メルセデス・ベンツA180(FF/7AT)
“名より実”の進化 2023.04.07 試乗記 メルセデス・ベンツのエントリーモデルに位置づけられるコンパクトハッチバック「Aクラス」がマイナーチェンジ。内外装がブラッシュアップされ、先進運転支援システムを含む自慢のデジタルデバイスが進化を遂げたというが、果たしてその仕上がりやいかに。メルセデスの躍進を支えるコンパクトカー
2015年以降、日本の新車販売で輸入乗用車ナンバーワンを続けているメルセデス・ベンツ。これを支えているモデルのひとつがAクラスだ。モデルサイクルや日本への供給台数の増減にもよるが、Aクラスは多くの年で輸入車トップ20入りを果たし、2020年度には同社の主力モデル「Cクラス」を抜いてベスト2に輝いている。
現行型は4代目にあたり、日本には2018年10月に登場。「Sensual Purity(官能的純粋)」と呼ばれる新しいデザインや、対話型インフォテインメントシステムの「MBUX(メルセデス・ベンツ ユーザーエクスペリエンス)」の採用などが話題になった。さらに、翌2019年7月には、それまでハッチバックだけだったボディーに、4ドアの「セダン」が追加設定されている。そして、2023年2月にはマイナーチェンジ版が日本でも発売になった。
メルセデス・ベンツ日本ではモデルごとの販売台数や、ボディータイプ別の構成比などを明らかにしていないが、セダン追加後もハッチバックの販売比率が高くFWDコンパクト系では、Aクラス ハッチバック、「Bクラス」、Aクラス セダンの順に販売台数が多いという。
そんなコンパクトメルセデスを代表するAクラスのハッチバックを、メディア向け試乗会でさっそく試すことができた。
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マイナーチェンジで何が変わった?
今回試乗したのは、1331ccの直4直噴ガソリンターボエンジンを積む「A180」で、オプションの「ナビゲーションパッケージ」と「AMGラインパッケージ」が装着されている一台。試乗に先立ち、マイナーチェンジの説明を受けたからよかったものの、突然渡されたらどこが変わったのか言い当てる自信がないほど変更は控えめ。
たとえば、エクステリアではフロントマスクがリニューアルされ、フロントバンパーのデザインがより精悍(せいかん)さを増すとともに、このAMGラインパッケージ装着車ではマットクロームに光る細かいスリーポインテッドスターがちりばめられた「スターパターンフロントグリル」が採用されている。これに、ボンネットにパワードームと呼ばれる膨らみが追加されるといった程度だが、言われてみれば確かにいままでとはどこか違う雰囲気を感じ取ることはできた。
マイナーチェンジにともなう変更は、エクステリアよりもむしろインテリアのほうがわかりやすい。コックピットに横長のディスプレイが広がる光景はそのままだが、このAMGラインパッケージ装着車では、新デザインの3本ツインスポークデザインのステアリングホイールが新しさを印象づける。
これまでと同様、ステアリングホイール上のスイッチでコックピットディスプレイとセンターメディアディスプレイに映し出される各種設定や運転システム、インフォテインメントシステムなどの操作を行えるが、タッチスイッチのデザインが変わったこともあり、操作性が向上したのはうれしいところだ。
また、従来型でセンターコンソールに配置されていたタッチパッドが廃止され、すっきりとしたデザインに生まれ変わったのも見逃せない。MBUXも最新世代にバージョンアップが図られ、地図を表示したまま画面で簡単なオーディオ操作ができたり、カメラ画像にルート案内を重ね合わせて表示する「MBUX ARナビゲーション」を採用したりするなど、日々操作するうえで使い勝手の向上が図られていた。
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実用的な1.3リッターエンジン
内外装の細部にわたり手が加えられたAクラスのマイナーチェンジだが、搭載されるダウンサイジングターボエンジンは以前と同じスペックである。すなわち、「M282」と呼ばれる直4直噴ガソリンターボは、1.3リッターの排気量から、最高出力136PS(100kW)/5500rpm、最大トルク200N・m(20.4kgf・m)/1460-4000rpmを発生する。7段のデュアルクラッチトランスミッションが組み合わされるのも従来どおりだ。
AMGラインパッケージが装着される試乗車では、ヘッドレスト一体型のスポーツシートがおごられ、黒のマイクロフリースとレッドのステッチのコントラストが、スポーティーな雰囲気をつくり上げている。
このシートに座りさっそく走りだすと、1.3リッターターボはこれまでどおり低回転から必要十分な加速を見せる一方、マイナーチェンジ前に比べてスロットルレスポンスがさらに改善された印象。おかげで街なかなどでは、より扱いやすいキャラクターとなっている。一方、アクセルペダルを深く踏み込むと、2000rpmあたりからややエンジンのノイズが目立つようになったり、5000rpm手前くらいから加速が鈍ったりするなどの弱点も。
それでも全長4430mm、車両重量1380kgというコンパクトなボディーをストレスなく駆るには十分なパフォーマンスで、実用性という点では迷わず合格点が与えられる性能の持ち主といえる。
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乗り心地にはさらなる洗練を
マイナーチェンジ後もAクラスのサスペンションは変わらず、このA180にはフロント:マクファーソンストラット式、リア:トーションビーム式が採用される。さらにAMGラインパッケージが装着される試乗車では、標準より地上高を15mm低めた「ローワードコンフォートサスペンション」と225/45R18タイヤ、18インチの「AMG 5ツインスポークアルミホイール」が組み合わされている。
そのせいか、低い速度で走行する場面ではやや硬めの粗い乗り心地を示す。しかし、速度が上がるにつれて乗り心地の粗さはあまり気にならなくなった。目地段差を越えたときにはショックを伝えがちだが、走行中の挙動は比較的落ち着いており、高速道路でのフラット感もまずまずといったところだ。
高速道路では「アクティブディスタンスアシスト・ディストロニック」と呼ばれるいわゆるアダプティブクルーズコントロールや、「アクティブレーンキーピングアシスト」を試したが、スムーズで違和感のない使い心地はメルセデスならでは。さらに、マイナーチェンジ版のAクラスでは、ドライバーがステアリングホイールを握っているかどうかをステアリングリムの静電容量式センサーで判断しているため、軽く握っているだけでしっかり検知してくれるのはありがたい。
18インチタイヤ装着車の乗り心地に関してはさらなる洗練を求めたいが、充実した先進機能や実用的なパワートレインが魅力のA180。ただ、オプション込みで578万6000円という価格に説得力があるかどうかが気がかりである。
(文=生方 聡/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
メルセデス・ベンツA180
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4440×1800×1420mm
ホイールベース:2730mm
車重:1380kg
駆動方式:FF
エンジン:1.3リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:136PS(130kW)/5500rpm
最大トルク:200N・m(20.4kgf・m)/1460-4000rpm
タイヤ:(前)225/45R18 91W/(後)225/45R18 91W(コンチネンタル・エココンタクト6)
燃費:15.3km/リッター(WLTCモード)
価格:498万円/テスト車=578万6000円
オプション装備:メタリックペイント<ローズゴールド>(9万5000円)/ナビゲーションパッケージ(31万9000円)/AMGラインパッケージ(39万2000円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:248km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースレポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。