー・レンジローバー ヴェラール」といった競合車群は、くしくもすべて2017年(=先代GLC発売の翌年)に現行モデルが日本発売されている。つまり、現時点ではGLCだけがアタマひとつ抜けたように新しい。
聞けば、先代GLCは世のSUV人気に符合するかのように、モデル末期にかけて販売台数を増やしていったとか。実際、モデル末期ともいえる2020年にはメルセデスSUVでトップの販売台数となり、翌2021年にはCクラスを抜いて、同社乗用車最多の販売台数を記録したそうだ。つまり、GLCは今やメルセデスのベストセラー乗用車の1台なのだ。
本国にはもちろん複数のエンジン車とプラグインハイブリッド車が用意されるが、今回上陸したのは2リッター直4ディーゼルを積む「GLC220d 4MATIC」のみ。駆動方式は本国でも4WD一択。新型GLCは全車電動化されており、少なくともマイルドハイブリッド機構は備わる。実際、日本仕様の220dも、エンジンとトランスミッションの間にいわゆるスターター兼発電機(ISG)をサンドイッチしたマイルドハイブリッド車である。
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ウッドを用いた新鮮なインテリア
完全刷新されたGLCは先代比でホイールベースが15mm、全長が50mm長くなっているが、1890mmという全幅は変わらないし、全高も5mm低くなっただけだ。特徴的なアーチ状のサイドウィンドウグラフィックも健在。しかも、先代GLCも2019年に新世代フェイスに一度アップデートされているから、オーナーでもないと新旧の区別がつきにくいくらいのキープコンセプトなエクステリアデザインである。
もっとも、よくよく目を凝らせば、フロントグリルに目頭が突き刺さるヘッドランプや、スリムな逆三角形のリアコンビランプは最新モチーフであることに気づく。プロポーションも実際は新旧で別物。たとえば真後ろから眺めると、豊満なヒップラインと強く絞りこまれたキャビンによる安定感は、GLCオーナーでない筆者の目でも明らかに新しい。
インテリアもCクラスに酷似する意匠だが、実際には同じではなく、ダッシュボードなどはSUVのパッケージレイアウトに合わせて上下に背の高い意匠となっている。グローブボックスリッドまでソフトパッドになるなど、細かい仕立てはCクラスより高級でもある。
ダッシュボードには最初から本木目パネルが標準だが、オプションの「AMGレザーエクスクルーシブパッケージ」がトッピングされていた試乗車のそれは「ブラックオープンポアウッド」という特徴的なものだった。オープンポアとは木の導管を埋めずに自然な凹凸をそのまま残す塗装のことだという。今回のウッドパネルもマット調ブラックに表面に凹凸が浮かび、さらに縦方向のアルミストライプがあしらわれるのはちょっと新鮮だ。
走りは端的にいって素晴らしい。ディーゼルサウンドも「スポーツ」モードにするとやや強調される(のはオプションの「AMGラインパッケージ」に含まれる機能のひとつだ)が、そうでなければ印象的なほど静かだ。もちろん無音とはいわないし、回せばディーゼルらしい音質で耳に届くものの、ISGのおかげでアイドルストップからの再始動もスルリと滑らか。無粋な振動を体感する瞬間がほぼない。
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四輪操舵のメリットは大
こうした静粛性に加えて、車体剛性感も印象的なほど高く、柔らかな「コンフォート」モードでも正確なライントレース性に、いかにもサスペンションの位置決めがしっかりした感覚が伝わってくる。上屋はドライブモードや速度によって大きめに揺れることもあるが、直進性は矢のごとしで、無意識の修正舵もほとんど必要ない感じだ。これらの事実は、GLCの基本フィジカルが高度である証左だろう。
新しいCクラスといえば四輪操舵が技術的ハイライトとなっていたが、それはGLCでも同じ。今回の試乗車にもエアサスと連続可変ダンパーによる「AIRMATICサスペンション」と「リアアクスルステアリング」がセットになった「ドライバーズパッケージ」が装着されていた。
GLCのリアアクスルステアリングは60km/hをさかいに低速では逆位相、高速では同位相に操舵されるもので、どらら側も最大4.5度の大きな切れ角を有するのが特徴である。背の低いCクラスでは、ステアリングフィールやその他の味わいとの兼ね合いで「長短あわせもつ」といった印象だった四輪操舵も、背の高いGLCでは明らかにメリットが上回る。
これほど立派な体格のSUVがロック・トゥ・ロックがわずか2回転というクイックなステアリングで、市街地や駐車場で軽々と振り回せる(最小回転半径は5.1m)のは率直にいって面白いし、操舵量も明確に減るので肉体的負担も少ない。さすがに駐車時などで後退する際は、クイックに小回りが利きすぎて、うまいドライバーほど違和感を覚える強いクセがあるのは否定できない。しかし、そこは意識をがらりと切り替えて、標準装備の「360度カメラシステム」による頭上映像を基準に運転するようにすれば、違和感など消し飛んでメリットしか感じられなくなる。
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現時点でも文句ナシ
しかし、GLCの四輪操舵の真骨頂は同位相になる60km/h以上の高速域だ。低速とは対照的に、まるで見えないレールにハマッたかのように安定する。先述のすこぶる優秀な高速直進性にはこの四輪操舵の恩恵もあるはずだ。ロールもほとんど感じさせず、ピタリと安定した高速コーナーのふるまいは素晴らしい。
もちろん、リアアクスルステアリングによる四輪操舵だけでなく、高度な基本フィジカルにAIRMATICサスペンション、(体感的にはフルタイムに近い)4WDの相乗効果だろう。いっぽうで、高速や箱根のような山坂道で安定感の高まるスポーツモードでも、ことさら硬くなるわけでもなく、しなやかなフットワークが保たれるのは、リアアクスルステアリングのおかげというほかない。
同位相はリアの限界をはっきりと高められるので、サスペンションを引き締める必要も減るのだ。いずれにしても、これほど効果的なデバイスがAIRMATICサスペンションと抱き合わせのオプション価格で49万円というのだから、個人的には是が非でもフンパツすべきと思う。
前記のように静粛性も印象的なディーゼルだが、とくに3000rpmくらいからレスポンスが増して、4000rpmくらいまでは明確なパワーバンド感もあるのはうれしい。BMWのように5000rpmまで突き抜ける感覚まではいかないが、それなりに回しがいはある。2リッターとしては力強く、不足はまるで感じない。
GLCのライバルたるX3やQ5、XC60の次期型も、すべて1~2年以内には登場するとのウワサである。このうちアウディとボルボはそれが“エンジンを搭載した最後の新型車”といわれる。2030年までに“全新車の電気自動車化”を公言しているメルセデスも、従来のモデルチェンジパターンを考えれば、これが最後のエンジン搭載GLCになる可能性は高い。今後も細かい改良作業は続くのだろうが、現時点でもすでに最後のエンジン車にふさわしい完成度といってもいい。年を追うごとに入手も困難になるかもしれない。ねらっている向きは、あえて待つ必要はないと思う。
(文=佐野弘宗/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
メルセデス・ベンツGLC220d 4MATIC
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4725×1890×1635mm
ホイールベース:2890mm
車重:2020kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:9段AT
エンジン最高出力:197PS(145kW)/3600rpm
エンジン最大トルク:440N・m(44.9kgf・m)/1800-2800rpm
モーター最高出力:23PS(17kW)
モーター最大トルク:200N・m(20.4kgf・m)
タイヤ:(前)235/55R19 105W/(後)235/55R19 105W(ミシュランeプライマシー)
燃費:18.0km/リッター(WLTCモード)
価格:820万円/テスト車=1014万円
オプション装備:ボディーカラー<モハーベシルバー>(8万円)/AMGラインパッケージ(60万円)/AMGレザーエクスクルーシブパッケージ(55万円)/ドライバーズパッケージ(49万円)/パノラミックスライディングルーフ(22万円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:625km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:357.1km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:12.7km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。